ちゃんと軍人教育受けてるジィッドくん   作:ぶーく・ぶくぶく

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銀月式“副官機能”始動

ノウラン市占領地・銀月騎士団・執務テント

 

 

 

 投影された分掌表を見て、若手騎士たちは一斉に沈黙した。

 

 

 

/*/

 

 

 銀月騎士団・分掌型副官機能

 

 文書係

 救護連絡係

 整備連絡係

 給養連絡係

 若手教育係

 白旗記録係

 噂連絡係

 

 

/*/

 

 

 

 騎士団の組織表というより、学校の係活動に近い。

 

 若手の一人が、魂の抜けた声で言った。

 

「……俺たち、騎士団に入ったんですよね」

 

「そうだ」

 

 ジィッドは当然のように頷いた。

 

「騎士団だから係活動が要る」

 

「騎士団なのに係活動が多い!」

 

「騎士団だから多いんだ」

 

「思ってた騎士団と違う!」

 

 その声に、ジィッドは少しだけ眉を上げた。

 

「出世はしてるだろう」

 

 若手は即答した。

 

「思ってたのと違う! もっと星を取りたかったんですよ!」

 

 その場の何人かが、ああ、言った、という顔をした。

 

 星。

 

 撃破数。

 戦果。

 新聞の見出し。

 大将首。

 

 若い騎士なら、欲しがって当然のものだった。

 

 だが、ジィッドは紙束から目を上げずに言った。

 

「今のままだと、お前が星になる」

 

「厳しい!」

 

 若手が本気で悲鳴を上げた。

 

 バギィ・ブーフ少将が、隅で肩を揺らして笑っている。

 

「いいこと言うじゃねぇか、ジィッド」

 

「笑い事じゃありません」

 

「笑い事だろ。星を取りに行って、本当に星になった若造を山ほど見てるからな」

 

 若手たちは黙った。

 

 トモエ姐さん――泉興京巴准将が、冷たい声で続ける。

 

「係を馬鹿にする部隊は、裏から崩れるよ」

 

 若手の一人が恐る恐る聞く。

 

「裏から、ですか」

 

「そう。飯が遅れる。整備の優先順位が揉める。救護班が通れない。白旗の記録が曖昧になる。文書の宛先を間違える。噂がねじれる。礼状が妙な政治利用をされる」

 

 トモエは、投影された分掌表を指先で叩く。

 

「それで部隊は静かに壊れる。敵に斬られる前にね」

 

 ジィッドは頷いた。

 

「だから分ける。俺一人では抱えきれない。ベテラン副官もいない。なら、銀月の中に副官機能を作る」

 

 ニナリスが端末を操作した。

 

「分掌表を更新します」

 

「もう完成してるやつだ……」

 

「逃げ場がない……」

 

「もう逃げられない!」

 

「逃げるな。撤退はしていいが、逃げるな」

 

 ジィッドが言うと、若手たちはまた呻いた。

 

 ラド・ベイカーが、白旗記録欄を見て小さく言った。

 

「俺は救護連絡係、ですよね」

 

「そうだ」

 

「……やります」

 

 少し前のラドなら、不満を隠さなかっただろう。

 

 だが今は違う。

 

 ティリカが隣で静かに頷いた。

 

「良い判断です、ラド様」

 

「星を取る前に、白旗を通す方から覚える」

 

 ラドの言葉に、新入りの若い騎士が吊った腕を見た。

 

 先日、ジィッドに腕を落とされ、救護班に繋ぎ直された腕だ。

 

「俺は……文書係、ですか」

 

「そうだ」

 

「剣で負けたから書類……」

 

「剣で負けたから書類だ」

 

 ジィッドは容赦なく言った。

 

「お前は、二刀流で星を取りに来て、最初の一合で腕を落とされた。まずは礼状と返礼を読め。自分が擱座した時、何の文書が帰還線になるのか覚えろ」

 

 新入りは反論しかけて、やめた。

 

「……はい」

 

 バギィがにやりと笑う。

 

「いいじゃねぇか。銀月らしくなってきた。腕を斬られた奴が文書係、止まれなかった奴が救護連絡係、アイス二個取りしかけた奴が給養連絡係か?」

 

「それはまだ決めてません」

 

 ジィッドが言うと、若手たちが一斉に目を逸らした。

 

 ニナリスが淡々と告げる。

 

「給養連絡係には、Aレーション提供記録、温食配分、給養兵への感謝状、アイスクリーム配給監視を含めます」

 

「アイスまで正式任務に!」

 

「軍紀です」

 

「アイスで軍紀!」

 

 ジィッドは分掌表を見回した。

 

「文書を見る者がいる。白旗を見る者がいる。整備を見る者がいる。飯を見る者がいる。噂を見る者がいる。これで、俺が全部を抱えずに済む」

 

「隊長、楽になりますか?」

 

 若手の一人が聞いた。

 

 ジィッドは少し考えた。

 

「最初は余計に忙しくなる」

 

「駄目じゃないですか!」

 

「だが、後で効く」

 

 トモエが頷いた。

 

「そういうものだよ。仕組みは最初に手間がかかる。けど、仕組みを作らない部隊は、いつまでも団長の喉元に全部ぶら下がる」

 

 ジィッドは、また小さく呟いた。

 

「副官が欲しい」

 

 バギィとトモエが同時に言った。

 

「いないねぇ」

 

 若手たちから笑いが漏れた。

 

 ニナリスが端末に入力する。

 

「銀月式分掌型副官機能、運用開始。発端、ジィッド様の副官不足に関する悲鳴」

 

「そこは消せ」

 

「教育資料として有用です」

 

「消せ」

 

「検討します」

 

 ジィッドは諦めたように息を吐いた。

 

 若手たちはまだ不満そうだった。

 

 星を取りたい。

 前へ出たい。

 見出しになりたい。

 

 その熱は消えていない。

 

 だが、その熱の周囲に、文書、白旗、整備、給養、救護、噂という線が張られ始めていた。

 

 跳ねっかえりの集まりが、少しずつ騎士団になっていく。

 

 ジィッドは分掌表を見上げ、短く言った。

 

「これで行く」

 

 若手たちは、まだ渋い顔をしながらも答えた。

 

「了解」

 

 その返事は、少しだけ揃っていた。

 

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