超浮かれポンチAIライバー月見ヤチヨは匂わせ配信を辞められない 作:Radrabbit
配信回をお届け、すると思っていたのか?(ギュピ)
いや逆転裁判ネタにするつもりが、彩葉が勝手に配信止めてイチャつき出したんです・・・本当です・・・。
「何配信しようとしてんの?」
「あいや違くて、つい本能的に・・・」
「ヤチヨさん、そこに正座」
「い、いろはー?冷たくされるとヤッチョ傷付いちゃうなー?」
つい思わず硬い態度を取ってしまったが、ヤチヨを傷付けるなんて当然本意ではない。
それならと妥協して、ヤチヨを膝に乗せた姿勢で座ることにした。
向かい合って抱き合うような体勢になるものだから顔が近くて少し心臓がどきりとしたけれど、鋼の意志で鉄仮面を貫く。
「・・・はい、これでいい?」
「え?私この体勢でお説教されるの??」
戸惑う彼女の彩はとても鮮やかで、このまま抱き締めていたい気持ちもある。だが流石に今回の件はしっかり追急せねばなるまい。
「悪いことだった、ていうのはわかってるんだ?」
「う・・・それは、そのぅ・・・」
虚空に指をなぞらせ、「竹tube」に投稿された一つの動画を拡大してヤチヨに突きつける。
【月見ヤチヨ、いろPに過去グルーミングしていた疑惑が浮上。AIも暴走する時代か?】
それはありふれた飛ばし動画の一つ。
ただ他と比べても一抜けて手間が掛けられており、数年前を起点にここ数ヶ月までヤチヨの配信から事細かく切り抜いていた。
それだけならただの下世話な憶測動画の一つに過ぎないが、この動画は過去のヤチヨの意味深に思える発言と私について一つ一つ考察を重ね紐付ている。
これまでは超高性能AIのそれらしい言葉遊びやロールプレイ・・・だったはずのもの。
それがヤチヨの私への突き抜けた愛情と監視行為の諸々が世間へと明かされたことにより、かえってこの動画の信憑性を底上げしてしまっていた。
「昔からずっと私のことネットストーキングしてたのは本当?」
「・・・・・・ぇ、っとぉ・・・それには深〜い理由がありまして・・・」
別にそれはいい。むしろ小さい頃から心の支えだったヤチヨが、私をずっと見てくれていたのなら凄くうれしい。
グルーミングと言われているのも・・・外野から見たら一見そうかもしれないが、これはかぐやから私への精一杯のアプローチだ。
「もしかして・・・私が色々
「・・・・・・そぅ、です・・・」
酷く気まずそうな、まるで大切な玩具を壊してしまったことを隠す娘子のようにヤチヨは視線を逸らした。
「で、でもね!全部真剣に答えたから!彩葉のことを助けたくて、少しでも
「うん、それはわかってる・・・んだけど」
──顔から火が出るくらい恥ずかしいっ!!私あれ何書いてたっけ!?
・・・お母さんやお兄ちゃんとの関係とかお父さんのこととか、とにかく他の人には絶対言えない重めの相談も山ほど送った覚えがある。
夜に眠れなくなったことから身体の変化への戸惑いまで、人には相談し辛い結構アレな内容もかなりあったはずだ。
これ、全部、知られてた?うそうそうそでしょ・・・。
いやでも、確かに八千年の記憶の最後の方に小さい私が写ってた、ような。
涙で視界が滲んではっきりと見える部分は殆ど無かったけれど、
「んー、と・・・そこは、別にいいの。私も気にしないというか、むしろ忘れて欲しいっていうか・・・」
「えと、それじゃあ、これは何を・・・?」
ヤチヨが今まで私にしてくれたことは、全て未来で私に恋をしたかぐやが、過去の私を支えるため必死に頑張っていただけのこと。
輪廻に矛盾するわけにもいかないし、これは必要な犠牲・・・犠牲?ともかく避けられないことだったのだ。
ただ、私が本当に気になるのは・・・・・・。
「他の人には・・・こんなこと、やってない、よね・・・?」
「してないしてない!彩葉にしかしないよ!!」
「・・・ほんと?わたし以外に夢中になってない?」
「ならない!ヤチヨは・・・かぐやはずっと、彩葉のことが一番なの!!」
・・・我ながら酷い女だ。八千年の記憶で一度たりともかぐやが私以外に目移りしたことなど無かったというのに。
それでもこんなことで一々不安になって、わざわざ本人の口から確証を得ようとしてしまう。
「私が誰を見ていても、私が何をしていても、その全ての根底には必ず彩葉がいるの。だから・・・大丈夫、ヤッチョが保証するよ?」
「・・・うん」
・・・彼女はお婆ちゃんなんて自称しているけれど、この顔のどこが老いた姫だというのか。
いつだって私を魅了するそのかんばせは、きらきらと輝く私の一番星そのものだというのに。
彩鮮やかに輝く瞳が真っ直ぐ私を見つめている。魂の底まで照らすような月明かりは、どんなときでも私の心に火を灯してくれるのだ。
「い、いろは・・・?」
「ん、んんっ!わかった。私もヤチヨのこと疑ってごめんね」
・・・ふふ、えへへ。
私もかぐやのこと言えないな。彼女のたった数言だけで、こんなにも心が暖かくなるなんて。
だから未だ不安そうに瞳を揺らす彼女の頬に手を添えて、ほんの一瞬だけヤチヨの額に唇を重ね合わせた。
「え!?えぇ!?いまの・・・」
「おかえし、私もかぐやが一番だよ」
ちょっと日和ったけど・・・唇同士はちょっと早いというか、雰囲気っていうか・・・そもそもまだ恋人とかじゃないですし?
そういうのはちゃんとこくはく・・・とかして、こいびと・・・になってからがいい、といいますか。
「いぃいぃぃぃいろは!?今のキ、キスだよね!?したよね!?ひたいに!」
「ごめんねのキス。口同士はちょっと、あの・・・心の準備がですね」
「ヤチヨはいつでもいいんだけど???」
「ちかいちかいちかいかわいいちかい」
眼と眼がくっ付いちゃうかと思った。
ぐいと私を覗き込んでくるヤチヨの顔がちゃんと見れなくて、赤くなっているであろう自分の顔を逸らして必死に隠す。
「だーめ」
「んひっ」
でもヤチヨは許してくれなくて、両手で私の顔を正面に固定する。
そのままゆっくりと顔を近付けてくるヤチヨを、茹であがった頭で半ばぼおっとしながら私は見つめていた。
「いろは」
このまま口付けをされてしまうのかと、そんな不安と期待がないまぜになった鼓動が煩いくらいに大きくなった頃。
ヤチヨは左手を私の前に突き出して、二本指を突き出す私たちのサインを要求していた。
「ん」
「・・・ふふ、はい」
つんと指先を突き合わせて、そのまま確かめるように二本指を伸ばして手を絡め合う。最後に二匹の狐の口を、恥じらう私の代わりにそっと重ねた。
「んー・・・」
でもいつもならこれで終わっていたなかよしの合図が、何故だか今日は何度も続く。
まるで逢瀬に熱を上げる恋人を思わせるほど激しく情熱的で、このまま押し倒されてしまうのではと緊張が私の心臓を高鳴らせた。
「そ、そんな何回もする?」
「これね、私がどれだけキスしたいかのアピール」
「んぐぅ」
少しばかり頬を膨らませたヤチヨが、不満そうにこんこんと狐を解いて腕ごと絡んでくる。
いつもは月明かりを思わせる優しい瞳が、今は獲物を捕えた捕食者のごとくぎらぎらと欲を宿しているように見えた。
「彩葉」
「・・・したいの?」
そう問いかけると、ヤチヨはゆっくりと壊れ物を扱うように私を優しく床へ押し倒す。
暖かさも冷たさも感じない畳が今は有り難いような気がした。きっとこのままなら熱に流されることもないだろうから。
「うぅ〜・・・・・・」
「よしよし」
癇癪を起こした赤子のように、ヤチヨがぐりぐりと額を私の胸に押し付ける。
いつの間にか解けてストレートに流されていた、絹糸みたいに綺麗な髪が私の首筋を擽っていた。それがかぐやを育てていたあの長く短い三日間を思い出させてくれて、よりフラットな気持ちでヤチヨと向き合える。
「無理に我慢しなくてもいいのに」
「むりやりは、ヤダ」
「嫌じゃないよ」
「じゃあ、どうして?」
どうして。
どうしてか。
・・・私もはっきりとはわからない。でも単にまだ恋人じゃないから、というだけじゃなくて・・・このままするのはなにか違う気がしていた。
いや、違うというより・・・これはもはや意地だろうか。
「私はね。ヤチヨにこれまでしてもらっていたこと、まだ何も返せてないの」
「む、そんなわけないよ。彩葉は
「それは最低条件」
「強情いろはめー・・・」
実はヤチヨが配信して気が逸れている間等に、こっそりFUSHIからツクヨミについて教えてもらっている。当然機能的なものではなく、根本的なシステムや設計について。
FUSHIが最近配信を手伝ってくれないとヤチヨがしょぼくれていたことには申し訳ないが、私なりのサプライズの準備である・・・時間はかなり掛かりそうだが。
『正直僕には見当もつかないぞ』
『そう?役立ちそうな論文片っ端から読み漁ってるけど、意外と道は見えそうだよ』
『ツクヨミにログインして論文漁って纏めながらリアルで模試演習やってるの、大分人間辞めてないか?』
『え、いやいやこれくらいできる人いるでしょ。ヨミッターで見たことあるもん』
『それ絶対作り話だぞ・・・』
・・・・・・FUSHIから何度も『お前人間辞めてる』って言われたけど、これくらいならお母さんでも出来るはず。
それに四つ五つ並行してやるのは効率落ちるけど、二つ同時程度なら一つに集中するのと殆ど変わらないとFUSHIも認めてくれたのに、中々失礼じゃないかあのウミウシ。
「ねぇ彩葉、最近私に何か隠してない?」
「FUSHIにちょっと手伝ってもらってたの・・・サプライズにしたくて」
「む・・・」
私不満たらたらです。と目で訴えるヤチヨの頬を指で撫でる・・・こういう顔も可愛いな、ヤチヨは。
「やっぱり配信中も彩葉のこと見てようかな」
「今度はショートしない?」
「あれはっ・・・しょうがなくない?彩葉がカッコ良すぎたのが悪いもん」
「なにそれ」
ハリセンボンみたいに膨らんだヤチヨの頬っぺたを、くすりと笑いながら指で潰す。
でもバレたなら仕方ないか。まぁすぐにできそうなものは無かったし、ここからはヤチヨにも手伝ってもらおう。
「実はね。FUSHIと一緒にツクヨミに残りの五感を実装するための調べ物してて」
「・・・彩葉、自分が高校二年の受験生だってこと忘れてない?」
「本格的な研究は大学からやるよ?でも、その前の事前準備くらいは完璧にしておきたいじゃん。それに並行して受験勉強も進んでるから問題なし」
今の私には一部の隙も無い。無さすぎて先生からも「す、すごいね酒寄さん・・・」と引かれているくらいには隙がない。
いや失礼じゃない?私くらいのレベルなら他の高校にもそれなりにいるでしょ。私ヨミッターで見たよ。
あ、もちろん見栄っ張りの嘘つきがいるのも当然知っていますとも、その上で世の中には私じゃ比較にならない天才がいるってだけで。
「もぉ・・・彩葉は頑固なんだから」
「ごめんね。でも、これが私だから」
「いいよ、特別に許したげる」
私に馬乗りになった姿勢から重なるようにヤチヨは私へ覆い被さった。頭の先から足の先までヤチヨと触れ合っている状態に、私の心臓が爆発的に唸りをあげる。
・・・もしここがツクヨミじゃなくてリアルだったなら、ヤチヨの柔らかな肢体の感触も、かぐやみたいに安心する赤子のような香りも、彼女の全てを余すことなく享受できたのに。
「安心できた?」
「・・・まだ」
「じゃあ・・・どうする?」
頭の横で手持ち無沙汰に転がしていた両の手のひらが、ヤチヨの手で塞がれた。
・・・もう抵抗できなくなっちゃったな、なんて。私の耳にそっと顔を寄せるヤチヨの横顔を眺めながらそんなことを思った。
「すき」
「ぁ」
「だいすき」
いつもは誰かのために歌を届けている声が、いつもは誰かを笑顔にするために開かれるその口が、今は私を繋ぎ止めるためだけに愛を囁いていた。
「私のいろは、私だけのいろは」
「うん」
ぎゅっと握られたその手のひらが、私に彼女の実在を示してくれる。擦れる布と触れ合う素足の感触が、彼女と私の距離を教えてくれる。
この世に浄土があるとするならば、それは間違いなく今この瞬間だと私は断言できるだろう。
「どこにもいかないで、ね?」
握っていた手を一度解いて、ヤチヨの頭を優しく抱きしめるように両の手を添える。極限まで近付けられた二人の距離が零になり、額と額が重なり合った。
「わたしは、これからずぅー・・・っと、
「じゃあ、わたしの全部もいろはのもの、だね」
「約束する?」
「もうしてるもん。一生分予約済みだから。誰にもあーげない」
くすくすと嬉しそうに笑みを溢したヤチヨが、お返しとばかりに私の頭を両手で抱きしめる。
・・・お互いこの姿勢だとキス待ちみたいになるな。リアルの自分の心臓が弾けていないか非常に心配になってきた。
「・・・今日はこのまま寝る?」
「い、いいの?」
「こうなるかと思って、予めベッドで横になってからログインしておいたのです」
「彩葉、天才すぎ・・・」
くたりと脱力したヤチヨの全身が私を押し潰す・・・ことはなく。
質量を持たないツクヨミのアバターゆえに、彼女は安心して全身を私に委ねてくれたのだ。
「子守唄は何がいい?」
「・・・Replyがいい」
ここまでくると半分くらい身体が混ざっているんじゃないかと疑わしくなってきたが、ヤチヨと混ざるならまぁ本望だろう。
愛しい
「────♫─────♩」
赤子の頃はヤチヨの曲を聴かせていたのに、今度はかぐやの曲を子守唄にするなんておもわなかったな。
・・・ヤチヨと居ると安心してリラックスできるせいか、私もそろそろ眠くなってきた。でも、ヤチヨが眠ったのをFUSHIに確認してから、すまこん、はずさ・・・ない、と。
「ん、仮眠くらいなら問題ないぞ。ヤチヨが起きたら起こすから、そのまま寝ておけ」
「あり、がと・・・」
「ンフフ、まったく・・・世話のやける連中だぜ」
彩葉の頭に乗ってスヤスヤしてる二人を静かに見守っているFUSHI
(念のため最初に配信止めといてよかったな・・・)