少年漫画によくいる主人公と嫌々敵対しているタイプの公務員に転生した 作:相川
これまで俺は魔力操作術を極めてきた。
俺の持つ魔力からして、どれだけ魔術を極めようとも頭打ちになるのは早い。ならば、肉弾戦を徹底的に極め、魔術に頼らない戦闘技術を確立させた方が有意義だ。
その結果、十年という月日の全てを基礎的な魔力操作術と剣術の鍛錬に回し、実力を身に付けて行った。
十五の頃から鍛錬を始めて十年。他のことには手を出さず、剣術と魔力操作術に集中していた。
そして十年という区切りを以て、俺は俺にも扱える魔術も研究し始めた。十年の月日で確立された俺の戦闘スタイルに更なる拡張を齎すべく、ここ三年で、魔力量の少ない俺でも扱えそうな魔術を模索し始めたのだ。
十年間も剣術と魔力操作術に傾倒してきたのは、俺にそんな要領の良さはなかったというだけの話だ。
俺の課題は三つ。
一つ。遠距離攻撃に弱い、遠距離攻撃手段がない。
二つ。多対一を想定したときに弱い。
三つ。多彩な魔術を相手にした時の対応力がない。
欠点を補うのではなく、強みを伸ばすという方向で鍛えてきたのがこれまでの方針。
遠距離攻撃をされる前に、多対一という状況を作る前に、魔術を発動される前に。速さで以て、先手を取る。
【飛脚】がその代表格になるだろう。
「俺のことは羅門と呼んでくれ」
「犯罪者とおしゃべりをするつもりはないんだがね」
目の前で羅門が戦闘態勢を取る。
「久城一級執行官と言えば、並外れた魔力操作術による桁違いの身体強化と、それを土台とした剣術による超高速の一撃だったな」
羅門はそんなことを言いながら、手に持っていた透花を気絶させ魔術で隔離した。
原作での羅門と俺の戦いは、羅門が俺の戦闘スタイルにメタを張ってきた感じだったはずだ。
恐らく彼の周辺には、俺を近寄らせないための罠が張り巡らされていると見ていい。
「【氷槍】【穿て】」
羅門の周囲に十数本の氷でできた槍が出現し、それらは俺に向かって一直線に飛んでくる。
眼球に魔力を集中させ、動体視力を引き上げ見切る。
速度はあるが単純な攻撃だ。見切ること自体は可能。しかし、相手がこの程度の攻撃で満足するとは思えない。
俺はすぐに羅門へと意識を向ける。
次は火の弾が無数に飛んでくる。
氷の槍に意識を向けさせ、続く二の矢は火球。
この程度なら楽に処理でき──。
「……なるほど」
俺は背後から軌道を変化させこちらを追尾する氷槍を感知する。
【穿て】という詠唱には、対象を追尾する効果まで付与されていたらしい。なるほど、だからわざわざ詠唱をしたのか。
奇しくも挟み撃ちの形となったが、ならば火の球だけを避けて氷槍を斬り伏せればいいだけ。
「ヒュー、やるなぁ。じゃあ、ギア上げて──ッ!?」
付き合ってられるか。
俺は一度納刀し、再度抜刀の姿勢を取る。
羅門との距離は凡そ十メートル。ただの抜刀では到底届かない距離にいるが、あいつは俺の攻撃手段を【飛脚】による接近からの一閃だと思い込んでいる。
俺の課題その一。
遠距離攻撃手段の乏しさ。それを解消する一手を試す。
十年も魔力操作術と剣術を極めてきたのは、俺が扱うこの刀すら身体の一部のように扱うため。刀にも魔力を通し、身体と同じように魔力を循環させるため。
そうして振りと同時に魔術を発動することで、最小限の魔力消費で【飛ぶ斬撃】を繰り出せる。
「あっぶねェ!!」
遠距離攻撃手段としては、まあオーソドックスな部類だろう。斬撃が飛ぶ。
有効射程距離は三十メートルほど。一般的な魔術戦を想定するのなら十分に利用できる。
しかし、無詠唱で使用する場合、俺の魔力量だと連続で打てて二十回が限界だ。それ以上を望むとなれば、詠唱をしなければならない。
詠唱を挟む場合、相手に飛ぶ斬撃が来ると察知され対策も容易だろう。ただまあ、そこは戦闘の中で工夫すればいい。
羅門は初見であるはずの飛ぶ斬撃を何とか身体を捻って躱した。
その隙を逃さず、俺は間髪入れずに【飛脚】で急接近。奴の首をめがけて刀を振るう。
しかし、やはり奴の周囲には罠が張り巡らされていたらしい。俺が奴に近づいた途端、周辺の地形が棘のように変質し、四方から俺を穿たんと伸びてくる。
俺はすぐさまその場から退避し、場面は未だ膠着状態。
「見えない飛ぶ斬撃……。類似する魔術は多々あるが、ここまで威力を乗せるには大量の魔力消費が必要。……刀を媒介させることで魔力消費量を抑えたのか。いや、今のは正式には【魔力を飛ばす魔術】か!」
「魔力操作の要領で刀も自身の肉体として扱っているのか。それで長年に渡り刀に宿った魔力は、刀と同じ性質を得た。つまり、魔力そのものが斬属性を有している。それを熟練の剣術によって威力を後押し。魔術はただ『魔力を飛ばす』という役割だけに専念させたわけだ……」
もう原理を見破られた。
そうだ。ただ単に【魔力を飛ばす】という魔術であれば、魔力消費量は無茶苦茶抑えられる。魔力消費によって魔術を分類する『等級』に則れば、最低ランクの五等級だ。
しかし、その魔術自体に威力なんてものはない。ちょっとした空気砲程度の魔術だ。当たったらなんか飛んできたなって感じるくらいの。
俺はそんな魔術ですら二十回しか打てないほどに魔力量がない。
魔術師としては致命的なんてものじゃない。
それを補うために、十年も剣術や抜刀術を極め、ひとつの刀を使い続けることで、この刀にも俺の魔力を流し続けた。自分の肉体だと誤認するほどに。
「無機物に自分の魔力を通すのは魔力操作術の応用。魔術師ならできる奴も多い。だが、肉体と同化させるほどに使い込むなんて執念は見たことねェ!」
魔力量の少ない者による執念の賜物。
これを成立させるためには、魔術の『始点』を刀に設定しなければならない。だが、ただ単に自分の魔力を込めただけでそこを『始点』に魔術は発動できない。
斬属性を宿した魔力というのは俺の刀にしか宿っていない。俺自身の魔力が斬属性を有しているわけではないのだ。ああいや、厳密には多少は俺の肉体も刀みたいなことになってるんだけど。
しかし、魔術は理性ある生物しか使用することはできない。つまり、俺が【魔力を飛ばす】魔術を使用した所で、飛ぶ斬撃には……なりはするけど威力が全く足りない。
だが、刀も俺の肉体の延長線上だと認識されれば、魔術の『始点』を刀に設定することができる。
そうすることで、【魔力を飛ばす】という魔術は【斬撃を飛ばす】魔術へと変貌するのだ。
つまり、この術は刀が魔術を行使したと、理屈の上では捉えることもできる。
無機物に流した魔力は肉体に循環させることはできない。自他の境界線があるから。だが、境界線をなくせば、刀に流した魔力も循環させることができる。
斬属性を有した魔力を肉体に流し込むなんて自殺行為だったが、まあ案外為せば成るんだな。
「やべぇなお前! 狂ってんじゃねぇのか!? 普通そこまでするか!?」
「魔力量がなかったんでね。苦肉の策さ」
「だったら魔力を増やす努力をするだろ普通!」
「増やしてこれなの──さッ!」
再び飛ぶ斬撃を二連続で繰り出す。
「そうかよ!」
だが、一度見切られた技は二度も通用しない。しかし、遠距離攻撃手段があると相手に意識させるだけでこちらの選択肢は広がる。
「【飛脚】」
「──ッ!?」
貰った。
羅門は俺の【飛脚】による高速移動を警戒して死角への意識を割いた。
だが、本命は【飛ぶ斬撃】だ。
俺は刀を振るう。
刀に宿った魔力が一直線に相手にめがけて飛来した。死角へと一瞬だけ意識を割いた羅門は対応が遅れる。
ギリギリ俺の意図に気づいた羅門は身体を無理やり横にずらすことで致命傷は避けたが、右手首から先を失う。
ダメージを負った彼に対して俺は【飛脚】で距離を詰め、正真正銘の最期の一撃を浴びせるべく刀を振るう。
だが、突如として左わき腹を襲った衝撃に俺は体勢を崩した。咄嗟に追撃を警戒し、羅門との距離を取る。
「こりゃあ、分が悪いな。魔人の確保は諦める。だが、ある程度細胞は入手できたから良しとするか」
まずい。このままだと原作と同じ流れになる。
「じゃあな、久城一級執行官! お前の執念、しかと読み取ったぜ!」
声高らかに発言した羅門は、おもむろに懐から一つの結晶を取り出した。太陽光を反射して白く輝くあの結晶は、魔道具の一種。
割ることで刻まれた術式を発動する単発消費型の道具だ。
どんな術式が刻まれているのか。そんなの一択だ、逃走用の魔術。
羅門はここで捕えておきたい。そう考えた俺はすぐさま【飛脚】で距離を詰めるが、羅門が結晶を割る方が早かった。
次の瞬間には彼の姿は跡形もなく消え去っており、その場には立ち尽くす俺の姿しかなかった。
どんな魔術なのかは分からないが、この場から消えたこと自体は事実。気配も感じないから透明化といった類ではないことは確かだろう。
本当にこの場から離れた。
……そんな魔道具、原作でも使ってなかったじゃん。
さて、じゃあ透花と綴はどうなっているかな。
◇
「すみません。ある程度の魔術師は捕らえたのですが……数名、かなりの手練れがいたため逃してしまいました。魔人に関しても、その手練れの魔術師が連れて行ってしまい……」
「いいよ、仕方ない。こっちも逃しちゃったし。結局、魔人も捕らえられなかったしね。しっかし一体どうなってるんだろうね。魔人の反応があったかと思えば魔術師同士の抗争なんて」
白瀬さんと柊さん、二人と合流した俺は彼女たちからの報告を聞いていた。一応上司に当たるわけだからね。
「久城さんでも逃してしまう相手……ですか」
柊さんが驚いたように言う。
「かなり手練れだったね。魔術師なんだけど、どうにも魔人に執着していたみたいでさ。色々ときな臭いところがありそうだ」
めちゃくちゃすっとぼけています。
誰がなんの目的で動いていたのか、俺はそれを知っているのだがそれを安易に口にすることはできない。
「魔人を巡った抗争……ということになりそうですが」
白瀬さんがそう考察した。
一連の流れを見たのなら、そういう結論に落ち着くだろう。
透花を連れ去った魔術師──恐らく蘆村達。そして、同じく透花を求めていた羅門という魔術師。この二つの勢力がぶつかったのが今回の事件の全容になる。
透花は既に魔人特有の魔力を有しているため、またどこかに隠れることになるだろうが、今回の件を経て、彼女もまた戦う者としての意識を芽生えさせていく。
綴もまた、透花を守るために自分がどうすればいいのかを考え始めるだろう。
綴は少年漫画の主人公にしては珍しく、まだ特殊能力を有していない。しかし、透花との関係を続ける限り、彼もまた『残響』に関する何かを得るだろう。
俺の記憶では、彼もまた何かに目覚めかけていた。
「今後、あの魔人を巡った事件が頻発するかもしれない。今以上に仕事が増えそうだけど、二人とも、気張っていこう」
『──はいッ!』
これからだ。
これから、波乱が幕を開ける。
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