休日の大型書店。
ヒーロー協会監修の防災フェアと、超人気作家『ジライヤ』のサイン会が併設されたイベント会場は、朝から異様な熱気に包まれていた。
『イチャイチャカタルシス』新刊発売記念。
整理券は即日完売。
女性ファンだけでなく、「人生観変わった」と泣きながら語るサラリーマンまでいる始末である。
そんな中――。
「……なんで俺が並んでるんだろうなぁ」
赤いパーカー姿の男、C級ヒーロー《バッテンレッド》ことシンタは、長蛇の列に並びながら遠い目をしていた。
手には紙袋。
中にはティアーユから頼まれた専門書。
『怪人細胞の突然変異事例集』
『宇宙生物代謝パターン』
『軟体型怪人の神経構造』
どう考えても女子の買い物ではない。
「ついでにサイン貰ってきてくださいね。研究の合間に読むので」
などと笑顔で送り出された。
(研究の合間に読む本か…?)
シンタは空を仰いだ。
すると前の列の筋骨隆々の男が勢いよく振り返る。
「おおおおッ!! 若人よッ!!」
「うわっ!?」
全身緑タイツ。
太い眉。
ギラギラした瞳。
どう見ても変質者だが、シンタには見覚えがあった。
「マユタイツ…殿?」
「YES!! 青春の申し子、マユタイツであるッ!!」
ガシィッと両肩を掴まれる。
「以前、C級合同訓練で見たぞ!! 逆刃刀の若人!! あの不殺の闘志!! 素晴らしかった!!」
「近い近い近い」
「今日はサイン会か!? 青春だな!!」
「いや、買い物のついででござる」
「日常を大切にする!! それもまた青春!!」
声がデカい。
周囲の視線が痛い。
だがシンタは少し笑った。
(…悪い奴じゃないんだよな)
むしろ真っ直ぐ過ぎる。
その時、列の後方から女性達の黄色い悲鳴が上がった。
「きゃー!! ジライヤ先生ぇぇぇ!!」
「サイン会前なのに歩いてる!!」
「本物だぁ!!」
現れたのは白髪混じりの長髪に、どこか飄々とした雰囲気の男。
サングラス。
派手なシャツ。
片手にはアイスコーヒー。
超人気作家、ジライヤ。
彼は歓声に手を振りながら歩いていたが、不意にピタリと止まった。
サングラス越しにシンタ達を見る。
「……」
「?」
「…お前」
「え?」
「その顔、なんか見覚えあるな」
シンタの眉がぴくりと動く。
転生者特有の“勘”。
この世界には時折いる。
前世の記憶を持つ者達。
そして彼らは、妙なところで“同類”を察知する。
ジライヤはニヤァ……と笑った。
「お前、“あっち側”だろ?」
「……ま、まあ」
「やっぱりかァ!!」
ケラケラ笑うジライヤ。
「いやー!! 最近多いな転生者!!」
「そんな気軽に言う事でござるか!?」
「大丈夫大丈夫。ここにいるの半分くらいオタクだから」
「最低の安心感でござる」
そこへ更に声が飛ぶ。
「先生ぇぇぇ!! 列戻ってくださーい!!」
スタッフである。
「はいはーい」
ジライヤは軽く手を振った後、シンタの肩をぽんと叩いた。
「後で楽屋来いよ。転生者トークしようぜ」
「いや別に…」
「あと君」
ジライヤがマユタイツを見る。
「はいッ!!」
「君は何をどうしたらそうなった?」
「努力ですッ!!」
「すげぇな…」
素で感心するジライヤ。
その時。
突然、会場の外で爆発音が響いた。
上がる悲鳴。
ガラスの割れる音。
「怪人だァァァ!!」
観客がパニックになる。
シンタの目が変わった。
「マユタイツ殿!!」
「応ッ!!」
二人はほぼ同時に駆け出す。
その背中を見送りながら、ジライヤは帽子を押さえて笑った。
「いやー…異世界転生って、案外退屈しねぇな」
その目は少しだけ嬉しそうだった。
“自分だけじゃなかった”
そう感じたからかもしれない。
◇
深夜二時。
街は静まり返り、ネオンだけが白く滲んでいた。
コンビニ『マート・ワン』。
レジカウンターの奥でシンタはあくびを噛み殺していた。
「……ねむ」
制服姿のバッテンレッド。
しかし当然世間はそんな事知らない。
ただの深夜バイト青年である。
レジ横には半額シールを貼った弁当。
ホットスナックケースには、しなしなになりかけたアメリカンドッグ。
BGMだけが妙に元気だった。
それを打ち消すかのように自動ドアが開く。
「……」
入ってきたのはハゲ頭にジャージ姿の男だった。
片手にはスーパーの袋。
どこにでもいそうで、でも妙に気の抜けた空気を纏っている。
シンタは反射的に声を出した。
「いらっしゃいませーでござる」
男は気のない返事。
「うーす」
そのままカップ麺コーナーへ向かう。
シンタはぼんやり眺めた。
(なんか変な空気纏ってるなあのハゲ)
妙な感覚だった。
殺気とか威圧感じゃない。
例えるなら「ここに山があります」みたいな自然さ。
デカいとか、怖いとか、そういう認識にすらならない。
ただ“いる”。
そんな感じだ。
男はカップ麺を手に取ると少し悩み、また戻して別のを取る。
真剣な顔。
(平和だ)
シンタは少し笑った。
やがて男はカップ麺、ポテチ、特売卵、ネギ、プリンを抱えてレジへ来た。
「お願いします」
「はいでござるー」
シンタは商品を通していく。
ピッ。
ピッ。
ピッ。
男が何気なく尋ねた。
「兄さん、それって口癖?」
「んー、まあそんな感じでござる」
「バイト大変だね」
「いやー、生活費の為ならなんのそのでござるよ」
「分かる」
妙な共感だった。
シンタはネギを袋へ入れながら、ちらりと男を見る。
やっぱり変だ。
力んでない。
なのに今まで見た誰よりも――自然体。
剣聖会の達人とも、ヒーロー協会の猛者とも違う。
まるで、戦う事が呼吸みたいな。
「……お客様、なんかスポーツとかやってるでござるか?」
男は少し考える。
「んー、趣味くらい」
「へぇ」
(絶対嘘だな)
シンタの勘がそう告げていた。だが追及する気にもなれない。
男は会計を済ませると袋を持って出口へ向かう。
自動ドアの前で、ふと立ち止まった。
「兄さん」
「はい?」
「なんか疲れてんな」
「……え?」
「たまには休んだ方がいいよ」
それだけ言って男は夜道へ消えた。
静寂。
コンビニの機械音だけが残る。
シンタはしばらく呆けた後、ぽつりと呟いた。
「なんだったんだアイツ」
でも不思議と少し肩の力が抜けていた。
レジ横の鏡を見る。自分でも気づかないうちに、結構疲れた顔をしていたらしい。
シンタは苦笑する。
「休め、か」
そして廃棄予定の饅頭を一つ取り出した。
「…いただきます」
名前:ガイ
ヒーロー名:マユタイツ
概要:
「NARUTO」のキャラ、マイト・ガイの転生者。人生を全力投球で熱く生きたいという願いを持つ。主に素手で闘っている。
八門遁甲は使えず、格闘技は通信教育で習ったものという散々な目にあうが、容姿から勇気と根性をもらって日夜努力している。
名前:ジライヤ
概要:
「NARUTO」のキャラ、自雷也の転生者。
作中に出てきたイチャイチャシリーズを読んでみたいという願いを持つ。しかし本人ではないため執筆できるはずもなく断念。
じゃあ自作してやると欲望を爆発させてカタルシス、ストレングス、エッセンスなど次々とヒット作を世に出している。