想いの力は星を越えて 〜消えた冒険者と、名もなき少女たちのアクロニア譚〜 作:想いの力のその先へ
――ジュエル・ゴールド。
このアイテムはECOのサービス終盤。インフレを起こしていた経済を何とかしようと運営が実装したアイテムだった。
なにしろ、当時。ゲーム内での自引きしたくじ品やアイテム生成品などをゴーレム露店、という自前で用意できる販売所で売るという文化があった。
しかし、くじ品のA賞。簡単に言えば一番レア度の高い物は何千M。
つまり、数十億ゴールド。
改めて考えると、冷静に頭がおかしいのだが当たり前のように取引されていた。
終いには、1キャラクターの所持上限では足りない、100億ゴールド以上の取引まで行われるようになっていた。
なにしろ、1キャラクターの最大ゴールドキャパシティはたしか、99億9999万9999。
これ以上の額の取引は相手に持ち逃げされるリスクがあった。それを解消するために作られたのがジュエル・ゴールド。
このジュエル・ゴールド。ギルド商人から買える一種の手形、のようなものであり、このアイテムひとつの値段が100万1000ゴールド。そして、ギルド商人に売った場合、100万ゴールド。つまり、1Mという金額を保証するものだった。
もっとも、このジュエル・ゴールド。プレイヤーには根付かず、後に運営は所持金の最大値を増やす、という修正を行っていた気がするが……。その結果、最大数が一桁増えて999億9999万9999になってたはず。
「あの、ナナシちゃん。どうしたの……?」
きっと、あたしはいま。盛大に顔をひきつらせているのだろう。アミス先生があたしを心配するように話しかけてきてくれた。
そして、受付嬢も便乗するように声をかけてきた。
「どうした、顔が真っ青だぞ」
「いえ、ちょっと。世界経済を壊せそうなものが見えまして……」
「はぁ……?」
あたしの答えに、訳が分からないとばかりに呆けた声を上げている受付嬢。
そういえば、彼女。受付嬢が取り仕切っているなんでもクエストカウンターは年中火の車、なんて描写があった。
「ちなみに受付嬢さん。投資、受ける気あります?」
「は……? いや、まぁ。金を貰えるのならありがたくはあるが……」
言質は取ったぞ? ……と、それだけじゃなくて。
「アミス先生はどうです?」
「えっと、ナナシちゃん。急に言われても……」
こちらは困惑気味。まぁ、行き倒れていた人間に急にこんなこと言われても。というのが正常な反応だろう。
それはともかく――。
「それじゃ、受付嬢さん。これを……」
ごとごと、とジュエル・ゴールドを5つ取り出し、並べる。
受付嬢も、アミス先生も、急に出てきたジュエル・ゴールドに口をあんぐりさせている。
ですよねー。
じゃなくて。
「待て待て待て、ナナシ! そなた、これは――」
「足りませんでした?」
「……分かって言ってるだろう、そなた!」
がぁ、と吠えた受付嬢。まぁ、普通。ポン、と500万くれたぜ、やった。なんてことにはならないだろう。
が、残念ながらこの500万。あたしにとって、端金なんだ。
ときに、ECOというゲーム。他のゲームでいうところのJobを職業という名前で実装していた。
近接職が四つ。
魔法職が四つ。
生産職が四つ。
それとは別に、DEM――デウスエクスマキナと呼ばれる機械種族。
さらに、どの職にも就かず極めることで得られる特殊な道もあった。
……で、なんでこんなことを説明しているのか、というと。
まず、ECOプレイヤーの一部はアバターをむしゅこ、むしゅめ、と言って愛でている人種が少なからずいた。服装を着飾らせたりなどだ。
そして、あたしの中にあるECOの記憶もそうだったようで、サービス終了前にせめて子供たちにひもじい思いをさせまいと、金稼ぎと資産分配をしていた。
先ほど挙げた職業十四種。すべて作っていたアバターに、だ。
そして、それぞれのアバターに与えていた所持金が最低70M、すなわち7000万。そして、メインアバターにだけは重点的に、ということで1000M、10億。
どうやら、サブアバターに持たせていた所持金は、全部ジュエル・ゴールドに変換されて、こちらの持ち物に突っ込まれているらしい。
すなわち、70M×13で910M。9億1000万が。10億とは別に。
……まぁ、資産価値で言えばむしろ、これは前座なのだけど。
ついでに、もうひとつ思い出したことがある。ECOのプレイヤーはどうしてもアバターを可愛く着飾る。そして一般的な狩りをしない、いわゆるライトユーザーが多かった。
……のだが、どうやら記憶の主はゲーム内のエンドコンテンツ。無限回廊というダンジョンの奈落階層での活動をしていた、いわゆる奈落勢だったようだ。
そして奈落階層は入りたて、最初の階層はモブ敵は弱いものの、階層を下るにつれて加速度的に強さが上がっていく。
すなわち、装備もそれ相応に厳選したり、揃えなくてはいけない。
……ここまで言えば分かってもらえるだろう。
持ち物の中にごろごろあるのだ。使用していた奈落の装備が。特にメイン装備は、それこそ売りに出すとすれば数千Mから数万Mはくだらない。そんな装備たちが。
まぁ、どういう装備か分かりやすく言えば廃人装備。
さらに言うと、記憶の主によればリングメンバー。他ゲームのギルド、クランに属するメンバーにサブ装備でも一線級の装備。メイン装備に至っては、価値が分かるメンバーからはあまりのガチさにどん引かれていた。
「はぁ……」
「今度は急にがっくしして、本当にどうしたのだ、そなた?」
「いや、ちょっと……」
「なんだ、今度は何を見た」
「きちんと価値が分かる者に売れば国が買えそうな装備です」
「だからなぜそなたはそう物騒なものばかり持っておるのだ!」
そう突っ込まれても、持ってるものは持ってるのだから仕方ない。
それより、奈落装備がある、それは良い。が、おそらくほとんど装備できない。
なにしろ、奈落の深部で活動するにはキャラクターのレベルカンストは前提条件。さらにJob、職業に関してはさらに先へ、というのが一般的だった。
……何が言いたいのか、というと。これは持ち物に眠っている装備は最低でカンスト手前、ほぼカンスト前提の装備であるということ。
つまり、強装備がすべて嵩張る置物と化した瞬間だった。しかも、この世界では売れるかも分からないし、そもそも売ってしまえば、同じような装備を揃えるのは実質不可能。すなわち、死蔵するしかないというおまけ付きで。
それでも、まぁ。装備できる分だけでもある程度無双できそうな部分はある。なにしろ、それらはレベル1からでも装備できる装備群だからだ。
それが課金アイテム。びっくりBOX1等のびっくりシリーズ。
レベル1から装備できながら、キャラクターのステータスを爆発的に伸ばすことのできる装備群だった。
……最後に一応、このびっくりシリーズもまた、物によっては数百から数千M。最低でも億ゴールド以上の価値でプレイヤー間取引されていた装備群である。