仮面ライダージオウ×ディケイド in 僕のヒーローアカデミア   作:生成AIに書かせています

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第1話:最高最善の破壊者(前編)

超常、と呼ばれる怪異が世界を覆いつくして、もう百年以上の歳月が流れたという。

 中国の軽慶市で生まれたという『発光する赤児』のニュースを皮切りに、世界中で巻き起こった原因不明の超常特異体質――人はそれを『個性』と呼び、かつて空想の産物でしかなかった異能を、社会のインフラとして組み込むに至った。現在では世界の総人口の約八割が何らかの異能を持つ。超常は日常となり、架空は現実となった。そして、増長する異能の犯罪者たちを取り締まるため、かつて誰もが憧れた輝かしい職業が法制化される。

 すなわち、――『ヒーロー』。

 それが、俺がいつの間にか放り込まれていた、この世界の『前提』というやつだった。

 

だが、この肉体――常盤門矢(ときわ かどや)という十五歳の少年の輪郭に収まった俺の魂には、そんな便利で見栄えの良い『個性』なんてものは、これっぽっちも宿っていなかった。

 その代わりに、網膜の裏側に、そして血液の熱量の中に、あまりにも重く、あまりにも狂った、二十もの『世界』そのものの記憶と、二つの終わりの名前が刻まれていた。

 一つは、すべてを破壊し、世界を繋ぐ、歪んだマゼンタの戦士。

 もう一つは、時を統べ、過去と未来をしろしめす、最高最善の魔王。

 二つの理不尽が混ざり合い、一つの歪なドライバーとなって俺の精神の底に沈んでいる。だが、今の俺の手元には、何も映っていない真っ白なプラスチックのカードが一箱と、文字盤の消え失せた白磁のような時計がいくつかあるだけだ。力はすべて眠り、歴史は閉じている。ただ、この世界が孕む決定的な『歪み』だけが、俺の首から下げたマゼンタ色の二眼レフカメラのファインダーを通して、不気味に蠢いているのを感じるだけだった。

 

「――おいおい、朝から随分と派手にやってるじゃないか」

 

春の冷たい空気が残る四月の通学路。常盤門矢は、黒い詰襟の制服のポケットに両手を突っ込んだまま、歩道埋め尽くさんばかりの人だかりの後方に立ち止まっていた。

 街頭のスピーカーから鳴り響くサイレンの音。視線の先、通勤通学の足を完全にストップさせているのは、駅の鉄橋をへし折りながら咆哮を上げる、身の丈十メートルはあろうかという巨大なヴィラン(犯罪者)だった。男の『個性』は巨大化。理性を失った巨大な肉体が暴れるたびに、火花が散り、コンクリートの破片が雨のように降り注ぐ。

 だが、集まった野次馬たちの顔に、恐怖の色はほとんどなかった。誰もがスマートフォンを掲げ、動画の配信ボタンを押し、まるで見世物小屋の熱狂さながらに歓声を上げている。

 

「出たぞ! 期待の新星、バックドラフトだ!」

「いや、あっちを見ろ! シンリンカムイが拘束に入るぞ!」

 

野次馬たちの期待に応えるように、木製の装甲を纏った若きヒーローが、自身の腕を樹木へと変えながら鉄橋を駆け抜けていく。群衆からは割れんばかりの拍手。

 門矢はその様子を、感情の失せた目で見つめながら、首にかけたマゼンタ色のカメラを無造作に持ち上げた。ファインダーを覗き、ピントを合わせる。その瞬間、彼の視界の中で、ヒーローとヴィランが対峙する空間が、まるで水面に落としたインクのように「ぐにゃり」と二重にブレた。

 シャッターを切る。小さく乾いた駆動音がして、カメラの底部から一枚のチェキが吐き出された。じわじわと浮かび上がってきた像は、ピントが完全に狂い、色彩が反転した、世界の終わりのような不気味な写真だった。

 

「……やっぱりな。この世界は、まるで誰かが作った精巧な箱庭だ」

 

門矢は吐き捨て、写真をポケットに押し込んだ。『個性』という便利な能力の恩恵を受け、誰もがヒーローという記号化されたシステムにぶら下がって生きている。目の前で怪異が暴れていても、誰かが助けてくれるという前提があるから、誰も逃げようとすらしない。消費される正義と、コンテンツ化された悪。その奇妙な依存関係が、世界を確実に歪ませている。

 人だかりの隙間を縫うようにして、門矢は歩き出した。巨大ヴィランの背後から突然現れた巨大な女性ヒーロー――マウントレディが、派手なキックでヴィランをノックアウトし、カメラのフラッシュがさらに激しく焚かれるのを背中で感じながら。

 これから向かうのは、折寺中学校。常盤門矢としての日々を過ごすための、退屈な檻のような場所だった。

 

学校生活は、門矢にとって何の意味も持たない空白の時間でしかなかった。周りの生徒たちは、自分の『個性』がどれだけヒーロー向きか、どの高校のヒーロー科を受験するかという話題で持ち切りだった。

 放課後の教室。西日が斜めに差し込む窓辺の席で、門矢は授業のノートも開かず、ただ一枚の白いプラスチックカードを指先で弄んでいた。表も裏も、完全な無地。何の模様もないそのカードを、彼は手品のコインのように指の背で転がし続ける。

 

「おい、コラ、デク!!」

 

隣のクラスの教室から、鼓膜を突き刺すような爆音と、何かが激しく机に叩きつけられる音が響いてきた。続いて聞こえるのは、怯えきった情けない少年の悲鳴。

 爆豪勝己。折寺中が誇る天才であり、掌からニトロのような汗を出して爆発を起こす『爆破』の個性を持つ男。そして、その幼馴染でありながら、この世界で最も苛烈な差別の対象である『無個性』の少年、緑谷出久。

 爆豪たちのクラスの扉は開いており、廊下までその怒号は筒抜けだった。

 

「お前みたいなゴミが、雄英を受験するってか!? ああ!?」

「ま、待ってよ、かっちゃん! 別に対抗しようなんて思ってないんだ! ただ、小さい頃からの目標っていうか……やってみないと分からないし……!」

「やってみなくても分かんだよ! お前はただの踏み台だ、無個性の分際で俺と同じ土俵に立とうなんて思うんじゃねえ!」

 

焦げ臭い煙の匂いが廊下まで漂ってくる。周りの生徒たちは、また始まった、と半ば面白がり、半ば関わり合いを避けるようにして帰宅の準備を急いでいる。誰も爆豪を止めようとはしない。なぜなら彼は強強な個性を持つ『未来のトップヒーロー候補』であり、緑谷出久は守る価値もない『無個性』だからだ。ここでも、個性の有無という残酷なシステムが、生徒たちの倫理観を歪めていた。

 

門矢は、指先で回していた白いカードをピタリと止めた。ポケットに滑り込ませ、椅子の背もたれに預けていた学ランを片手で引っ掴む。

 カシャリ、と彼の脳内で、見えない時計の歯車が噛み合うような音がした。

「やれやれ……。どいつもこいつも、肩書きと記号でしか人間を見られないときてやがる。最高最善の未来なんて、程遠いな」

 門矢は自嘲気味に呟くと、爆豪たちの教室を覗き見ることもせず、ただ静かに足早に校舎を後にした。彼は緑谷出久のヒーローになりたいわけでも、爆豪勝己の横暴を正したいわけでもない。ただ、この世界の空気が、酷く肌に合わないというだけだった。

 

だが、運命というやつは、往々にしてその歪みを強制的に表舞台へと引きずり出す。

 

夕方。家々が影を伸ばし、夕闇が街を侵食し始める時間帯。

 門矢がタトゥーイン商店街の近くの寂れた通りを歩いていると、突如として大気を震わせる凄まじい爆発音が鳴り響いた。

 地鳴りのような振動。商店街のアーケードの向こうから、黒い濃煙が立ち上り、瞬く間に周囲が火の海へと変わっていく。人々の悲鳴が波のように押し寄せ、夕暮れの街が一瞬にして戦場へと変貌した。

 

「火事か? いや、ヴィランだ!」

「誰か捕まってるぞ! 中学生のガキだ!」

 

野次馬の叫び声に導かれるように、門矢は現場へと近づいた。炎が包む狭い大通りの中心。そこにいたのは、粘土質のドロドロとした緑色の肉体を持つ、巨大な液状のヴィラン――通称『泥ヘドロヴィラン』だった。そして、そのヘドロの粘液の奥で、必死に四肢を暴れさせながら、掌から狂ったように爆破を撒き散らしている少年がいた。

 爆豪勝己だった。

 

「放せ……! 離れろッ! クソがぁぁぁ!!」

 

爆豪のプライドを凝縮したような爆発が、周囲の住宅や店舗を次々と焼き尽くしていく。だが、その爆発のエネルギーを吸収するかのように、泥ヘドロヴィランはますます肥大化し、爆豪の肉体を締め付けていく。

 周囲には、現場に駆けつけたプロヒーローたちの姿もあった。火災を食い止めるバックドラフト、瓦礫を押さえるシンリンカムイ。だが、誰もヘドロの中心にいる爆豪を助け出そうとはしなかった。

 

「クソ、流動体は俺の攻撃じゃ捉えきれん! 誰か、奴をひるませられる個性の奴はいないのか!」

「火の手が強すぎる! 救助を優先するんだ、他のヒーローが来るのを待て!」

 

ヒーローたちの言葉は正論だった。相性が悪い。状況が適していない。自分たちの個性の範疇を超えている。だから、足が止まる。

 だが、その『正論』という名の思考停止の隙間で、爆豪の呼吸は確実に浅くなり、目が苦痛に染まっていく。野次馬たちは、プロヒーローが何もできない様子を見て、初めて本当の恐怖に顔を歪め始めていた。

 

門矢はフードを深く被り、人だかりの最前線でその光景を静かに見つめていた。

「(……やっぱりな。これがヒーローというシステムの限界だ。記号に依存した正義は、相性という言い訳一つで目の前の命を見殺しにする)」

 門矢がポケットの中で、白紙のカードホルダーに手をかけようとした、その瞬間だった。

 

人だかりの横から、一つの影が、弾かれたように飛び出した。

 

それは、昼間、爆豪に散々甚振られていたはずの無個性の少年――緑谷出久だった。

 出久の顔は、恐怖で完全に引き攣っていた。涙を流し、歯をガチガチと鳴らしながら、それでも彼の足は、プロヒーローすら躊躇する火の海へと真っ直ぐに向かっていた。

 

「デク……! お前、なんで……!」

 

ヘドロの中から爆豪が驚愕の声を上げる。出久はがむしゃらに走りながら、背負っていた通学鞄を泥ヘドロヴィランの眼球を目がけて投げつけた。教科書やペンケースが散らばり、運良くペンの一本がヴィランの目に突き刺さる。

 

「ギガッ!? 痛えな、このガキがァ!」

「かっちゃん……! 君が、助けを求める顔をしてたから……!」

 

出久は素手で、爆豪を覆う粘液を必死に掻き出そうとする。しかし、そんな無個性の少年のささやかな抵抗など、巨大な悪意の前には無力に等しかった。泥ヘドロヴィランが怒りに狂い、巨大なヘドロの触手を、出久の頭上へと振り上げる。

 

「邪魔だァァ! 一緒に死ね、有象無象がッ!」

 

プロヒーローたちが叫ぶが、誰も届かない。爆豪が手を伸ばすが、爆発が出ない。出久は迫り来る死の質量を前に、ただ目を瞑ることしかできなかった。

 

――その時だった。

 

チク、タク、チク、タク――

 

周囲の爆音、激しい炎の爆ぜる音、人々の悲鳴。そのすべてを完全に圧殺する、重々しく、しかし恐ろしく澄んだ『時計の秒針の音』が、門矢の鼓膜へと鳴り響いた。

 次の瞬間、世界の色彩が反転した。

 燃え盛るオレンジ色の炎は静止した灰色の立体となり、振り下ろされようとしていたヘドロの触手は空中でピたりと動きを止めた。飛び散った火花の一粒一粒が、空間に固定されたガラス細工のようになっている。

 世界から完全に音が消え、絶対的な静寂――『タイムフリージング(時間停止)』が、タトゥーイン商店街のすべてを支配した。

 

「……やれやれ。いいところだったのに、水を差されちゃったな」

 

静止した群衆の後方、薄暗い路地裏の影から、軽薄な、しかし酷く冷徹な少年の声が響いた。

 門矢がゆっくりと振り返ると、そこには青い異国風のコートを羽織った、中性的な容姿の少年が立っていた。彼は楽しそうに首を傾げながら、門矢に向かって歩みを進めてくる。

 未来から来た時間改変者、タイムジャッカーのウール。

 

「君がこの世界の『特異点』だね、常盤門矢。ううん、あるいは『世界の破壊者』って呼んだ方がいいのかな?」

「お前たちの都合なんて知るか。……勝手に人の時間を止めるな。不愉快だ」

 

門矢はポケットから手を抜き、首のカメラを右手で軽く弄った。時間が完全に停止したこの世界で、動くことができるのはウールと、そして門矢だけだった。

 

「そんなに怒らないでよ。僕はただ、この歪んだ世界に『正しい王』を立ててあげようと思っているだけさ」

 ウールは無邪気に笑いながら、自身の背後に控えていた一人の男を前に押し出した。それは、泥ヘドロの混乱に乗じて近くの宝石店から強盗を働こうとしていた、肥大化個性の粗暴なヴィランだった。男はタイムジャッカーの力によって時間停止を免れているようだが、その目は恐怖と狂気に染まっている。

 

「さあ、君の時間を始めよう」

 ウールが懐から、歪んだ紫色に不気味に発光する、奇怪な時計――『アナザークウガウォッチ』を取り出した。ウールがその上部のスイッチを押す。

 

『KUUGA……!』

 

地獄の底から響くような、歪んだ音声が空間を震わせる。ウールはそのウォッチを、強盗ヴィランの胸へと容赦なく突き立てた。

「ギャァァァァァァァッ!!」

 男の口から、人間のものではない絶叫が迸る。男の肉体が急速に膨れ上がり、衣服を破り捨てて異形へと変貌していく。皮膚は焼けただれた泥のようになり、頭部からは禍々しいクワガタの角が生え、その眼は血のように赤く濁っていく。

 仮面ライダークウガの姿を模しながらも、その本質を悪意で汚泥のように汚した怪人――『アナザークウガ』。

 

「グオオオオオオッ!!」

 アナザークウガが咆哮する。その風圧だけで、周囲に静止していた火の粉が粉々に砕け散る。

「おいおい……。原作の裏側で、随分と悪趣味な裏口入学者がいたもんだ」

 門矢は一歩も引かず、ただ呆れたように息を吐いた。

 

「これですべての個性を踏み潰し、新しい歴史を作るんだ。お前はここで消えてよ、門矢」

 ウールが指を鳴らすと同時に、アナザークウガが爆発的な踏み込みで突進してきた。その巨体からは想像もつかないスピード。路地裏のコンクリートが足元から激しく爆砕し、尖った爪が門矢の喉元へと迫る。

 

「個性を踏み潰す、か。……生憎だけど」

 

門矢の腰の前に、両手を構える。

 その瞬間、彼の意志に呼応するように、虚空からマゼンタ色の光の粒子が集束し、一本のベルトが実体化した。

 中央にはジオウの『360度回転するスロット』。しかし、全体的な意匠はディケイドの『マゼンタカラーのカードホルダー』。二つの規格外の力が一つに融合した、この世に二つとないドライバー。

 門矢はポケットから、一パックのカードデッキを取り出した。その中から、一枚の白紙のカードが、まるで意思を持つかのようにひとりでにせり上がる。

 門矢がそのカードを指先で弾くと、白紙だった表面に、鮮やかな赤と黒の戦士の姿が、劇的な速度で定着していった。

 クワガタの意匠を持つ、気高き古代の戦士。

 

「俺の持っているものは、そんなチャチな『個性』じゃない。――受け継がれてきた、戦士たちの歴史だ」

 

門矢はカードを左手でリバースさせ、流れるような滑らかな動作で、ドライバーのスロットへと差し込んだ。

 

『KAMEN RIDE……』

 

門矢の右手が、ベルトの両サイドのカシャリと掴み、そのまま内側へと力強く押し込む。

 

『――KUUGA!』

 

凄まじい太鼓の地鳴りのような重低音が、静止した空間に響き渡る。

 門矢の周囲に、マゼンタ色に輝く数十枚のカードの残像が円状に展開し、次の瞬間、それらのカードが彼の肉体を通り抜けるようにして、一気に収束した。

 まばゆい光が弾ける。

 土煙の中から現れたのは、一切の無駄を削ぎ落とした、赤き胸甲と黒いアンダースーツを纏った戦士。

 仮面ライダークウガ、マイティフォーム。

 

「……何それ? 変身系の個性……?」

 ウールが初めて、その眉を不快そうにひそめた。

 

アナザークウガの鋭い爪が、変身を完了したクウガの顔面へと肉薄する。

 だが、クウガは避けることすらしない。ただ静かに右腕を上げ、その爪撃の軌道を、最低限の動きで横から『パキィン!』と叩き落とした。

 肉体と肉体がぶつかり合う、鈍く重い衝撃音。

「ガッ!? なんだこの硬さは……! 個性で強化しているのか!?」

 アナザークウガが驚愕の声をもらす。クウガのマイティフォームが持つ基礎スペック――パンチ力三トン、キック力十トン。それは、ヒロアカ世界における一般的な身体強化個性の限界値、プロヒーローの上位陣の肉体強度すら、初手から遥かに凌駕している。

 

「さあな。自分でもよく分かってないんだ、この力の凄さは」

 

クウガの低く響く声と共に、今度は彼の一歩が踏み出された。

 ただのシンプルな右ストレート。飾り気のない、しかし破壊の質量そのもののような一拳。

 ドガァァァァン!!

 アナザークウガの腹部にクウガの拳がめり込み、その凄まじい衝撃波が怪人の背後のレンガ壁を文字通り放射状に粉砕した。アナザークウガの巨体が、路地裏の奥へと弾け飛ぶようにして転がっていく。

 

「グハッ……! バカな、たった一撃で、僕の王の力が……!」

 アナザークウガは悶絶しながらも、執念深く立ち上がった。その爪に紫色の不気味なエネルギーを収束させ、周囲に静止していた瓦礫や鉄パイプを、個性の力で次々とクウガ目がけて投げつけてくる。

 超高速で飛来する、鋭利なコンクリートの破片。

 

クウガはふっと息を漏らすと、腰のドライバーからカードを抜き取り、別のカードを流れるように装填した。

「それじゃ、少し趣向を変えてみようか」

 

『FORM RIDE…… KUUGA…… DRAGON!』

 

クウガの全身の装甲が、鮮やかな赤から、深い『青』へと一瞬にして変色する。

 クウガ・ドラゴンフォーム。跳躍力と敏捷性に特化した、超加速の形態。

 迫り来る瓦礫の雨の中を、青きクウガはまるで風のように駆け抜けた。直線的な動きではない。壁を蹴り、空中を反転し、すべての攻撃の死角をすり抜けるようにして、一瞬にしてアナザークウガの懐へと潜り込む。

 路地裏に転がっていた一本の錆びた鉄パイプを、走り抜けざまに右手で掴む。その瞬間、クウガの持つモーフィングパワー(物質変形能力)が発動し、ただの鉄パイプが青く輝く伸縮自在の長棍――『ドラゴンロッド』へと姿を変えた。

 

「ハッ!」

 鋭い気合いと共に、ドラゴンロッドがアナザークウガの脳天、脇腹、膝元を、目にも留まらぬ連続突きで正確に捉える。

 ガッ! ガッ! ガガガガンッ!

「ギャァァッ! 速い、見えない……!」

 怪人が怯んだ隙を見逃さず、クウガはさらにカードを入れ替える。ベルトの回転スロットが激しく鳴り響く。

 

『FORM RIDE…… KUUGA…… TITAN!』

 

青い装甲が、今度は重厚な銀と紫の金属質の鎧――『タイタンフォーム』へと変化した。

 アナザークウガが、狂ったように強大な爆破個性のエネルギーを至近距離から放射する。路地裏全体が吹き飛ぶほどの紫色の爆炎。

 だが、クウガはその爆破の直撃を、避けるどころか構えを崩すことすらなく、ただ正面から『歩いて』突き破ってきた。タイタンフォームの圧倒的な防御力の前には、並大抵のヴィランの攻撃など、ただの微風に等しい。

 

「化け物め……!」

「化け物なのは、お前たちのほうだろ」

 

クウガの右手に握られたタイタンソードの剣先が、怪人の胸元へと突き立てられる。激しい火花が散り、アナザークウガの肉体が大きくのけ反った。

 

仕上げだ、と門矢は心の中で呟いた。

 再びカードを抜き、最初の、最も馴染み深いカードへと戻す。

 

『KAMEN RIDE…… KUUGA…… MIGHTY!』

 

再び赤きマイティフォームへと戻ったクウガは、右足を地面に擦り付けるようにして、独特の低い構えを取った。

 カチ、と彼の右足の裏に、赤く発光する古代の文字――リント文字のエネルギーが、強烈な熱量と共に収束していく。

 この世界のヒーローのように、大声を上げて自分の技名を叫ぶようなことはしない。ただ、静かな闘志だけが、彼の全身から立ち上る陽炎となって空間を歪ませていた。

 

ジャンプはしない。地を這うような、しかし世界の軸を揺るがすほどの強烈な踏み込み。

 「タァッ!」

 短い呼気と共に、至近距離からの、重い右ローリングソバット(マイティキック)が、アナザークウガの胸部の中心へと叩き込まれた。

 

ドゴォォォォォォンッ!!!

 

肉弾戦の音とは思えない、空間そのものが破裂したかのような爆音。

 キックの直撃を受けたアナザークウガの胸部には、赤く輝くリント文字の『封印の刻印』が深く刻み込まれていた。

「ガハッ……あ、ありえない……! 王の力が、歴史が……上書きされていく……!」

 怪人は胸を押さえながら、狂ったように身体を痙攣させる。刻印から溢れ出す圧倒的な封印エネルギーが、怪人の体内の悪意のシステムを内側から完全に破壊していく。

 一瞬の静寂の後、アナザークウガはまばゆい光を放ち、路地裏の空間を白く染め上げるほどの大爆発を起こして霧散した。

 

あとに残されたのは、粉々に砕け散り、砂となってサラサラと崩れ去る紫色のウォッチの破片だけだった。

 ウールは、路地裏の壁に寄りかかったまま、面白そうにパチパチと小さな拍手を送っていた。

「へえ……。面白いね、やっぱり君は。一度に三つの姿に変わるなんて、どんなマルチ個性だよって、この世界の住人が見たら腰を抜かすんじゃないかな?」

「個性の枠に、俺たちを当てはめるなと言ったはずだ」

 クウガは静かに変身を解除し、常盤門矢の姿へと戻る。腰のドライバーもまた、煙のように虚空へと消えていった。

 

「でも、これで終わりじゃないよ。僕たちは何度でも、この世界に新しい王の歴史を植え付けるから。また遊ぼうね、門矢」

 ウールが軽やかに身を翻すと、彼の身体は時間の波に溶けるようにして、一瞬でその場から消失した。

 

同時に、世界に色彩が戻る。

 止まっていた炎が再び激しく燃え盛り、タトゥーイン商店街の喧騒と悲鳴が、濁流のように門矢の鼓膜へと押し寄せてきた。

 門矢がポケットに手を突っ込むと、そこにあったはずの白紙のカードの一枚が、完全な『仮面ライダークウガ』のカードへと変化しており、さらにその隣で、文字盤のなかった白磁の時計が、重厚な赤き『クウガライドウォッチ』へとその姿を変えて、静かに鼓動していた。

 

「……まずは一枚、か」

 門矢はウォッチをポケットの奥へと押し込み、路地裏から大通りへと歩を進めた。

 

大通りに出ると、そこではちょうど、上空から降ってきた雨のような風圧によって、泥ヘドロヴィランが完全に吹き飛ばされ、周囲の炎が一瞬にして消し止められているところだった。

 天を仰ぐ群衆の中心。そこに立っていたのは、誇らしげに白い歯を見せて笑う、平和の象徴――オールマイトだった。

 

「もう大丈夫だ! なぜって? ――私が来た!」

 

割れんばかりの歓声。涙を流してヒーローを称える野次馬たち。その影で、酸欠で倒れ込んだ爆豪勝己と、プロヒーローたちに「なんて無茶をするんだ!」と叱責されている緑谷出久の姿が見えた。

 出久は怒られながらも、どこか、自分の内側にある何かが救われたような、そんな小さな光を宿した目でオールマイトを見つめていた。

 

門矢は、その熱狂の渦から背を向けるようにして、一人、歩き出した。

 首から下げたマゼンタ色のカメラを取り上げ、去り行く出久の背中に向けて、もう一度シャッターを切る。

 吐き出されたチェキの写真。今度は、少しだけピントが合っているような、そんな気がした。

 

「最高最善の魔王、か。……ふん、退屈だけはしなさそうな世界だ」

 

常盤門矢は、まだ見ぬ二十の歴史と、この世界の歪んだ正義の行く末を思い描きながら、夕闇の迫る街へと静かに消えていった。彼の通る道の先には、やがて世界の常識をすべて破壊し、再構築する、最高最善の未来が待っている。

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