ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 遥か彼方の静寂の夢 作:長夜月
私達がここに来て数日が経った。すっかり私もベルと仲良くなり、毎日ベルに様々な事を教えていた。ベルはとても一生懸命に私の教えに付いてきて、私も釣られてどんどんあの子に知識を叩き込んでいた。そんな数日が流れているとアイズが最近になってまた無茶を始めた。何があの子の引鉄となったのか分からない。
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暗い夜の中、静寂に包まれた平原に一つの雑音が流れ込む、それは風を切るような、鋭い音。
ここでの数日は嫌いじゃない、ベルと一緒に毎日リヴェリアに勉強を教えてもらって、皆でご飯を食べる。ベルのお祖父ちゃんは何でかいつもリヴェリアに叱咤されてるけど。
「私は強くならなきゃいけない」
―――そう、強くなってあの龍を討たなければならない。そしてお父さんとお母さんを取り返さないといけない―――
「私は…私がやらないと……」
「アイズちゃん!」
平原の中で素振りをするアイズに声をかけたのは…リヴェリアじゃない。どこまでも白くて優しい、そんな男の子。
「ベル?」
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夜中、もう時計は10時を回っていた。そんな夜に僕はリヴェリアさんに聞いた。毎日アイズちゃんは何で訓練してるのか、アイズちゃんがああまでするのには何か理由があるのか。
「あの子には、悲願がある。何としてでも果たさなければならない悲願が」
それは、英雄に憧れる僕とは違うと瞬時に理解した。それはどこまでも深く、そして淋しい、そんな悲願。
「だからって、あんな夜遅くまでやるのは良くないんじゃ」
「それでもあの子は止まらない、それがあの子の強くなる理由だからだ」
「それって、何ですか?」
「それは言えない、こればっかりはあの子に聞いてくれ」
リヴェリアさんは答えてくれなかった、きっと言えない理由がある、そう理解したから僕は聞かなかった。
「あの子の振る剣の音は、どこか淋しい、なんだか………
―――泣いている様な
リヴェリアは驚愕した、目の前の少年が放った言葉は、アイズの核心を突くものだつだからだ。その出来事にリヴェリアは思わず目を見開いた。
「やっぱり…、お前はあいつの
「それって、リヴェリアさんたちに僕の所に来るように言ったっていう人?」
「あぁ、あいつは傍若無人だった、この世すべてを雑音だと言って消し飛ばすほどのな――」
「そうなんですか?!それは怖い」
「―――でも、そんなあいつが唯一愛したのはがあいつの妹と、そしてお前だ」
本当のことだっだ、全てを雑音だと一蹴するアルフィアが―あの子の鳴らす鐘は自然と雑音には聞こえない―とまで言った。そこからどれだけの愛があるのかは火を見るよりも明らかだった。
「安心しろ、お前は愛されている。だからそんな顔をするな」
「それでも、僕は会いに来てほしかった」
「私も言った、だかあいつは頑なに来なかった。『資格がない』と言ってな」
アホ臭い、親が子を愛するのに理由なんて要らない、そんなのは当たり前のことだ。そういう私も最近まではそれを知らなかった、いや、あの子に拒絶される…それの言い訳が欲しかったのだろう。
「お前は一人じゃない。お前の母親も、それにゼノン殿だってお前を愛している、そして私も…」
愛しているとは言えない、だが大事には思っている、あの女に託されたからではなく、この数日を得て、彼と関わり、そしてこの子の純真さに心を打たれた。
「うん!僕、少し行ってくる」
ベルは玄関のドアを開けてアイズの元へと駆け出した。
「ああ、これが吉と出るか凶と出るか」
「大丈夫じゃ、あいつは儂の孫じゃしな」
「それは、心配だな」
二人は笑いながらベルとアイズを見ていた。優しい、この成長を見守る親のような眼差しを二人に向けていた。
※※※※※※※※※※※
「アイズちゃん!」
「ベル?」
そう僕が言うとアイズちゃんはキョトンとした顔をしていた。僕は意を決してアイズちゃんに聞いた。
「アイズちゃんは何で剣を振るの?」
僕の問いにアイズちゃんは一瞬躊躇ったが、答えてくれないと動かないという僕の意志を知ってか、その口をゆっくりと開けた。
アイズは思った、これを知られたら今までの日々が壊れちゃう、きっとベルは私から離れて行く、でもそれは仕方のないことで、私が行こうとしてる道はそういう修羅の道。だから私は言った。
「強くなる為、悲願を果たす為」
風が吹いた、どこまでの黒く嵐のような。その声はとても冷たく、それでいてどこまでも燃えていた、耳が痛い、そう思った。
「それは…、アイズちゃんが泣いていても?」
その問いの真意をアイズは理解出来なかった、そして理解出来ないベルの問いにアイズは言った。
「私は、絶対に倒さないと行けないやつがいる、その為には例え私がどうなろうと…」
その覚悟にベルは驚いた、その決意を…その為には全てを投げるう覚悟を、ベルは…かける言葉を失っていた、それでも、目の前で泣いている少女をベルは見捨ててはおけなかった。
「一人で…やらなきゃ駄目なの?他の人を…頼っちゃ駄目なの?」
ベルのそんな問いにアイズは…アイズのなかにあった何が壊れた。音を立てて、何が崩れ去った。
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ベルの話を聞いた時、同じだと思った。生まれた時にはお父さんもお母さんも居なくて一人だったベルが、自分に似ている少年だと思った。だけど初めて会った時、初めてベルを見た時、すぐに理解した、この子は私とは違う。
「君に何が分かるの…………?」
アイズは今まで我慢していた事を発露する様に言った。
「誰かを失う恐怖が、お父さんとお母さんが居なくなって、自分だけが、一人ぼっちになっちゃう恐怖が!!!」
ベルはアイズの言葉を正面から受け止めていた、目を逸らすこともなく、口を出す訳でもなく、ただ聞いていた。
そんなベルにアイズは強く言う。
「君にはわからないよ!!最初から一人だった君には、失う恐怖なんてわかるわけない!」
心がズキズキとして、何かを訴えるように私に言った。これ以上言えば、いやもう手遅れだ、自分の発してきた言葉の集積に閉じこもる様に。
この数日は楽しかった、心の底からそう言える、ベルと一緒にリヴェリアから色んな事を学び、ベルと一緒にご飯を食べて、でも私は言ってしまった、もう後戻りは出来ない。
なぜなら私は言ってしまったからだ。
「君は私とは違う!私は剣を執るしかなかった、だって…私は…私には、
――『私の英雄』は現れてくれなかった――
その一言にベルは一瞬目を見開いた、彼女の思いがどれほどだったのかはベルには想像も出来なかった。
だがベルは言った、決してその場しのぎの言葉ではなく、心の底から言った。
――僕じゃ、駄目かな?――
ベルは優しくアイズの手を、剣を持っていたアイズの手を優しく握った。その一言にアイズは驚いた、何でそんな事を言うのか、分からなかったから。
真っ直ぐに自分を見る目を見て、私の手を握ってくれたこの手の温かさが、自分の黒い衝動を、黒い炎を鎮めてくれた。
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アイズちゃんの一言が…、放たれる一言一言が心の奥底に刺さった。
確かに僕は知らない、アイズちゃんの事は、今までのアイズちゃんがどんな子だったのか。でも一つ言えるのはこの数日のアイズちゃんは楽しそうだった、だから言いたい、この言葉を、『僕を助けてくれてありがとう』と。
あの日助けてくれた時、ありがとうと僕は言った、アイズちゃんは僕の心配をしてくれたけど、やっぱり僕は恩返しがしたい、助けてくれたアイズちゃんに、僕を助けてくれた
――私の前に英雄は現れてくれなかった――
その一言を聞いて、心の底から言った、決してその場しのぎの一言ではなく、この子への誓いの言葉を。
「僕じゃ、駄目かな?」
アイズは目を見開いた、何で?そんな事を思いながらベルの方を見ていた、ベルはそんなアイズを見て、言葉を続けた。
「僕は弱っちくて、誰も助けられないかもしれない、僕は確かに君の苦しさを知らない。初めから一人だった僕には到底理解出来ない苦しさだったんだと思う」
その言葉にアイズは瞼を閉じた。
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さっき言った言葉はきっとベルを傷つけた、私のせいで、私が傷つけてしまったんだ、この白い少年を。
だからこそ分からなかった、何でそんな事を言ってくれるのか、私の英雄になるなんて言ってくれたのか。
「だからこそ分かる、初めから何もなかった僕には…、お祖父ちゃんっていう繋がりが出来て、村の人達との繋がりが出来て…、そしてリヴェリアさんとアイズちゃんとの繋がりが出来て、僕はその繋がりを大事にしたい、何もない僕にはこの繋がりが何よりも大事だったから」
私にはそんな事を言われる資格はない。
――私は君を傷つけたんだよ?私は君の傷を抉ったんだよ?
「そんなの僕も同じだよ、僕もアイズちゃんの事を傷つけた、だからこれは仕方のないこと、だから気にしてないよ」
――何で英雄になるなんて言ってくれたの?
「君が泣いていたから、暗い闇の中で一人…泣いているのが見えたから」
その言葉は私の闇を全てを晴らしてくれた。私を、救い出してくれた。
「僕はなるよ、君の英雄に。誰も救えないちっぽけな僕は決して目の前で泣いている
――君だけの英雄に、僕はなるよ!!――
その言葉はアイズの心を溶かした、目の前の少年が言ってくれた、今まで誰も言ってくれなかった言葉を。
――私はお前の英雄にはなれない、もうお母さんがいるからね。だからいつか、お前だけの英雄に巡り会えるといいな――
お父さんの言葉が蘇る、お父さんが私に言ってくれた言葉が。あの温かい日々が、蘇る。
「僕で良いかな?こんな弱い僕だけど、君の英雄に…なっても良いかな?」
ベルのその言葉にアイズは涙を浮かべて下を向いた、嬉しかった、そう言ってくれて、だからアイズは言った。
「―――うん」
ただ一言アイズは言った、それはベルにとってはとても嬉しくて、拒絶されると思っていたから、でもそんな予想とは裏腹にアイズは言ってくれた。
いつか僕はこの日の事を後悔するかもしれない、でも、それでも目の前で泣いている少女を見捨ててはおけなかった。
「――ありがとうベル、私を助けてくれて」
僕は初めて誓った、それは静寂の夜、まるで僕とアイズちゃん以外のすべてが消えたかのような夜に僕は言った。
僕は初めて誰かを助けることができた、僕は僕の憧れを、僕を助けてくれた憧憬に恩返しが出来たかな?
――この日、歴史は動いた。この日最後の英雄は産声を上げた、まるで何かに導かれるように――
今回のお話はここまでです。
それにしても今回はあれですね、思わずベルの語尾をだってばよ!にするところでしたよ。
今回もご愛読ありがとうございます!
次回もどうぞよろしくお願いします!!!!