なんか銀月騎士団だけ仕事増えてない?
/*/ 星団暦3069年・ナカカラ防衛戦・開戦前状況 /*/
星団暦3069年。
膠着していたミノグシア全土の戦線に、再び大きな波が走った。
枢軸――ミノグシア側がそう呼ぶ軍勢。
ただし、彼ら自身は自軍を「同盟軍」と称している。
魔導大戦開戦時、そしてその後の侵攻によって失われた各国の戦力は、長い年月をかけて補充されつつあった。
ミノグシア連合。
ギーレル。
ハスハ。
それらも同様に戦力を立て直していた。
だが、状況は単純ではない。
枢軸の大国の多くは、すでに獲得した占領地へ戦力を貼り付けている。
軍を動かせば、占領地が揺らぐ。
動かさなければ、ナカカラへの侵攻に対応できない。
その隙を突くように、枢軸軍――あるいは同盟軍――は、大規模な再侵攻作戦を開始した。
/*/ 各勢力の動き /*/
クバルカン法国
ギーレルにあるクバルカン法国騎士団は動かなかった。
ギーレル、ナオス国との安全保障条約がある。
新法王レイバックは、ギーレルをストラウス政神官長に任せ、本国で静観するのみ。
宗教国家としての重みはある。
だが、この局面で剣を抜くことはなかった。
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コーラス軍
唯一、動きを見せたのはベラに駐屯するコーラス軍だった。
しかし、枢軸北部のミノグシア国境接近によって、コーラス軍はベラ国境南部に留まる。
動いた。
だが、踏み込めない。
睨み合いで止まる。
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ガマッシャーン共和国
枢軸の一端を担っていたガマッシャーン共和国は、3031年のベラ攻防戦以降、ほとんど動きを見せていなかった。
今回も、わずかな軍の移動のみ。
実質的には静観。
枢軸離脱が濃厚ではないか、という噂が各所で流れる。
誰も明言しない。
だが、誰もが気づいている。
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聖宮ラーン
聖宮ラーンは沈黙した。
司政官らと、駐留するフィルモア高官らは完全静観の立場を取り、一切のコメントを出さない。
沈黙もまた、政治的な意思表示だった。
/*/
バッハトマ魔法帝国の展開
この再侵攻作戦において、バッハトマ魔法帝国は大規模な騎士団戦力を展開した。
黒騎士団
デコース・ワイズメル以下待機120騎
黒騎士団は、ハスハント共和国の西部国境沿いに展開。
シーゾス王国とギーレル王国に睨みを効かせる。
これは攻撃ではない。
だが、動けば戦線が崩れる。
デコースがそこにいる。
それだけで、敵は無視できない。
黒騎士団120騎は、戦わずして敵戦力を縛るための巨大な錨だった。
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黒豹騎士団
アーリィ・ブラスト大佐以下72騎
黒豹騎士団は、ナカカラ北部へ展開。
機動力と前線での鋭い圧力を担う。
アーリィ・ブラスト大佐はまだ若い。
だが、黒豹騎士団は若いだけの部隊ではない。
前線で削られ、補給を受け、再び出る。
ノウラン=オータ=ボルサ圏で整備を受けてきた黒豹騎士団は、銀月騎士団の補給能力も知っている。
/*/
銀月騎士団
ジョー・ジィッド・マトリア以下58騎
銀月騎士団は、ジィッド以下58騎をナカカラ北部へ投入。
総保有戦力から見れば少ない。
だが、それは当然だった。
銀月騎士団は、もはや全騎を前線へ投げ込める単純な騎士団ではない。
ノウラン市。
オータ市。
王都ベイジ。
周辺衛星都市。
ボルサ諸島列島。
街道。
倉庫。
税収輸送路。
乳製品・保存食・酒造・軍需補助工房。
それらを守る必要がある。
ジィッドは、全力出撃をしない。
できないのではない。
しない。
都市圏を空にすれば、補給も税収も治安も崩れる。
だからナカカラへ持ってきたのは、銀月騎士団の中核機動戦力58騎。
デムザンバラを旗騎とする、精鋭の出張戦力だった。
/*/
バッハトマ騎士団180騎
バッハトマ騎士団は180騎を展開。
主力として、戦線全体を支える大部隊。
数の重み。
国家騎士団としての正面圧力。
それを担う。
/*/
ナカカラ北部の配置
ナカカラ北部には、黒豹騎士団と銀月騎士団が展開した。
ただし最前線ではない。
ロッゾ傭兵騎士団と西部騎士団連合の後方についた。
/*/ ナカカラ北部・銀月騎士団前線司令車 /*/
作戦図の上に、赤と黒と銀の線が引かれていた。
赤は敵。
黒は黒豹。
銀は銀月。
そして前面には、ロッゾ傭兵騎士団と西部騎士団連合の線。
ジョー・ジィッド・マトリアは、しばらくその図を見ていた。
「五十八騎か」
ラドが答える。
「はい。銀月騎士団投入戦力、五十八騎」
ノエルが補足する。
「ノウラン、オータ、ボルサ、周辺衛星都市、街道守備、倉庫警備、税収輸送、後方整備を残すと、これ以上は危険です」
ジィッドは頷いた。
「分かっている。全部持ってきたら、勝って帰る場所がなくなる」
管理官から届いた書簡も、机の端に置かれている。
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ナカカラ戦線投入戦力は承認。
ただしノウラン=オータ=ボルサ圏の税収維持、酒造輸送、保存食出荷、産院支援、街道警備に影響を出さないこと。
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ジィッドは、その一文を見て顔をしかめた。
「戦争中に産院支援を忘れるなと来るとはな」
ラドが真顔で言う。
「忘れたら後方が怒ります」
「後方が強くなりすぎた」
「団長が育てました」
「育てた覚えはない」
ノエルが低く笑う。
「星団暦3031年からの継続案件です」
「その言い方をするな」
ジィッドは作戦図へ視線を戻した。
「黒豹は?」
「アーリィ大佐以下七十二騎。北部機動予備として配置」
「黒騎士団は?」
「デコース隊長以下百二十騎。ハスハント西部国境沿い。シーゾスとギーレルへの牽制です」
「動かないことで縛る部隊か」
「はい」
「バッハトマ騎士団は?」
「百八十騎。主力正面」
ジィッドは小さく息を吐いた。
「大戦力だな」
「枢軸は半数の戦力を投入した、と見られています」
「ミノグシア側は?」
「戦力補充は進んでいますが、占領地に縛られた国が多い。クバルカンは動かず。コーラスはベラ南部で停止。ガマッシャーンもほぼ動かず。ラーンは完全静観」
「つまり、ナカカラは孤立しやすい」
「はい」
ジィッドはしばらく黙った。
それから、デムザンバラの駒を作戦図の後方線へ置いた。
「銀月は前へ出すぎない」
ラドが頷く。
「いつもの形ですか」
「いつもの形だ」
ジィッドは言う。
「敵を斬りに行くな。敵を崩せ。ロッゾと西部騎士団が受けた敵の逃げ道を塞げ。黒豹が刺せる位置へ流せ。バッハトマ騎士団の正面圧力を活かせ」
「撃破数は?」
「気にするな」
ノエルが笑う。
「また最下位になりますよ」
「なら記事が書きやすい」
ラドが肩をすくめる。
「マトリア卿、不調か。ナカカラでも撃破数振るわず」
「敵が信じるなら安い」
ジィッドは静かに言った。
「銀月の仕事は、星を取ることじゃない。戦線を残すことだ」