ちゃんと軍人教育受けてるジィッドくん   作:ぶーく・ぶくぶく

95 / 96
星団歴3069年
なんか銀月騎士団だけ仕事増えてない?


/*/ 星団暦3069年・ナカカラ防衛戦・開戦前状況 /*/

 

 

 

 星団暦3069年。

 

 膠着していたミノグシア全土の戦線に、再び大きな波が走った。

 

 枢軸――ミノグシア側がそう呼ぶ軍勢。

 

 ただし、彼ら自身は自軍を「同盟軍」と称している。

 

 魔導大戦開戦時、そしてその後の侵攻によって失われた各国の戦力は、長い年月をかけて補充されつつあった。

 

 ミノグシア連合。

 

 ギーレル。

 

 ハスハ。

 

 それらも同様に戦力を立て直していた。

 

 だが、状況は単純ではない。

 

 枢軸の大国の多くは、すでに獲得した占領地へ戦力を貼り付けている。

 

 軍を動かせば、占領地が揺らぐ。

 

 動かさなければ、ナカカラへの侵攻に対応できない。

 

 その隙を突くように、枢軸軍――あるいは同盟軍――は、大規模な再侵攻作戦を開始した。

 

 

 

/*/ 各勢力の動き /*/

 

 

 クバルカン法国

 

 ギーレルにあるクバルカン法国騎士団は動かなかった。

 

 ギーレル、ナオス国との安全保障条約がある。

 

 新法王レイバックは、ギーレルをストラウス政神官長に任せ、本国で静観するのみ。

 

 宗教国家としての重みはある。

 

 だが、この局面で剣を抜くことはなかった。

 

 

/*/

 

 

 コーラス軍

 

 唯一、動きを見せたのはベラに駐屯するコーラス軍だった。

 

 しかし、枢軸北部のミノグシア国境接近によって、コーラス軍はベラ国境南部に留まる。

 

 動いた。

 

 だが、踏み込めない。

 

 睨み合いで止まる。

 

 

/*/

 

 

 ガマッシャーン共和国

 

 枢軸の一端を担っていたガマッシャーン共和国は、3031年のベラ攻防戦以降、ほとんど動きを見せていなかった。

 

 今回も、わずかな軍の移動のみ。

 

 実質的には静観。

 

 枢軸離脱が濃厚ではないか、という噂が各所で流れる。

 

 誰も明言しない。

 

 だが、誰もが気づいている。

 

 

/*/

 

 

 聖宮ラーン

 

 聖宮ラーンは沈黙した。

 

 司政官らと、駐留するフィルモア高官らは完全静観の立場を取り、一切のコメントを出さない。

 

 沈黙もまた、政治的な意思表示だった。

 

 

/*/

 

 

 バッハトマ魔法帝国の展開

 

 この再侵攻作戦において、バッハトマ魔法帝国は大規模な騎士団戦力を展開した。

 

 黒騎士団

 デコース・ワイズメル以下待機120騎

 

 黒騎士団は、ハスハント共和国の西部国境沿いに展開。

 

 シーゾス王国とギーレル王国に睨みを効かせる。

 

 これは攻撃ではない。

 

 だが、動けば戦線が崩れる。

 

 デコースがそこにいる。

 

 それだけで、敵は無視できない。

 

 黒騎士団120騎は、戦わずして敵戦力を縛るための巨大な錨だった。

 

 

/*/

 

 

 黒豹騎士団

 

 アーリィ・ブラスト大佐以下72騎

 

 黒豹騎士団は、ナカカラ北部へ展開。

 

 機動力と前線での鋭い圧力を担う。

 

 アーリィ・ブラスト大佐はまだ若い。

 

 だが、黒豹騎士団は若いだけの部隊ではない。

 

 前線で削られ、補給を受け、再び出る。

 

 ノウラン=オータ=ボルサ圏で整備を受けてきた黒豹騎士団は、銀月騎士団の補給能力も知っている。

 

 

/*/

 

 

 銀月騎士団

 

 ジョー・ジィッド・マトリア以下58騎

 

 銀月騎士団は、ジィッド以下58騎をナカカラ北部へ投入。

 

 総保有戦力から見れば少ない。

 

 だが、それは当然だった。

 

 銀月騎士団は、もはや全騎を前線へ投げ込める単純な騎士団ではない。

 

 ノウラン市。

 

 オータ市。

 

 王都ベイジ。

 

 周辺衛星都市。

 

 ボルサ諸島列島。

 

 街道。

 

 倉庫。

 

 税収輸送路。

 

 乳製品・保存食・酒造・軍需補助工房。

 

 それらを守る必要がある。

 

 ジィッドは、全力出撃をしない。

 

 できないのではない。

 

 しない。

 

 都市圏を空にすれば、補給も税収も治安も崩れる。

 

 だからナカカラへ持ってきたのは、銀月騎士団の中核機動戦力58騎。

 

 デムザンバラを旗騎とする、精鋭の出張戦力だった。

 

 

/*/

 

 

 バッハトマ騎士団180騎

 

 バッハトマ騎士団は180騎を展開。

 

 主力として、戦線全体を支える大部隊。

 

 数の重み。

 

 国家騎士団としての正面圧力。

 

 それを担う。

 

 

/*/

 

 

 ナカカラ北部の配置

 

 ナカカラ北部には、黒豹騎士団と銀月騎士団が展開した。

 

 ただし最前線ではない。

 

 ロッゾ傭兵騎士団と西部騎士団連合の後方についた。

 

 

/*/ ナカカラ北部・銀月騎士団前線司令車 /*/

 

 

 作戦図の上に、赤と黒と銀の線が引かれていた。

 

 赤は敵。

 

 黒は黒豹。

 

 銀は銀月。

 

 そして前面には、ロッゾ傭兵騎士団と西部騎士団連合の線。

 

 ジョー・ジィッド・マトリアは、しばらくその図を見ていた。

 

「五十八騎か」

 

 ラドが答える。

 

「はい。銀月騎士団投入戦力、五十八騎」

 

 ノエルが補足する。

 

「ノウラン、オータ、ボルサ、周辺衛星都市、街道守備、倉庫警備、税収輸送、後方整備を残すと、これ以上は危険です」

 

 ジィッドは頷いた。

 

「分かっている。全部持ってきたら、勝って帰る場所がなくなる」

 

 管理官から届いた書簡も、机の端に置かれている。

 

 

 

/*/

 

 

 ナカカラ戦線投入戦力は承認。

 ただしノウラン=オータ=ボルサ圏の税収維持、酒造輸送、保存食出荷、産院支援、街道警備に影響を出さないこと。

 

 

/*/

 

 

 

 ジィッドは、その一文を見て顔をしかめた。

 

「戦争中に産院支援を忘れるなと来るとはな」

 

 ラドが真顔で言う。

 

「忘れたら後方が怒ります」

 

「後方が強くなりすぎた」

 

「団長が育てました」

 

「育てた覚えはない」

 

 ノエルが低く笑う。

 

「星団暦3031年からの継続案件です」

 

「その言い方をするな」

 

 ジィッドは作戦図へ視線を戻した。

 

「黒豹は?」

 

「アーリィ大佐以下七十二騎。北部機動予備として配置」

 

「黒騎士団は?」

 

「デコース隊長以下百二十騎。ハスハント西部国境沿い。シーゾスとギーレルへの牽制です」

 

「動かないことで縛る部隊か」

 

「はい」

 

「バッハトマ騎士団は?」

 

「百八十騎。主力正面」

 

 ジィッドは小さく息を吐いた。

 

「大戦力だな」

 

「枢軸は半数の戦力を投入した、と見られています」

 

「ミノグシア側は?」

 

「戦力補充は進んでいますが、占領地に縛られた国が多い。クバルカンは動かず。コーラスはベラ南部で停止。ガマッシャーンもほぼ動かず。ラーンは完全静観」

 

「つまり、ナカカラは孤立しやすい」

 

「はい」

 

 ジィッドはしばらく黙った。

 

 それから、デムザンバラの駒を作戦図の後方線へ置いた。

 

「銀月は前へ出すぎない」

 

 ラドが頷く。

 

「いつもの形ですか」

 

「いつもの形だ」

 

 ジィッドは言う。

 

「敵を斬りに行くな。敵を崩せ。ロッゾと西部騎士団が受けた敵の逃げ道を塞げ。黒豹が刺せる位置へ流せ。バッハトマ騎士団の正面圧力を活かせ」

 

「撃破数は?」

 

「気にするな」

 

 ノエルが笑う。

 

「また最下位になりますよ」

 

「なら記事が書きやすい」

 

 ラドが肩をすくめる。

 

「マトリア卿、不調か。ナカカラでも撃破数振るわず」

 

「敵が信じるなら安い」

 

 ジィッドは静かに言った。

 

「銀月の仕事は、星を取ることじゃない。戦線を残すことだ」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。