なかよし川日記   作:alc

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大学入学後、なかよしイベントがあまり発生しなかった場合(私がなかよし川日記をあまり続けられなかった場合)に訪れるであろうあり得る世界線のお話。
些細なことからつながりを維持できなくなることはよくあると思いますが、そこから何か得られるものもあるはず。そんな風なことが少しでも描けていればいいなと思って書いてみました。

【初出】
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24540324


引っ越し Bad End

「懐かしいものが出てきたわね…」

 

 引っ越しの荷物を用意していると、一枚の大きな布が出てきた。手に取ると、指先にかすかなざらつきを感じた。ペンキによって青色に染められたバンド幕。4年前、高校の卒業式前にいつもの4人で、宇治川のほとりで作ったものだ。ペンキで染めた青は、あの頃の空の色と同じだった。作った当時はこの4人は大学に進学しても――別の大学や同じ大学の別の学部だったとしても、仲良くあり続けるのだろう。そう思っていた。

 だが、最後に4人で会ったのはもうかなり前。私たちが思っていたよりも高校生の「部活」という存在は、私たちを結びつけるための強い機能を持っていたらしい。入学当初こそ、昼休みに一緒に過ごしたり、みぞれを呼んで休日に遊びに行ったりしていた。夏休みに、取り立ての運転免許を利用して、4人で旅行したこともある。だが気づけば、集まることは少なくなっていた。

 

 

 それぞれのサークル活動や、学部ごとに異なる講義棟や講義の時間帯。バイトのシフトによる予定のズレ。同じ学部やサークルの友人、バイトの同僚と過ごす時間が増えるのは自然な流れだった。

 まず会う機会が減ったのは、希美だった。オーケストラサークルのフルート奏者としてめきめきと実力を発揮していく彼女は、その分多くの役割を担うことになり、会う機会が減るのも必然だった。もちろん、演奏の度に連絡をくれたし、みんなで聴きに行くこともあったけれど、日常的に会うとなるとやはり難しかった。希美と会う機会が減れば、みぞれとも会う機会が減るのも自然な流れだった。

 アイツとは、大学に入って結成した4人組ガールズバンドの活動があったおかげで、他の2人よりも長い時間を一緒に過ごしてきたように思う。でも、私たちメンバーが就職活動で忙しくなり始めたのをきっかけに、バンド活動を休止することになってからは、やっぱり会う機会は極端に減ってしまった。

 会う機会が激減するきっかけとなったのは、バンドの活動休止からしばらく経った後のことだ。予定より長引いたバイトの帰り、時計の針が頂点で交わるころに帰宅したその日。エレベーターを降りた私の目に飛び込んできたのは、見知らぬ男と仲良さそうに部屋へ入るアイツの姿だった。

 その時の私は、どんな表情をしていたのだろう。その場に立ちすくむ私と、部屋の扉を閉めようとしていたアイツの視線が交差する。その瞬間、楽しそうだった表情が一変し、申し訳なさそうな顔をして目線をそらしたことだけは覚えている。

 

 アイツはいいやつだ。それは、楽しくもきつかったあの1年間を一緒に過ごした私にはよくわかる。いい人の周りにはいい人が集まる。そして、そこに異性がいれば関係が発展することもあるだろう。私はアイツの恋人でも何でもないのだから、アイツの新しい関係の始まりを祝福しても、否定する権利などない。それで、少し気を利かせて翌日の昼にメッセージアプリで「おめでとう」とだけ送った。少しして「ありがとう」と返信が来た。

 それが、アイツとの最後のやり取りだった。

 

 結局のところ、すべては私の気の持ちようだった。あの高3の一年間で、どんなことでも話をしていた私たち。部活のことだけでなく、プライベートな話もしょっちゅうしていた。そのころの関係から私が抜けきることができず、「恋人ができた」というプライベートな話題を共有してもらえなくなったことに、私がただ拗ねていただけなのだ。その時になって初めて、私がかなりアイツに依存していたということに気が付いた。かつての希美とみぞれのようなねじれた依存とは違う。どんな時もアイツが隣にいることに慣れてしまった私が、それをあたり前のものとして、無意識のうちに頼ってしまっているだけなのだ、と気が付いた。

 

 気が付いてから、意識的にアイツと関わるのをやめた。今から思えば、それがいけなかった。

 就職活動に熱心に取り組んだ私は、第一志望の企業の最終面接当日、体調を崩して欠席してしまうということをやらかしてしまった。本番で完璧に話すために、何度もシミュレーションし、1日3時間ほどしか眠れない日が続いた。頑張りすぎたのだ。思い返せば、部長をやっていた時も、よくアイツから「頑張りすぎだから休め」と言われていた気がする。自分のストッパーの役割をアイツに依存してしまっていて、その状態から自分が抜けきる前に、就活の一番大事な局面を迎えてしまった。

 困ったことに、アイツは全く悪くないのに、「あんたが止めてくれなかったから」というひどい言い訳が脳内に浮かぶようになってしまった。すべての原因は私にあるとわかっているのに、何かしらをぶつけないと気が済まない。また会うようになった時に、その理不尽な気持ちをぶつけてしまうのが怖かった。だから、また一層距離を離すことにした。

 就活に失敗して途方にくれていた私を不憫に思ったのか、バイトをしていた楽器店の店長が、京都から遠く離れた地の仕事を紹介してくれた。公共交通機関を利用して4時間以上。物理的にも離れることができる。これできっと私は巣立つことができる。そう思い、店長の紹介を承諾し、引っ越すことになった。リズと青い鳥では、青い鳥は自由に空にはばたくために飛び立った。私は、自分に甘えることなく、より厳しい世界に向けて飛び立つのだ。どこまで飛べるかは分からない。でも、この選択が私を強くしてくれるはずだ。

 

「よろしくお願いします」

 

 頼んだ荷物をすべて持って行ってくれた引っ越し業者にお礼を言った。あとは、2日後に現地で荷物を受け取るだけ。

 残った荷物は、数日分の着替えを入れたキャリーバッグ、6年前アイツに選んでもらったおそろいのエレキギター、そして青色のバンド幕。そのうち、持っていくのはキャリーバッグだけ。

 これから返す鍵を使い、自室だった部屋の鍵を閉める。そして、隣のアイツの部屋の入口脇に、ギターとバンド幕を置き、その上に便箋に入れた手紙を添えた。

 『中川夏紀様へ』。そう記された便箋の中身は、4年前にアイツに渡した手紙と比べたら驚くほど簡素だった。

 これで、自分の気持ちに一区切りつけられる。少し名残惜しい気がするが、これが私の選んだ道だ。自分で終わらせることを選んだ。

 誰もいないマンションの外廊下で、アイツの部屋に向かって深々と一礼する。もちろん、この行動がアイツに伝わることはない。それでも、自分自身で区切りをつけるための儀式だ。

 短い一礼を終えた私は荷物を持ち、エレベーターへと向かう。もう、振り返らない。もしかしたら、二度と会うことはないのかもしれない。

 目が潤んでいるような気もするが、気のせいだと自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『中川夏紀様へ

 中学のころから約10年、ありがとう。そして、さようなら。』

 

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