篠澤広はままならない 作:メランコリン
第2話裏
「好き」
伝えたかも覚えていないあの日からわたしはプロデューサーを意識している。父性に対する安心感から来るのか異性として好感なのかはまだはっきりとしていない。
ただ、わたしはプロデューサーに対して踏み込み始めた。でも
「篠澤さん、今日も可愛いですよ」
この一言で白旗を振っている。朝一番の最初の会話にドキドキして心臓が止まりそうになっている。
苦しくて嬉しい。プロデューサーはきっと知らない。わたしのアイドル活動は趣味だけど根本にある可愛く見られたい願い。痩せ細って女の子としての魅力があんまりない私も可愛いと言われたい。
プロデューサーはその願いを毎日刺激してくれる。
だからもっと好きになる。
事務所で朝からミーティングをしながらご飯を食べる時もそう。プロデューサーはコーヒーを飲みながらわたしをみている。
会話はない。緩やかな時間を共有してわたし達は過ごす。
「頬についてますよ」
右頬をつついて教えてくれる。わたしはそれを無視して顎をあげて眼を閉じる。優しく拭き取られ眼を開ける。困り顔だけど困っているだけ。
「篠澤さん「ありがとう、プロデューサー」
プロデューサーは女性の扱い、耐性とも呼んでいいものがある。最初は気のせいかと思ってたけど他の男性を見てわかった。
「二人きりのときだけですよ」
コーヒーを飲んで誤魔化される。わたしは毎日ドキドキさせられて苦しいのにプロデューサーは変わらない。そこに惹かれるけど少しは勝ちたい。何処までなら怒られないのか少しずつ距離を詰めていく。
それでもわたしはまだ目を見ながら言えない。
好き
言えたはずの二文字がお腹の中で積もるばかりで外には出てくれない。
第2話裏 あげない、よ
「今日はここまで。しっかりとクールダウンはするように」
今日は最後まで立っている。倒れ込みたい衝動を我慢してゆっくりと座り込む。
成長…とも呼べない歩幅で歩いている。
いつもよりも時間がある。プロデューサーが来るまで今日の動きを脳内で反復する。
それと同時に今日、佑芽に言われた事を思い出した。
『広ちゃん、ビッグニュースだよ!広ちゃんのプロデューサーは元々プロデューサー科に入学するつもりはなくて***プロのプロデューサーになる事が決まってたのを学園長がスカウトして連れてきたんだって!!』
一息で話せる佑芽を褒めたかったけどわたしは情報量の多さにフリーズした。
わたしでも聞いた事のあるプロダクションに行けたプロデューサー。
おじいちゃんが聞いてきた意味がわかった瞬間。
それを誇る事もせず普通に過ごしてるあの人。
知りたい事だけが増えていく
「むきゅうぅぅ……今日も床が気持ち良い…」
思考がループしそうになったからリセットする。
「篠澤さん」
反射的に振り向くとプロデューサーが居た。
「今日も頑張った、よ」
口から出たのは質問でも疑問でもなく褒めてほしいアピール。プロデューサーもそれを聞いて笑ってくれる。
「お疲れ様です。立てそうですか?」
立てるのは立てる。でもおんぶはしてほしい。立つ事を途中で諦めてプロデューサーを見る。
目が合った。胸が熱くなった。
だから誤魔化すように手を伸ばす。
「だっこ」
「ダメです、おんぶですね」
わたしはプロデューサーの背中に身体を預ける。プロデューサーの体温はわたしよりも高い。その熱がわたしに伝わる。
「今日も頑張った、よ」
褒めてほしい。今日も一歩未満かもしれないけど進歩したよ。心の隅で疼く不安を否定してほしい。
「はい、お疲れ様でした。寮まで送っていきますね」
事務的な言葉。でもわかってる。プロデューサーの優しさを感じる。
「ふふ…プロデューサーは送り狼」
首元に顔を埋めて気が緩んだ。
「余裕そうなので明日からもう少しだけ負荷をかけるようにトレーナーに話をしておきます」
見抜かれている。嬉しいと明日からの困難に言葉につまる。
高鳴る鼓動がプロデューサーに聞こえない事を願ってわたしはまた深く息を吸った
誤字脱字等あれば教えてもらえると助かります。
見たいシチュがあれば参考にするので聞かせてください