ガンダムビルドファイターズ ダテ・ショウコの軌跡   作:わしのシアン

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第4話 作る者、戦う者

 イオリ模型店の自動ドアが開く前から、音がした。

 

 がら、ごろ、ごろり。

 

 いつもの重いキャリーケースの音だった。

 

 けれど、その音にはいつもの勢いがなかった。床を転がる車輪が、どこか遠慮がちに鳴っている。重いから遅いのではない。引いている本人の足取りが、いつもより少しだけ鈍い。

 

 カウンターの奥で商品整理をしていたイオリ・リン子は、顔を上げた。

 

「あら」

 

 自動ドアが開く。

 

 ダテ・ショウコが立っていた。

 

 黒いショルダーバッグ。右手で大型キャリーケースを引いている。

 その腕は、重いハンドルに引っ張られるように伸びていた。

 

 その上には、いつものタヌキのぬいぐるみのようなロボットがしがみついていた。

 

「ぽんぽこ、入店」

 

「うん。入店」

 

 返事をするショウコの声は、いつも通りだった。

 

 いつも通りに聞こえるようにしている声だった。

 

 リン子はそれに気づいたが、何も言わなかった。ただ、少しだけ目を細める。

 

「いらっしゃい、ショウコちゃん。今日は修理?」

 

「ええ。まあ。軽く」

 

 キャリーケースの上で、ぽんぽこが短い前足を上げた。

 

「軽く、虚偽」

 

「ぽんぽこ」

 

「修理、重症」

 

「黙ろうね」

 

 ぽんぽこは黙らなかった。

 

「右腕、喪失。胴体、大破。コネクタ、融解。収支、赤字」

 

 ぺし。

 

 ぽんぽこの短い前足が、ショウコの手の甲を叩いた。

 

「痛くないけど心が痛い」

 

「反省、必要」

 

「わかってる」

 

 ショウコは小さく息を吐いて、キャリーケースを作業机の近くまで運んだ。

 

 奥の作業机では、イオリ・セイがビルドストライクを前にしていた。机の脇には細かなプラ粉が落ちている。

 

 セイが顔を上げる。

 

「ショウコさん、こんにちは」

 

「こんにちは、セイくん」

 

 セイは挨拶を返した直後、ショウコのキャリーケースを見た。

 

 次にショウコの顔を見た。

 

 最後にぽんぽこを見た。

 

 ぽんぽこは重々しく頷いた。

 

「敗北、持参」

 

「持参って言わない」

 

「修理対象、多数」

 

「言わないでって」

 

 セイの表情が変わった。

 

 ビルダーの目になった。

 

「……壊れたんですか?」

 

「うん。前回のソロファイトで、ちょっと」

 

「ちょっと?」

 

 ぽんぽこがまた前足を上げる。

 

「ちょっと、虚偽」

 

 ぺし。

 

「ぽんぽこ、今日はよく叩くね」

 

「教育的指導」

 

「あなた、いつから教育者になったの」

 

「慢心検出時」

 

 リン子が小さく笑った。

 

「とりあえず、広げていいわよ。お茶も淹れるから」

 

「ありがとうございます」

 

 ショウコはキャリーケースを横倒しにした。

 

 がこん、と鈍い音がする。

 

 ロックが外される。

 

 厚い緩衝材の中に、青い機体が眠っていた。

 

 ライトニングブリッツS。

 

 ただし、その姿は以前セイが見た時とは違っていた。

 

 右腕の肘から先がない。

 

 切断というより、熱で溶かされ、無理やり削り取られたような断面だった。

 フレームの接続部に残った焦げ跡が、そこに何が起きたかをはっきり示している。

 

 胸部もひどい。

 

 装甲は割れ、胴体中央には大口径弾を浴びた痕が残っていた。

 青い塗装は剥がれ、下地が覗き、内部フレームの一部まで歪んでいる。

 

 さらに背中。

 

 追加外装用のコネクタ部分が、熱で溶けていた。

 接続穴の周囲が丸まり、硬化したプラが歪な形で固まっている。

 GNドライヴから各外装へ粒子を送るための共通接続穴も、精度を失っていた。

 

 セイは言葉を失った。

 

 ショウコは、平気そうな顔で言った。

 

「右腕は肘から先、作り直し。胴体はベースキットから取り直し。背中はコネクタと接続穴を作り直し」

 

 淡々としていた。

 淡々としすぎていた。

 

 セイはライトニングブリッツSの背中を覗き込む。

 

「これ、外装側もですか?」

 

「うん」

 

 ショウコは別の緩衝材を外した。

 フォルテストラの外装が出てくる。

 

 左右の大型ユニットは大きく壊れてはいない。

 ミサイルポッドも、装甲も、見た目だけなら直せそうに見えた。

 

 けれど、接続部が焼けていた。

 

 ライトニングブリッツSと噛み合うはずのコネクタが歪み、受け側の一部が焦げている。

 外から見える傷よりも、ずっと嫌な壊れ方だった。

 

「ここ、噛み合わないですよね」

 

 セイが言った。

 

「うん。噛み合わない」

 

「外装を直しても、本体側も直さないと駄目ですよね」

 

「うん。駄目」

 

「これ、位置合わせからやり直しじゃないですか」

 

「うん」

 

 ショウコはそこで、初めて顔を伏せた。

 

「やり直し」

 

 ぽんぽこが、ぺし、とショウコの腕を叩く。

 

「右腕、作り直し」

 

「知ってる」

 

「胴体、再購入」

 

「知ってる」

 

「コネクタ、融解」

 

「知ってるってば」

 

 ぺしぺし。

 

「慢心」

 

 ショウコは黙った。

 そこだけは、言い返さなかった。

 

 リン子が盆を持って戻ってきた。

 湯呑みが三つ。

 小さな菓子皿には、せんべいとチョコが少しずつ乗っている。

 

「はい。まずお茶」

 

「ありがとうございます」

 

 ショウコは湯呑みを受け取った。

 湯気が立つ。

 その湯気を見ながら、彼女は小さく息を吐いた。

 

「負けた」

 

 誰も茶化さなかった。

 

「前回のダブルスでは勝てたんです。ぽんぽこ号がいて、ドレスルームがあって、フォルテストラからサーベリングに着替えられて。相手がこっちを見てるのか、ぽんぽこを見てるのか、そこをずらせた」

 

 ぽんぽこが胸を張る。

 

「ぽんぽこ、重要」

 

「重要だった。そこは認める」

 

「かわいいも重要」

 

「それは別枠」

 

 ショウコは湯呑みを両手で包んだ。

 

「でも、前回のソロファイトでは、ぽんぽこ号なし。ドレスルームなし。最初からフォルテストラで行った」

 

 セイは黙って聞いていた。

 

 ショウコは、ライトニングブリッツSの右腕の断面を見る。

 

「高出力で追えばどうにかなるって思った。照射で逃げ道を焼いて、ミサイルで詰めて、最後に押し切ればいいって」

 

「でも」

 

 セイが小さく言った。

 

「……追ってるつもりで、相手の動きに付き合わされたんですね」

 

 ショウコは苦笑した。

 

「うん。追ってるつもりだった。けど、あれは追わされてた」

 

 ぽんぽこが前足を上げる。

 

「警告、実施」

 

「したね」

 

「ショウコ、無視」

 

「したね」

 

 ぺし。

 

「痛くないけど、ほんとに心に来るなそれ」

 

 リン子はお茶を一口飲み、静かに言った。

 

「悔しかったのね」

 

 ショウコは、少しだけ口を開いた。

 何かを言いかけて、やめた。

 湯呑みの中の茶を見つめる。

 

「悔しかったです」

 

 小さな声だった。

 

「だって、本命なんですよ。この子。ライトニングブリッツSは、私の青い子で。ぽんぽこ号と一緒ならちゃんと走れる。前回のダブルスでは、それができた」

 

 ぽんぽこが静かに頷く。

 

「でも、じゃあ、一人でも行けるのかって」

 

 ショウコは笑った。

 自嘲の混じる笑いだった。

 

「行けなかった」

 

 セイはライトニングブリッツSを見た。

 

 青い装甲。溶けたコネクタ。失われた右腕。

 

 機体は、作った人の考えを映す。

 それは前にも感じたことだった。

 

 だが、壊れた機体は、もっとはっきり映す。

 

 どこで無理をしたのか。

 何を支えきれなかったのか。

 

 どこに作り手の願いが乗りすぎていたのか。

 セイは背部コネクタの焦げ跡を見つめた。

 

「フォルテストラが悪いわけじゃないですよね」

 

 ショウコは顔を上げた。

 

「……うん」

 

「この接続構造を見る限り、フォルテストラは単独で使い続ける形態じゃないですよね。ぽんぽこ号に戻って、冷却して、必要なら別の外装に切り替える。その前提で作ってある」

 

「うん」

 

「でも、前回のソロファイトでは、それができなかった」

 

 セイは言葉を探しながら続ける。

 

「一人で追い続ける形になって、戻る場所がなくて、冷ます場所もなくて。相手に地形を使われて」

 

「そう」

 

 ショウコはゆっくり頷いた。

 

「フォルテストラは、追う形態。でも、追わされる形態じゃない」

 

 ぽんぽこが前足を上げる。

 

「名言、検出」

 

「保存しない」

 

「保存済み」

 

「するな」

 

 リン子が笑う。

 

 少しだけ、空気が緩んだ。

 

 セイは、キャリーケースの別の区画を見た。

 

「じゃあ、何を出すべきだったんですか?」

 

 ショウコは、少し黙った。

 

 そして、緩衝材の一つに手をかけた。

 

 黒い機体が出てくる。

 

 ゴーストファイターS。

 

 派手な翼はない。

 眩しい砲もない。

 黒い装甲、厚めの肩、地上戦を想定した脚部。

 背中に四本の大型ミサイル。

 手足には、見慣れない杭状の装備。

 

 セイの目がすぐに細くなった。

 

「これ、前に見せてもらった黒い機体……」

 

「ゴーストファイターS」

 

 ショウコは機体を机に置いた。

 

「本来は、こっちだった」

 

 ぽんぽこが、ぺし、と叩く。

 

「推奨機体、ゴーストファイターS」

 

「はい」

 

「不採用理由、慢心」

 

「はい……」

 

「本命機、過信」

 

 ぺしぺし。

 

「そこまで言う?」

 

「事実」

 

 セイはゴーストファイターSを覗き込んだ。

 

「これは、どういう機体なんですか?」

 

「地上を走る機体。空は飛べない。GNドライヴもない。トランザムもない」

 

「飛べないんですか」

 

「飛べない。でも、飛ぶ相手には撃てばいい」

 

 ショウコは、背中の大型ミサイルを指で示す。

 

「スプレッドミサイル。近接信管で拡散する。直撃したらひどいことになるけど、主目的は足場を汚すこと」

 

 次に、手持ちの銃。

 

「90mmマシンガン。発射レートは速いけど、三十発でガシャコン。牽制用」

 

 もう一つ。

 

「ビームライフル。赤黒い光が出る。ダメージは低いけど、当たると大きく姿勢を崩せる」

 

 最後に、両手両足の杭。

 

「プラズマステーク。拳を当てればゴーストマグナム。蹴ればゴーストキック」

 

「名前を叫ぶんですか?」

 

「叫ぶ」

 

「叫ぶんですね」

 

「叫ぶよ。そこは大事」

 

 ぽんぽこが頷く。

 

「元ネタ、尊重」

 

「そう。尊重」

 

 セイはしばらく機体を見た。

 

「武装、少ないですね」

 

「少ない。でも全部に仕事がある」

 

 ショウコはゴーストファイターSの肩を軽く叩いた。

 

「マシンガンで動かす。ライフルで止める。ミサイルで足場を汚す。近づけたらステークで殴る」

 

 セイの目が、机の上に置かれたビルドストライクへ向いた。

 

「武装を増やすんじゃなくて、使う順番を作ってるんですね」

 

 ショウコは少し驚いた顔をした。

 それから、嬉しそうに笑った。

 

「そう。それ」

 

 ぽんぽこが前足を上げる。

 

「セイ、理解、良好」

 

「ありがとうございます」

 

「ビルダー眼、高輝度」

 

「それは、前にも言われました」

 

 ショウコは笑ってから、少しだけ真面目な顔に戻る。

 

「ゴーストはフルスクラッチ。キット代はかからない。でも、壊れたら同じ形に戻す精神力がいる」

 

 セイは目を丸くした。

 

「全部、作ったんですか?」

 

「頭から足先まで。黒い外装も、手足のステークも、背中のミサイルも」

 

「すごい……」

 

「すごいというより、二回やりたくない」

 

 ショウコは本気で言った。

 

「だから、負けにくく作ってる。勝つためというより、負け方を悪くしない機体」

 

 リン子が静かに聞いていた。

 

 ショウコは続ける。

 

「前回のソロファイトの相手は、地形を使う人だった。ヒート・ロッドで引っかけて、曲がって、逃げる。こっちはフォルテストラで追った。だから熱が回った」

 

「ゴーストなら?」

 

 セイが聞いた。

 

「勝てたとは言わない」

 

 ショウコは即答した。

 

「相手は強かった。だから、絶対勝てたとは言わない」

 

 そこで一度、ライトニングブリッツSの壊れた右腕を見る。

 

「でも、ゴーストなら負け方を選べた。マシンガンで壁際を嫌がらせして、ビームライフルで足を止めて、ミサイルで逃げたい場所を汚せた。相手の距離に入るんじゃなくて、相手の走る場所を悪くできた」

 

 ぽんぽこが頷く。

 

「地上戦、適正」

 

「そう。地面を使う相手には、こっちも地面を使うべきだった」

 

 セイはゴーストファイターSを見つめる。

 黒い機体は、派手ではなかった。

 

 けれど、さっき聞いた武装の一つ一つが、頭の中で繋がっていく。

 

 撃つ。

 止める。

 汚す。

 殴る。

 

 たったそれだけ。

 でも、それだけで戦い方が見える。

 

 ビルドストライクの机の上に置かれたパーツが、急に少し違って見えた。

 

 強い武器を足せばいいわけではない。

 どう使うか。

 いつ持つか。

 何をさせるか。

 

 作る時点で、戦いは始まっている。

 

「じゃあ、オルトスチールSは?」

 

 セイが聞いた。

 

 ショウコは、少しだけ目をそらした。

 

「あれは……今回は違う」

 

 ぽんぽこが短い前足を上げる。

 

「赤い暴力事件」

 

「言い方」

 

 ショウコは、別の緩衝材を開けた。

 赤い機体が出てくる。

 オルトスチールS。

 

 赤い装甲、鋭いシルエット。

 右腕の三連マシンキャノン。

 左腕の回転弾倉式パイルバンカー。

 両肩のスプレーミサイルランチャー。

 頭部には赤く熱を帯びそうな角。

 

 見ただけでわかる。

 これは、曲がらない。

 前へ行くための機体だった。

 

「かっこいい……」

 

 セイは素直に言った。

 

「ありがとう。でも、タイマンで出す機体じゃない」

 

「どうしてですか?」

 

「ずっと見られるから」

 

 ショウコはオルトスチールSの左腕を指で示した。

 

「こいつは、注視が切れた敵を壊す機体。チーム戦で、誰かが相手の目を取ってる時に、地面で隠れて、注視が外れた瞬間に飛び込む」

 

「飛び込む」

 

「コクピットに穴を開ける」

 

 セイが固まった。

 ぽんぽこが補足する。

 

「非注視、突撃。命中、即死。再潜伏」

 

「言い方」

 

「正確」

 

「正確だけど」

 

 リン子が苦笑した。

 

「ショウコちゃんのガンプラ、物騒ねぇ」

 

「ガンプラバトル用です」

 

「コクピットに穴を開けるって言ったわよ」

 

「比喩です。判定上の」

 

「判定上の穴」

 

 ショウコは咳払いした。

 

「タイマンだと、こっちをずっと見られる。曲がれないのがバレる。突っ込む方向も見られる。だから危ない」

 

「チーム戦だと、見てない相手に刺さるんですね」

 

「そう。オルトスチールは、当たれば壊す機体。ゴーストは、当たる状況を作る機体」

 

 セイはその言葉を繰り返すように、ゆっくり頷いた。

 

「当たれば壊す機体と、当たる状況を作る機体」

 

「うん」

 

「ライトニングブリッツSは?」

 

 ショウコは青い壊れた機体を見た。

 

「戦場に合わせて着替える機体」

 

 ぽんぽこが胸を張る。

 

「ぽんぽこ、必要」

 

「必要」

 

 そこは、今度は即答した。

 ぽんぽこは満足そうに揺れた。

 

 セイは机の上を見た。

 

 青い本命機。

 黒い稼ぎ頭。

 赤い暴力事件。

 そして、タヌキ。

 

 ショウコのキャリーケースは、ただ機体がたくさん入っている箱ではなかった。

 

 戦い方が入っている。

 答えが入っている。

 あるいは、間違えた時の痛みまで入っている。

 

「他にはないんですか?」

 

 セイがさらに聞く。

 

 ショウコは少し悩んだ。

 

「見たい?」

 

「はい」

 

「危ない目だなぁ」

 

「分解はしません」

 

「しません、って言う子は構造を見たがる」

 

 ぽんぽこが頷く。

 

「セイ、研究者眼」

 

「違います!」

 

 ショウコは仕方なさそうに、キャリーケースの一角を開けた。

 

 そこには、青い機体用の重そうな外装が収まっていた。

 大型複合砲。

 手で抱えるほどの砲身。

 背中用のマルチミサイルプラットフォームには、大型ミサイル用の大きな穴と、小型ミサイルの小さな穴が並んでいる。

 

「ランツェカノーネ。広域殲滅用砲撃形態」

 

 セイの顔が明るくなる。

 

「砲撃形態!」

 

「ただし、タイマンでは死ぬ」

 

「死ぬんですか」

 

「鈍足になる。近づかれたら終わり。複合砲塔が壊れたら、ビームサーベルを抜くしかなくなる。それはもう末期」

 

 ぽんぽこが補足する。

 

「味方、必要」

 

「そう。味方か地形に守られて、後ろから撃つ形態。小型ミサイルで横移動を咎めて、ビームランチャーで遠距離を押さえて、ヘビービームマシンガンで中距離を嫌がらせする。近づかれそうになったらビームトーチで、それ以上寄られないようにする」

 

「強そうです」

 

「強いよ。条件が揃えば」

 

 ショウコは砲を軽く撫でた。

 

「でも、前回のソロファイトでは無理。相手が地形を使って近づいてくる。こっちは鈍足。終わり」

 

「つまり、これも違う」

 

「違う」

 

 セイは、机の上の機体群を見渡した。

 

 ライトニングブリッツS。

 フォルテストラ。

 サーベリング。

 ランツェカノーネ。

 

 ゴーストファイターS。

 

 オルトスチールS。

 

 それぞれが、強い。

 けれど、同じ強さではない。

 

 場所が違う。

 相手が違う。

 見られているかどうかも違う。

 

 セイはビルドストライクを見る。

 

「強い機体を作るだけじゃ、駄目なんですね」

 

 ショウコは少し考えた。

 

「駄目、ではないよ」

 

 セイが顔を上げる。

 

「強い機体を作るのは大事。夢を見るのも大事。全部盛りたくなる気持ちもわかる」

 

 ショウコは苦笑した。

 

「私が言っても説得力ないけど」

 

 ぽんぽこが頷く。

 

「説得力、低」

 

「そこは黙って」

 

 ショウコは続ける。

 

「でも、作った機体をどこへ出すかは、戦う時に決めないといけない。作る時は夢を見る。出す時は相手を見る」

 

 セイはその言葉を聞いて、ビルドストライクの背中を見た。

 

 まだ完成していない場所。

 足りない場所。

 

 もっと速くしたい。

 もっと強くしたい。

 もっと、戦える形にしたい。

 

 けれど、それは何のためなのか。

 誰が使うのか。

 どういう場面で、どういう相手に、どう動かすのか。

 

 セイの中で、何かが静かに噛み合った。

 

 リン子は、その様子を見て微笑んだ。

 

「セイ、また何か思いついた顔ね」

 

「えっ」

 

「わかるわよ。お母さんだもの」

 

 セイは少し照れたように笑い、ビルドストライクを手に取った。

 

「ショウコさん」

 

「なに?」

 

「ビルドストライクにも、使い方に合った装備が必要なんだと思います」

 

 ショウコは目を細めた。

 

「いいね」

 

「僕は作るのが得意です。でも、動かす人がどう使うかを考えてなかったかもしれない」

 

 セイは、まだ見ぬ誰かのことを知らない。

 赤い髪の少年のことも。

 自分のガンプラを、本当に戦わせるファイターのことも。

 

 けれど、この時点で、ほんの少しだけ扉が開いた。

 ビルドストライクは一人で完成しなくてもいい。

 

 作る者と戦う者がいて、初めて見える形がある。

 ショウコは湯呑みを置いた。

 

「それを考えられるなら、セイくんのガンプラはもっと強くなるよ」

 

 セイは頷いた。

 その顔には、悔しさではなく、火が入っていた。

 小さな、けれど確かな作り手の火。

 

 ぽんぽこが短い前足を上げる。

 

「青春、検出」

 

「茶化さない」

 

「保存」

 

「保存もしない」

 

 ショウコは笑った。

 

 笑ってから、壊れたライトニングブリッツSへ視線を戻す。

 

 右腕、胴体、背中、フォルテストラのコネクタ。

 

 直す場所は多い。

 作り直す場所も多い。

 それでも、直せる。

 

 ガンプラバトルは壊れる。

 でも、壊れたなら直せる。

 その時、どう直すかで、次の戦い方が変わる。

 

「さて」

 

 ショウコは小さく息を吐いた。

 

「まず胴体を買いに行かないと」

 

 リン子がにこりと笑った。

 

「ブリッツガンダムなら、在庫あるわよ。ベースにするなら使えると思うわ」

 

 ショウコは固まった。

 

「……あります?」

 

「あるわよ」

 

「買います」

 

「ありがとうございます」

 

 商談は一瞬だった。

 

 ぽんぽこが前足を上げる。

 

「収支、さらに赤字」

 

「言わないで」

 

 ぺし。

 

「慢心代」

 

「痛くないけど心が痛い!」

 

 セイは笑った。

 リン子も笑った。

 ショウコも、今度は少しだけ素直に笑った。

 

 イオリ模型店の作業机に、青と黒と赤の機体が並んでいる。

 

 壊れた機体。

 選ぶべきだった機体。

 今回は違った機体。

 

 そして、作りかけの白い機体。

 

 作る者は、戦う者のことを考え始める。

 戦う者は、作った機体の選び方を間違えた痛みを覚えている。

 

 その間で、タヌキが前足を振り上げた。

 

「次回、改善」

 

「次回って言わない」

 

「修理、開始」

 

「それは言っていい」

 

 セイのニッパーが鳴る。

 ショウコのヤスリが鳴る。

 リン子が新しいお茶を淹れる。

 

 イオリ模型店の奥で、壊れた青い機体の修理が始まった。

 

 同時に、白いガンプラの背中に、新しい可能性が宿り始めていた。

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