篠澤広はままならない 作:暁椿
第1話
プロデューサーを目指した本当の理由を誰にも話した事はない。聞かれた事もあるが建前の当たり障りのないことだけを言ってきた。
何故、そうなったか。それは自分でも不思議に思う時がある位には滑稽で出鱈目に聞こえるからだ。それのせいで熱量があまりないように見えるらしい。冷めているやアイドル候補生を駒としてみている。そんな事ばかり言われてきた。それを否定する事も肯定する事もせずに無視して生活していると根も葉もない噂がでてきて俺は紐で屑のプロデューサー候補生と呼ばれていた。
「ティンと来ないんだよなぁ」
十王学園に来て一年目の春から色々なアイドルを見てきた。十王生徒会長を筆頭に粒は揃っている。トップアイドルになれるであろう才能が何人かいた。だが直感が働かない。中等部にも凄い子達がいるらしいが観に行く前に大炎上して解散してしまった。Live映像は全てチェックしたが導く大人が居ない事は罪なのだと思うばかりだ。
そして気がついたら2年目の春。一年目後期を単位確保に注ぎ込み、今年こそはプロデュースをするのだと意気込んで学園に来た。予感がした。今日、会えるはずだと。心の底から納得できるアイドルに逢える。
なのに
「私をプロデュースしてほしい」
俺は趣味でアイドルをしようとしている悪女に捕まっていた
第1話 翼も靴もないけれど
篠澤広。実技0点、筆記100点で入学した異端児にして大卒の超天才。何故、アイドルを目指したのかわからない生徒。そんな彼女が真っ直ぐと此方を見て頼んでくる。余りにも細いその身体はガラス細工すらも想起させる。倒れた彼女を保健室に運び、看病をしていた。
「…理由を聞いてもいいですか?」
そう聞くと彼女は目を少しだけ開いて驚く。否定されると思ったのだろう。普通ならそうする。
「…ピンときたから。貴方なら私をプロデュースしてくれる。そんな気がした」
時が止まった。今度は此方が目を開き、息をするのを忘れた。ピンと来たからプロデューサーをしてほしい?俺に…いや、私に?
「だめ?」
「…いえ、昔に聞いた言葉だったので少しだけ驚いただけです」
首を軽く振り、笑みが溢れた。
「良いですよ、私が貴方をプロデュースしましょう。ただ条件があります」
「条件?」
「楽しんでください。楽しんでアイドルをやってもらえるなら私は貴方のプロデューサーになります」
人差し指を胸の前で軽く振りながら告げる。
「トップアイドルにならなくていいの?」
「結果は後からついてくるのがアイドルです。私の知っているトップアイドル達は最初から頂点を目指していた訳ではない。それぞれ成りたいアイドル像がありました。だからそんな小さな目標はどうでもいい。そんな事よりも貴方が笑ってアイドル活動をしていることの方が大事です」
篠澤さんの言葉が夢の残滓を燃やし始めている。こんなにも嬉しいことがあるのだろうか。思っていた事とは全然違う。なのに私は今、嬉しくて仕方がない。
「なら大丈夫。私、趣味でアイドルをするから絶対に楽しい」
微笑えむ彼女は誰かと重なる。
「趣味でアイドル…良いですね。なら私も貴方を趣味でプロデュースしましょう」
手を差し出す。篠澤さんが両手で私の手を掴んだ。
「似たモノ同士だね、私達。よろしくねプロデューサー」
「はい、此方こそよろしくお願いします。篠澤さん」
こうして運命とも呼べる出逢いをしたのが二日前。その日は入学式だった事もあり、篠澤さんを改めて看病して寮まで送り届けた。おんぶが良いと言われたが丁重に断った。
この二日間は最低限の準備をした。篠澤さんの一部授業の免除や高学年も含めたレッスン見学。篠澤さん専用の食事メニューとそれに伴ったサプリメントの手配。あとは私の見た目や悪い噂の否定。篠澤さんに迷惑がかからないように全て整理してきた。
篠澤さんのプロデュースに心を躍らせて今日を迎えた。篠澤さんとの待ち合わせをした教室に行く。
コンコンとノックして反応がない。まだ来ていないのかとドアを開けると
「むきゅぅぅぅ…あ、プロデューサー」
午前中のレッスンでグロッキーになり倒れ込んでいた篠澤さんがいた。
ああ、本当に楽しいことになりそうだ。
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