これは椎名ひよりの中学時代の話。
救済の物語のようだけど、本当はちょっと違う話。
救いたいとも、救われたいと思っていなかったから。
怪物になりかけ、人として欠落した少年を救った話。
そして、椎名ひよりも、また救われていた話。
椎名ひよりの心の図書室が、愛に満たされる話。

※純愛を目指して書きました。純愛ものは初めて書くので、これ純愛か?と悩みながら書いてます。
※作品最大のテーマ。椎名ひよりが本当に、誰かの救いになれていたこと。
※原作で椎名ひよりが退学フラグ立ってしまい、発狂してしまった末に、描いた作品。
※原作の未来が不安なので、原作前に幸せにしたかった。
※舞台は高度育成高等学校ではありません。
※原作前、中学時代の話です。
※原作キャラは椎名ひよりだけ。

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オリ主の概要。
オリ主は現代に生まれた、鬼滅の刃の継国縁壱のような人。
※フィジカルではなく、インテリジェンス特化スペック。後にフィジカルが強制進化するが、縁壱程じゃない。
※透き通る世界ではなく、自分の五感が相手の僅かな所作を勝手に分析して、相手の感情や考えが分かる。相手の感情を強制受信。
※原作の縁壱は、肉体の中身を幼少期から見えてた。オリ主は幼少期から相手の精神の中身が見えてた。
※原作の縁壱は過去の剣士達に、それぞれにあった呼吸を教えるとが出来た。つまり、最適解に導ける能力もある程度持ってた。つまりINT特化すれば、更に正確な最適解を導ける能力があったかもしれない。
※性格は縁壱寄りではない。でも、あり得たかもしれないという妄想。具体的には原作縁壱に兄の巌勝がいなかった場合の歪み。
※最後に能力名は適当です。オリ主の家系も割と適当。

第一章、三人称。オリ主の環境。怪物になりかける経緯。

第二章、一人称。オリ主視点。人生の転換点。

第三章、一人称。椎名ひより視点。人間関係の悩み。

第四章、一人称。椎名ひより視点。本当の初めまして。

エピローグ、三人称。結論。どちらも救われていた。




貴方は――『人間合格』です

第一章:「神童の怪物」あるいは「神様の⬛⬛」

 

 天道(てんどう)家の歴史は、大正末期の動乱に端を発する。

 

 新興の資産家として中央の政財界へ急速に進出した天道家は、莫大な財力を背景に、国家の裏側に深く根を張る「影の門閥」としての礎を築き上げた。その全盛期を支えたのが、第二次世界大戦の終戦直後、天道家に婿養子として迎えられた若き傑物――天道清臣(きよおみ)である。

 

 清臣は、敗戦を受け入れられず国内でのテロや暴動を画策していた「継戦派」の急進的軍部不穏分子を、自ら指揮を執って冷徹かつ迅速に一人残らず粛清。戦後の大混乱期における国内の治安維持、および新生日本の国防のグランドデザインに奔走した。この圧倒的な功績により、天道家は政財界において不可侵の絶対的な地位を確立したのである。

 

 しかし、栄華は永遠には続かない。昭和の終わり、清臣が当主の座を息子へと譲り、自らのルーツである北海道の厳寒の雪山へ隠居すると、天道家は急速にその輝きを失っていった。

 

 後継者となった息子には、時代の荒波を泳ぎ切る覇気も政治的才能もなかった。年数が経つにつれ、かつての栄光は地に堕ちる寸前まで追い詰められる。風の噂で一族の惨状を耳にした清臣は、隠居を切り上げ、急遽当主に復帰して立て直しを図るが、一度根腐れを起こした巨木の修復は難航し、復帰から十年が経とうとしていた。

 

 そんな暗雲立ち込める天道家に、それまで子宝に恵まれなかった息子夫婦の間から、一人の子供が誕生する。

 

――それが、天道真希(まき)だった。

 

 一族の救世主として誕生したその赤子は、しかし、生まれながらにして人間を超越した異質な超統合的共感覚器官を備えていた。

 

 Intelligent Sampling Packet。後に『ISP能力』と呼称することになる、人類最高峰の超高速サンプリング・演算能力。周りのあらゆる情報を総受信し、最適自動演算する。

 

 物心がつき、最低限の読み書きと教養を身につけたばかりの幼少期、真希のその眼には、世界のありとあらゆる情報が「目に見える因果のデータ」として映り込んでいた。家の中に漂う空気の重さ、行き交う大人たちの表情の微細な痙攣、書類に並ぶ数字の矛盾。

 

 真希は、天道家を内側から食い荒らしていた不穏分子(裏切り者や横領工作)を、子供部屋に座ったまままたたく間に発見し、特定してしまった。

 

 そしてある日突然、幼い真希の口から、停滞した天道家を瞬時に蘇生させる「政治・経済・人事における完璧な最適解(助言)」が放たれた。

 

 かつての傑物を想起させる最高傑作の登場により、清臣の指揮のもと、天道家は猛烈な勢いで息を吹き返す。真希が7歳になる頃には、天道家の権力と財力は全盛期に近いレベルまで完全に回復していた。

 

 だが、この奇跡の復興こそが、天道真希という子供の人間性を致命的に歪ませる、残酷な怪物の誕生経緯であった。

 

 「天道家の神童」

 

 周囲の大人たちは真希をそう呼び、熱狂的に崇め奉った。しかし、真希の能力がサンプリングする大人たちのデータは、おためごかしの言葉とは裏腹に、自分をどう利用して利権を貪るかという醜い損得勘定と嫉妬のノイズに塗れていた。

 

 才能のなかった両親にとって、真希は「愛する我が子」などではなく、地に堕ちかけた自分たちのプライドを満たし、家での地位を保つための「最高に都合の良い神輿(道具)」に過ぎなかった。我が子を抱きしめる両親の脳内にあるのは、ギラギラとした欲望のノイズだけ。真希は、本来最も無償の愛をくれるべき人間たちの心に、純粋な愛が1ミリも存在しないことを、毎秒のように証明され続けた。

 

 そして、一族を救ったはずの真希を、唯一の理解者であるはずの祖父・清臣すらも、深い失望と絶望、そして冷徹な諦観の眼で見つめていた。戦後の血生臭い粛清を生き抜いた清臣だからこそ、幼くして冷徹な最適解を叩き出す孫の中に、人間らしい感情の欠落した「天道家を再興するためだけの、恐ろしいバグ」を見てしまったのだ。

 

 「誰も、俺自身を見ていない」

 

 周囲の大人たちの言葉はすべて汚い嘘であり、人間とは、自分を壊しに来る醜悪な肉の塊でしかない。

 

 天道家という地獄の檻の中で、生きながらにして周囲の悪意に脳を灼かれ続けた真希の胸中には、人間へのどす黒い怨嗟と、純粋な殺意だけが澱のように降り積もっていく。人間を人間として見られなくなった少年は、完成された頭脳を持ったまま、歪んだ怪物へと成り果てていた。

 

 そんな孫の「壊れかけた本質」を察知した時、祖父・天道清臣は、ある一つの狂気的な決断を下す。

 

 10歳になった真希を連れ、清臣が向かったのは、文明の利器を一切排した極寒の地――かつて自身が隠居していた、北海道の雪山だった。

 

 「己の弱さを知れ、真希。お前は全能などではない。ただの、ちっぽけな人間に過ぎんのだ」

 

 それは、怪物になってしまった孫を命懸けで「人間」へと戻すための、3年間に及ぶ過酷なサバイバル生活の始まり。

 

 そして、11歳になった冬のあの日。吹雪の白一色に染まる死の世界の中で、真希は祖父とはぐれ、その圧倒的な野生の暴力と対峙することになる。

 

 

## 第二章:「神の零落」「白い冬山」「人間失格」

 

 周囲の大人たちは、俺を「天道家の神童」と呼んで崇めた。

 

 両親は、ギラギラとした欲望の混じった目で、俺を「天道家再興の希望」だと呼び、その神輿に担ぎ上げようとした。

 

 けれど、祖父――天道清臣だけは違っていた。その眼に宿っていたのは、深い失望と、絶望、あるいは冷徹なまでの諦観だけだった。

 

 天道家で過ごした日々は、思い出すだけでも脳が割れそうになるほどの苦痛に満ちていた。

 

 なぜそこまで苦しいのか、その本当の原因すら当時の俺にはぼやけていて、言語化できなかった。ただ、視界に映るすべての「人間」の存在そのものが、俺の頭痛を加速させるおぞましいノイズだったことだけは確かだ。

 

 気付けば俺の胸中には、おためごかしの言葉を吐く大人たちへ、両親へ、そして冷たい眼を向ける祖父への、どす黒い怨嗟と純粋な殺意だけが澱のように降り積もっていた。

 

 あの頃の俺は、人間を人間として見ていなかった。ただの醜悪な肉の塊だと、そう思っていた。

 

 そんな俺の様子を見て、何を気が狂ったのか、祖父はある日唐突に俺を連れ出した。

 

 行き先は、かつて祖父の生家があったという、文明から完全に隔絶された極寒の雪山。そこで待っていたのは、文明の利器を一切排した、過酷なサバイバル生活の強要だった。

 

 10歳から12歳までの3年間。俺は祖父と共に、ただ生きるためだけに泥を啜るような日々を送ることになった。

 

 正直、何度も横で寝ている祖父を刺し殺そうと思ったか。殺意に躊躇はなかった。だが、祖父を殺めれば、次に死ぬのは俺自身。この過酷な環境を自分一人で生き抜き、一人で下山するのは到底無理だった。

 

 凍える指先で獲物を解体し、飢えと寒さに震える俺の耳元で、祖父は何度も、何度も同じ言葉を呪詛のように囁き続けた。

 

 「己の弱さを知れ、真希。お前は全能などではない。ただの、ちっぽけな人間に過ぎんのだ」

 

 その言葉の意味が、血と肉を伴って俺の骨髄に刻み込まれたのは、11歳の冬のことだった。

 

 吹雪の吹き荒れる冬山の中で、俺は祖父とはぐれ、完全に孤立した。視界は白一色。遭難だった。一瞬、このまま自力で下山してやろうかと、脳裏を過った時、純粋な余りにも大きい殺意を浴びせられた。

 

 そして――最悪のタイミングで、俺はその山の主と遭遇した。

冬眠に失敗したのか、あるいは飢えに狂っているのか。目の前に現れたのは、圧倒的な質量を持った巨躯――エゾヒグマだった。

 

 ゴアアアアアア、と鼓膜を破らんばかりの咆哮が響いた瞬間、俺の脳内で「何か」のスイッチが完全に切り替わった。

 

 ――死ぬ。このままでは、確実に喰い殺される。

 

 脳が強力な死への拒絶を起こした。その瞬間、俺の意識は異常なまでの覚醒領域へと突入する。

 

 脳の奥深く、普段は閉じられているはずの器官が、限界を超えてフル稼働を始めた。視覚、聴覚、皮膚感覚――世界から発せられる微細なあらゆる情報を、脳内へ限界を超えて強制的に取り込み、処理し始める。

 

 熊の分厚い筋肉がどの方向に収縮するか、雪を踏み締める重心がどこにあるか、次の一歩で繰り出される爪の軌道がどうなるか。言葉にすらならない膨大な最適解の数式が、超高速で脳内を駆け巡る。

 

 生き残るためだけに、肉体のリミッターすらも脳によって最適解除された。

 

 凍てつく筋肉が悲鳴を上げ、血管が破裂しそうなほどの負荷がかかる中、俺はただ生存を掴み取るためだけに、その獣の暴力を紙一重で回避し、受け流し続けた。

 

 だが、地獄の時間はあまりにも長すぎた。

 

 戦いは、1日では終わらなかった。2日目の夜を迎えてもなお、狂った熊の追撃は止まらない。

 

 極限の寒さと、限界を超えて肉体を酷使した代償。そして何より、どれだけ先を読み、網膜に映る因果を逆算しても、目の前の野生の暴力は1ミリも衰えないという事実。

 

 圧倒的な、不利。泥沼の苦戦。そして、決定的な敗北だった。

 

 俺がどれだけ世界の情報を処理しようと、自然の絶対的な暴虐の前には、そんな力は何の意味も持たない。積み上げてきたはずの全能感が、その巨大な爪によって粉々に粉砕されていくのを感じた。

 

 肉を引き裂かれ、雪原に倒れ込み、もう指一本動かせない。圧倒的な無力感の中、熊の息遣いが目の前に迫り、完全に死を覚悟したその時。

 

 乾いた銃声が、白い闇を切り裂いた。

 

 祖父が手配し、捜索に当たっていた猟友会の放った弾丸が、熊の脳天を撃ち抜く。巨大な質量が雪煙を上げて倒れ伏すのを見届けた瞬間、俺の意識は深い、深い闇の底へと沈んでいった。

 

 次に目を覚ました時、視界に映ったのは見慣れない白い天井と、鼻を突く消毒液の臭い。病院のベッドの上だった。

 

 そして、傍らのパイプ椅子には、あの雪山のように冷たかったはずの祖父が、ボロボロの姿で座っていた。

 

 あれほど憎かったはずの老人だった。けれど、不思議と怒りも怨嗟も湧いてこなかった。俺の心は、雪山の静寂のように、驚くほど穏やかだった。

 

「……じいちゃん」

 

 ガサガサに枯れた声で、俺は呟いた。

 

 「ありがとう。……助けてくれて。それと、ごめん。俺、全然ダメだった。何も出来なかった……本当に、弱かったよ……」

 

 自分の傲慢さを、無力さを、素直に吐き出したその瞬間。

 

 祖父の顔が劇的に歪んだ。厳格だったはずの老人が、子供のように顔をくしゃくしゃにして、涙を流しながら俺の体に縋り付き、壊れ物を扱うように強く、強く抱きしめてきたのだ。

 

 「すまない……すまない、真希……っ! 生きていてくれて、本当によかった……!」

 

 その時、俺は初めて祖父の本当の「想い」を知った/感じた。

 

 祖父は俺を憎んでいたわけでも、失望していたわけでもなかった。天道家の欲望に晒され、怪物として壊れかけていた俺を、命を懸けてでも「人間」に戻したかったのだ。自分の弱さを知り、他者の痛みが分かる、ただの一人の人間に。

 

 だが、代償はあまりにも大きかった。

 

 あの死闘の最中、生き残るために限界突破させた俺の能力は、日常に戻っても二度と元には戻らなかった。それまで辛うじて制御できていた能力は、もうブレーキが効かなかった。

 

 24時間、全自動で周囲の人間が発するあらゆる情報が脳内に流れ込み、暴走し続ける。その激痛の後遺症に苦しみながらも、俺は約束の3年間のサバイバル生活を終え、ようやく山を降りた。

 

 祖父は俺の身を案じ、天道家から離れる手回しをしてくれた。そして、誰も俺の過去を知らない、遠く離れた中学校へと入学させてくれたのだ。精一杯の優しさだった。

 

 それでも、俺は分かっていた。この制御不能な脳がいつか限界を迎える日はそう遠くない。

 

 もし、本当に耐えられなくなったら――あの白い山に還ろう。あそこで自分を終わらせようと、そんな冷たい覚悟を胸の奥深くに秘めながら、俺の中学校生活は始まった。

 

 中学一年の、春のあの日。

 

 俺は放課後の図書室へと辿り着き、何気なく一冊の本を手に取った。

 

『人間失格』太宰治。

 

 内容は知らない。作者のことも、ただ何となく有名だったな程度の記憶。

 

 ただ、そのあまりにも不穏な題名に、今の自分と重なる強烈なシンパシーを感じただけだった。

 

 静まり返った図書室の片隅で、ページを捲る。

 

 異常な速度で駆動し続ける俺の脳にとって、文字情報を処理することなど容易だった。読み終えるのに時間は掛からなかった。三十分すら経ってない。

 

 読書の時間だけが、今の俺の唯一のオアシスだった。本に書かれた文字は何もノイズを発さない。何の感情も発さなかった。筈だった。

 

 読み終えた最初の感想は、ひどく冷めたものだった。

 

 太宰治。なんて、なんて生き方の不器用な人間なのだろう、と。こんなにも不器用な人間が、なぜ後世に残る名作を書けるなんてことがあったのか、到底信じられなかった。

 

 だが、なぜか本を閉じる気にはなれなかった。

 

 俺はもう一度、今度は時間をゆっくりと使うようにして、最初のページを開いた。

 

人生で初めて、読書にのめり込んだ。

 

 今度はもっともっと深く、沈み込むように。この不器用な作者が、この本に、この文章に込められた本当の意味を探るように。彼の生々しい人間性を、直接感じ取っていくかのように――。

 

 外界のノイズが消え、太宰治という一人の人間と、本を通じて一対一で対話しているような、奇妙で心地のいい静寂が俺を包み込んでいた。

 

 「……太宰治、好きなんですか?」

 

 不意に、すぐ近くから、鈴の鳴るような澄んだ声が降ってきた。

 

 脳の防衛システムが、全自動でその声の主の情報をサンプリングしようとする。

 

 けれど、驚くべきことに、その声の裏には――俺をこれまで苦しめ続けてきた「ノイズ」が、ただの1ミリも含まれていなかった。

 

 俺はゆっくりと顔を上げ、その声の主へと視線を向けた。

 

 

## 第三章:「独りの新世界」「本の友達」「初めての出会い」

 

 中学校という新しい場所になっても、私の世界の輪郭は、あまり変わりませんでした。

 

 昔から、私は少し変わった子供だったのだと思います。クラスの女の子たちが流行りの歌や可愛らしいお洋服のお話で盛り上がっている中、私はいつも、静かな図書室の片隅で古い本を捲っていました。

 

 物語の背景にある美しい情景、登場人物たちの細やかな心の機微、そして、その文字を紡いだ作者の方々の温かな人間性。本の頁を捲るたびに広がるその豊かな世界が、私は大好きで、何よりも心地よかったのです。

 

 けれど、その代償のように、私にはお友達と呼べるような存在が殆どいませんでした。

 

 お話を合わせようとしても、私の言葉はいつもどこか周りの人たちとは噛み合わなくて、結局は、ぽつんと一人になってしまう。

 

 中学一年生の、春。

 

 新しく始まった学校生活でも、私の周りには数少ない友達どころか、小学校からの顔見知りの人すら一人もいませんでした。

 

 誰も私を知らない、たった独りの新生活。

 

 寂しくないと言えば嘘になりますが、それでも「いつも通り、本が私のお友達になってくれる」と、自分に言い聞せるようにして過ごしていました。

 

 そんな私の視界の端に、いつも入ってくる男の子がいました。

天道真希くん。

 

 私と同じクラスで、窓際の、私のすぐ隣の席の男の子。

 

 クラスでの彼は、いつも大らかで、どこか遠くを見るような爽やかな笑顔を浮かべていました。誰かが話しかければ優しく応じるけれど、自分から誰かの輪に入ろうとはしない。その佇まいはどこか、外界からそっと心を隠している本のようにも見えました。

 

 席が隣同士だというのに、私たちはまだ、一度もお話ししたことすらありませんでした。話しかけるきっかけも、見つけられないまま。

 

 そんな彼を、放課後の図書室で見かけたのは、本当に偶然のことでした。

 

 静まり返った室内、窓から差し込む春の柔らかなひだまりの中に、彼はぽつんと座っていました。

 

 その手元にあったのは、中学生が気まぐれに選ぶには少し重たい、太宰治の『人間失格』。

 

 (あ……天道くん)

 

 胸の奥が、小さな音を立てて跳ねました。

 

 まさか、隣の席の彼が、こんな場所で本を読んでいるなんて思いもしなかったから。

 

 彼は驚くほどの速さでページを捲っていました。その横顔は、教室で見せる爽やかな笑顔とは全く違っていて、まるで何かに追われているかのように張り詰め、どこか酷く痛々しげに見えました。

 

 三十分も経たないうちに一度本を閉じた彼は、ふう、と小さく息を吐くと、今度は慈しむように、ゆっくりと、本当にゆっくりともう一度最初のページを開いたのです。

 

 その横顔を見た瞬間、私は本の向こう側にいる彼の「心」に、ほんの少しだけ触れたような気がしました。

 

 彼はただ文字を追っているのではない。私と同じように、この本の中に深く沈み込んで、作者の人間性を、その奥にある痛みを、深く深く探ろうとしているのではないか。

 

 (もしかしたら、彼なら……)

 

 ずっと誰にも理解されなかった、私の大好きな世界。

 

 本を読んだ時のあの胸が締め付けられるような感動や、言葉の裏にある優しい色彩を、彼となら共有できるかもしれない。

 

 ただの「クラスの隣の席の人」から、一歩進んで、数少ない読書仲間に。

 

 いいえ、いつかは、本当の読書“友達”に、なれるのかもしれない。

 

 そんな淡い期待が、私の胸の中で小さな灯火のようにぽっと灯りました。

 

 けれど、すぐに緊張が押し寄せてきます。もし、声をかけて迷惑そうな顔をされたら。もし、ただの暇つぶしだからと一蹴されてしまったら。

 

 人付き合いの不器用な私は、その場でぎゅっと自分の制服のスカートを握りしめました。

 

 「……すぅ」

深く、一度だけ息を吸い込みます。

 

 本の中に閉じこもっていた私にとって、それは人生で一番大きな、けれど、どうしても踏み出したい大切な一歩。

 

 私の世界に、彼という眩しい光を招き入れるための、小さな小さな勇気でした。

 

 私は、トントン、と静かに床を鳴らしながら、ひだまりの中にいる彼の席へと歩み寄りました。

 

 彼が読んでいる本の影、その美しい文字の並びを見つめながら、私はおっとりと、精一杯の微笑みを浮かべて声をかけます。

 

 「……太宰治、好きなんですか?」

 

 その瞬間、彼は弾かれたように顔を上げました。

 

 驚いたように大きく開かれたその瞳と、私の視線が、春の図書室の中でまっすぐに交わったのです。

 

## 第四章:「始まりの語らい」「広い世界」「私の図書室」

 

「……太宰治、好きなんですか?」

 

 私の言葉に、弾かれたように顔を上げた天道くんの瞳は、驚くほど大きく見開かれていました。

 

 その黒い瞳の奥で、何かが激しく揺れ動いているのが分かります。まるで、ずっと暗闇にいた人が、急に眩しい光を浴びて戸惑っているかのような……そんな、不思議な揺らぎでした。

 

 ですが、それもほんの一瞬のこと。

 

 天道くんはすぐにいつもの大らかな表情に戻ると、手元にある『人間失格』を愛おしそうに見つめ直して、ふっと優しく微笑んだのです。

 

 「……うん。すごく、惹きつけられるよ。最初は、なんて生き方の不器用な人なんだろうって思ったんだ。周りの人たちの顔色を窺って、怯えて、道化を演じることでしか自分を保てないなんて、悲しすぎるなって」

 

 天道くんの声は、教室で聞くよりもずっと低くて、図書室の静寂に心地よく溶け込んでいきました。

 

 「でも、二回目をゆっくり読んでいたら……なんだか、すごく愛おしくなってきたんだ。太宰治という人は、自分の醜さや弱さを、これっぽっちも誤魔化さずに言葉にしている。こんなに不器用で、傷だらけの人間が、後世の誰かの心を救うような名作を書けたなんて、なんだか信じられないくらい、綺麗だなって思うんだよ」

 

「……あ」

 

 胸の奥が、温かいお湯を注がれたようにじんわりと震えました。

 

 ただあらすじを追うだけでは、絶対に辿り着けない境地。作者である太宰治の、言葉の裏に隠された痛々しいほどの「人間性」を、天道くんは正確に、そして誰よりも優しい眼差しで見つめていたのです。

 

 (やっぱり、この人は……)

 

 私の予感は、間違っていませんでした。天道くんは、私と同じように本の世界を深く愛せる人なのだと、確信が、喜びに変わっていきます。

 

 「素晴らしい視点ですね、天道くん。私も、全く同じことを考えていたのです。大庭葉蔵の苦しみは、作者自身の心の叫びそのもの。不器用だからこそ、その言葉には嘘がなくて、私たちの胸をこんなにも締め付けるのですよね」

 

 嬉しくて、いつもより少しだけ早口になってしまう私を、天道くんは嫌な顔ひとつせず、とても真剣に、そしてどこか安らかな表情で見つめてくれていました。その瞳は、まるで私の言葉をひとつも溢さないように、大切に、大切に受け止めてくれているかのようでした。

 

 「椎名さんのおすすめはないかな? 椎名さんの好きなジャンルは、どういうものなんだい?」

 

 天道くんにそう尋ねられた瞬間、私の中で、ずっと閉ざされていた何かが音を立てて溢れ出しました。

 

 「私は……そうですね、基本的には活字であれば何でも読みます。特にミステリー小説は、ちりばめられたパズルのピースが最後にピタリと嵌まる瞬間が心地よくて大好きです。ですが、それだけではなくて、アガサ・クリスティのような古典的な名作から、少し古い純文学、時には異国の歴史書や、ファンタジー小説も読むのですよ」

 

 話しながら、ハッと我に返りました。人付き合いの苦手な私が、こんなに自分のことを一方的に話してしまうなんて。嫌がられてしまったらどうしようと、急に不安になって口を紡ぐ私に、天道くんは本当に楽しそうに、大らかに笑いかけてくれたのです。

 

「椎名さんは色んな本を読むんだね。羨ましいな、椎名さんの世界はすごく広いんだね」

 

「……私の、世界、ですか?」

 

「うん。俺は今まで、自分の周りにある狭い世界しか知らなかった。でも、椎名さんの話を聞いていると、本を通じて色んな時代の、色んな国の人たちの心に触れてきたんだなっていうのが、すごく伝わってくる。椎名さんの言葉には、嘘がなくて、すごく綺麗で……聴いていて、心が洗われるような気がするんだ」

 

 天道くんの言葉は、私の不器用な説明を100%以上の完璧さで理解し、肯定してくれるものでした。

 

 これまでの人生で、私の言葉をこんなにも真っ直ぐに、同じ温度で、同じ深さで受け止めてくれた人は、ただの一人もいませんでした。流行りのお話についていけず、独りきりで図書室にこもっていた私の十三年間が、天道くんのその優しい一言によって、すべて報われたような気がしたのです。

 

 (あぁ、私は……ずっと、この人に会いたかったのかもしれません)

 

 生まれて初めて出会った、本当の理解者。私の大好きな世界を、そのまま愛してくれる共感者。

 

 夕暮れの光が窓から差し込み、天道くんの爽やかな横顔を黄金色に染めていきます。その光の中で、天道くんは少しだけはにかむように、けれど意を決したように、私を真っ直ぐに見つめました。

 

 「あのさ、椎名さん。もしよかったら……これから、俺の『読書仲間』……ううん、クラスの『読書友達』になってくれないかな?」

 

 読書、友達。

 

 それは、私がずっと、ずっと欲しくてたまらなかった、夢にまで見た魔法の言葉でした。

 

 人付き合いが上手ではない私が、小さな勇気を振り絞って踏み出した、たった一歩。

 

 その一歩の先で、天道くんは私の手を、これ以上ないほど温かい言葉で引き上げてくれたのです。

 

 「……はいっ! 喜んで、お友達になります、天道くん!」

 

 嬉しさのあまり、私の視界が少しだけ涙で潤んでしまいました。でも、溢れ出そうになるのを堪えて、私は精一杯の、これ以上ないほどの幸せな微笑みを天道くんに返しました。

 

私の独りきりだった心の図書室。

 

 鍵もかかっていないのに、誰も入ってこられなかった、寂しい私の世界。

 

 天道くんは、そんな「私の図書室」の扉を、その大らかな優しさで、見つけてくれたのです。

 

 そして、その扉を優しく開けてくれた、世界で一番最高の、大切な鍵になってくれたのでした。

 

 

エピローグ:「人間合格」

 

 春の柔らかな光が、静まり返った図書室の窓辺を黄金色に染めていた。

 

 中学校の卒業式を終え、喧騒に包まれる校舎の中で、その場所だけは三年前と変わらない静寂を保っていた。

 

 天道真希と椎名ひよりは、かつて本当の意味で初めて言葉を交わしたあの窓際の席に、並んで腰掛けていた。

 

 「ふふ、本当に行き止まりの場所ですね、ここは。でも、私にとっては、世界で一番大好きな場所なのです」

 

 ひよりはおっとりとした、けれどどこか感慨深げな微笑みを浮かべ、真希の横顔を見つめた。

 

 「俺にとってもさ。あの日、ひよりが声をかけてくれなかったら、俺の頭は今頃どうにかなっていたと思う。……『太宰治、好きなんですか?』って、あの鈴の鳴るような声は、一生忘れられないよ」

 

 真希が大らかに笑うと、ひよりの頬がほんのり桜色に染まる。

 

 「もう、真希くんったら、からかわないでください。あの時の私は、心臓が壊れてしまうのではないかと思うくらい、緊張していたのですから。でも、あの小さな勇気が、私の世界をこんなにも鮮やかに変えてくれました」

 

 二人はそれから、この三年間のかけがえのない思い出を、愛おしむように一つずつ手繰り寄せた。

 

 放課後、お互いのお気に入りの本を交換し合って読んだこと。雨の日に、小さな相合い傘のなかで本に出てくる異国の料理について語り合ったこと。真希に連れられて行った、街の大きな本屋さんの匂い。

 

 ひよりにとって、真希と過ごしたすべての瞬間が、まるで一冊の美しい短編集のように胸の奥に大切に綴じられていた。

 

 (ずっと、独りだと思っていました)

 

 窓の外で舞い散る桜を見つめながら、ひよりは静かに、己の胸の内にある想いを独白する。

 

 (誰も私を知らない新生活の中、ただ独りで閉じこもっていた私の図書室に、真希くんは当たり前のような顔をして入ってきてくれました。私の拙い言葉を全部受け止めて、私よりも深く、同じ温度で物語を愛してくれた。

真希くんの隣にいると、冷たかった私の世界に、いつも温かなひだまりが差すのです。

読書仲間から、読書友達へ。そして……いつからでしょう。真希くんが他の誰かと楽しそうに話しているだけで、胸の奥が少しだけ、きゅうと痛むようになったのは。

本の中のどんな美しい王子様よりも、私の隣で爽やかに笑ってくれる真希くんのことが、狂おしいほどに愛おしいのです)

 

 三年間で積み重ねた恋慕の情は、すでにひよりの心から溢れんばかりに膨らんでいた。

 

 話題は、これからの未来――卒業後の進路へと移る。

 

 二人が共に進むのは、政府が鳴り物入りで設立した完全全寮制の進学校『高度育成高等学校』。外の世界との連絡すら断たれるというその異質な学校へ、二人は一緒に、未来を約束して進むことが決まっていた。

 

 「……ひより。高校へ行く前に、これだけは話しておかなきゃいけないと思ってたんだ」

 

 真希が、いつになく真剣な、どこか寂しげな瞳でひよりを見つめた。

 

 そして彼は、これまで決して誰にも明かさなかった、己の血塗られた過去を静かに語り始めた。

 

 大正末期から続く政財界の巨頭である天道家という歪んだ環境で育ったこと。利権に群がる大人たちに神輿として担ぎ上げられ、実の親からも道具としてしか見られず、怨嗟と殺意だけを抱えて生きていたこと。

 

 そして11歳の冬、祖父・清臣の強要したサバイバル生活の中、猛吹雪の冬山で一人遭難し、飢えたエゾヒグマと2日間に及ぶ死闘を繰り広げたこと。生き残るために能力の限界を超えて稼働させ、肉体のリミッターすら最適解除して戦ったにもかかわらず、野生の暴力に勝てずボロボロになって生き延びたこと。

 

 その日以来、ブレーキの壊れた能力のせいで、世界中の悪意や嘘のノイズが強制的に脳内に流れ込み続け、今もなお暴走の苦痛に苛まれていること。

 

 「俺は、自分が神様か何かって勘違いして、最後は熊にすら勝てずにボロボロになって生き延びた、ただの傲慢な化け物なんだ。……これまで、本当に醜い人生を送ってきた」

 

 その言葉は、まるで太宰治が遺した、あの有名なフレーズのようだった。

 

 真希は、自嘲気味に、けれどどこか怯えるように、ひよりの綺麗な瞳を見つめ返した。

 

 「恥の多い生涯を送ってきた俺は……ひより、君の隣にいる資格すらない、人間失格ですか?」

 

 真希の言葉が終わるか終わらないかのうちに、ひよりの小さな、白い手が、真希の大きな手をそっと包み込んだ。

 

 ひよりの瞳には、哀れみも、恐怖も、引き裂かれるような悲しみもなかった。ただ、深い、深い、濁りのない慈愛の光だけが満ちていた。

 

 「いいえ、真希くん。それは絶対に違います」

 

 ひよりは、真希の手をぎゅっと握りしめ、彼の瞳をまっすぐに見つめた。

 

 「真希くんがどんな過去を背負っていても、どれほど能力の暴走に苦しんでいても……私の前で見せてくれたその優しさは、大らかさは、絶対に嘘ではありません。真希くんのそのお力は、誰かを傷つけるためのものではなく、私の隣でお茶を淹れて、静かに本を読むための、優しいお力なのですから。冬山でご自分の無力さを知った貴方は、誰よりも人の痛みが分かる、ただの人間です」

 

 一歩、ひよりが真希の体に近づく。

 

 春のひだまりのなかで、ひよりの純度100%の善意が、真希の脳のノイズを完全にシャットアウトしていく。

 

 「読書仲間から、読書友達へ。私はずっと、真希くんの隣で救われてきました。……だから、ここから先は、もう一つの関係へ進みたいのです。天道真希くん、私は、貴方のことが大好きです。お友達としてではなく、一人の男の子として、生涯の伴侶として、愛しています」

 

 それは、ひよりが人生で初めて口にした、至純の告白だった。

 

 「私の世界を見つけてくれた貴方が、ご自分を人間失格だと仰るのなら。――私がいま、貴方にその言葉を贈りましょう」

 

 ひよりはおっとりと、けれどこれ以上ないほど美しく、大好きな恋人に向けて微笑んだ。

 

「「私の図書室」を開けてくれた。貴方は――『人間合格』です」

 

 その瞬間、真希の胸の奥で、長年彼を縛り付けていた冷たい冬山の鎖が、音を立てて崩れ去った。脳を灼き続けていた激痛が、ひよりの言葉によって、嘘のように穏やかな静寂へと書き換えられていく。

 

「……っ、あぁ、ありがとう、ひより」

 

 真希は、ひよりの体を優しく、けれど絶対に離さないように強く抱きしめた。

 

 全能感を粉砕され、己を怪物だと呪っていた少年は、世界で一番綺麗な少女の言葉によって、ようやく本物の「人間」になることができたのだ。

 

 二人の物語の第一章は、この図書室で美しく完結した。

 

 けれど、ここから先は、絶対に脅かされない無敵の日常編。高度育成高等学校という新しい舞台で、二人が手を繋ぎ、生涯を共にするためのエピローグが、今新しく幕を開ける。

 

 

 




オリ主と椎名ひよりの物語は、この世界線では完全に完結です。
高度育成高等学校の物語は、本当にエピローグで蛇足。
書くつもりはない。椎名ひよりを幸せにしたかったんや。
書くとしても、中学時代を舞台にヤンデレひよりを生まれさせるくらいか。
原作本編に入るとオリ主にとってはネタバレだらけで、書きたくても凄い書きづらい。
ここからは作者の自己満解説。

Q.何故、椎名ひよりの中学時代か?
A.恐らく、ひよりが人間関係に悩み、人との繋がりを求めてたピークが、この多感で環境がガラリと変わる時期だと思ったから。と作者の予想。作者も、この作品の中学時代のひよりと同じ状況だった。

Q、何故、太宰治の人間失格が出てくる。
A.重要な分岐点にしたかった。オリ主にとって、この本は太宰治から「お前は最初から、人間失格(化け物)なんだ。だから、周りの人間と同じように上手く生きられなくて当然なんだよ」と言われたようなもの。ある種の自己肯定になり始める。
もし、手にした本が別なら、オリ主は早々に読み終えて、図書室を出て椎名ひよりに出会わなかった。

Q、椎名ひよりにとってのオリ主はそれだけ衝撃だったか。
A.13年間の孤独の氷解をしてくれた。ひよりにとって、本の世界は「心地よい居場所」であると同時に、現実の人間関係から逃げ込むための「シェルター」でもあった。流行りの会話に馴染めず、「私の言葉はいつもどこか周りの人たちとは噛み合わなくて」と諦めていた彼女の前に、自分の言葉を100%以上の解像度で受け止める少年が現れた。この時の解放感は言葉にするのが難しい。

○原作でも見せた執着性の片鱗も見せたかった。
●(あぁ、私は……ずっと、この人に会いたかったのかもしれません)
この一節を書きたかった。ひよりにとってオリ主は、この瞬間に「クラスの隣の席の男の子」から、「私の世界の扉を開けてくれた唯一の鍵(特別)」へと一足飛びに昇華させた。好感度は出会った初日で既に限界値を突破し、「この人を絶対に手放したくない」という静かな、けれど絶対的な好意の苗床がこの瞬間に完成させた。同時にこれから先の生活で対応を間違えれば、ヤンデレひよりの誕生になるかもしれない。

Q,「私の図書室」の意味。
A。ひよりにとって、現実の世界は「流行りの話に馴染めず、自分の言葉が誰とも噛み合わない」という、冷たくて退屈な場所だった。そんな現実から逃げ込み、自分の心を優しく守るために引きこもっていた「精神的な避難所」こそが、彼女の言う「私の図書室」です。というのが作者の妄想設定。

○オリ主が先にした読書友達の誘いが、椎名ひよりの「私の図書室」の本当の鍵となって開けてくれた。
●「鍵もかかっていないのに、誰も入ってこられなかった、寂しい私の世界」それが「私の図書室」。
本来なら、椎名ひよりが勇気を出して言うはずだった、読書友達の誘いを、なんとオリ主が先に言ってくれた。
ひよりにとって、「自分は独りよがりじゃなかった。この眩しい男の子も、自分と同じように、椎名ひよりという人間を見つけて、自分と繋がりたいと願ってくれていた」という、世界からの強烈な肯定を意味することになった。椎名ひより視点の完璧すぎる『白馬の王子様』の降臨。みたいなのを書きたかった。

○椎名ひよりにとっての「人間合格」の意味。
●椎名ひよりは深い知性に鋭い観察眼、怜悧な判断を下せる。原作でも割と精神力が強い人間。しかし、荒事にだけは向かず、身体能力も高くない。
いざという時に、大切な人を守れないという自己肯定感の低さが、あった。それをオリ主の存在が意図せず解決してくれた。
自分が側にいるだけで、オリ主は悪意の嵐。灼熱の痛み。命を守っていたこと。椎名ひよりが大切で愛している人の全てを自分が守り、救っていたという、究極の自己肯定感を得ることになった。オリ主の前でだけ、自分は一人前の人間になれる。
そして、あの至純の告白に至る。これが作中で書ききれなかった。もう一つの人間合格の意味。

○オリ主にとっても、打算のない純度100%の友愛/恋慕を放ち続ける椎名ひよりの存在はまさに奇跡の存在。
●そもそもの痛みを感じる原因が、悪意や敵意を感じると脳が防衛反応で、迎撃演算を構築するため。昔は辛うじて悪意や敵意の指向性を認識出来たが、熊の圧倒的暴威のせいで境界線が無くなり、無差別の悪意や敵意に全て反応するようになってしまった。

最後に長くなりましたが、このような稚拙な作品を読んでくださった皆様、ありがとうございました。

感想、よろしくお願いします。

最後に原作、椎名ひよりの幸せを願います。

追記、綾小路が椎名ひよりを泣かせたら、このオリ主をぶっ込んで、目論見全てを粉砕してやりたい。






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