想いの力は星を越えて 〜消えた冒険者と、名もなき少女たちのアクロニア譚〜   作:想いの力のその先へ

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取引とナナシさん

 

 と、まぁ。あたしの持ち物がこれでもか、とおかしかったわけだけど。それはそれとして――。

 

「それで、受付嬢さん」

「……なんだ?」

 

 先程よりも、少し疲れてぐったりしている受付嬢。

 さすがにジュエル・ゴールドや、詳しく話していないけど、装備系統の話は劇薬だったみたいだ。

 ただ、まぁ……。本格的な話を終わってないのだけど。

 

「ちゃんと、投資。支援でも良いですが、受けてもらえるんですよね?」

 

 あたしの言葉に、ぞっ、と受付嬢はもともと白い肌をさらに青白くしている。

 酷いなぁ。別にあたしの話はホラーでもないし、受付嬢が苦手なアンデッド系モンスターの話でもないのに。

 ちなみに受付嬢さん――デス・アルマは、アンデッド系が苦手だったはずだ。

死を与える者である彼女にとって、死を与えても動き続ける存在というのは、どうにも生理的に受け付けないらしい。

……まあ、今のあたしの話はアンデッドではなく金の話なのだけど。

 

「もちろん、タダという訳じゃありません。ひとつ、お願いがあります」

「……そうか」

 

 受付嬢の顔に少し血の気が戻った。

 さすがに、無償で500万あげます、は怪しすぎるからね。

 

「それで、お願いというのはあたしと――」

 

 そこであたしはいまだむにゃむにゃ、と幸せそうに寝ているリオを見る。

 そして、あたしはふたたび受付嬢へ向き直る。

 

「この子、リオは本人の選択次第ですけど、なんでもクエストカウンターに所属させてほしいんです」

「……む、なるほど。そういうことか」

 

 あたしのお願いを聞いて、受付嬢は考え込んでいる。彼女はいま、あたしがどういう状況にあるのか悟ったのだろう。

 あたしとしても活動するための拠点、という意味で交渉しているのも確か。もっとも、それだけが理由じゃないのだけど。

 もうひとつの理由。そのために今度はアミス先生へ話しかけた。

 

「そして、アミス先生にもお願いが……」

「どうしたの、ナナシちゃん?」

「あたしたちを冒険者学校へ入学させてほしいんです。お願いします」

 

 そして、あたしは深々と頭を下げた。

 どこか、アミス先生がワタワタしている気配がした。

 だけど、これだけはどうしても飲んでもらわないといけない。あたしにとって死活問題になる。

 

 ……正直な話。活動拠点、という意味ではなんでもクエストカウンターもアミス先生の学校も重要じゃない。

 なにしろ、持ち物の中には飛空庭起動キーがあった。それがあれば当座の拠点には苦労しない。

 

 そも、飛空庭とは。

 簡単に一言で言えばECOにあったハウジング要素。プレイヤーたちの自宅、みたいなものだ。それがあるのだから、野宿など考えなくて良い。

 ……まぁ、人の良いアミス先生だからうちに泊まるように言ってくる可能性は否定できないが。

 

 ……って、話が脱線してしまった。

 あたしがなんとしても学校に、と言っている理由。それはあたしにプレイヤーとしての常識はあるけど、アクロニアの常識がない、ということ。

 その中でも特に、金銭感覚を早急に確保しなくてはならない。

 

 ひとつ、例を出すとすると。

 あたしが持つ記憶が正しければプレイヤーの露店では食べ物のサンドイッチ。これが5000から2万程度で取引されていた。

 そして、タマゴサンド。こちらは確か20万程度だった気がする。

 

 そう、この時点で分かると思うけど、一食に10万単位の額をかける、というのは明らかにおかしいだろう。それがプレイヤー間ではまかり通っていた。

 まぁ、露店で売られていたのは生産品で、効果が高かったというのも多分に影響している。なにしろ、ECOで食べ物系回復アイテムは固定値ではなく割合回復アイテムだった。

 一部の狩りを行うプレイヤー。さらには奈落勢も愛用していた品だと言えば、むしろ価格は安いと取られかねない。プレイヤー視点ではあるが。

 

「ときに、アミス先生。質問なんですが……」

「……えっ、と?」

「これに答えてもらえれば、あたしがなんで学校に通いたい、って言ってるか分かるはずです」

「そ、そう? それじゃ、なにかしら?」

 

 アミス先生が怖いもの見たさ、みたいな顔をしている。そんな先生へ質問を投げ掛ける。

 

「サンドイッチのお値段、って幾らくらいですかね?」

「……えっ?」

「サンドイッチですよ、サンドイッチ。食べ物の」

「え、えぇ……。まぁ、200ゴールド前後じゃないかしら」

「ついでにタマゴサンドは?」

「そっちは――。300いかないくらい、だと思うけど」

 

 アミス先生の答えになるほど、とともにやはりずれすぎていると確信した。

 

「ちなみに、ですが……。一部でいま聞いたタマゴサンドが20万前後で取引されていた、と聞いて信じられます?」

「……はい?」

 

 あたしの問いかけにアミス先生は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。受付嬢に至っては、膝をついて頭を抱えている始末。そんな反応になるのも、宜なるかな、ではあるが。

 

「まさか、そなた。あそこでこれ見よがしにジュエル・ゴールドを取り出したのも、こちらに所属したいと願ったのも、それが狙いか!」

「判ってもらえました?」

 

 あたしの悪びれない言いぐさに、受付嬢はとうとう力なく倒れ、土下寝となった。

 

「アミス、これは……」

「……ええ。受け入れるしかないわね」

 

 受付嬢とアミス先生。ふたりの深い、本当に深いため息が吐き出された。

 元凶のあたしが言うことではないが、強く生きてほしい。それと、またお世話になります。

 その意味を込め、あたしは微笑みを浮かべるのだった。

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