夕暮れ時。
ヒーロー協会本部近くの回転寿司屋は、珍しく貸し切り同然の騒がしさだった。
「ハッハッハ!! 今日はイアイアンのA級昇格祝いだ!! 遠慮せず食え!!」
豪快に笑うのは アトミック侍 。
その左右には弟子である イアイアン 、 オカマイタチ 、 ブシドリル が並んで座っていた。
「いやぁ……でも本当に俺がA級なんて」
「何言ってんのよ。もっと胸張りなさいって」
「そのうちS級も見えてくるぞ!」
弟子達が盛り上がる中、アトミック侍だけは腕を組みながら静かに頷く。
「当然だ。剣士ってのはな、強さより“折れねぇ芯”が大事なんだよ」
そう言いながら湯呑みに口をつけた瞬間――
店の入口のベルが鳴った。
「へいらっしゃ――」
「お、空いてるでござるな」
赤いジャケット。
腰に一本の日本刀。
頬には十字傷。
どこか気の抜けた顔で入ってきた男に、イアイアンが「あっ」と声を漏らす。
「バッテンレッド……!」
C級下位ヒーロー。バッテンレッドあらためシンタ。
剣士界隈では妙に有名な男。
怪人を“殺さない”異端。
店内の空気が僅かに変わる。
シンタはカウンター席に座ろうとして、そこでようやく彼らに気づいた。
「……ん?」
数秒沈黙。
「…………」
「…………」
先に口を開いたのはブシドリルだった。
「げっ」
「げっとは失礼でござろう!? 拙者泣くでござるよ?」
「なんでいるんだよお前!」
「寿司屋だから、お寿司食いに来たんでござる」
真顔だった。
オカマイタチが吹き出す。
「アハハ! 相変わらず調子狂うわねぇ」
アトミック侍は黙ってシンタを見ている。
その視線に気づきながらも、シンタはあえて自然体のまま頭を掻いた。
「……なんでござるか?」
「別に。今日は弟子の祝いだ」
「ほう」
シンタの視線がイアイアンへ向く。
「A級入りでござるか?」
「あ、ああ」
「それは凄い おめでとうでござる」
少しだけ目を丸くした後、シンタは近くを通った店員を呼び止めた。
「すみませーん。マグロ一皿」
「へい!」
イアイアンが怪訝そうな顔をする。
「お前、何を――」
流れてきた皿を、シンタは指で軽く押してレーンへ乗せた。皿はくるくる回り――イアイアンの前で止まる。
「昇格祝いでござる」
「……は?」
「マグロ一貫、奢りでござるよ」
「一貫!?」
「半分優しさで出来てるでござる」
「薬みたいに言うな!!」
オカマイタチが腹を抱えて笑い始め、ブシドリルも噴き出す。
アトミック侍だけはニヤリと口元を歪めた。
「おいイアイアン」
「は、はい!」
「こういう剣士をなんて言うか知ってるか?」
「……変人ですか?」
「半分正解だ」
アトミック侍は湯呑みを置きながら続ける。
「“生き残るタイプ”だ」
シンタはそれを聞き流しながら、湯呑みを手に取る。
「嫌でござるなぁ。拙者ただの善良な一般市民でござるよ」
「その一般市民は気当たりで怪人失神させねぇんだよ」
「あと寿司屋で殺気漏れてるしねぇ」
「しかもなんか今日ちょっと嬉しそうだぞ」
弟子達にもツッコまれ、シンタは露骨に顔を逸らす。
「……別に。若い芽が伸びるのは良い事でござる」
その言葉に、イアイアンは少しだけ目を見開いた。
からかい半分だと思っていた。だが今の声には、妙に実感があった。
きっとこの男は、本当にそう思っているのだ。
誰かが強くなる事を。
生き残る事を。
未来へ進む事を。
心から嬉しいのだと。
「……いただきます」
イアイアンはマグロを口へ運ぶ。
その瞬間。
「どうでござる?」
「普通に美味い」
「回転寿司のマグロに感動されても困るでござるな」
「奢り一貫の男が言うな!!」
店内に笑い声が響く。
その光景を見ながら、アトミック侍はふと目を細めた。
――ハラギリの野郎。こいつを斬らなかった理由、少し分かるぜ。
そんな事を思いながら、静かに次の皿を取るのだった。
◇
遡る事二時間前、瓦礫だらけの商店街に重たい静寂が落ちていた。
アスファルトは抉れ、電柱はへし折れ、逃げ遅れた人々が遠巻きに様子を窺っている。
その中心で、怪人は膝をついていた。
両腕は痺れ、全身は焼け焦げ、呼吸も荒い。
対するシンタ――バッテンレッドは、逆刃刀《月影》を肩に担いだまま、静かに怪人を見下ろしていた。
「……これで終わりでござるよ」
周囲から歓声が上がる。
しかし、その歓声はすぐ別の熱を帯び始めた。
「やれ!!」
「殺せ!!」
「そいつ何人殺したと思ってんだ!!」
殺意。
恐怖。
怒り。
それらが渦を巻いて、シンタへ叩きつけられる。
怪人は震えながら顔を上げた。
「ひ……っ」
シンタは無言で端末を取り出す。
「研究所に連絡、と」
「はぁ!?」
「なんでだよ!!」
「そんな化け物生かす気か!?」
野次が飛ぶ。
シンタは面倒臭そうに片耳を掻いた。
「拙者、ヒーローでござるからなぁ。だから殺さない。それだけでござる」
怪人が呆然と目を見開く。
理解できない、という顔だった。
自分は人を殺した。
街を壊した。
なのに、目の前の男は殺そうとしない。
シンタはそんな視線にも気づいていないように、しゃがみ込んで怪人を縄で縛り始めた。
「……暴れると痛いでござるよ」
その瞬間だった。
怪人の目がギラリと光る。
「舐めるなぁぁぁぁ!!」
隠していた刃が飛び出した。
超至近距離。
完全な不意打ち。
観衆が悲鳴を上げる。
だが。
ヒュン――と風が鳴り、シンタの姿が掻き消える。
次の瞬間。
ゴッ――!!
怪人の顔面に鞘がめり込んだ。巨体が吹き飛び、地面を転がる。
「ぎっ……!?」
「危ないでござろうが」
シンタはいつの間にか背後に立っていた。納刀の姿勢のまま、呆れたように溜息を吐く。
「だから言ったでござるよ。暴れると痛いって」
再び巻き起こる怒号。
「ほら見ろ!!」
「やっぱ殺さなきゃ駄目だ!!」
「次は誰か死ぬぞ!!」
怪人の顔から血の気が引く。
シンタは少し考えてから、ぽつりと言った。
「……研究所送り、そんな嫌でござるか?」
怪人が震える。
「あ、当たり前だろ! 何されるかわからねぇ! 実験だぞ……!」
シンタは「ふーむ」と頷いた。
そして。
「なら、自害すればいいでござる」
周囲が静まり返った。
怪人も固まる。
「……は?」
「嫌なんでござろ? 研究所。なら自分で死ねばいい」
あまりにも淡々とした口調だった。
シンタは続ける。
「誰も止めん。拙者も止めん。今なら腕一本くらい動くでござろう。舌噛んでもいいし、心臓刺してもいい。選ぶのはお主でござる」
怪人の喉が引き攣る。
だが。
動けない。
死ねない。
怖い。
圧倒的に。
シンタはそれを見て、小さく笑った。
「……できんでござろ? 命って、そういうものでござるよ」
怪人の目が揺れる。
「どれだけ苦しくても、どれだけ惨めでも、皆、生きたい」
シンタの言葉に誰も声を上げない。
「お主も、人間も、怪人も…」
シンタは月影を鞘ごと肩に担ぎ直した。
「だから拙者は簡単に奪いたくない。まあ、研究所で泣くほど絞られる可能性はあるでござるが」
場違いな軽口。
だがその場にいた誰も、笑えなかった。
怪人は地面に伏したまま、ただ震えていた。
自分が今まで踏みにじってきたもの。
その重さを、初めて真正面から突きつけられた気がしていた。
名前:シンタ
ヒーロー名:バッテンレッド
概要:
「るろうに剣心」の主人公、緋村剣心の転生者で前世では普通のリーマンを自称している(実際の性格は読み切り版の「るろうに」の方に似ていて口が悪い)
基本的温厚な性格で怪人達の発生を地球環境の劣悪さが原因ではないかと推察し、不殺のヒーローを目指している(頭脳系を選択しなかったのは自身ではその知恵を扱い切れないと判断し、戦闘系なら自分より強い人が沢山いるので敗北しても大丈夫と思ったから)
倒した怪人を研究所に送っている。
一時期『剣聖会』に在籍して抜刀術の名手「ハラギリ」に師事を受けていたが、飛天御剣流を起こす為に後に退会。
現在はC級下位で自身のヒーロー道を貫いている。
武器:電磁式 逆刃刀「月影(つきかげ)」