少年漫画によくいる主人公と嫌々敵対しているタイプの公務員に転生した 作:相川
十五年前に発生した災害と共に誕生した新たな物質、通称『魔力』によって、人類は今までとは一線を画す能力を得た。これまでは空想の産物でしか無かった魔術が現実のものとなり、社会は興奮と混乱で渦巻いた。
突如として新たな超能力が誕生するということは、それを利用した犯罪が増えるということでもある。
法整備は追いつかず、やったもん勝ちの世の中へと急激に作り変えられていく中、彼らに対抗するために作られた急造の治安維持部隊。それが警察庁警備局、特異事象対策課だ。
今では基本的に魔物・魔人の駆除を専門に活動しているが、年中慢性的に人手不足な魔術がらみ治安維持案件には大体首を突っ込む便利屋的な側面も持っている。
というか色々と対応が追い付いていないんだ。
十五年の月日が経ったとはいえ、世界そのものの構造が変化してしまったのだ。今まで存在しなかった魔力という物質が誕生し、人類が超常的な力を扱えるようになってしまった。
国家というのは大きな影響力を持っているが、大きな組織はその分小回りが利かない。大規模な組織体制である政府は手段を問わない小規模の非合法組織達に対して後手に回らざるを得ず、無知な民衆は不満をすべて政府にぶつけ、その対応に追われ更に対応に追われる。大混乱である。
まあ、そんな世紀末みたいな世の中をどうにか立て直そうそしているのが現状。というか、表向きは何とか立て直せたことになっているが、裏社会を見るととんでもないことになってるのが現状である。
魔術に対する研究もまだまだ未発展。いやまあ、十五年しか経ってないんだから当然と言えば当然だけど。それでも物凄いスピードで研究が進んでいるので色々と解明されてきたことは多い。
最近になってようやく魔術専門の学術機関もできてきたところだ。
特事課の戦闘員はみな若い。俺より年上の人たちもいるにはいるが、何せ十五年前にできたばかりの新設部門。魔術なんてものを扱う都合上、凝り固まった頭よりも吸収力がある頭の柔らかい若い人が適していたのだろう。
俺も仕事場では年長の類である。まだ三十でもないのに。
まあ例外もいるけどね。爺さんの癖に知的好奇心旺盛で魔術オタクな課長とかがいい例だ。
いや年齢で決めつけるのは良くないわな。反省反省。
「魔物についてはどのくらい知ってる?」
日々の重要な仕事内容、魔物が発生した際に迅速に対応できるようにという理由で行っている街の巡回中に俺は問う。
今年、特事課に配属された新人十五人。その中で実力が抜きん出ている二人の教育を任されている俺は、女性二人の男一人という肩身の狭い思いをしながらも何とか年上としての威厳を出そうと必死になっている。
「空気中の魔力に溜まる『穢れ』が一定量を超えると形を成し、人々を襲う災害だと習っています」
俺のくだらない問いに対して律儀に答えてくれたのは
日本で初めて設立された魔術を専門とする魔導大学を首席で卒業したエリート中のエリート。
真面目が服を着て歩いているような人物であり、今でも俺の言葉を逃さないようにとメモ帳を手にしている程である。
俺が運転している車の助手席に座り、俺の言葉を聞き漏らさないようにと集中している様子はこっちが圧を感じるほど。
すごいプレッシャーだからぶっちゃけ怖いんだけど、意欲に溢れている後輩の姿勢を拒否する訳にもいかないので、俺は何も指摘できない。
そして、そんな白瀬さんの言葉に後部座席で頷きながら自分も同意見だという意志を伝えてきてくれているのが、
『灰境戦線』における絶対的なヒロインは既に固定されている。だって主人公が魔術師として裏社会に足を踏み入れた動機は好きな人を守るためだ。
これでヒロインが変わっちゃ問題だし、それが揺らぐことなど決してないのだが、それでもまあ読者からは人気を集めた子である。
無口で無表情。一見クール系だが、多分今も内心ガチガチに緊張しているのではなかろうか。心配性で非常に緊張しやすく人見知りな性格であるため表情が固まっているだけなのだが、外から見ると人を寄せつけないクールな魅力に映るのだから面白い。
ヒロインである夜凪透花が人類に友好的でありながら魔人としての特徴を有している非常に稀有な存在、というか前例のないことだったため政府は彼女の確保を何より最優先にと特事課を動かすことになる。
政府に捕まればどうなるか。
人道的な扱いを受けることになっても十中八九自由な生活とはおさらばになる。
非人道的な扱いを受けることになった場合、これが最も悲惨だろう。そもそも、彼女は魔人なのだ。法律に則れば人権は適用されない。
人体実験だろうが、危険だから排除しようが公的にはお咎めなしだ。
魔人や魔物は外見に適した知性を有する。魔物であれば動物程度の知性を。魔人であれば成人と同程度の知性を有し、その土地で用いられている言葉を操る。
そのため生物として扱われることもあるが、基本的に生殖能力などなく、ただ人間を害することしか目的のない害獣なのだ。そして唐突に現れることから一種の災害として扱われている。
だから、秩序を乱すモノとして排除対象に指定され、俺たちが駆除するのだ。
透花が確かに人間に友好的だとして、それをどのように証明するのか。いずれ他の魔人と同じように人類に牙を剥く可能性がないと言い切れるのか。
実際、俺が先日出会った彼女は少し理性を失いかけていた。
だが、それでも彼女の内面は等身大の女子高生。
流行りの曲やお洒落な服に興味があり、明日の宿題に一喜一憂する健全な高校生だった。
そんな透花の人間性を知ってしまったイヴは揺れ動く。
正義とは何か。同年代の子の自由を奪うことが自分の使命なのか。
しかし、透花以外の魔人は確かに人間社会を乱している。彼女というただ一人の例外だけを認めることが平和に繋がるのかどうか。
さて、大分話が逸れた。
魔物や魔人の発生理由を答えてくれた白瀬さんに対して、俺はまた問いを投げかける。
「そうだね。じゃあ『穢れ』って?」
「『穢れ』は魔力が記録しきれずに表出した情報の澱であり、人々が忘れ去ろうとしている負の感情や負の記憶などのことになります」
「うん。正解かな」
魔力には『情報を記録する』という性質を持っている。その場で起こったあらゆる情報を魔力は記録することができ、そのため魔術は魔力が有している情報を意図的に書き換えることで超常的な現象を起こすことができるわけだ。
しかし、そんな魔力でも記録しきれなかった廃棄物が『穢れ』として表面に出てしまう。
沈殿した情報の澱。
人々が忘れたいと強く願い、目を背けたくなるような負の感情や負の記憶。そう言ったものが魔力の中で廃棄物として沈殿していき、それらを浄化するために、魔物や魔人といった形で現れる。
「つまりは、本当に災害と言っていい現象なわけだ」
情報を記録するという魔力の性質を科学に落とし込むことはできないかと必死で研究が進められているみたいだけど、どうやら人為的に記録を引き出すことはできないようだ。
「俺たちはそういう災害を相手にする仕事をしている。魔人も言葉を操るけど、彼らは魔力が生み出した過去の幻影のようなものだから、躊躇せずに倒すこと。いいね?」
『……はい!』
言葉が通じるからという理由で刃を向けることを躊躇う人もいるけれど、透花を除けば魔人なんて百害あって一利なし。基本的にさっさと駆除するに限るのだ。
そんな誰でも知っているような基礎的な知識を振り返り、教育とは名ばかりの雑談を繰り広げていた車内にアラートが鳴り響いた。
これは魔力の悪性変異反応。つまり魔物か魔人の発生を示した合図になる。
俺たちが今いる場所からさほど遠くない所で発生したようだ。助手席にいた白瀬さんが無線に応答する。
どうやら、ここから西に五キロ離れた場所に魔物が発生したらしい。意外と近いじゃないか。
「さて。そういえば君たちにとっては初の魔物退治になるのかな?」
「はい。そうなります」
「おお。じゃあ、仕事に慣れるためにも今回は俺は手を出さずに二人で駆除してもらおうかな」
もちろん、手に負えないようだったらちゃんと助太刀する。しかしレーダーの反応的に発生した魔物の危険度は高く見積もってC。特事課の戦闘員は最低でもBランクの魔人に対応する実力が必要になるため彼女たちでも十分処理できるだろう。
教育係として任されているのだし、ここは初の実戦ということで気合も入っているだろう若人二人に任せますか。