想いの力は星を越えて 〜消えた冒険者と、名もなき少女たちのアクロニア譚〜 作:想いの力のその先へ
最初は連続更新ですが、いずれ不定期更新となります。
よろしくお願いいたします。
……ここは、どこだろうか?
目を開けるとそこには満天の星空。それはまだ良い。でも、問題は、その星空があまりにも近すぎることだった。
ここはどこなのか。そう思って立ち上がろうとして――。
「う、わわっ……!」
「あい、たたたぁ……」
そう、転がった。足場などないはずなのに。まるで、見えない床があるように。
その見えない床にしたたかに身体を打ち付けて、痛みが走った。
「もう、なんなの――」
と、そこまで言葉を吐き出し、止まる。
自分で思っていたより、明らかに声が高い。そして、下を見て驚く。
夜空もそうだけど、それ以上におかしいのは――自分の身体。自分の胸元に、覚えのないなだらかな膨らみがあった。あたしは慌てて自分の手を見た。
そこには華奢な、そして色白のきめ細やかな指が見えた。それは、まるで若い女性のようで――。
――どういうことだ。
俺は――/あたしは――
男だったはず/女で間違いない。
「う、ぐぅ……」
ずきり、と頭が痛んだ。足がふらつき、見えない床に膝をつく。
幸い、というか怪我の功名というか。頭の痛みのせいで少し混乱が治まってきた。
そして、先ほどあたしが居た場所の近くに、もうひとり。女の子が倒れているのに気づいた。
あたしは足が縺れるのも気にせず、彼女へ駆け寄った。
「ちょっと、あなた。大丈夫っ?!」
駆け寄ったあたしは、彼女の状態を調べつつ肩を揺する。少なくとも、見た感じ彼女は怪我をしていないみたい。
すぅすぅ、という寝息と胸が上下していることから、命に別状もない、と思う。
とりあえず、無事そうだと思い胸を撫で下ろす。
「……あらあら、騒がしいですねぇ」
――唐突に聞こえてきた第三者の声。
「……っ!」
その声が聞こえて、あたしはがばり、と顔を上げた。
そこにいたのは白い燕尾服。あるいは研究者の服にも見えるものをまとったパールゴールドの髪の女性。
その女性を見て、どくん、と胸が、心臓が跳ねた。
彼女の姿、それを――。
俺は――/あたしは――
――知っている。
彼女は、彼女の名は……。
「イリス博士……?」
「あら、あらあらあら? どうやら冒険者さんは私のオリジナルをご存じなんですね!」
そう言って研究者の女性、イリスは楽しそうに、そしてびっくりするようにぱん、と手を叩いた。
その拍手に弾かれるように、あたしはこの光景に見覚えがあることに気づいた。
かつてサービス終了したMMORPG。俺にとって思い出深いオンラインゲーム。エミル・クロニクル・オンライン――略称はECOというゲームの一番最初、導入部分だ。そこでも同じように彼女が、紙芝居屋が案内をしていた。ただ、ゲーム内で彼女の姿はイリス・ロアという名前だったけど。
「でも、私は紙芝居屋。紙芝居屋-アイリスって呼んでください」
そういえば、彼女も導入では自身を紙芝居屋と名乗っていた。
と、いうことは。ここは、ECOを始めて一番最初に訪れる場所。『夢の中……?』だろうか。
いや、そんなこと正直、どうでも良い。
それ以上に、いま。あたしは目頭が熱くなっている。ぽた、ぽた、と涙があふれてくる。
「ふ、ぐぅ……」
ECOの、アクロニアの世界には楽しい思い出が一杯あった。だから、サービス終了の告知がでた時、信じられなかった。本当に終わった時は寂しかった。
それがいま、夢か、幻か。あたしの目の前にはイリスが、かつて導いてくれた紙芝居屋さんがいる。
あたしの冷静な部分が、きっといま、人様に見せられないような状態になってるんだろうな、と感じている。それでも、涙がとめどなく流れている。
「……えっと、困りましたねぇ」
本当に困ったような紙芝居屋の呟き。
次の瞬間には、あたしの身体はあたたかい、優しいものに包まれた。
「まったく、冒険者さんは泣き虫さんですね。よしよし、良い子、良い子」
あたしの頭がふわり、と優しく撫でられる。そこであたしはようやく、紙芝居屋さんに抱き締められたことに気づいた。
彼女の胸のなかは、気恥ずかしいけど安心する。まるで、お母さんの胸のなかのように。
それでも、決壊した感情は止まらない。ひぐ、ひぐ、と嗚咽がこぼれ、涙はいつまでも引いてくれなかった。
……どれだけ慰められてたのだろうか。ようやく感情が落ち着き、涙が引いてきた。そして、同時に倒れていたはずの女の子についても思い出して……。
「そうだっ……!」
あたしはイリス、紙芝居屋さんの胸に埋めていた顔を上げると倒れていた少女を見る。そこには、いまだ倒れ、でも大事ない少女の姿。
「あの子なら、大丈夫ですよ」
すぐ近くで聞こえた声に、ハッとする。見上げると、そこには優しく微笑んでいる紙芝居屋さん。
「彼女――リオさんは、もうすぐ目覚めます。そして、冒険者さんも……」
「……リオ?」
紙芝居屋さんは何かを知っている。それを問おうとして、ふわり、と身体が軽くなるのを知覚した。
違う、身体が軽くなったんじゃない。あたしの身体が光になってほどけていっている。
そのことに恐怖を感じていたあたしだけど。
「大丈夫です、冒険者さん。目が覚めたら、アミス、という女性と出会えるはずです。彼女を頼って――」
そんな紙芝居屋さんの声を聞きながら、あたしも気が遠くなっていった。
冒険者さんが光に包まれてここから去った後――。
「彼女たちは無事に?」
「ええ、アクロポリスに」
私は立ち上がって、声をかけてきた少女を見ます。
そこには栗毛の長い髪、柔らかくたおやかに笑う光り輝く翼とまるでタイタニアのような円盤を頭に掲げる少女。
思い出星、という物語の象徴たる女の子。名前をステラ・ロア。
私
「あの人には悪いことをしました……」
どこか、悔恨を含む音色で話すステラさん。でも、仕方なかったんです。
「しかし、彼女。リオさんだけでは厳しいかもしれません。それを防ぐためにも、彼女の協力は必要でした」
「でも、あの冒険者さんたちは次元の安定とともに消えてしまいました」
「だけど、人々のあの人たちへの想い。記憶、想いの力の残滓。それらは残っていた。だから――」
――だから、私は彼女に力添えを願った。思い出星の、想いの力を一番うまく扱える彼女。ステラさんの力を――。
思い出星よ、想いの力よ。あの人を、あの冒険者さんに導きを。私は、そう祈ることしかできませんでした。