想いの力は星を越えて 〜消えた冒険者と、名もなき少女たちのアクロニア譚〜 作:想いの力のその先へ
……どうやら突撃のショックで、一瞬意識が飛んでたみたい。
まず、あたしの目の前に見えるのは若緑の髪の美少女が泣きじゃくる姿。
黒とダークグレーを基調にした、ラバースーツのような服。
太ももまで覆うレッグユニット。手甲のように装着されたアームユニット。
そして背面では、独立したブースターのような機構が低く唸っている。
そんな彼女。リーンにあたしは、現在進行形で押し倒されている。
また、後ろの方ではリーンを警戒するように受付嬢が、半ば本来の、アルマの姿であるデス・アルマに変貌しようとしていた。
「ちょっ……! リーン、離して……!」
受付嬢を止めなくては。というのももちろんある。が、それ以上に重要なこととして。
「こ、このままじゃ。モツが、モツが飛び出る……!」
「……あぁ! ごめんなさい!」
あたしの懇願に飛び退くように離すリーン。
このままだと、あたしが彼女の膂力に上下に分断される可能性があったので、なんとか助かった、と胸を撫で下ろした。
そこで初めてリーンはあたし以外の来客があったことに気づいたようで、驚きの声をあげていた。
「あれ……。もしかして、あなた。受付嬢さん?」
「むっ……。余を知っているのか?」
まさか自身の名がでると思っていなかったであろう受付嬢は、少し警戒心を霧散させた。少なくとも、彼女はリーンが他のDEMとは違って、交渉ができる存在だ、と理解して。
だからこそ、彼女。受付嬢は次のやり取りですっ頓狂な声をあげるに至った。
「うん。あたしは会ったことないけど。先輩に話、聞いてたからね」
「先輩……?」
「そう、先輩。あなたたちは会ったことあるはずだよね。マスターの初めてのパートナー、タイニーゼロ先輩と」
「はあっ……?!」
受付嬢も驚いていたが、あたしも驚いた。
タイニーゼロ、あるいはタイニーゼロ・アルマ。
記憶の主のものを参照すると、彼女はアミス先生の教室。チュートリアルで仲間になる。
そして、タイニーゼロは、チュートリアルを進めれば多くの冒険者が最初に出会うパートナーだった。もちろん例外はある。くじや特殊なクエストで先に別のパートナーを得ていた者もいたけれど、少なくとも記憶の主にとっては、彼女が最初の相棒だった。
現に記憶の主もだいぶん思い入れがあったようで、奈落狩りをするときは、さすがに力不足で連れていなかったが、それ以外の場合、大抵一緒に冒険していた。
「待て、待て待て! タイニーゼロだと?」
「うん、そうだけど……」
受付嬢の驚きに、リーンはそれがどうしたの? と、ばかりに首をかしげている。
だが、あたしは受付嬢が驚いている理由をよく理解できる。
それは――。
「あやつは
……そう、タイニーゼロはチュートリアルで仲間になる。すなわち、チュートリアル終了とともにアミス先生の学校を卒業する。
つまり、その時点で受付嬢、アミス先生とあたしが面識がない、ということがおかしくなる。さらに言えば、受付嬢とはイリスと記憶の書架で一年を通して協力している。
「あり得ぬだろう! 姿、形。何より魂が違いすぎる! それに、あの者であれば余が、そしてアミスが忘れるはずがない!」
半ば絶叫じみた受付嬢の声が夜空に響く。
そんな半狂乱な受付嬢を見て、なおもリーンは不思議そうにしていた。それこそ、そんなこと。あたしがリーンのマスターとは別人というのがありえない、と言わんばかりに。
「でも、マスターはマスターだよ? ちゃんと、繋がりもあるし」
リーンはそれが当然、とばかりに口を開いた。
しかし、繋がりか……。
ときに、ゲームのパートナーシステムにはいくつかの特徴があった。
パートナーの行動を決めるAI、ならびにマクロを組めること。パートナーランク、そして信頼度。
今回、AI、マクロは関係ないし、ランクについては一部関係があるが割愛する。
今回、話すべきはパートナーの信頼度。
これは一緒に冒険、システム的には敵を倒す度に一定量のポイントを入手。いままでの獲得量で信頼度の色が変化し、初期値の黒から最終の桃まで、十段階あった。
そして、リーン。彼女は奈落の一部狩りで連れ歩くパートナー候補のひとり。記憶の主の思い出の中でも信頼度は最高ランクの桃になっていた。
その記憶を彼女が保持しているのなら、彼女があたしに強い感情を持つのも理解できた。
だけど、同時に受付嬢。デス・アルマがあたしの魂に記憶がない。と、言うのであれば……。
「……あたしは、きっと」
可能性、と言う意味なら思い付くものがある。そして、そうだったとするなら説明もつく。
……だけど、確証を持てない以上、口に出すべきじゃないと思う。何より、その結論が真実だとすればこの子を。リーンを傷つけることになってしまうから。
だから、あたしは言葉を飲み込み、別の言葉を口にする。
「ねえ、リーン。その、肝心なタイニーゼロはどこにいるの?」
「……あぁ、忘れてた! 連絡しないと!」
「連絡……?」
急にわたわた、とリーンは焦り出す。それはここにタイニーゼロがいない、という明確な証拠だった。
そして、それはタイニーゼロもまた、リーンと同じように独自の考えで動く者に変容している証拠でもあった。
「先輩、マスターが消えてからずっと、世界を旅してるんですよ。相棒は絶対、どこかにいる、って!」
リーンのその言葉を聞いて、あたしは涙腺が緩むのを感じた。あの子が、タイニーちゃんが確かにあたしを大切に思ってくれてることを知って。あの子に、すごく心配をかけていることを知って。
これがあたし本来の感情なのか、それとも記憶の主の感情が漏れているのか、それは判らない。
でも、嬉しい、と。悲しい、と。寂しい、と感じているもの自体は本物だ。
あたしはそれが嬉しくて――寂しかった。