絶望を覗く男   作:こくとうまんじゅう

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訓練

 

 

 

 翌朝。草薙凛は死んだ目でホテルの天井を見上げていた。カーテンの隙間から差し込む朝日がやけに眩しい。ふかふかの高級ベッド。羽毛布団。五つ星ホテルのスイートルーム。

本来なら最高の目覚めのはずだった。

 

 だが現実は違う。

 

 

「……帰りてぇ。」

 

 身体が重い。昨日の白鳳の殺気を真正面から浴びたせいか、精神的疲労が尋常ではなかった。その上夢の中でも死んだ。『終焉の観測者』が見せる終末の光景は相変わらず最悪で、巨大な黒い太陽が地球を呑み込む夢を見たせいで、寝たのに疲労が増している。

 

 さて今日は二度寝するかと布団を体に被そうとした次の瞬間

 

「起きろガキ。」

 

 ドゴォンッ!!!!

 

 突然、部屋の扉が蹴破られた。

 

 「ひぃっ!?」

 

 凛はベッドから飛び起き、音のした方向を見れば白鳳が仁王立ちしていた。ホテルの従業員が見たら卒倒しそうだ。金属性で重厚な扉に大きな穴が空いている。

 

「な、何してんだアンタ!?扉!!扉壊れてる!!」

「ノックしただけだ。早くしたくしろ。」

「嘘つけ今のは襲撃だろ!!」

 

 ドアをぶっ壊した白鳳は黒いジャージ姿だった。ラフな格好なのに威圧感が消えていない。むしろ休日の猛獣感が増している。なんだコイツ怖いよ 

 

「着替えろ。五分で下行くぞ。」

「え、朝飯は?」

「走ってからだ。」

 

 毎日自炊した料理を食べていたため朝食が習慣になっている凛は絶望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 ホテル裏手。地球防衛軍が管理している広大な訓練施設に二人はいた。朝靄がまだ薄く残るグラウンドは異様に広い。

 陸上競技場をさらに数倍広げたような面積。地面は黒い特殊舗装で整えられており、遠くには障害物コースや巨大な壁まで見える。

 そこに連れてこられた凛はドン引きしていた。

 グラウンドを走っている連中が普通の人間じゃないのだ。

 炎を噴きながら走る男。重力を無視して空中を蹴る女。全身を金属化させた大男。全員、化け物みたいな身体能力で走っている。

 

「ここは主に防衛軍候補生と現役隊員の訓練場だ。お前みたいな子供は普通は使えねえが、俺が許可を出すから自由に使え」

 

 白鳳はスポドリ片手に俺に説明してくれる。というか周りの奴らからの目線が痛い。どんなにクソでも世界最強の知名度は伊達ではないようだ

 

「死にたくねぇなら他人の視線なんて慣れろ。お前も将来防衛軍に入ったらこうなるんだからな」

「慣れれるかこんなん!!」

 

 

 ズドォォン!!!!!!

 

 

 

 急にグラウンドの端で結構大きめな爆発が起きた。

 

 

 

「ぎゃあああ!?!?」

 

 

 

 思わず悲鳴を上げその方を見ると見ると、二人の能力者が模擬戦していたらしい。一人が雷を放ち、もう片方が氷壁で防御している。グラウンドがベチャベチャだぁ(思考放棄)

 

「朝から物騒だな。こういうのも許可されてんの?」

「ああ。申請すれば普通にできる。」

「成る程」

 

 白鳳は完全にこんな環境に慣れていようでやれやれといったようにこちらを見てくる。こちとら七歳児ぞ?精神年齢は18歳ぐらいだけど。 

 そんな俺はグラウンドのランニングフィールドに白鳳に連れられ移動する。

 

「よし走れ。」

「急だな!?」

「まず二十キロ。」

「七歳児だぞ俺!?」

 

 白鳳はポケットに手を突っ込んだまま淡々と言う。

 

「安心しろ。死にそうになったら治療班呼んでやる。安心して走れ」

「前提がおかしい!!治療班をそんなぽんぽん呼んでやるなよ今朝一だぞ」

 

 しかし白鳳は聞き耳を持っていないようだ。こいつ都合のいいことしか聞こえてねぇ!

 

 「スタート。」

 

 ドンッ!!!!

 

 スタートの一瞬、頭が真っ白になった。なぜなら俺の体がなぜか空を飛んでいたからだ。いきなりのことに放心状態となった俺は近づいていてくる地面に現実に引き戻される。

 

 なんで俺飛んでるの??あっ背中痛い。まさか俺白鳳に背中を蹴られた!?

 

 「ぎゃあああああ!?!?落ちるぅぅぅぅ!?」

 

 

 

 凛の身体が地面に吸い込まれるようにしてグラウンドに落ちる。中学校でやった前転して笑芸を殺す前転受け身でなんとかダメージを最低限に抑える

 

「ちょ、お前何して……」

「走れ。」

 

 後方から白鳳の声。まるで地獄の番人のような人を恐怖に貶す圧を持った言葉だった

 

「止まったらもう一発蹴る。」

「横暴!!児童虐待!!!」

「もう一回蹴るぞ。というか児童虐待やめろ。俺はちゃんと琴歌のことを考えている」

 

 俺は鬼軍曹となった白鳳から逃れられず、地獄の20キロマラソンへと挑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 一時間後。

 

 

 

「ッ、はぁ……ッ、はぁ……ッ……!!」

 

 

 

 凛は死にかけていた。呼吸のし過ぎで肺が焼けるように痛い。脚が鉛みたいに重い。喉の奥が鉄臭い。グラウンドを何周したかもう分からない。

 周囲では候補生達が俺達をドン引きしたような目で見ている。おい地球防衛軍なんだろ!?この後ろの児童虐待ネグレクト野郎をつかまえろよ!

 

「なんなんだよこいつ……。」

 

 凛が涙目でのつぶやきは地獄耳の鬼軍曹も聞こえていたようで、こちらに更にペースを上げるように命令してくる

 

 「ペース落ちてんぞ。」

 

 白鳳が隣を歩いていた。

 

???????????????

 

 歩いてんだけどこいつ?は?一応俺本気で走り続けてるんだけど?

 

「なんで歩きで追いつけるんだよ!!」

「お前が遅ぇからだ。」

 

 なんて理不尽。

 

「呼吸が下手だな。」

「はぁっ……はぁっ……うるせぇ……!」

「肩で呼吸してる。肺だけ使うな、腹使使え。吸う時に腹膨らませて吐く時に締める。」

「そんな余裕……ッ、あるかぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 二時間後、訓練終了時。

 

 

 

 凛は地面に倒れていた。

 

 

 

「……もう……むり……だれか…だれか殺して……。」

 

 呼吸が痛いし、体中の筋肉が悲鳴を上げている。グラウンドで倒れ込んだおれを息一つ乱れていない白鳳が見下ろしている。なんかちょっと嘲笑されている気がする。

 

「明日もやるのから体休めとけ。」

「え、まさかこれ毎日すんの!?!?」

「当たり前だ。走り切るまで帰れると思うなよ」

 

 これもう虐待で訴えたら勝てるだろ。いやこいつの権力で訴えそのものをなかったことにされそうだ。

 ようやく息が整ってきたため痛む体に鞭打って立ち上がると、白鳳が次の司令を出してきた

 

「午後は勉強だ。俺は今から仕事に行くからその間にやっとけ。教材はホテルにおいてあるから自由に使え。」

「現実見せるのやめろ。もう俺はお腹が空いて死にそうだ。」

「飯はホテルのバイキングにでも言っとけ。鍵見せりゃぁ子供一人でも入れてくれるだろ」

 

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