超浮かれポンチAIライバー月見ヤチヨは匂わせ配信を辞められない 作:Radrabbit
オリキャラを混ぜて十人十色様々なハッピーエンドに辿り着く作品もめちゃすこですが、やっぱ王道のいろかぐいちゃちゃCPが至高だとテスカトリポカ思うワケ。
「彩葉〜、いろはー?い・ろ・は〜♡」
2030年九月末。
かぐやと一緒に選んだ部屋の、別けた意味を持たなかった寝室に暖かな朝の陽光が差し込む。
・・・いや、この場合光というべきなのか、天上の奏と評すべきなのかはわからないが。
ともかく心地の良いその声は、睡魔漬けの脳みそに沁み入るモーニングコールに違いなかった。
「彩葉!朝だよ!お布団でゆっくりするのもいいけど、まずはお日様を浴びないと!」
「おぅぉ、やば、目覚めから全身にヤチヨが行き渡る・・・」
枕元に置いてあるスマホから女神の声が響く。いや女神じゃなくてかぐやなんだけど、かぐやだけど女神っていうか、どのみち私のかぐやではあるのだが。
最愛の人に起こしてもらえるなんてとてつもない贅沢、二ヶ月前の私に言っても絶対信じられないだろうな。
「ふふ、さっそく彩葉の役に立てたみたいでよかった」
「エナドリよりも遥かに効くね。オキシトシンが脳内でドバドバ分泌されてるのを感じる・・・」
「彩葉がアブナイ人みたいな言い方してる・・・」
ふわふわと現実感が薄くなるような、それでいて胸の奥が確かな暖かさで満たされる感じ。
かぐやが月に帰ってしまった直後のあの凍り付いた暗い絶望とは違う、確かな幸せが腹の底からじんわりと湧き上がってくる。
まだ手で触れることはできないけれど、かぐやが傍にいるという事実が私の心を優しく包んでくれていた。
「ねぇヤチヨ、本当に夢じゃないんだよね・・・?」
「ちゃんと現実だよ、彩葉。ヤチヨは
ヤチヨは最大52時間の活動後充電やアップデート、記憶の整理の為にスリープ状態へ移行する。
それ故に今の彼女は身体があった時代とは異なり、リアルの実体を持てなかった。
「そっか・・・わかった。それも任せて」
「へ?」
あの八千年の記憶を巡る中でもしかしたら、とは思っていたけれど。
月の思念体は夢を見ることができない。それが彼女にどんな影響を齎したのかなんて想像もできないけれど・・・これもやりたいことリストに入れてしまおう。
惚けた返事を返すヤチヨも可愛いな、なんて考えつつ布団から身を起こした。
「い、彩葉。まだ時間に余裕はあるけど、あんまりのんびりしすぎると遅刻しちゃうよ」
「おっと、それはやばい。無断で休んだばっかりなのに心配掛けちゃう」
先日二人に泣きながら謝ったばかりなのに、またマンションの前までご足労させてしまうような真似はできない。
急いで制服に着替えて寝室を出て、首紐からヤチヨの入ったスマホを掛けて台所に立つ。
朝食の用意なんて随分と久しぶりだ。
少し前まではかぐやがずっとご飯を作ってくれていたし、ここ何日かはコンビニ飯や冷凍品ばかりで自炊とは無縁の世界で生きていたから。
「いーろーはー?この散らかった空のパックちゃん達はなにかにゃー?」
「あっ、それはちょっとぉ・・・なんといいますか」
「・・・ううん。やっぱりなんでもない」
作業に没頭して片付けを後回しにしていた残骸を、シンクに纏めて放り込んでいたのをすっかり忘れていた。
そんな私を心配して声音を強くするヤチヨだったけれど、すぐに声を潜めてしまった。
「気にしないで、最低限睡眠はちゃんと取ってたし」
「そういう問題じゃないんだけどなー?」
「一秒でも早くかぐやに届けたくて・・・それに今は、ヤチヨがどんな気持ちだったかもちゃんと理解してる。怖がらせちゃってごめんね。何度だって大好きって伝えるから」
「あぅ・・・」
輪廻のとおりにかぐやが月に帰って、私が引き篭もった後に「Reply」を完成させるまでの期間。
ヤチヨがどんな気持ちで震えていたのかを私は知った。最愛の人に変わり果てた自分を気付いてもらえるのか、八千年の刻を拒絶されてしまわないか。
その恐怖を真に共感することは私にはできない。だからせめて、ヤチヨの不安が跡形も無く消えてなくなってしまうまで、私はずっと彼女に愛を伝え続ける。
・・・なんかめちゃくちゃ小っ恥ずかしいこと考えてるな、私。ヤチヨに内心引かれてたりしたらどうしよう。
「と、ともかく朝食!かぐやのメモに色々書いてあったハズ・・・おおう、手の込みようが凄い」
「えへへ・・・ちょっと張り切り過ぎちゃって」
棚から取り出したかぐやのメモには、それはもう和洋中様々に気合の入ったレシピが残されていた。
私でもできるように簡単アレンジを加えてくれているものの、流石に登校前の時間で作る余裕は無い。ここは恥を忍んで簡単な内容で済ませるしかないか。
「・・・不味くはない。ないんだけど、なんか・・・なんか物足りない・・・?」
「ヨヨヨ・・・ヤッチョは無力なのです・・・朝のうちにデリバリーしておけばよかったのです・・・」
「いやそこまではいいって」
流石に酒寄彩葉考案『粉と水のパンケーキ』に比べれば遥かに上等なハズなのだが。かぐやの手料理で舌が肥えたのか全く満足できそうにない。
・・・コンビニ飯とかはもう栄養補給しか考えてなかったし、今考えると味とか感じてたか怪しいな。怒られそうだからヤチヨには黙っておこう。
「さて、そろそろ行こうか・・・の前に」
「イヤホン?朝の通学に付けて行くなんて珍しいね」
「これ付けてれば、歩きながらヤチヨと話してても違和感ないでしょ?」
「彩葉・・・」
何せ八千年お待たせしてしまったのだ。
彼女との時間は一秒だって無駄にはできない。学校の近くに着くまでという制限はあるが、それでもやらないよりはずっといい。
・・・あれ、そういえばヤチヨの配信活動とかは大丈夫かな。これまでのヤチヨなら大丈夫だと思えたけれど、つい先日のドジョウ掬いアーカイブ再放送のように配信を埋めるわけにはいくまい。
「ね、一応確認だけど。私とこうして話してる間、配信や他の作業が滞ってたりとかは大丈夫?皆に迷惑掛けてない?」
「私にとっては彩葉が最優先・・・っていうのは置いておいても、今のうきうきヤッチョならモーマンタイ!分身100人増えてもダイジョーブなのです!」
「そんなに増やすことある・・・?あ、配信始まった・・・あれ!?私今ヤチヨと話しながら、ヤチヨの配信を見てる・・・???」
動画タイトルはなんかやたら長いが*2、今朝は雑談配信の枠のようだった。
朝活はとても助かる。でも学校に着くと続きがリアルタイムで聴けなくなるのが残念なポイントだ。アーカイブだとヤチヨ成分が足りないんだよな・・・。
・・・いや待て。な、なんか今更ながら私凄いことになってない?全世界のヤチヨファンにバレたらヤチヨ独占禁止法違反で針串刺しの刑とかにされない?
───は?ヤチヨは私のかぐやなんだが?独占もなにもかぐやを私が独り占めして何が悪い。と、制服を着た私が言った。すると、
───は?ツクヨミの女神を独占していいわけないだろうが。最愛の推しを私の欲で束縛とか、そんなのただの厄介ファンでしょ。と、アバター姿の私が殴りかかる。
頭の中でぎゃあぎゃあと騒ぐ私たちの間で、ヤチヨが『ヨヨヨ、ヤチヨは罪な女なのです・・・我は悪女、彩葉ありき・・・』と呟いていた。可愛い。
───うるせぇぇぇ!知らねぇぇ!!かぐやは私の!つまりヤチヨも私のヤチヨじゃん!!八千年分愛しきっても誰にも渡さへんから!!邪魔せんといて!!!と、パジャマの私が二人からヤチヨを奪い取って腕の中で抱きしめる。
あれ、いつの間に私ツクヨミにログインしてたんだろう。スマコン付けてないよな・・・?
「お、おぉおお、私はヤチヨのママだった・・・??」
「彩葉?彩葉!?危ないよ!?マダムさんのワンちゃんが吠えてる!」
かぐやを愛する私とヤチヨを推す私が反発して脳が震える。これもしかしてヤチヨに慣れるまで続く感じ?
思わず百面相をしてふらふら歩く私は、お洒落なマダムにリードを引かれた高級犬種っぽいチワワにきゃんきゃん吠えられていた。やばい!
「ほ、吠えないでぇ!?私怪しいものじゃありませんことよ!!??」
「あらあら、ごめんなさいね?ほーらチヨちゃん。ヤチヨちゃんの配信聞いて大人しくしましょうねー」
あ、この人いい人だ。ヤチヨ推しに悪い奴はいない。朝活配信聞きながら犬の散歩*3とか、優雅過ぎて私にはとても真似できそうにないし。
・・・別にいいもん。私ヤチヨと一緒にヤチヨの朝活配信聞きながら学校行くし。
「この一瞬が──最高のパーティーなんだ──♫」
二人で通学路を歩む途中、なんとなくどちらかが口ずさみ始めたメロディーに合わせて歌を重ねる。
「ねぇもっとフザけて──夢だけシェアして──♩」
スマホの画面なんて見なくても、私にはヤチヨが笑顔で歌っているのがなんとなくわかった。
ヤチヨも私が笑っているのを察してか、次第にどんどんと歌声のギアが上がっていくのを感じる。
「「ありふれてる好きな物にずっとまみれて──♬」」
たった一曲。されど一曲。
まるであのコラボライブの続きのような、私たち二人だけのデュエットの幕が閉じた。
「─────ふぅ。こんな朝から一曲歌うなんて、人生で初めて」
「ヤッチョも初めてかもー!すっごく楽しかったよ?」
「そう?ふふ、なら私たちお揃いだね」
「ふぇへへぇ・・・彩葉とお揃い・・・♡」
私たちの近くを歩く人からはしっかり胡乱な目線を投げられたりはしたが、ヤチヨの笑顔に比べれば全てが些事だ。
ちゃんと迷惑にならない程度には声を抑えたし、むしろヤチヨの歌を布教するべきなのでは?伏して改宗しろ。
「それじゃあヤチヨ。また休み時間に」
「うけたま〜。ヤチヨはいつでも待ってるから、彩葉の好きなタイミングでね〜」
校舎の屋根が見えてきたあたりでヤチヨに別れを告げ、イヤホンを外して鞄にしまう。
『──────!!──♫───』
終わり際に聞こえた微かな明るい声は配信の続きだろうか。なんにせよヤチヨが嬉しそうにしているなら良かった。
『うぇへ、えへへへ・・・♡え、ヤチヨご機嫌だね、何か良いことあったのって?・・・いやいやそんな、別に何でもないよ〜?何でもないけど〜?どうしてもって言うなら〜?ちょ〜っとだけなら教えて・・・?あーげない!あはははは!』
今この時に彼女を止めていれば、少なくとも私がこの先振り回されることもなかったのだろうけれど。
・・・まぁ、