一寸先も見えぬ暗い森の中、子供が一人駆けていく。
奥へ奥へと進むにつれて、血の匂いが段々濃ゆくなっていく•••
「とうさま!にいさま!」
森を抜けると、一面の花畑が僕を迎えた。
月の光に照らされて、青い花々が美しく輝いている。
花畑の中心には、傷だらけで片腕を失った父と、
父のすぐそばで、紅く染め上げられた花たちに包まれて倒れ伏す兄。
そして、父と対峙する大男。
此方も片目を斬られ、全身に刀傷を負っているものの、どちらが優勢かは火を見るより明らかであった。
「来るな!信行•••!」
父が息を切らしながらも僕に声を掛けた。
片腕を失い、満身創痍でありながら眼前の敵を見据えて刀を構える。
「来い」
大男はそう言って腰を低くして構えを取る。
「あぁぁぁあ!」
風を纏い、雄叫びを上げながら突貫する、大男は動くことなくただただ構えている。
ズンッと言う音とともに、父の渾身の一撃は男の片手に軽く受け止められた。
「終わりだ、退魔師」そう告げると、男は空いた片腕を振り下ろした。
パンッ という弾けるような音とともにドロッとしたナニカが頬に付着した。
父の上半身は跡形もなく吹き飛ばされていた。
「上原くん。•••上原くん!」
「ん•••」
大きな声とともに、沈んでいた意識が浮上した。
「おはようございます上原くん♪よく眠れましたか〜?」
担任の海野先生が青筋を立てて、笑顔で顔を寄せてくる。
どうやら、授業中に寝てしまっていたらしい。
「は、ははは。•••すみませんでした」
力強く握り締められた海野先生の拳が、ゴスっという音とともに俺の頭に振り下ろされた────
───キーンコーンカーンコーン
「はい、今日はここまで。日直さんは黒板消しといてね〜」
授業が終わるとともに、隣の席から声を掛けられた。
「信行くんが授業中に寝ちゃうなんて珍しいね?」
「どーせ朝までゲームでもしてたんだろ?」
友人の望月柊と高遠頼元。二人とは中学の頃からの付き合いになる友人だ。
「そうだ、今日お前暇か?」
「放課後ゲーセン行こうかと思ってな、一緒にどうだ?」
「頼元君•••来週中間テストじゃない。ちゃんと勉強しないとダメよ」
「む•••」
「そうだぞ頼元。お前おばさんに前回のテストでこっ酷く叱られていたじゃないか、次赤点なんて取ろうものなら小遣い貰えなくなるぞ?」
「むぅ•••致し方なしか」
キーンコーンカーンコーン
「それじゃあな信行〜お前もちゃんと勉強しろよー」
下校の挨拶が終わると、頼元は直ぐに荷物を持って教室を出て行った。
柊はクラスの女子と雑談している。
俺も今日は帰ろう。荷物を手に席を立ち教室を出て行った。
正門と反対の裏門を抜けて、その奥にある森へと入る。
この森の奥にある花畑が目的地だ。
小さい頃、歳の離れた従姉妹に連れられて、この花畑で遊んだものだ。
花畑の中央にある一本の木に腰をかけて、鞄の中から昨日読んでいた本を開く。先日本屋で見つけてまとめ買いしたSFものの小説だ。
表紙を気に入り買ってみたのだがこれが凄く面白くて、昨日はつい夜更かしをしてしまった。
ペラペラと、本を捲る音だけが耳に入ってくる。
ヒューっと森の中を抜ける風が冷たくて心地がいい。
「さて、そろそろ帰るかぁ」
2時間ほど経っただろうか、そろそろ空が橙色に染まってきたことだ。
心配される前に帰ることにしよう。
ググっと伸びをして立ち上がる。
すると、ふと視界の隅に何かが光った気がした。
「なんだ?」
謎の光が気になってしまい、俺はついその方向へと足を進めてしまった。
──「こんなところに•••小屋?」
其処にあったのは小さな木造の小屋だった。
蜘蛛の巣が張られており、壁にいくつか穴が空いている。
とてもじゃないが、誰かが使用していたような形跡は見られない。
そもそも、こんなところにこんな小屋はあっただろうか?
小さい頃からこの森でよく虫取りなんかして遊んだものだが、見覚えがない。
小屋の中に足を踏み入れる。
中にはボロボロな引き出し付きの机と、中身のない本棚があるだけで、特筆すべきことは何もない。
よくないことではあるが、興味を惹かれた俺は、引き出しを開けてみる。
「なんだこれ•••」
其処には埃を被った20cm程度のボロボロな白い箱が入っていた。
埃を払い、白い箱の蓋を取ってみるとそこには、
「笛、か?」
花の装飾が施された美しい白い笛が入っていた。
「どうしてこんなボロ小屋に•••」
昔ここに高貴な人物が住んでいた屋敷があったとかか?•••しかし、そんな話は親父からも聞いたことはない。
「持って帰って叔父さんに聞いてみるか、あの人ならなんか知っててもおかしくないだろう」
ピリリリピリリリという音が胸元のスマートフォンから鳴り響く
「ま、まずい!早く帰らないと怒られてしまう!」
急いで鞄の中に箱を押し込み、小屋を出る。
『•••ふふふ』《/blur
鞄の中で漏れた小さな声に、この時の俺は気付くことができなかった。
「ただいま帰りました」
「遅いぞぉ!私おなかすいたー」
「ごめん。ってもうお酒飲んでるし!」
「んー」海野清。高校の社会科の教師であり、俺の従姉妹にあたる人物でもある。ソファに座りビール缶片手にドラマ鑑賞中のようだ。
「どうした信行、遅かったな」と着物の上にエプロンを纏う一人の男性が台所から姿を見せた。
海野義光、清姉の親父さんで海野家の当主にしてこの家の主。
親兄弟を失った俺を育ててくれた恩人で、海野家に養子入りした俺の叔父にあたる人物だ。親父や兄さんが亡くなってからはこの人が代理として甲信地方の退魔師を統率している。
「遅くなるならちゃんと電話をしなさい。心配したんだぞ」
「ごめんなさい」
「もうご飯出来てるから、荷物を置いて手を洗ってきなさい」
「はーい」
「いただきます」手を合わせて3人で食前の挨拶をする。
可能な限り家族全員で食事をするのが海野家のルールだ。
食事を進めながら先ほど見つけた小屋のことを叔父さんに聞いてみる。
「叔父さん、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「深志高校の裏手にある森。あそこの花畑の近くに小さなボロい小屋があったんだけど、そんなものあそこにあったかな?」
「ああ、あの森か。昔、義時と清を連れてよくカブトムシを採りにいったっけな。あそこに小屋かい?見たことないな」
「へぇ」
義光叔父さんは、この辺り一帯の管理を任された海野家の当主。
そんな叔父さんが知らないとなるとお手上げだな。
「うーん、一応今度雲雀に調べておいて貰おうかな。何かわかったら教えてあげるよ」
雲雀とは、海野家に所属する叔父さんの信頼の厚い退魔師の人だ。
「お願いします」
食事を済ませ風呂に入り挨拶を済ませ、
階段を登り自室に戻る。
寝る前に勉強をしておこうと鞄を開ける。
「あ、やべ。持って帰ってきてたの忘れてた」
小屋で見つけたボロボロの白い木の箱、これを叔父さんに見せれば何かわかったかもしれないのに•••
「まあいいか。急ぐ必要もないし、また今度聞いてみることにしよう」
叔父さんは海野家当主として非常に多忙な身だ。今日みたいに家でゆっくりしていることの方が珍しいだろう。
箱の蓋を開けると、美しい白笛がやはり其処にあった。
「うーん、箱は兎も角。やっぱり笛は綺麗なものだな」
誰かの忘れ物か何かなのだろうか?
美しく装飾に目を奪われて、ぼうっと眺めていると。
《blur:2》『お兄さん、お兄さん』
鈴を転がしたような綺麗な声が聞こえた気がした。
笛を置き、窓の外を覗いてみる。
見えるのは街灯のついた住宅街だけで、人の姿はカケラも見つからなかった。
『こっち、こっちよお兄さん』
「こっちって、一体どこなんだよ」
『今貴方が箱に戻しちゃったじゃない』
「箱?」そう言われて、先ほどの笛の方へ視線を向ける。
笛があった机の上には、
絹のように美しい白い髪の少女が、ルビーのように赤い瞳を向け、足を組み座っていた。
大まかな今後の展開は頭にありますけど、文章にするのが大変そうなのでゆっくりと執筆していきます。