/*/ 星団暦3069年 総督府執務棟 /*/
国家騎士団500騎
管理官が次の書類を出した。
「次に、バッハトマ国家騎士団500騎の配置です」
ジィッドは嫌な予感で眉を寄せた。
「総督府の配下に入る件か」
「はい。総督少将就任に伴い、ノウラン=オータ=ボルサ軍政圏内で運用される国家騎士団500騎が、正式に総督少将指揮下へ編入されます」
「銀月二百騎以上に加えて、国家騎士団500騎」
「はい」
「合計700騎強」
「はい」
ジィッドは、しばらく無言だった。
それから、地図上の灰色の駒を見た。
「運用、大変ですね」
ラドが真顔で言う。
「大変ですね」
ノエルも頷く。
「かなり大変ですね」
管理官が淡々と言った。
「総督府案件です」
「便利な言葉で全部殴るな」
国家騎士団は、名付き騎士団ではない。
黒騎士団。
黒豹騎士団。
銀月騎士団。
そうした名付き騎士団より、一段下に見られる帝国の基幹騎士団。
前線の華ではない。
だが、街道警備、衛星都市守備、税収輸送護衛、補給倉庫警備、橋梁防衛、敗残兵掃討、小規模反乱鎮圧。
それらを担う骨だった。
ラドが駒を動かす。
「主要街道、補助街道、税収輸送路、酒造原料路、保存食輸送路、医療・産院配給路」
「そこだ」
ジィッドは頷く。
「それと、衛星倉庫、樽材供給町、飼料生産村、農具修理町、補給中継基地、難民定住村、工房町。そこに国家騎士団を置く」
ノエルが書く。
「国家騎士団、街道警備と衛星都市守備を主任務」
「前線突破には使うな。名付き騎士団と同じ使い方をするな」
「理由は」
「役割が違う」
ジィッドは灰色の駒を指した。
「銀月は機動判断戦力だ。国家騎士団は広域維持戦力。街道を守れ。衛星都市を守れ。輸送隊を帰せ。税収を止めるな。そこを落とすな」
ラドが少し笑う。
「団長、国家騎士団に気を使ってますね」
「気を使っているんじゃない。腐らせないようにしている」
ジィッドは淡々と言う。
「名付き騎士団より下に見られる連中を雑に扱うと、功を焦る。街道警備や衛星都市守備が、どれだけ重要か最初に叩き込め。地味な任務が軍政圏を支えていると分からせろ」
ニナリスが記録する。
「国家騎士団任務意義説明。街道維持、衛星都市守備、税収輸送護衛を軍政圏維持の主務として明文化」
「明文化は嫌いだが、これは必要だ」
/*/ 配置案 /*/
管理官が灰色の駒を動かす。
「国家騎士団500騎。暫定配置案です」
「言え」
「主要街道三本、補助街道七本、税収輸送、軍需輸送、医療・産院配給路、酒造原料路、保存食輸送路を含む街道警備に70騎」
「足りるか」
「足りません」
「またか」
「他も足りません」
「嫌な現実だな」
「衛星都市守備に五十騎。倉庫衛星都市、樽材供給町、飼料生産村、農具修理町、補給中継基地、難民定住村、工房町を巡回制で守備」
「巡回周期を短くしろ。反乱より輸送途絶の方が怖い」
「承知しました」
「ノウラン側は」
「ノウラン守備に国家24騎、銀月8騎」
「銀月は監督役だ。国家騎士団だけに判断を背負わせるな。だが、銀月が全部やるな」
「承知しました」
「オータ市周辺は」
「郊外基地にGTM、通常部隊。国家騎士団は市外縁の指定戦闘区域、街道分岐、衛星倉庫、補給中継地で機動待機」
「それでいい」
ノエルが記録する。
/*/ 追加の面倒 /*/
管理官が、さらに書類を出した。
「国家騎士団500騎の宿営、給与、補給、整備、酒場利用規定です」
ジィッドは即座に手を上げた。
「待て」
「はい」
「宿営、給与、補給、整備は分かる」
「はい」
「なぜ酒場利用規定が入る」
管理官は即答した。
「騎士だからです」
ラドが深く頷く。
「名付き騎士団への対抗意識もありますから、揉めます」
ノエルも続ける。
「国家騎士団も宿場や衛星都市の酒場には当然出入りします」
「そこで銀月と揉めるか」
「揉めます」
「断言するな」
「経験です」
ジィッドは額を押さえた。
「GTM700騎強より、酒場の方が怖くなってきた」
「総督府案件です」
「便利すぎるぞ、その言葉」
管理官はさらに言う。
「衛星都市側から、国家騎士団駐留誘致の要望も出ています」
「誘致?」
「騎士が来ると酒場、宿屋、修理屋、食堂が潤います」
「同時に喧嘩と器物破損も増える」
「はい」
「誘致希望都市には、受け入れ規定と賠償基金を出させろ。儲けるなら責任も持て」
「承知しました」
ラドが記録しながら呟く。
「団長、どんどん総督になっていきますね」
「やめろ」
/*/ 会議終了間際 /*/
作戦卓の上に、最終配置案が並んだ。
市政評議会を残す。
市場を動かす。
バッハトマ国家騎士団500騎は、街道警備と衛星都市守備を主軸に配置。
銀月騎士団200騎以上は、機動判断戦力として温存。
総督少将指揮下、合計700騎強。
ジィッドは、その数字を見て、深く息を吐いた。
「700騎強か」
ニナリスが答える。
「はい」
「運用、大変ですね」
「はい」
「そこは否定してくれ」
「事実です」
「事実で殴るな」
ラドが小さく笑った。
会議室に短い笑いが起きた。
だが、ジィッドは笑いきれなかった。
700騎強。
都市。
税収。
街道。
衛星都市。
総督中将の仕事は、戦力を置くことだけではない。
置かないことで守ることまで、彼の責任になっていた。