想いの力は星を越えて 〜消えた冒険者と、名もなき少女たちのアクロニア譚〜 作:想いの力のその先へ
「ナナシちゃんのお願いは判ったわ」
「ありがとうございます。もちろん、学校のほうにも寄付……。というか、学費はちゃんと払いますよ」
その一言にアミス先生の顔が引きつる。
そこであたしは、ちらりとまだ土下寝している受付嬢を見た。
「学校の財政もあまり良くない、という話も聞き覚えがありますし」
ちなみにそれを教えたのは通年イベント。イリスと記憶の書架での受付嬢その人だった。
まぁ、そうじゃなかったとしてもアミス先生の学校の生徒はほぼアルマ・モンスター。
モンスターが授業料を払えるわけもなく、ほぼ慈善事業に近い有り様だった。
だからこそ受付嬢。デス・アルマは社会勉強の一環かつ、資金集めとして、隙間産業のなんでもクエストカウンターを始めたわけだけど。
「あの、ナナシちゃん? ちなみに、支払いはどうする――」
「あぁ、心配しなくて大丈夫ですよ。ちゃんと紙幣もありますから――」
あたしの提示にあからさまにホッとしている先生。
「――10億ほど」
「ちょっと待って?」
それが崩れるのは一瞬だった。
明らかに先生は焦っていた。主に桁の違いについて。
「もちろん、全額ポンと渡すとは言いませんよ」
「むしろ、言われたら困ります!」
ですよねー。
とはいえ、先生を困らせたいわけではないので、話を進めることにした。
「まぁ、なんでもクエストカウンターへの支援や学費の支払いは現金で行える、と伝えたかっただけなので。ちゃんと金銭も、指定された金額で納めますし」
「……そうしてもらえると助かるわ」
あからさまにホッとしている先生。おもいっきりデジャブだった。そしてあたしも、ここで天丼をするつもりは毛頭なかった。
「それと、先生」
「なにかしら、ナナシちゃん」
「一度外に出ても良いですか?」
そう言いながら、あたしは先程持ち物確認で見つけた飛空庭起動キーを取り出した。
それを見た先生の表情が険しくなる。
「それまであったの……?」
まぁ、先生がそう言いたくなる理由も分かる。
そも、飛空庭は冒険者の間ではかなり普及しているが、それもこれも、小さな大商人と呼ばれる人物の援助によるところが大きい。
実際、ゲーム内で飛空庭2台目の入手イベントがあるけど、部品を買い揃えようとすると8M。800万弱かかることになる。
まぁ、記憶の主を参照するなら、この起動キーは一台目の飛空庭のようだけど。
「ここの中身を見てくれば、なにか分かるかもしれませんから」
「そう、判ったわ。それじゃあ、私も一緒に――」
「いえ、先生はここに。この子、リオがいつ目覚めるかも分かりませんし」
「そう……。それもそうね。じゃあ、ナナシちゃん。外に出る方法は大丈夫?」
「あぁ……」
そういえば、そこをすっかり忘れていた。
アミス先生の学校だが、彼女所有の特別製飛空庭の上に建てられていた。
通常の飛空庭の五倍から十倍の大きさはありそうな、本当に特別製の飛空庭だ。
それで、外の出方はゲームでは操舵輪をクリックして、外へ出るという選択をするだけだった。
でも、現実に変わった以上、それだけで済むとは思えない。かといえ、リオがいる状況ではここをからにするわけにも――。
「そういうことなら、余が案内しよう」
「……あっ」
そういえばここには受付嬢もいた。というか、ようやく立ち直ったらしい。声にも多少ハリが戻っていた。
「それにこれまでのことを考えると、飛空庭の中身も確認せねば安心できん……」
受付嬢が、そんなことをポツリ、と呟いたのが聞こえた。どうやら立ち直ったのではなくて、これ以上何があるのかを危惧していただけのようだ。
まぁ、こちらもこちらであたしも確認しなければどうしようもできないのだけど。
「それじゃあ、受付嬢ちゃん。お願いできる?」
「任されよ」
受付嬢とアミス先生。ふたりはアイコンタクトをして頷く。うぅん、そこまで不安がられるとさすがに傷つくんだけど……。
まぁ、なんにしても。
「それじゃあ、受付嬢さん。案内、お願いできます?」
「うむ、任せよ」
そう言ってあたしと受付嬢はアミス先生の部屋、ひいては飛空庭から出ることとなった。
「いま、夜だったんだね」
「まぁ、当然だな。そうでなければアミスもそなたの方に集中できまい?」
アミス先生の部屋から出ると、そこは夜闇と満天の星空に彩られていた。
なんというか、あたしは星空に縁があるのだろうか。紙芝居屋さんしかり、今回しかり。
そして、飛空庭の中央に設置されている空中に浮かぶ樹木。あれはアミス先生と生徒のアルマ・モンスターたちが育てた絆の樹。
通年イベント、アルマたちと絆の樹。その成果であり、絆そのものだ。
もしかしたら、通年イベントの最終報酬であり、アミス先生の親友。あのイリスカードで先生の頭に乗っていたプルル。ぷるぷること、プルル・アルマもいまはどこかで冒険しているのかもしれない。
それはともかく、受付嬢は操舵輪へ向かうとタッチパネルをぽちぽち、と操作した。操作画面を見てるとそこまで複雑な操作はなさそうだ。これなら今後は問題ない。
「それでは行くぞ」
「はぁい」
そうしてあたしたちは操舵輪の後ろ、がしゃりとせり上がったエレベーターへと身を潜り込ませた。
しかし、ここからの移動が問題、なんだよなぁ……。
「はぁ……。なんとか降りれた」
「まぁ、そなたが言うのも判らなくはないがな」
なんとか先生の飛空庭から降りれた後の第一声である。
と、言うのも飛空庭は高度二千メートルに位置しているんだけど、そこから地上への移動手段は
それをえっちらおっちら昇ったり、するすると降りたり、せめて自動化するなり、安全性を確保して欲しいのが本音だ。
まぁ、一応。降りる操作をした時、飛空庭の高度が多少下がっているようなので、それで安全を確保しているのかもしれないが。
それにゲームではアバターはえっちらおっちら昇ってたけど、飛空庭の発着場は存在していたし……。どちらにせよ、規格外の大きさを持つアミス先生の飛空庭は発着場は利用できないだろうけど。
そして、今度はその縄を昇らなくてはいけないのだが。
「……えっと、起動キーの使い方は、こう?」
「うむ、それで正しいぞ」
受付嬢に横で見てもらいながら操作する。
すると、通常サイズの飛空庭が近づいてきて、しゅるしゅる、と縄が下ろされてきた。と、いうかこれ。降りてくるとき、勢いがついてるから普通に危ないな。
飛空庭を呼び出すとき注意しなければ、普通に傷害事件が発生しそうだ。
それはともかくとして――。
「今度はこれを昇るのかぁ……」
いくら高度が下がっているとはいえ、目測で約100メートル。それを腕の力だけで昇る必要性に、半ば絶望していたあたしだったけど。
「うん? なんだ、ナナシ。そなた、知らぬのか?」
「はい……?」
「その縄に掴まっておくだけで問題ないぞ。掴まったあとに起動キーを操作すれば……」
受付嬢は自身とあたしが縄に掴まったことを確認すると、あたしが持っていた起動キーを奪い、操作。
すると、ゆっくり、がたがた、と縄が上へと移動する。もしかして、巻き取られてる……?
「うっそぉ……」
思わず口からそんな言葉が漏れた。
なにせ、ゲームではアバターがうんしょ、うんしょ、と縄をよじ登っていたから。
そうやって、驚いていたあたしを尻目に飛空庭が近づいてきていたのだった。
「うーん、懐かしくはあるけど……」
どうにかこうにか、飛空庭のなかへ入ったあたし。それを出迎えたのはゲームにおいては忠義の番犬、呼ばれた犬型の家具アイテム――だったのだが。
あたしや受付嬢に向かってわん、わん、と鳴く忠義の番犬。……こいつ、生きてる。またしても、ちょっとした驚きだった。
……が、その驚きもすぐに塗り潰されることになる。さらなる大きな驚きによって。
「わんちゃん、お客さん?」
忠義の番犬が座っている場所の後ろにある家。記憶の主によって覚えのある和風な家のなかから声が響く。
そして、家のなかから現れたのは和風の家には似つかわしくないSFチックな格好の女の子で――。
その女の子。かつてエミル世界へ侵攻し、今もドミニオン世界で戦い続けている機械種族。
その種族名、そして少女の名前を、あたしは知っていた。
DEM――デウスエクスマキナの中でも主力機体と言ってもいい――。
「マ、マスター……!」
「ごふぅ……!」
――DEM-トゥブレンヅ。それの大破した機体を修復、回収しこちらの味方。プレイヤーのパートナーキャラクターとして手に入れることができたキャラ。
DEM-フゥーリンヅヴィント、通称リーン。彼女があたしへ突撃してきたのだから。