つかれました。
(体が軽い――)
巴マミは、乱舞していた。
(こんな幸せな気持ちで戦うなんて、初めて)
乱舞し、飛翔し、マスケット銃で次々とどこかグロテスクな魔女の手下を撃ち消していく。
(もう何も恐くない。私、独りぼっちじゃないもの――!)
彼女はどうしようもなく満たされていた。鹿目まどかという新しい仲間。孤独からの脱却。恐怖からの救済。この荒唐無稽な戦場に、手が差し伸べられたのだ。故に巴マミはいつも以上に『はしゃいで』いたし、いつも以上に格好付けていた。
(……格好付け?)
不意に、彼女の中に違和感が浮上した。オープンカフェの席で感じた、名状し難い奇妙な感覚。
(私は何か見落として――忘れていないか?)
巴マミは思い出す。今、自分が手を繋いでいる鹿目まどか。救うべき美樹さやか。自分にこの力を与えた『キュゥべえ』。入口付近で縛り上げた憎き暁美ほむら。思い出すキャラクターはそれだけだ。何か見落としている事項なんて、それこそ見当たらない。
(気のせいかしら。それにしても不愉快ね、せっかくの良い気分に水を差されたような感じがする)
努めて彼女は、笑顔を湛えていた。格好付けたままでいた。しかしこの時点で巴マミは自らの、魔法少女になってからの記憶の欠落に気付いており、故に苛立ちを覚えていた。その苛立ちを外に出さぬように気を張るものの、結果としてはそれ自体が彼女の苛立ちを加速させることに繋がった。
『演技だよ、巴。余裕のある振り、強い振り、賢い振り、格好付け。あとはボロが出ないように、精々気を張ってな』
(誰?)
『よくやった。何だ、そういう表情もできるじゃないか――可愛い笑顔だぜ、弟子ちゃん』
(誰なの?)
男の声が聞こえる。知らない男だ。フラッシュバックする彼の顔は、靄がかかったように思い出せない。父親? クラスメイト? 教師?
(――教師?)
候補としてはそれが一番引っ掛かる。だが自分は、この男に全体何を教わったというのだろう。およそ、学校にいる先生とは考えられない。
(馬鹿馬鹿しい、集中しよう)
一度脳内をリセットして、巴マミは『魔女』の蹂躙に戻る。ぬいぐるみの形状をした、今までの魔女とは一線を介したデザインの魔女。無抵抗どころか無動作だが、巴マミの『違和感』は作用することはなかった。この時点に関しても、彼女の脳内は『憶えていない彼』を『忘れること』で一杯だった。だから本来抱くべき魔女への不審に反応することなく、美樹さやかの歓声と共に必殺技を発動させる。
「『ティロ・フィナーレ』!」
瞬間。
違和感が、復活した。
『アルティマシュート――とか?』
(だから、誰?)
『ダサいって……これでも僕、一生懸命考えたんだけどな。ファイナルショットなんてどうだ?』
(あなたは誰なの?)
『イタリア語? イタリアが好きなのか? まあ、何でもいい。図書館にでも言ってみようか。辞書を引いて、それっぽいのを探そう』
(どうして私の心に土足で踏み込むの? どうして私を抱き締めるの? どうして私を侵すの? どうして私を犯すの? どうして、私は――)
忘れることは出来ても、消すことは出来ない。
(こんなにも、嬉しいの?)
果たして、それすらも彼の計算内なのだろうか。巴マミの思考は既に煮詰まった地点に辿り着いていた。そして最後のトリガーを引いたのは、皮肉にも現在相対しているシャルロッテだった。
白面。キャンディを肉体に散りばめたような黒い芋虫。本性を現した『彼女』は緩慢に、それでいて急速に伸び、尖った牙の並ぶ口を開いた。
通常運転の巴マミならば、この程度の攻撃に脅かされることなどなかった。
(あ)
しかし、被ってしまったのだ。
(ああ、この人は――)
大口を開けた化物は、数時間前に自分を呑み込んでしまうように抱擁し、口づけをした、あの男に似ていた。
(いいわ、私のすべてはあなたのモノ。あなたのすべては私のモノ)
強制的に忘却された魔法の復活。それは巴マミを『狂わせる』には十分であった。
「これでずっと一緒ね、なはとさん」
まるで立場が逆転したように、無抵抗に無動作に、巴マミは魔女の牙を受け容れた。
以上が、インキュベーターにより語られた巴マミの死亡に至るまでのプロセスである。
「――まさか」
同じ頃、拘束から解放された暁美ほむらが、とある『真実』に辿り着こうとしていたのは、別の話である。
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「ここまで予想通りなのかい? なはと」
病院のテラスベンチにて。
結界から出て来た鹿目と美樹を精一杯慰めて、帰らせて、僕は白いけだものの姿をしたインキュベーターと二人、残った。
「何の話だ?」
「白を切らなくていい。諌めるべきことじゃないんだ」
「つまり、お前も望んでいたってことか――巴マミの、退場を」
「人聞きが悪いなあ。僕が言いたいのは、彼女たちが魔法少女になるきっかけが出来たってことさ。特に鹿目まどか。彼女のような逸材が魔法少女になってくれれば、それほど頼りになることはない」
楽観的な思考だ。所詮は心を持たない代替品か。
「分からねえよ。むしろ十中八九、これをきっかけにして奴らはこの件から手を引くだろう。そうなったらこの街にも別の魔法少女が要るな――まあ、それはお前に任せよう」
「了解。では二人のことはあなたに任せていいんだね?」
諦めるつもりは無し、か。心は無くとも貪欲な奴だ。
「――とりあえず今日は、巴の後始末をしてくるよ」
「珍しいね。あなたがそんな雑事を引き受けるなんて。回収したって、ソウルジェムは永く持たないだろうに」
「五月蠅いな、放っておけ。単なる『食欲』だよ――お前もとっとと鹿目のところに行けよ。怪しまれるぞ」
なんて言うと、まるで僕とこのけだものが共犯関係にでもあるようだ。断じて、そんなことはない。僕と彼の目的は正反対の方向を見据えている。その為に、僕が何より騙すべきは『キュゥべえ』なのだ。
彼の僕に向けられる『一応の信頼』が途切れぬよう。敵に回さぬようするのは、きっと骨の折れる仕事だろう。
「最後に訊きたいのだけれど、なはと」
彼は振り返って、不意に尋ねた。
「マミのこと、好きだったかい」
「嫌いだったよ」
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『キャンデロロ』。
おめかしの魔女。性質は『招待』。その習性に従ったものなのか、結界に立ち入った僕の前にはテーブルと椅子が現れ、ティーカップからは湯気が立ち昇っていた。
結界内は屋内のような造りになっている。西洋風の屋敷の一室。並ぶテーブル、シャルロッテのそれとは違う細やかなお菓子。まるで誕生パーティだ。ただ一つ、異質な点があるとすれば(この空間が既に異質なのだが)そのどれもが腐敗していたことだ。
あちこちが軋み、錆びれ、テーブルは簡単に粉砕できそうなほどに脆い。紅茶には油が浮いていて、ケーキには虫が集っている。
そのケーキの角から、巴マミが姿を現した。
『なはとさん』
否。もはやそれは巴マミではない。おめかしの魔女――魔女と呼ぶにはあまりにも小さな、それでいて煌びやかで美しい、妖精にも似た『化物』。それがキャンデロロだった。
『好き。大好きなの。なはとさんが大好き。愛してる』
「……巴」
『好き。あなたが好き。誰よりも、何よりも。あなたがいてくれるなら何も要らない。要らない。もう、何も要らない。何も恐くない。恐くない。恐くないから、恐いんです。あなたが、恐いんです。大丈夫。でもあなたがいるから大丈夫。あなたがいてくれなきゃ、大丈夫じゃない』
「そうか。よく分かった」
魔女に言葉は通じない。魔女に心は通じない。にも関わらず、彼女がこんなにまで想いを訴えてくるということは、つまり巴マミが絶望した理由は、僕にあるのだ。
魔法少女は魔女になる。
絶望に穢れたソウルジェムはやがてその形をグリーフシードに変える。魔女を倒すための魔法少女が、その敵に姿を変えるなど皮肉だろう。だけどそうやって、このサイクルは為されていた。
「まるでマッチポンプじゃないか――まあ、僕もその一端を担ってるんだけどさ」
キャンデロロは緩慢にテーブルの上を這い、にじり寄る。その姿は死体のようにも見えた。これまで消えてきた多くの魔法少女は、自らの死に絶望していた。突発的に死んだ者も、理解しながら死んだ者も、肉体が死を感じた瞬間に超速度で絶望する。その結果が、この腐敗した魔女。永くは持たない。魔女化から一時間もせずに自然消滅してしまうのが、一度死を経由した彼女たちの定めだ。
『危なかったわね、でももう大丈夫。キュゥべえに選ばれたあなたたちには、どんな願いでも叶えられるチャンスがあるの。さて、それじゃ魔法少女体験コース第一弾、張り切って行ってみましょうか』
「醜悪だと言ってしまえばそれまでだけどさ、巴。僕は今のお前の方が、よっぽど好意的に見れるよ」
『もう、見世物じゃないのよ。ちゃんと見守ってるから安心して。魔女を倒せば、それなりの見返りがあるの』
「やることがはっきりしてるからかな。あとはもう、お前を消してあげることだけだ」
一歩、踏み出した。
その瞬間、鈍い黄色のリボンが僕の脚を絡め取った。
「お――っと」
そのままスムーズに、宙吊りにぶら下がる。世界が反転して見えた――キャンデロロもさかさま、そして向けられる銃口もさかさま。
『ちゃんと、出来たかな。私、ちゃんと先輩だったかな』
計十五丁のマスケット銃が、宙に浮いて僕の周りを取り囲んでいた。
「おい巴。ちょっと一回、待ってくれよ」
『なはとさん。愛してる』
「マミちゃーん?」
一斉に発砲された。魔法の銃弾が身体に喰い込む。腕。胸。腹。背中。首。肋骨に背骨、鎖骨、両肺、心臓、喉。抉り、削り、貫く。僕の人間のようなこの身体が十五の銃弾に蹂躙され、破壊される。
『なはとさん。なはとさん。なはとさん。なはとさん。なはとさん。なはとさん。なはとさん。なはとさん。なはとさん。なはとさん。なはとさん。なはとさん。なはとさん。なはとさん。なはとさん』
キャンデロロは浮遊し、宙吊りの僕に近付く。まるでフェードインするように、小さな魔女が徐々に大きくなる。しかし、不意に僕の視界を黒い物が覆った。
『愛してる』
「……嘘だろ、絶対」
それは規格外なほど巨大な銃口だった。もはや大砲と呼んだ方がいいのではないか、そう突っ込みたくなるような巴マミの『必殺技』だ。
『てぃろ・ふぃなーれ』
灼熱が、顔面を覆った。
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「私、学校で友達がいないの」
ふうん。何で?
「何でかな、合わないの。あの子たちは私のことを見てくれないから」
見せてやればいいじゃないか。どうにかして。
「無理よ、そんなの。今更、歩み寄るなんて出来ないわ」
じゃあ、別にいいんじゃないの。無理して友達作るのもおかしな話だ。学校には行けないけど、僕がいるじゃないか。
「……なはとさんが?」
ああ、僕が友達でいてやるよ。僕で我慢してろ。
「私、やっぱりなはとさんのこと好き」
それはどうも。
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呆けてしまった。僕が現実に引き戻されたのは、結界の床に無造作に放り落とされてからであった。血が広がっている。一瞬、誰のものかと思索を巡らせたが、答えは誰でもない僕のものだった。骨も、髄液も、臓物も、僕のものだ。僕の身体から老廃物のように落ちた破片たちである。
「……なあ、巴」
もちろん、身体の傷は全て再生された。
銃弾も砲弾も効いたものだけれど、こうなってしまえばダメージにカウントされない。考えてみれば狡い能力だ。完成した再生魔法なんて、もはやチートである。
「思えばきみは僕に『好き』って何回もいってくれたけどさ。僕は一回だってそれを返したことはなかったよな」
痛みを認識した所為か、身体が重い。肩を回して動作確認。まあ、どうにかなるだろうか。
「いや、別に今になって『好きだぜ』なんて言うつもりはないけどさ。ただ伝えてなかったことが申し訳ないなって」
キャンデロロは浮遊した状態で僕を見下ろす。「どうして死んでいないのか」なんて不思議に思う様子はない。ただ機械的に、攻撃対象として俯瞰している。
『なはとさん、好き』
「お前が嫌いだ」
僕はマスケット銃を召喚し、狙いを付けて、発砲した。弾丸が魔女の腹を貫く。同時に跳躍し銃の持ち手を変えて、床尾板をキャンデロロの脳幹に振り下ろした。
『なはとさん』
「お前が嫌いだ」
バットで打たれたボールのような勢いで、彼女は床に落下していく。同じように僕も落ち、ヒーローの空中キックよろしくキャンデロロを蹂躙した。
「お前が嫌いだ」
魔法で高速でマスケット銃に弾丸を装弾して、地に伏した魔女に発砲する。轟音。今度は脳天に穴を開けた。
「お前が嫌いだ」
同じ動作を何度も繰り返す。十三回。これでキャンデロロを抉った弾丸は十五発。僕と対等だった。
『なはとさん』
「気安く呼ぶな、糞餓鬼」
最後にマスケット銃を変形させる。規格外なほど巨大な銃口。大砲を、穴だらけのキャンデロロに向けた。
『好き。大好きなの。なはとさんが大好き。愛してる』
「嫌いだ。大嫌いだ。お前なんか大嫌いだ。愛してる」
僕は。
引き金を引いた。
「『ティロ・フィナーレ』」
それは、二人で決めた必殺技の名前だった。
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音を立てて、濁ったソウルジェムが床に落ちた。
「こういう時、優しい人なら巴の為に泣いてやるんだろうな」
オレンジ色は仄かにしか見えない。僕は軋む身体を曲げて、そのソウルジェムを拾い上げた。
「だけど僕は人間じゃないから、悲しんでやることなんてできない。特に感想を持つことなんて許されない――筈だったんだけどな」
溜息を吐く。振り返って、『彼女』に声を掛けた。
「で? いつまで見てるつもりなんだ、ほむら」
「………………」
腐敗した扉の陰から、暁美ほむらが姿を現した。黒い長髪。ベージュ色の制服。頑張って気配を消していたようだが、それを見逃すほど呆けていない。
「――それをどうするの? 巴マミのソウルジェム――というか何でまだ、残っているの。巴マミもその魔女も、既に消えてしまったというのに」
「僅かながら残るもんなんだよ。あと数分もないかな。つまり、これが僕の目的だったんだ。実はこのソウルジェムが貴重でな」
摘まみ上げた黒とオレンジのソウルジェム――絶望の詰まった卵殻を。
「いただきます」
口に入れた。
噛む。砕く。よく咀嚼する。呑む。形状を保つ塊も、オレンジ色の巴の魔力も、闇に塗れた絶望も、一緒くたに唾液で混ぜて喉に通す。
鉄の味がする。
「……あ、あなた……!」
「――っふう、美味い」
人間の作るコーヒーや菓子なんか比べものにならないほどに甘美な味だ。こんなものを喰った日には、二度と別の物を口に運ぶ気にはならない。
そりゃ、無感情でいられないさ。嬉しいに決まっている。
悲しむことは出来ないけれど、喜ぶことは出来る。
ありがとう、巴マミ。お前のお陰で僕はこれを喰うことができた。
「そんな顔をするなよ、ほむら。これは我々にとって必要なものなんだ。死と同時に魔女化し、やがて宿主を失い、短時間だけフリーズして現世に停滞するソウルジェム。便宜上、『ダーティソウルジェム』と呼んでるけどな」
「……そんなもののために!」
「そんなものとは随分だな。これは娯楽の無い我々にとって、唯一のご馳走なんだぜ? それに魔力だって大幅に回復する。まあ、魔法なんて大して使いもしないんだけど。――ていうか、お前知らなかったのか? 以前の時間軸でこういうところは見つけなかったわけ?」
確かに僕は基本的に、こういう『みっともない』ところを魔法少女はおろか、部下であるインキュベーターにも見せない。しかし幾度となく時間移動を繰り返してきた暁美ほむらなら、いずれかの時間軸で目にしていると思ったのだが。
「知らないわ――知ってるなら、それこそ全力で巴マミを死なせなかった」
「そして僕にも気を許さなかった?」
忌々しげに暁美の視線が刺さる。悪くない目だ。嫌悪と憎悪と恐怖。それぞれを均等に孕んでいる。
「逆に、どうして今回は気付いた? どうして僕の食事シーンを目にすることができた? さっきも言った通り、極力誰にも見られないようにしてたんだが――ていうか、どうしてあの状況で僕を尾行しようなんて思ったんだ。突き放されて、魔女を倒して、憎まれて。そのままもう一仕事なんて、ご苦労なことだ。お前は日本人か」
「……違和感が、あるの」
素敵な目をしたまま、暁美ほむらはぽつぽつと話し始める。
「形容し難い違和感――他人と自分さえの行動がどこか信用できなかった。まるで、誰かに動かされているような、自分の背中に操り糸がついているような気分だったわ」
そうか。いくつもの同じ時間を巡ってきた暁美ならば、それだけ細かい変化に気づき易くなる。これは意外な誤算だった。暁美ほむら、常人くらいには優れている。
「最初はキュゥべえの仕業だと思った。だから私は執拗に奴を狙ったのだけれど、どうやら違ったようね――ようやく気付いたわ」
「なるほど、それで僕が犯人であるという事実に辿り着いたわけか」
犯人、なんて言い方は推理小説の影響だろうか。最近になって気づいたことだが、あの手の本は犯人を予想しながら読むと面白そうだ。
「この世界はあなたによって仕組まれている。私たちはあなたの思惑に沿って行動してしまっている」
「そうだな、概ねそうだ。僕の努力の賜物だぜ。この世界にしてようやく、僕は僕の『野望』を記憶することができていた」
基本的に、僕という存在に魔法は効果を表さない。攻撃されれば再生。精神には効果すら皆無。現象を否定できる。ただし暁美の時間遡行のような広域的なものに関しては、巻き込まれる他なかった。ただし記憶のたった一部のみを引き継いで――それが僕に可能な唯一の抵抗だったのだ。
「ギャンブルだよ。果たして僕は何度目の世界でこの『野望』を引き継ぐことができるのか。まあ実際、この『野望』を抱いたのがいつなのかさえ明らかじゃないんだけどな」
「……分かってる。あなたが目的を持って行動すれば、どれほどの影響力が及ぶのか、私はそれにいつも怯えていた。つまり、その時が来たのね」
「いつまでも傍観者でいるつもりはない。もう、飽き飽きなんだよ。お前の周回プレイには。今度こそ僕はこの世界を終わらせてやる。――鹿目まどかを犠牲にして」
今度こそ。
暁美ほむらの顔色は、恐怖一色となった。
なかなかどうして、これも人間らしくていい顔じゃないか。
「邪魔したいのなら、好きにしろ。どうせお前に何か出来るわけでもないしな。ていうか、やらせるもんかよ。お前にはこれ以上、もう何も壊させない」
「そんなこと……!」
「認めないというのか? それは頼もしい。じゃあ楽しみにしてるぜ、ほむらちゃん」
僕は彼女の方に歩を進める。暁美ほむらはまだ恐怖に囚われているのか、後ずさりの途中で足をもつれさせ、尻餅をついた。震える瞳で僕を見上げる。
「あまり多くのことは教えないぜ。何せ今日から僕とお前は、名実ともに敵同士なんだ。巴は死んじゃったけど、これからは僕がお前といがみ合ってやるからな」
「馬鹿なことを……何を考えているか知らないけれど、止めなさい! どうしてまどかを犠牲にしなければならないの!」
「それを敵に教えてやるほど馬鹿じゃない――あと、もう止まらない。賽は投げられたんだ。始まりは終わり、終わりは始まる」
僕はしゃがんだ彼女の耳元に口を寄せて、攻撃するように教えてあげた。
「計画名は、『まどか・マギカ』」