想いの力は星を越えて 〜消えた冒険者と、名もなき少女たちのアクロニア譚〜   作:想いの力のその先へ

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ナナシと、持ち物

 

 あたしとアミス先生。しばらく見つめ合った後、折れたのはアミス先生だった。

 

「分かりました。ベッドで休んでいるのはリオちゃんなのね」

「……うん」

 

 良かった、最低限納得してくれたようだ。

 

「でも、あなたもいつまでも名前がない、というわけにもいかないでしょうし……」

 

 あたしの名前について、うんうん、と悩み始めた先生。別に名前なんて。そう思ったあたしは、アミス先生へ考えを告げる。

 

「なら、先生。あたしはナナシ。うん、ナナシという名前にするわ」

「ナナシ、ちゃん?」

「そう、ナナシ」

 

 アクロニアには「名無しの権兵衛」なんて言い回しはないはずだ。だから、ナナシなんて名前をつけても、少し変な名前で終わる。

 下手にアミス先生を悩ませたり、名前の意味を知って罪悪感を持たせるより、冴えたやり方だとあたしは思う。

 

「分かったわ、ナナシちゃん。でも、もし名前を思い出したら教えてね?」

「……うん」

 

 どこか愛嬌のある顔であたしに話しかける先生。

 でも、なんでだろう。あたしは自分の名前、というのを思い出せない。そんな確信があった。

 

「それで、ナナシちゃんとリオちゃんなんだけど。実はダウンタウンのなんでもクエストカウンター。その近くで倒れてるのが見つかって――」

「なんでもクエストカウンター!」

「え、ええ。そうよ?」

 

 急にすごい反応をしたあたしにびっくりする先生。

 でも、あたしもそれどころじゃなかった。

 

 ――なんでもクエストカウンター。

 その名前を聞いた瞬間、胸の奥がまた熱くなる。

 『イリスと記憶の書架』。

 ECOの通年イベントの中でも、特に人気の高かった物語の舞台。

 とくに『イリスと記憶の書架』は、ゲーム内でも人気が高かった。

 本来なら期間終了後に遊べなくなる通年イベントでありながら、後に常設化されたほどだ。

 さらにそこから、アナザーエンシェントアーク――ロア・アナザーの物語まで作られた。

 

 そして、その通年イベントに関わっていたのが紙芝居屋さん。それと、なんでもクエストカウンターの実質的なリーダーである受付嬢――。

 

「アミス、少し良いか?」

 

 そこまで考えていたところで部屋の外より声が聞こえてきた。先生のことを呼び捨てにする知り合いは、そう多くない。

 そのうちのひとりが……。

 

「あら、受付嬢ちゃん。クエストカウンターは良いの?」

「うむ、いまは他のアルマも帰ってきておるし、ロアの面々もおる。問題はあるまい」

 

 そう、アミス先生が呼んだように、なんでもクエストカウンターの受付嬢。

 けれど、それは世を忍ぶ仮の姿。

 彼女の本質は、人の心を持ち、想いの力によって人の身体を得たモンスター。

 アルマ・モンスターがひとり、デス・アルマその人だった。

 

「それで……」

 

 ちらり、とこちらを見た受付嬢。

 そこには理知的ながらも、優しさのこもった瞳でこちらを見つめていた。

 

「……どうやら、目覚めたようだな」

「横の子共々、助けて頂いたようで、ありがとうございます」

「なに、構わんよ。それに、そなたらのような美少女を捨て置いたとあっては――」

「……受付嬢ちゃん?」

 

 ……まぁ、なんというか。

 彼女には美少女相手なら誰彼構わず愛でようという悪癖があったりする。その悪癖に助けられたのだから、文句をいう筋合いはないのだろうけど……。

 

「ふふっ……」

 

 ――アミス先生に詰められる受付嬢を見て、自然に笑みがこぼれた。

 以前にも、こんなやり取りがあった。

 たしか、その時は受付嬢。デス・アルマの補習授業の話のときだったか。

 

「ナナシちゃん?」

「いや、失礼。何となく、懐かしく思えてしまって……」

 

 アミス先生の雰囲気が少し弛緩する。けれど、あたしは気づいていなかった。

 その笑みを見た瞬間、受付嬢の瞳からほんのわずかに柔らかさが消えていたことに。

 

「それで、ナナシ、であったか?」

「……はい?」

「起きて早々悪いが、そなた。冒険者に連なるものであろう? すまぬが、持ち物が無事か、確認してくれぬか。その間、余たちは外に出ておるでな」

「ちょっと、受付嬢ちゃん……」

 

 家主に断りなくそんなことを言うものだから、先生が責めるような目で受付嬢を見ている。

 それは良いんだが、持ち物……?

 

「えっと……?」

「なんだ、そなた。もしや、持ち物の見る方法を知らぬのか?」

 

 受付嬢の問いに、こくり、と頷くことで応える。というか、着の身着のままだと思うんだが。何も持ってないと思うし……。

 そんな疑問が顔に出てたのだろう。受付嬢はあきれた様子でこちらに指摘してきた。

 

「そなたら冒険者は、昔からそうであったろう。早着替えも、武器の持ち替えも、まるで手品のようにこなしておった」

 

 ……あぁ。もしかして、ゲーム的な要素だろうか?

 確かに、UI的に持ち物スロットの武器をダブルクリックしたり、F1~F12のショートカットキーに登録することで一瞬で交換できていたが……。

 もしかして、この世界でも似たような技法がある?

 

「なんでも、冒険者の話では倉庫の中身を頭に思い浮かべるような、などと言っていたが。なぁ、アミス」

「えぇ、まあ。受付嬢ちゃんが言うとおりね。先生としても、受付嬢ちゃんが授業内容を覚えててくれて嬉しいわ」

「……と、当然であろう」

 

 ……受付嬢が明らかに冷や汗をかいている。これで下手に授業内容を忘れていたら補習が待ってる、と思っているのかもしれない。

 それはともかく、倉庫の中身か……。

 あたしは言われるがまま、倉庫の中身を思い浮かべようとして――。

 

「ぶふぅ……!」

 

 盛大に吹くことになった。

 なにしろ、その持ち物の中にある意味、とんでもない道楽品。ジュエル・ゴールドが積み上げられていたのだから。

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