少年漫画によくいる主人公と嫌々敵対しているタイプの公務員に転生した   作:相川

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契り

 原作での久城依斗は強かった。

 それこそ、上から数えた方が早いくらいには強い。あくまで俺が知っている範囲ではという注釈こそ付くが、それでも物語中盤までは主人公たちでは逆立ちしても勝てない領域にいたと思う。

 

 では、今の俺はどうか。

 

 恐らくだが、原作の彼と同程度くらいの実力は身に着けていると思う。原作同様、特事課の一級執行官の地位を得ているため、客観的な判断材料は足りている。

 

 が、最強とは言えない。

 

 同じ階級の一級執行官は、本部だと俺を除くとふたり存在する。そして、魔人同盟の十一名のうち五名は一級執行官並みかそれ以上の実力だと言及されていた。

 

 そして、特事課における最強は『特級執行官』になる。

 

 彼は魔術師としてひとつ先のステージを行く天才であり、作中でも透花の姿を目視してその正体を明かし、自身も不完全ながら『穢れ』を扱えるようになりかけるとかいうとんでもないことをしでかした人物でもある。

 

 こういう最強議論は賛否両論あるが、前世では暴走した透花と特級執行官の『久世景隆(くぜかげたか)』。そして、魔人同盟のひとり『冥土』が挙げられていた。

 

 彼らに今の俺が勝てるかと問われると、負ける気はないが難しいと言わざるを得ないだろう。

 

 俺の戦闘スタイルは刀一本で身体能力を強化した近接戦闘。必然的に相性の良し悪しにかなり左右されるタイプの人間だ。

 

 魔術師として数多の手数を持つ彼を相手に、どこまで迫ることができるかというのが課題になる。

 

 俺が原作を追えていたのは、終盤目前という所まで。

 

 物語を左右するのはやはり透花の存在。暴走した彼女が無意識に発動した『穢れ』を糧に発生させる術、通称『残響』があまりに強大な力だったために、より一層彼女の存在がキーとなる。

 

 魔人の力や特殊な術を欲しがる連中に目を付けられるようになる。その上、危険性が高すぎるという理由で特事課は彼女の確保を最優先で動き始めた。

 

『残響』を実際に目で見て観察した魔術の天才、久世が自力で残響を習得しかけたこと。魔人であるが故に『穢れ』とは身近だったことで残響の習得にリーチをかけている冥土。そして人間でありながら『穢れ』を受容する特異体質だったことで、人類史上初めて残響の発動を成した透花。

 

 本来、透花以外の存在が『残響』を扱うことはできないはずだった。

 

 人間はもちろん、魔人でさえも。魔人は『穢れ』から生まれるが、ベースとなったのは魔力。魔力が『穢れ』を消費するために変異したことで生まれたのが魔人だ。そのため、厳密には魔人の素は魔力になる。生まれながらに『穢れ』を扱うことはできない。

 

『穢れ』そのものを受容する体質である透花が異質すぎるのだ。

 

 しかし『残響』は透花以外の存在も指先を掠める程度はできるようになった。それはなぜか、理由は単純。

 

 羅門だ。

 

『穢れ』に関する研究を独自に進めていた彼によって、不完全ながらも『穢れ』を媒体に魔術を行使できる魔道具が開発された。この理論を独自に解釈し、天才と天災は『残響』への道筋を見出せたのだ。

 

 人間を滅ぼしたい魔人同盟。魔人を徹底的に排除する方針になった特事課。そして、全員が納得できる結末を求める主人公たち。

 

 三陣営を中心に物語は更に波乱を呼ぶ。

 

 さあ、これからどうなる!

 

 という所で、俺は死んだのだ。まあ、死んだ瞬間の記憶はないけれど。

 

 さて。ここで話題は戻るが、今の俺の実力は原作の久城依斗と同程度になる。

 

 確かに強い。慢心するつもりはないが、確実に上位の実力者であるという自覚がある。だが、これを知っていてこのままでいいと思うだろうか。

 

 今後、確実に波乱が巻き起こる。

 

『穢れ』を元に発動する『残響』というのは、災厄の再現だ。人間が忘れたかった負の記録が『穢れ』の正体。それを糧に現れる現象なんて、碌なものではない。

 

 暴走した透花が自らを抑えられなかったら、都市ひとつが壊滅してもおかしくない被害を齎していた。

 

 魔人同盟は確実に『残響』を手にしたいと考えるだろう。今後、冥土以外の魔人が『残響』を習得してしまえばこの世界は確実に終わりを迎える。

 

 羅門の研究を止める術はない。

 

 彼が今どこにいるのかも分からない上に、彼は侮ってよい相手ではない。それに、色々と暗躍するのは俺の得意とするところではない。

 

 つまりはまあ、俺は今以上に強くなる必要がある。

『特級執行官』として認められるようになりたいとは常々思っているが、十年経ってもその領域には足を踏み入れられそうにない。

 

 だからまあ、俺も()()()として、この戦闘スタイルに磨きをかけようと思っている所だ。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 夜凪透花さん。

 

 長く伸ばした栗色の髪と、やわらかな瞳が特徴的な美少女で、俺のクラスメイト。

 

 彼女が魔人となってから二ヶ月の月日が経過した。

 

 今の俺たちは元特事課の蘆村さんという方にお世話になっている。

 

 元々蘆村さんは、魔術犯罪や魔災害によって居場所を失った人々を支援する慈善事業団体、『灯火』という組織を運営していた人だったのだが、魔人となった元人間である透花さんを匿う上で元々いた組織を辞め、志を同じくする数人の仲間たちと共に俺たちを支援してくれている。本当に頭が上がらない。

 

「綴くん、お疲れ様」

「透花さん!」

「透花でいいってば」

「あはは、ごめん。でも慣れなくて」

 

 普段、俺たちは透花さんの存在を隠せるように結界を張り巡らせた地下で過ごしている。道場が併設されている一軒家に、そこから繋がる喫茶店。正直言って、生活に困ることはない。蘆村さんも元々は透花さんを隠す方針だったようだし。

 

 でも、俺はそれが納得できなかった。

 最初に蘆村さんに事情を聴いたときは、俺は仕方がないと受け入れた。

 

 魔人となった透花さんを保護し、人の目に留まらないようにする。魔術によって隠蔽された地下で過ごすことになり、これから一生地上に出ることはできない。

 

 巻き込まれただけの俺は記憶を封印され、透花さんのことを忘れて普通に生きて行く。

 

 魔術で透花さんの姿を人に変えれば普通に生活できるのではないかと聞いた。でも、一時的な応急措置程度にはなるかもしれないが、すぐに見破られるとのことだった。

 

 魔人となってしまった彼女を守ることができるのは、彼らのほかにはいないだろう。

 

 だから、俺は蘆村さんのその言葉を一度は受け入れた。

 

 ――不安そうな彼女の瞳を見るまでは。

 

『俺も、一緒にいてもいいですか?』

 

 理屈を考えれば、彼の言っていることが全て正しいのだろう。

 

 でも。でもさ、俺は透花さんのことが好きだったんだ。一方的な想いにすぎない、彼女からしたらはた迷惑なことかもしれないけど、やっぱり好きな人のことを忘れて生きて行くなんて嫌だよ。

 

 寂しいじゃん。

 

 それに、一生隠れて生きて行くなんて、そんなのあんまりだと思った。

 

『……透花さんは、それでいいの?』

『…………分からない。でも、友達とも家族とも会えないのは……嫌だ』

 

 そんな言葉を聞いてしまったら、俺は何とかしたいと思ってしまう。

 

 俺たちの言葉を聞いた蘆村さんは、今は無理だけどいつか必ず家族には会えるように努力する。とフォローしてくれた。でも、そんなのがいつになるかは分からない。

 

 部外者である俺を巻き込んでしまうのは反対だ。君はまだ若いんだから、危険なことに首を突っ込むのはやめた方がいいと警告してくれた。でも、やっぱり俺にはできない。

 

 だって、俺は強欲なんだ。

 

『だったら、俺が強くなります。強くなって、透花さんが普通に生きていける世の中を作る。誰にも文句を言わせない』

『……不可能だ。彼女には酷な話だが、魔人となってしまった以上政府が彼女を許容しない』

『認めさせます。絶対に』

 

 好きな人が、不安そうな目をしている。それだけで十分だった。

 

『すみません、蘆村さん。俺は強欲なんです。好きな人には、笑って生きていてほしい』

『……はぁ。分かったよ、そこまで言われたら断れないじゃないか』

 

 俺の必死の懇願は、どうにか彼にも届いたようで。

 

 俺は彼らと一緒にいることを許可された。

 

 透花さんが魔人となったことで利用するようになった隠れ家のリビングで、俺たちは休憩している。

 蘆村さんによる魔術講義の疲れを癒すという目的のためだ。

 

 冷蔵庫から麦茶を出し、コップに注ぐ。

 

「透花さんも?」

「うん。ありがとう」

 

 自然に笑う彼女の姿は、やっぱり美しい。

 

 そんなことを考えながら、俺たちはテーブルに向って座った。

 何を言うでもない心地よい沈黙が場を支配する中、ふと透花さんが口を開く。

 

「……綴くんってさ、私のこと……好きなんだよね?」

「――ッ!? ブッッ! ゴホッゴホッ!?」

「ご、ごめん! 大丈夫?」

 

 透花さんの直球すぎる疑問に、俺はむせた。

 麦茶を飲んでいる最中だったのが災いしてしまった。

 

 盛大に誤飲した俺の背中を、透花さんは優しくさすってくれる。

 

 あ、好き。

 

「……え、えっとぉ。な、なんで? いやなんでっていうのは変か。そ、それってどういう……」

「……私が魔人になった時、綴くんが言ってくれたんだよ。覚えてない?」

「い、いや……。そりゃあ覚えてるけど……」

 

『好きな人には笑って生きていてほしい』。この言葉は、蘆村さんはもちろん、透花さんの目の前でも言ってしまったのだ。

 

 今の今まで考えないようにしていたのに、透花さんの方から話題に出すなんて思わなかった。

 

 俺は恥ずかしいやら死にたいやらで赤面しながらも透花さんを見る。すると、彼女ははにかんだ笑みを浮かべていた。そのあまりのかわいらしさに、俺は目を見開く。

 

「あの時さ、凄く嬉しかったの。魔人になって、角も生えて、肌の色だって薄紫色になってきて……。これからどうなるんだろうっていう不安しか考えられなくなっていた時に、『好き』だって言ってくれたのが、本当に嬉しかった」

 

 そう言いながら、透花さんは俺の手を握る。

 

 えっちょっと。

 

「……本当に、ありがとう。私も、綴くんのこと──」

 

 え、えっえ。

 

 真剣な表情で俺の目を見る透花さんの雰囲気は、あまりに何かを決心した様子で。握られた手から伝わる震えが、彼女が緊張していることを物語っていて。

 

 これから発せられる言葉が何か。

 

 そんなの、俺でも少しは察せちゃうくらい。

 

 期待に胸を膨らませ、俺は二の句を待っていた。一瞬が何秒にも感じられる中、俺の耳はついに音を拾った。

 

「緊急事態だ! 何者かから襲撃を受けている。結界の維持もままならない! すぐに逃げるぞ!」

「「──ッ!?」」

 

 慌てた様子の蘆村さんがこちらにやってくる。

 それに続き、少し地響きが伝わった。

 

「どういうわけか居場所がバレた。事態は一刻を争う、万が一のために戦う準備だけはしておけ!」

 




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