イースト・ハスハ国境・パーキングエリア
民間仕様のランドスキッパーは、パーキングの端に停まっていた。
軍用ではない。
外装も、速度も、積載も、どこにでもある民間移動車に見える。
ただし、近づいてよく見れば、窓の遮光処理と内部の温度管理だけが妙に上等だった。
ファティマを乗せている。
それも、一名ではない。
ハイトは運転席から降り、固定された腕を少し気にしながら、後部座席の方へ声をかけた。
「ちょっと買い物です。待っててください」
中から、ファティマの声が揃う。
「はい」
その返事が素直すぎて、ハイトは少しだけ緊張した。
彼女たちは、命じられた範囲なら完璧に動く。
だが、命じられていない範囲では動かない。
だから買い物はハイトの役目だった。
飲料。
軽食。
冷却布用の精製水。
ついでに自分の胃薬。
ハイトは売店へ向かった。
その途中だった。
「おい!」
声をかけられた。
男が三人。
服装は旅商人風。
だが、目が車の方を見ている。
ランドスキッパーではない。
中にいるファティマを見ている。
「お前よー、ファティマ運んでんじゃねーかー?」
ハイトの背中に冷たいものが走った。
ヤバい。
ブローカーだ。
「お披露目前だろ? 最近やっとファティマの生産が増えてな。いやー、ファティマが減ると仕事がなくて大変なんだわ」
男は笑っていた。
笑っているが、目は笑っていない。
ハイトは、ジィッドの声を思い出した。
/*/
ブローカーに絡まれたら、騎士服と護衛騎士章を見せろ。
相手が引けば終わり。
引かなければ名を聞け。
名を出さないなら黒豹に渡す。
手を出したら斬れ。
/*/
斬れ。
その部分だけ、やけにはっきり思い出した。
ハイトは息を吸った。
逃げ腰になりそうな肩を、無理やり上げる。
胸を張る。
バッハトマ魔法帝国の紋章入り騎士服の上着がよく見えるようにする。
そして、首に下げた護衛騎士章を指で弾いた。
「あの子らは、バッハトマ魔法帝国・銀月騎士団のファティマだ」
声が少し震えた。
だが、言い切った。
「それでも手を出すのか?」
男たちの顔が変わった。
「うわ! バッハトマ!!」
「え?」
「すいません、バッハトマの方でしたか! いやいや、思いっきり勘違いですわ!」
一気に腰が低くなった。
ハイトは内心で固まった。
効いた。
めちゃくちゃ効いた。
男の一人が、ハイトの固定された腕を見た。
白銀色の再生デバイス。
軍用の標準固定具ではない、高価で精密なもの。
男の喉が鳴る。
「腕、お、お大事にして下さい!」
「うちらも忙しくて他に行ってくるんで! また!」
「またはない」
ハイトは思わず言った。
「は、はい! ないです!」
男たちは足早に離れていく。
少し離れたところで、聞こえた。
「誰だ? 弱そうとか言った奴は」
「お前だろ!」
「バカヤロー、あんなすげー再生デバイスつけた奴がただ者なわけねーだろ!」
「バッハトマだぞ、バッハトマ! 銀月騎士団って言ってたぞ!」
「関わるな関わるな!」
男たちは本当に消えていった。
ハイトは、その場でしばらく立っていた。
背中に汗が流れる。
護衛騎士章が、妙に重い。
「……あ、あぶなかった」
声が漏れた。
「あぶなかった……」
手を出されたわけではない。
剣を抜いたわけでもない。
戦ってもいない。
だが、危なかった。
紋章。
騎士服。
護衛騎士章。
再生デバイス。
ジィッドが全部持たせた意味が、いま腹に落ちた。
ハイトはランドスキッパーの方を振り返った。
ファティマたちは、命じられた通り待っている。
何もなかったように。
だが、何かはあった。
「……誰か、つけてもらった方が良いのかも」
ハイトは小さく呟いた。
それから売店に入り、予定より多めに水と軽食を買った。
胃薬も、二箱買った。