ちゃんと軍人教育受けてるジィッドくん   作:ぶーく・ぶくぶく

38 / 38
カーバーゲン再貸与の前に、白旗を積む

ラド復帰試験編・ノウラン市占領地・銀月騎士団、救護班待機所

 

 

 

 ラド・ベイカーは、救護班の横で白旗を畳んでいた。

 

 最初は屈辱だった。

 

 騎士なのに担架。

 騎士なのに白旗。

 騎士なのに、敵を落とすのではなく倒れた者を運ぶ。

 

 だが、何度もやっているうちに、屈辱だけでは済まなくなっていた。

 

 白旗は軽い。

 

 だが、持つと重い。

 

 あの布の下で一歩間違えれば、次の戦場で白旗そのものが信用されなくなる。

 

 担架もそうだった。

 

 ただ運べばいいわけではない。

 

 揺らせば傷が開く。

 焦ればファティマが不安定になる。

 敵側救護班の前で態度を誤れば、交換の空気が固くなる。

 

 戦場で止まるとは、こういうことなのだと、ラドは少しずつ腹で覚えていた。

 

 救護班長が言った。

 

「ラド騎士。次の交換、あなたが先頭です」

 

「はい」

 

「敵側の担架が先に来ます。こちらは三歩手前で停止。相手の救護班長が識別札を出してから、こちらも出す。相手が負傷ファティマを支えていたら、視線を騎士側へ向けすぎない。ファティマを品定めするように見ない」

 

「はい」

 

「敵騎士がこちらを睨んでも、睨み返さない」

 

「はい」

 

「相手が礼を省略しても、こちらは省略しない」

 

「……はい」

 

「不満ですか」

 

「いえ」

 

 ラドは白旗を握り直した。

 

「前なら、不満でした」

 

 救護班長がちらりと見た。

 

「今は?」

 

「今は、やらないと後で困ると分かります」

 

「良い傾向です」

 

「その言い方、ティリカみたいですね」

 

「ティリカ様が正しいのでしょう」

 

 ラドは少し黙った。

 

 ティリカ。

 

 自分のファティマ。

 だが、まだ自分はカーバーゲンに戻れていない。

 

 ティリカは、ラドを見捨ててはいない。

 ただ、戻る資格があるかを見ている。

 

 それが一番堪えた。

 

 

 

/*/ 銀月騎士団執務テント・ジィッド、ニナリス、ティリカ /*/

 

 

 

 ジィッドは、ラドの救護任務記録を読んでいた。

 

 横にはニナリス。

 少し離れて、ティリカが静かに立っている。

 

 ニナリスが端末を読み上げた。

 

「ラド・ベイカー様。救護任務十二回。白旗下での停止指示違反なし。敵側救護班との受け渡し、重大な礼法違反なし。担架搬送時の過剰速度、初期二回。以降改善。負傷ファティマへの不用意接触なし」

 

 ジィッドは頷く。

 

「思ったより積んでいるな」

 

「はい」

 

 ティリカが静かに言う。

 

「マスターは、白旗の下では止まれています」

 

 ジィッドはティリカを見る。

 

「GTMに戻せると思うか」

 

 ティリカはすぐには答えなかった。

 

「まだです」

 

「理由は」

 

「生身の救護任務では、速度が遅い。判断の余白があります。カーバーゲンに乗った場合、戦果欲求、加速、ファティマ制御、味方位置、敵影、すべてが同時に来ます」

 

「その通りだ」

 

「ただし、以前より改善しています」

 

 ジィッドは少しだけ笑った。

 

「厳しいが、見捨ててはいない」

 

「はい」

 

 ニナリスが端末に記録する。

 

「ティリカ様、ラド・ベイカー様の救護任務改善を確認。ただしGTM再貸与には追加段階が必要」

 

 ジィッドは指で机を叩いた。

 

「次は救護任務の中で、少し負荷を上げる」

 

「偵察ですか」

 

 ニナリスが問う。

 

 ジィッドは首を横に振った。

 

「ラドはニンジャでもレンジャーでもない。偵察任務で深追いせず情報を持ち帰れるかを見る手もあるが、今のラドにはまだ早い」

 

 ティリカが頷く。

 

「同意します」

 

「救護任務を積む。次は、敵味方の擱座騎が混ざる場所での回収補助だ。敵機に触れない。味方騎だけ識別する。負傷ファティマを優先する。敵影が見えても救護線を崩さない」

 

「生身での停止訓練ですね」

 

「そうだ」

 

 ジィッドは短く言った。

 

「ラドに必要なのは、敵を見ても追わない足だ。まずは生身で、それを覚えさせる」

 

 

 

/*/ 小規模任務案・擱座騎回収補助 /*/

 

 

 

表向きの任務は単純。

 

ノウラン市外縁の旧補給路で、前回小競り合いの擱座騎と救護物資を回収する。

銀月騎士団の救護班、整備班、少数の護衛が同行。

ラドは救護班補助。

 

GTM戦闘任務ではない。

ラドにカーバーゲンは戻らない。

ティリカもGTM制御には入らない。

 

ただし、ティリカは救護班側の記録係として同行する。

 

ラドには伝えないが、これは再貸与前の観察段階。

 

評価項目は以下。

 

 

 敵の擱座騎を見ても触れないか。

 味方の擱座騎を優先して識別できるか。

 負傷ファティマの搬送手順を守れるか。

 敵影や砲声に反応して勝手に護衛線を離れないか。

 白旗線を越える時に救護班長の停止指示を待てるか。

 ティリカの短い警告に即応できるか。

 

 

途中で、遠方に敵偵察騎らしき影が見える。

 

若い護衛騎士が言う。

 

「ラドさん、敵影です」

 

ラドは一瞬だけそちらを見る。

 

以前なら、足が前へ出た。

 

今も、出そうになる。

 

だが、手元の担架を見る。

白旗を見る。

ティリカを見る。

 

ティリカが静かに言う。

 

「ラド様。停止」

 

ラドは息を吐く。

 

「停止する」

 

そして救護班長へ報告する。

 

「敵影一。距離あり。こちらに接近せず。救護線維持。護衛へ映像共有。追撃不要」

 

ジィッドは後方でそれを見ている。

 

「……止まったな」

 

ニナリスが記録する。

 

「ラド・ベイカー様、敵影確認時に追撃衝動あり。ただしティリカ様の停止警告に即時応答。救護線維持」

 

ジィッドは頷く。

 

「よし」

 

まだカーバーゲンは返さない。

 

だが、戻るための線に一歩近づいた。

 

 

 

/*/ 任務後 /*/

 

 

 

 ラドは、任務後の報告を終えて、ジィッドの前に立った。

 

「隊長。今日の俺、どうでした」

 

 ジィッドは書類から目を上げた。

 

「救護班補助としては合格だ」

 

 ラドは少しだけ肩を落とす。

 

「騎士としては?」

 

「まだだ」

 

「……はい」

 

 悔しい。

 

 だが、以前ほど焦りはなかった。

 

 ジィッドは続ける。

 

「ただし、前より良い」

 

 ラドが顔を上げる。

 

「本当ですか」

 

「敵影を見て止まった。敵機に触れなかった。白旗線を崩さなかった。ティリカ様の警告にも応答した」

 

 ティリカが静かに言う。

 

「ラド様。今日の停止は記録します」

 

「良い記録ですか」

 

「改善記録です」

 

「まだ良いとは言わないんですね」

 

「はい」

 

「厳しいな」

 

「必要です」

 

 ラドは少し笑った。

 

「分かった。次も積む」

 

 ジィッドは頷く。

 

「そうしろ。カーバーゲンに戻る道は、敵を落として開くんじゃない。今のお前は、止まった記録で開け」

 

 ラドは深く頭を下げた。

 

「はい」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

聖戦士アムロ(作者:くまぷーⅢ世)(原作:聖戦士ダンバイン)

 バイストン・ウェルの物語を覚えている者は幸せである。▼ 心、豊かであろうから……▼ 私達はその記憶を記されてこの地上に生まれてきたにも関わらず、思い出すことのできない性を持たされたから……▼ それ故に、ミ・フェラリオの語る、次の異なる物語を伝えよう。▼ シャアとの最後の戦いの中、地球へ落下するアクシズをνガンダムで止めようとしていたアムロ・レイは眩い閃光に…


総合評価:3064/評価:8.67/連載:9話/更新日時:2026年02月12日(木) 23:46 小説情報

愛と勇気と正義にかけて、市民をお守りいたします!(作者:イングラマン)(原作:機動警察パトレイバー)

某巡査の娘が特車二課第二小隊に配属される、原作再構成二次小説です。▼自分が読みたいがために投稿しました。▼・TVアニメ版を軸にOVA、漫画版や小説版をミックスしています。▼・転生オリ主最強です。▼・一部キャラクターの生年と経歴を変更しています。▼・作者は警察組織やコンピュータについてはネットで調べた程度の知識しかありません。▼以上の点を踏まえて、本文をお読み…


総合評価:1980/評価:9.08/連載:9話/更新日時:2026年05月22日(金) 21:00 小説情報

偽書・ガンダム機動戦記(作者:雑草弁士)(原作:ガンダム)

宇宙世紀0079、サイド7ノアの1バンチコロニーグリーンノア在住のアルバイター、エグザベ・オリベは難民である。故郷であるサイド5ルウムを地球連邦とジオンの戦争で破壊しつくされた彼は、どうにかサイド7に流れ着き、ジャンク屋で働きつつ生活を立て直そうとしていた。しかし0079の9月18日、ジオン軍の英雄シャア・アズナブル少佐率いる特殊部隊がサイド7を急襲。エグザ…


総合評価:1739/評価:8.67/連載:54話/更新日時:2026年03月11日(水) 05:39 小説情報

逆襲のギュネイ(作者:黄金鉄塊騎士)(原作:ガンダム)

転生したらあっけなく天パにやられたギュネイ・ガス君だった件。▼原作とは違い、イキるのはやめて、▼スペックは結構高いこの体を使って宇宙世紀を謙虚に、命大事にの精神で生き延びます。▼逃げ回れば、死にはしないってシーブックニキも言ってたしね。▼ただ、宇宙世紀に転生したからには救える人は救っていきます。▼


総合評価:4788/評価:8.15/連載:9話/更新日時:2026年02月07日(土) 01:06 小説情報

にわか知識で宇宙世紀に転生したチートオリ主の末路(作者:世界一位)(原作:ガンダム)

初投稿です。▼お手柔らかにお願いします。▼今作は宇宙世紀に転生してしまったチートオリ主のサクセスストーリー(笑)です。▼なお、主人公には宇宙世紀シリーズの知識は「アムロたちがいる連邦って組織が正義側でジオンを倒すんでしょ?」「ニュータイプって聞いたことある!」「やってみせろよマフティー!」程度の知識しかありません()▼また宇宙世紀シリーズの設定に対する独自解…


総合評価:14576/評価:8.59/連載:14話/更新日時:2026年02月21日(土) 10:12 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>