箱入りキメラ   作:生きる

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①生まれたのは

ヴェルドラが封印されて約100年がすぎた。

しかしヴェルドラの魔素溜りにて誰にも気づかれることなく"異変"は起きていた。

そこには生き物が生まれていた。

 

紛れもなく、赤子である。

 

片耳が尖っている。エルフだろうか?

左耳は人間同様の耳が着いている。

 

角が生えている。鬼人だろうか?

小さく、右にのみ生えている。

 

羽が生えている。天使だろうか、悪魔だろうか?

白くも黒くもある羽が数枚背中から見える。

飛ぶことは叶わないだろうと思うほど小さい。

 

鱗の生えた尻尾が生えている。竜の類だろうか?

弱々しく、動かない。

 

獣のように見える右の腕、しかし土台となる身体は人間のもの。

 

他にも様々な生き物を感じさせる身体的特徴を持つ。

 

何と形容するのが正しいのだろうか、複数の生き物の特徴を持つ何者でもあり何者でもない赤子を。

 

ただ、紛れもなく化け物だった。

 

にもかかわらず、とても神々しく見えた。

 

この世のものとは思えない、美しさだった。

 

ただ、生き物と言うにはあまりにも軟すぎる。

このまま放っておけばすぐに尽きてしまう。

 

儚いと言ってしまえば聞こえがいいが、そのような言葉では到底表現しきれない。

 

そんな生き物であった。

 

まるで神が創造に失敗してできてしまったかのようなまさに異形の姿だった。

 

そんな赤子を、動くことも叶わない封印された竜-ヴェルドラは愛おしく眺めていた。

自分の子供を見るかのように。

 

実際、"ソレ"は彼にとって自分の魔素溜りから生まれたのだから赤子同然だった。

 

しかし、"ソレ"は既に虫の息である。

産声もあげず、ただ身体を上下させている。

呼吸はしているようだがいずれ息絶えて消失してしまうだろう。

 

しかしスキルの封印されたヴェルドラにはなにかの施し用も無いように思われた。

 

「聞こえるか、小さきものよ」

 

その問いかけに頭が動き、音のなる方へ瞳が向く。

まだぼんやりとしか見えていないだろうが、とても綺麗な何者をも見通すような瞳だった。

 

ぱちくりと瞼を上げ下げして不思議そうに眺める。

 

ヴェルドラは安心した。

意志ある生き物の子がただ弱っているだけではないか。と

 

「我は暴風竜ヴェルドラ。貴様は何者だ?」

 

勢いで死なぬように優しく問いかける。

 

しかし赤子は未だ瞳をぱちくりしては暴風竜を眺める。

今にも死にそうな呼吸と共に、普通の赤子同様の無垢な瞳を揺らす。

 

「我を見て恐れ戦かぬ丹精は褒めてやる。

貴様は何の赤子か?」

 

答えられないのは必然である。並大抵の赤子には生まれて直ぐに話すことなどままならない。

 

赤子は不思議そうに見つめたあと、

 

「あー、ゔー」

 

と言葉を発した。

 

「ふむ、そうであるか。あー、ゔーとな?

よく分からぬが貴様はもうすぐ息絶えるだろう。

我はここから動くことはできぬが貴様にできることを考えた。

 

貴様に名前を与えてやろう。」

 

赤子の身体が少し揺れた。

同意の意にも感じられた。

 

「そうだな…貴様の名は…

 

ルヴェル、というのはどうだろうか?」

 

赤子の周りがほの明るく光った。

光が収まると、さっきまでの苦しそうな息とは違う深い深い眠りの時の呼吸をしている。

窮地を脱したようだ。

 

名付けの影響により人間で言う2歳児くらいの姿になり、ヴェルドラからの影響か竜を象徴するような鱗の着いた尻尾が少し大きくなった他にも身体に鱗が侵食している。

 

その赤子、混成獣(キメラ)ルヴェルとしての誕生の時であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ルヴェルが立ったのはそれから1年後のことである。

 

ヴェルドラは毎日語りかけ色々なことを教えた。

ルヴェルには伝わっていなかったようだが、それでもあーでもゔーでも何かしらの返事が来ることがたまらなく嬉しく可愛らしく思った。

 

なのでつかまり立ちをした時には泣きそうな声で褒めたたえた。

すぐに手を離し頭を軽く打ってしまいそうになればすぐに爪の先で受け止めた。

 

完全に親としての愛情が芽生えていた。

 

 

 

 

2歳になってルヴェルが歩くようになった時は大変だった。

 

動くことの出来ないヴェルドラの目の届かない所へ行ってしまえばどんな危険があっても守ることは不可能である。

 

またヴェルドラから離れれば離れるほど洞窟内の魔物に遭遇し襲われる危険は増す。

 

目を離した隙にブラックスパイダーの足を口に入れそうになっていることもあった。

 

よちよち歩きで時々尻もちをつく姿は愛おしく微笑ましいものだったが、制御できない子供の好奇心の強さにハラハラしていた。

 

歩き始めたのとちょうど同時期、ルヴェルは簡単な言葉を話し始めるようになった。

 

最初に話した言葉は「とと」である。

ヴェルドラの方を指さし「とと」「とと」と発した。

 

ヴェルドラを父親とみなしているのだろう。

 

それから「うべる」「りゅう」「うぇるどら」とヴェルドラの語りかけた言葉によく出てきたような単語を少しずつ話すようになった。

 

ヴェルドラが献身的に話しかけた成果である。

 

 

 

 

3歳になると簡単な意思疎通も可能になった。

 

「ととさま、おはなし、きかせて」

 

と緩い滑舌で話すルヴェルにヴェルドラは様々なことを語りかけた。

竜のこと、勇者のこと、世界の色々な話…

 

ヴェルドラが話し始めるといつも興味津々になって大人しく座って目を輝かせた。

 

成長に伴い、ルヴェルのことが少し分かってきた。

やはり複数の生物の特徴を持ち、それぞれの力は弱いもののその生物特有の力を持っている。

 

もし人間にその姿が見つかったら捕まり研究や実験、兵器として扱われてしまうことなど容易に想像できた。

 

ヴェルドラは考えた。

愛しの我が子を守る方法を。

 

 

 

 

50年も年が過ぎれば、人間で言う5歳児程度の大きさまで成長した。

 

ヴェルドラはルヴェルにスキルの使い方などを教えた。

護身のための力をつけようと考えたのである。

 

戦いよりも防御に特化するように、そして万一の時にすぐに逃げることのできるように。

 

近くの岩を向かって技を放つ。

たくさんの種族の特徴を持っていても、素の力がなくては何も成せない。

全てを使いこなすことができるようにするため、まずは基礎を固めることだ。

 

ヴェルドラの意に反して、ルヴェルは攻撃特化に成長していた。

 

あたりまえである。ヴェルドラの周りには魔物は近寄らず、ルヴェルは何とも戦ったことはない。

そのため防御をすることもなかったのだ。

 

それに、教えたのがヴェルドラなのだから運の尽きだ。

防御など必要のないほどの屈強な肉体を持つ竜種であり本人の性格からも守りに徹することなどない。

 

無論、実戦経験もなく攻撃もただ単に出して岩に当てているだけなのでできるのは動かない岩を砕くことだけだった。

 

それでも低級の魔物には十分脅威となり得る程の力を持っていた。

ルヴェルの身体の約3割は竜種に近かったからだ。

 

 

 

 

そして、200年が経った。

 

ルヴェルは人間で言う12歳くらいの姿になった。

おそらく長寿な上に経験値が少なく身体の成長が遅いのだろうと父、ヴェルドラからは言われた。

 

ルヴェルは美しく成長した。

異形の姿は神々しくかつ儚さを持つ。

しかし本人は他人と接せず生きてきたため、未だあまりにも幼かった。

 

ヴェルドラに教えられ、自身の姿を抑え人間とほとんど変わらぬ見た目に変身することも可能になった。

一部だけというのもきっと可能だろう。

 

今はヴェルドラのオーラに隠れているが、本人もかなりのオーラーを放つ事ができる。

死にかけだった赤子は一人前と言っても過言ではないほど立派に成長していた。

 

ヴェルドラの封印から300年、ヴェルドラにとってもルヴェルにとっても運命の年である。

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