薄暗い独房に鈍く輝く鉄格子。
監視カメラが24時間こちらの動きの全てを見張る。
それが怪人用拘束区画……のはずだった。
「おい」
その独房に本日入居することになった怪人が思わず呟く。
ティアーユ研究所所属の捕獲怪人が1人。コードネーム《マンティス》。
元は暴走型生体兵器だ。
「なんでゲーム機あるんだ、ここ」
独房の机に鎮座するありふれた携帯ゲーム機。しかも最新型。
隣室のスライム型怪人が律儀に答える。
「ティアーユ博士が置いてった」
「何でだよ?」
「ストレス軽減に良いとか何とか」
意味分からん。
マンティス、とりあえずゲーム起動。
「…あ、このシリーズ新作出てたんだ」
普通に遊び始める。
数分後。
「クソがっ!! ボス硬ぇ!!」
完全に寛いでいた。
ティアーユ研究所。
正式名称はやたら長い。でも怪人達の間では『変な研究所』で通っていた。
理由は色々おかしいから。
まず飯が美味い。そして怪人を『実験材料』ではなく『患者』みたいに扱う。
最初は誰も信用しなかった。
特にマンティス。元々が暴力特化だ。
捕獲時も「皆殺しだァ!!」と大暴れして研究所半壊寸前。
だったのだがその時、黒い影が飛来する。
金色の闇、通称ヤミ。
僅か三秒で制圧された。
床に顔面固定された上からの腕関節極め。
「ギッッッ!?!?」
ヤミは無表情で言う。
「騒がしいです」
「いだだだだだだ!!」
以降、マンティスは「ヤミには逆らわない」を学習した。
ある日、研究所休憩室に怪人達は普通に集まっていた。
トランプ。
ゲーム。
菓子。
漫画。
テレビ。
映画。
何なんだここ。
そこへコーヒー片手に白衣姿のティアーユ登場。
「調子はどう?」
怪人達が一斉に顔上げる。
「新作買ってください」
「図々しいわねぇ」
でも数日後、本当に置かれる。
「買ってるよ!!」
「博士ちょろくね?」
「バカッ! 優しいと言え!」
苦笑しながらティアーユは答える。
「暴れないなら、それくらいするわ」
ただし暴れるとヤミが来る。
一度、新人怪人が脱走を試みた事があった。
「自由だァァ!!」
廊下爆走して角を曲がる。
ヤミがいた。
数秒後――
「離して!! 首!! 首が!!」
床に沈む新人にヤミは淡々と言い放つ。
「廊下は走らないでください」
研究員が小声で呟く。
「学校かな?」
マンティス。
最近、割とここを気に入っていた。
理由、静か。飯美味い。ゲームある。誰も石投げてこない。
ある夜、休憩室でマンティスはゲームしながら呟く。
「……なんか、ここ居心地いいな」
隣のスライム怪人が頷く。
「分かる」
「研究所っていうか寮だよな」
そこへティアーユが夜食を差し入れに訪れた。
「夜更かしは程々にね?」
「お母さんかアンタ」
ティアーユは困ったように笑う。
「怪我されると困るもの」
その時、マンティスはふと尋ねる。
「なんで俺ら逃がさねぇのに、こんな優しくすんだ?」
少し考えた後、ティアーユは静かに答えた。
「暴れるしかなかった子を、また暴れさせたくないの」
休憩室内が静まり返る。
怪人達が互いに顔を見る。
そしてマンティスが代表として皆の声を代弁する。
「…調子狂うなぁ」
でも、悪い気はしなかった。
監視室で研究員がモニターから見守りながら呟く。
「最近怪人達、全然暴れませんね」
別の研究員は苦笑して教える。
「ゲーム大会計画していたからかな」
モニターの中の怪人達。
「そこキャンプすんな!!」
「採取は後にしろ!! こっち手伝えや!!」
「煽るな!!」
完全にオンライン対戦だった。
ヤミがその後ろを通る。
怪人達、思わず一斉静止。
ヤミがちらりと横目で見ながら
「…次、私もやります」
「え!?」
怪人達、騒然。
◇
とある昼下がりの頃、ティアーユ研究所の休憩室では怪人達が思い思いの姿でだらけていた。
ゲーム。
昼寝。
カード。
漫画。
完全に寮。
その時、研究所入口で騒ぎが起き始める。
「いやいやいや!! 絶対面白いって!!」
「帰ってください」
疲れた顔で研究員が客人らしき人物ともめていた。
サングラスに派手な服。ボサボサ頭をした胡散臭い笑顔が目に付く男、ジライヤだった。
「ワシは取材に来たんじゃ!」
「怪人にですか!?」
「だからじゃ!」
研究員が頭を抱える。
休憩室の怪人達がざわつく。
「誰だアイツ?」
「なんかエロい作家らしい」
「怪しいな」
そこへティアーユ登場。
「今日は見学だけね?」
「いやー助かる助かる!」
笑うジライヤ。
「怪人更生施設なんぞ、初めて見るからのぉ!」
その発言に警戒モードに入る怪人達。
しかしジライヤは悪びれた様子もなく堂々と室内へ入り、1人の怪人に目を付けて座った。
「で、お主は何で怪人になったんじゃ?」
隣に座られたかと思えば急に質問され、マンティスは戸惑った。
「……は?」
「能力じゃなくて、人生の方じゃ」
怪人達は少し静かになる。
今まで誰も聞かなかった。
『何故そうなったか』
なんて。
最初に口を開いたのはスライム怪人。
「…工場勤務だった」
ジライヤは黙って聞く。
「残業ばっかでさ、潰れちまって、目先の金に飛びつく形で実験に応募したんだ。そしたら、こうなった」
ぷるんとスライム身体が揺れる。
「なるほどのぉ」
頷きながらメモを取る。
次、マンティス。
「俺は傭兵だった。戦場帰りで普通に戻れなくてな。暴力しか知らなかった。で、怪人化」
ジライヤはまた書く。
「悲しいのぉ」
「別に同情いらねぇよ」
「しておらん」
ジライヤは少し真顔になる。
「ただ、面白いと思った」
怪人達、困惑。
「は?」
「人間、皆どこかで化け物を飼っておる。お主らは、ちょっと形に出ただけじゃ」
休憩室がまた静かになる。
怪人達はその言葉を否定しなかった。
その後、ジライヤと怪人達は意気投合してゲーム大会に参加させた。
「待て待て!! それ反則じゃろ!!」
「ジジイ弱っ」
「煽るなクソガキ!!」
休憩室に爆笑の渦が巻き起こる。
ティアーユは少し離れた場所からその光景を見守っていた。
研究員が小声で囁く。
「……馴染むの早くないですか?」
ティアーユは苦笑するしかなかった。
「人を見るのが上手い人なのよ」
その夜、休憩室で怪人達は互いに身の上話を行った。
「昔バンドやってた」
「俺教師」
「俺ニート」
「元からじゃねぇか」
笑い。
ジライヤは酒飲みながら静かに聞いている。
そして、ポツリと声を漏らした。
「いいネタになるのぉ」
「オイ」
「名前変えろよ!?」
「安心せい。ちょっと盛るだけじゃ」
「一番怖ぇじゃねぇか!!」
後日、本当に新作小説発売。
主人公は元怪人の社会不適合者。それでも居場所を見つけるという話。
妙にリアルだった。
怪人達は読んで固まる。
「……これ俺じゃね?」
「いや俺もいる」
「混ざってる!?」
そこへ元凶がドヤ顔して現れた。
「取材協力、感謝じゃ!」
それと同時に投げられるクッション。
ティアーユがその騒ぎを見ながら、少し笑う。
怪人達の笑い声が研究所に響く。
昔なら考えられなかった光景だった。