ガンダムビルドファイターズ ダテ・ショウコの軌跡   作:わしのシアン

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第5話 黒い出稼ぎゴースト

 ガンプラ・バー〈サイド7〉には、妙な空気がある。

 

 模型店とは違う。

 

 公式競技場とも違う。

 

 カウンターの奥には酒瓶。

 壁際の棚には塗料瓶。

 カウンターの端にはニッパーとコースターが一緒に置かれている。

 壁には大会ポスター。

 奥にはガンプラバトルシステム。

 さらに奥には、常連たちの作った手書きのルール表が貼られていた。

 

 そこには、太い文字でこう書かれている。

 

 壊したら謝る。

 負けたら払う。

 勝ったら煽りすぎない。

 

 最後の一文だけ、なぜか三重に下線が引かれていた。

 

 その店の自動ドアが開いた。

 

 がら、ごろ、ごろり。

 

 重いキャリーケースの車輪が床を鳴らす。

 

「ぽんぽこ、入店」

 

 タヌキのぬいぐるみのようなロボットが、キャリーケースの上で短い前足を上げた。

 

 ダテ・ショウコは、いつも通りの顔で店に入った。

 

 いつも通りに見える顔だった。

 

 カウンターにいた店員が顔を上げる。

 

「いらっしゃいませ、ショウコさん。今日は二対二ですか?」

 

「今日は稼ぎに来ました」

 

「その言い方、賞金戦を生々しくするのでやめてください」

 

「店舗ポイント戦です」

 

「そうです。店舗ポイント戦です」

 

 店員は念を押すように言った。

 

 ショウコはカウンターに肘をつき、キャリーケースを軽く叩いた。

 

「今日はソロで」

 

 店員が少しだけ眉を上げた。

 

「ライトニングブリッツS、修理終わったんですか?」

 

「終わってません」

 

「では今日は?」

 

 ショウコがキャリーケースを開ける前に、ぽんぽこが胸を張った。

 

「推奨機体、ゴーストファイターS」

 

「はいはい」

 

 ショウコはキャリーケースのロックを外した。

 

 中から現れたのは、黒い機体だった。

 

 ゴーストファイターS。

 

 派手な翼はない。

 

 大型ビーム砲もない。

 

 全身は黒く、肩は厚く、脚部は地面を踏むために作られている。

 背中には四本の大型ミサイル。

 両手と両足には、杭のような装備が仕込まれていた。

 

 店員は機体を見て、少し安心したような、少し嫌そうな顔をした。

 

「ああ、稼ぎ頭のほう」

 

「言い方」

 

「常連さんの間ではそう呼ばれてますよ。派手に壊さず、地味に勝つやつって」

 

「地味に勝つのは偉いことです」

 

 ぽんぽこが頷く。

 

「収支、重要」

 

「今日は黒字にする」

 

「目標、黒字」

 

 店員が端末を操作した。

 

「ソロファイト、参加費千円。勝利で千五百円分の店舗ポイントです」

 

「了解」

 

「機体登録は、ゴーストファイターS。ファイター名、ダテ・ショウコでいいですね」

 

「はい」

 

 ぽんぽこが前足を上げる。

 

「ぽんぽこ、観戦」

 

「今日は出ない」

 

「支援不可」

 

「そう。支援不可」

 

 ぽんぽこは少しだけしょぼんとした。

 

 店員は奥の対戦台を指した。

 

「相手、もう来てますよ」

 

 ショウコは視線を向けた。

 

 対戦台の向こう側に、女ファイターが立っていた。

 

 年齢はショウコより少し下だろうか。

 短く切った髪。鋭い目。

 腕を組んで、こちらを見ている。

 機嫌が悪いのではない。

 機嫌の悪さを燃料にしているような顔だった。

 

 彼女の前には、青い機体が置かれている。

 

 ブルデュエル。

 

 デュエル系の機体でありながら、アサルトシュラウドをまとったデュエルよりも線は細い。

 青い装甲をまとい、右肩には対ビームシールド。その裏には小型レールガン。

 左肩には、投擲用スティレットを収めた小さな発射機構。

 脚部側面にはビームサーベル。

 重く膨らんだ装甲ではない。

 だが、その青と白の外装はVPS装甲、ヴァリアブルフェイズシフト装甲だ。

 エネルギーを食う代わりに、実弾武装に対して強烈なアドバンテージを持つ。

 ただし、関節や可動部、グレーのフレームまで同じように守られているわけではない。

 近距離で相手を押し込み、硬さと手数で制圧するための、青い格闘制圧機だった。

 

 女ファイターが口を開く。

 

「あなたがダテ・ショウコ?」

 

「そう」

 

「噂は聞いてるわ。変なタヌキを連れてる賞金稼ぎ」

 

「店舗ポイント稼ぎ」

 

「同じでしょ」

 

「違う」

 

 ぽんぽこが前足を上げた。

 

「法的配慮、重要」

 

「うるさいタヌキね」

 

「ぽんぽこ、タヌキ型高性能AI」

 

「うるさい高性能AIね」

 

 ぽんぽこは黙った。

 

 ショウコは少し笑った。

 

「ハンドルネームは?」

 

「アサナ・ホルクロフト」

 

 女ファイターは胸を張った。

 

「機体はブルデュエル。VPS装甲で守った近接制圧機よ。実弾メインの黒いやつで勝てると思わないことね」

 

 ショウコはゴーストファイターSを見下ろした。

 

「思ってる」

 

「いい度胸ね」

 

「度胸じゃないよ」

 

 ショウコは黒い機体を台座に置く。

 

「手順」

 

 アサナの眉が跳ねた。

 

「は?」

 

「勝つための手順」

 

 ぽんぽこが横から言う。

 

「相手、キレ芸気質」

 

「こら」

 

「ショウコ、事実確認」

 

「事実でも言わない」

 

 アサナのこめかみがぴくりと動いた。

 

「今、何て?」

 

「何でもないです」

 

 ショウコはGPベースを取り出した。

 

 ぽんぽこがそれを見て、少しだけ身を乗り出す。

 

『Please set your GP Base.』

 

 システム音声が響いた。

 

「ぷりーせっちゃ、じーぴーべ」

 

 ぽんぽこが小声で復唱した。

 

「今日は置かないよ」

 

「観戦ぽんぽこ、復唱のみ」

 

 ショウコは自分のGPベースをセットした。

 

 アサナも、青いGPベースを置く。

 

 モニターに名前が表示される。

 

 ダテ・ショウコ/ゴーストファイターS。

 

 アサナ・ホルクロフト/ブルデュエル。

 

『Beginning Plavsky particle dispersal.』

 

「びぎに、ぷらふふきぱーちこーですぽーさ」

 

 ぽんぽこが小さく続ける。

 

『Field selected. Side 7.』

 

「さいどせぶん」

 

 プラフスキー粒子が満ちる。

 

 黒い機体と青い機体が、コロニーの市街地へ降り立った。

 

 サイド7。

 

 人工の空。コロニーの外壁。建物の影。広い道路。遮蔽物。開けた射線。

 

 ゴーストファイターSは、地面に立った。

 

 飛ばない。

 

 ブースターを吹かして宙へ上がることもしない。

 

 黒い足が、舗装された道路を踏む。

 

 対するブルデュエルは、右肩の対ビームシールドを前に出した。

 シールド裏のスコルピオン機動レールガンが、独立可動するマウントの上で角度を変える。

 

 さらに、両側のキャニスターが展開した。

 

 リトラクタブルビームガン。

 短い砲身が起立する。

 

「蜂の巣にしてあげる」

 

 アサナが言う。

 

「できれば修理しやすい範囲でお願いします」

 

「試合前に修理の話!?」

 

「大事だから」

 

 ブルデュエルのビームガンが火を噴いた。

 

 高い連射性能を持つ短砲身ビームガンが、道路と建物の角をまとめて叩く。

 青い機体は動きながら撃つ。

 近距離乱戦用の制圧射撃。

 避けようと横へ動けば、機体の姿勢とは関係なく、シールド裏のレールガンが別角度から撃つ。

 

 ゴーストファイターSは走った。

 

 飛ばない。

 路面を蹴る。

 

 建物の影に入り、すぐに出る。マシンガンを構えた。

 

 90mmマシンガン。

 短い発射音が連続する。

 

 だだだだだ、と実弾がブルデュエルへ吸い込まれる。

 

 青い装甲に火花が散った。

 弾かれる。

 

 VPS装甲が、実弾を受け止めた。

 装甲の表面で光が散り、弾丸は砕ける。

 ブルデュエルは止まらない。

 

 アサナが笑った。

 

「そんな豆鉄砲で、ブルデュエルが止まると思ってるの?」

 

「止めるよ」

 

 ショウコは静かに答えた。

 

「倒すためじゃない」

 

「は?」

 

 ゴーストファイターSのマシンガンが撃ち切れた。

 がしゃん、とリロード。

 

 その短い隙を、ブルデュエルは見逃さない。

 

 スコルピオン機動レールガンが横から火を噴く。

 

 ゴーストはしゃがんだ。

 黒い肩の上を弾が抜ける。建物の壁に穴が開いた。

 

 ブルデュエルが詰める。

 

 キャニスターからビームガンを連射しながら、右肩のシールドを前に出す。

 シールドが防ぎ、ビームガンが押し、レールガンが横を咎める。

 

 嫌な機体だった。

 前へ出るための武装が揃っている。

 

 ショウコはゴーストの背中から一本目のスプレッドミサイルを射出した。

 

 ミサイルはブルデュエルを直接狙わない。

 

 道路の右側、建物の角へ向かう。

 爆発。

 

 破片と煙が道路を覆う。装甲を抜くためではない。足場を汚すための爆発。

 

 ブルデュエルの進路が一つ消える。

 

「そんなもの、当たらなきゃ意味ないでしょ!」

 

「意味はある」

 

 ゴーストは建物の影へ滑り込み、二本目のミサイルを撃つ。

 

 今度は左側。

 爆発が路面を割る。

 

 ブルデュエルの足が、ほんの少し止まった。

 

 ほんの少し。

 だが、止まった。

 

 アサナは舌打ちした。

 

 左肩の小さな発射機構が開く。

 スティレット投擲噴進対装甲貫入弾。

 三基の小型ナイフが姿を見せる。

 

「じゃあ、こっちも小細工してあげる!」

 

 三本のスティレットが放たれた。

 

 内蔵されたRATシステムが推力を生み、ナイフが空中で軌道を変える。

 小型ながら、通常装甲なら貫ける対装甲貫入弾。

 

 ゴーストはマシンガンを構え直す。

 

 一基を撃ち落とす。

 二基目は肩をかすめた。黒い装甲が削れる。

 三基目は背中のミサイルラックに向かっていく。

 

「そこ、嫌だな」

 

 ショウコは機体を捻る。

 

 ナイフが背部ラックの端を削った。

 ミサイルの固定部に傷が入る。

 爆発はしないが、見過ごせない傷だった。

 

 ぽんぽこが観戦席で前足を上げた。

 

「背部ラック、損傷軽微」

 

「言わないで」

 

 ショウコは小さく呟く。

 

「聞こえてる?」

 

「ぽんぽこ、高性能」

 

 ブルデュエルがさらに詰める。

 

 脚部側面からビームサーベルを抜いた。

 ファントムペイン仕様に信頼性と耐久性を上げられた近接武装が、ピンクの刃を形成する。

 

 対ビームシールドが前に出る。

 シールド裏のレールガンが、ゴーストの逃げ道へ弾を撃ち込む。

 

 頭部のトーデスシュレッケンも火を噴いた。

 左右側面に装備された自動近接防御火器が、黒い機体の接近を嫌がるように弾をばらまく。

 

 青い機体が、武装を全部使って前に来る。

 乱戦制圧機。

 硬く、速く、近づけば切る。

 

 ゴーストは後ろへ下がらなかった。

 

 黒い機体は、ビームライフルを構える。

 赤黒い光が銃口に集まった。

 

「ビーム?」

 

 アサナが眉をひそめる。

 

「実弾ばっかりじゃなかったの?」

 

「少ない武装は、全部使う」

 

 赤黒いビームが放たれた。

 ブルデュエルの脚部を撃つ。

 装甲を抜くほどの威力はない。

 

 だが、衝撃は機体の姿勢を乱した。

 ブルデュエルの足が一瞬もつれる。

 アサナはすぐに立て直す。

 シールドが前に出る。

 レールガンが反撃する。

 

「抜けてない!」

 

「抜く必要はないよ」

 

 ゴーストは三本目のスプレッドミサイルを撃った。

 

 今度はブルデュエルの背後。

 

 爆発で退路を汚す。

 

 ブルデュエルは前へ出るしかなくなる。

 

「上等!」

 

 アサナが叫ぶ。

 ブルデュエルがビームサーベルを振る。

 ゴーストはそれを避けきれない。

 

 黒い左肩が焼かれた。

 装甲が削れ、プラフスキー粒子の火花が散る。

 

 だが、ゴーストは前へ出た。

 右拳によるストレート。

 

「貰った、ゴーストマグナム!」

 

 ブルデュエルの胸部装甲を叩く。

 硬い。

 拳は装甲を貫かなかった。

 黒い拳の装甲が欠けた。

 

 アサナが笑う。

 

「効かないって言ってるでしょ!」

 

「効いてる」

 

 押し当てたままの拳。

 手甲部のプラズマステークが展開した。

 

 ばちん、と青白い光が走る。

 ショックパルス。

 

 ブルデュエルの動きが一瞬止まった。

 

「なっ……!」

 

 ゴーストの左拳が入る。

 装甲は抜けない。

 だが、またショックパルスが走る。

 

 ブルデュエルの姿勢制御が乱れた。

 硬い装甲はそこにある。

 だが、機体そのものが揺れる。

 

 アサナがビームサーベルを振ろうとする。

 

 ゴーストの膝が、ブルデュエルの腰に入った。

 膝装甲のプラズマステークが火花を散らす。

 

 さらに、低く蹴る。

 爪先に仕込まれたプラズマステークから、脚部へショックが入る。

 ブルデュエルの右脚が半歩ずれた。

 

 トーデスシュレッケンが至近距離で火を噴く。

 

 黒い胸部に弾が叩き込まれる。

 ゴーストの装甲が削れる。

 プラ粉が散る。左肩の傷が広がる。

 

 それでも、ショウコは離れない。

 

「離れなさいよ!」

 

「離れたら、ビームガンとレールガンで撃つでしょ」

 

「当たり前でしょ!」

 

「じゃあ離れない」

 

 右拳。

 左拳。

 蹴り。

 また拳。

 

 VPS装甲は硬い。

 弾を止める。

 拳を弾く。

 刃を滑らせる。

 

 けれど、衝撃は消えない。

 電流は嫌がられる。

 

 ショックパルスは、装甲の内側へ通る。

 ガンプラバトルの判定は、そこを見逃さない。

 

 ブルデュエルの動きが、だんだん遅れる。

 アサナの声が荒くなる。

 

「効いてない! 効いてないでしょ、それ!」

 

「効いてる」

 

「装甲は抜けてない!」

 

「抜いてない」

 

「じゃあなんで止まるのよ!」

 

「中が揺れてるから」

 

「最悪!」

 

 ぽんぽこが観戦席で前足を上げた。

 

「対面、憤慨」

 

「実況しない」

 

「ぽんぽこ、観戦」

 

 アサナは奥歯を噛みしめた。

 

 ブルデュエルのシールドが動く。

 

 スコルピオン機動レールガンが、至近距離でゴーストの胴体を狙う。

 

 ショウコはそれを見ていた。

 

 ゴーストの左脚が、シールドの下を蹴った。

 爪先に仕込まれたプラズマステークのショックが走る。

 

 シールドの向きが一瞬ずれる。

 

 レールガンの弾が、黒い機体の脇を抜け、背後の建物を抉った。

 

「そこ」

 

 ゴーストは最後のスプレッドミサイルを、足元へ撃った。

 

 至近距離。

 爆風が両機の周囲を覆う。

 VPS装甲は破片を弾く。

 ゴーストの黒い装甲は削れる。

 

 だが、足場は完全に荒れた。

 

 ブルデュエルの重い装甲が、ほんのわずかに沈む。

 

 その瞬間、赤黒いビームがもう一度走った。

 

 ゴーストのビームライフル。

 

 ブルデュエルの膝を撃つ。

 青い機体の姿勢が崩れた。

 

 ショウコは、操縦桿を握る指に力を込めた。

 

「乱舞、入る」

 

 ぽんぽこが小さく呟く。

 

「ゴースト、勝利手順、最終段」

 

 ゴーストファイターSが、両拳を突き合わせた。

 

 ばちん。

 両腕のプラズマステークが展開する。

 膝と爪先のステークも、同時に火花を散らした。

 

 アサナが目を見開く。

 

「なに、それ」

 

「元ネタ尊重、ちょっぴり過積載」

 

「は?」

 

 ショウコは息を吸った。

 少しだけ、声の温度が上がる。

 

「ゴーストオブ……」

 

 黒い機体が踏み込んだ。

 

 右拳。

 左拳。

 膝。

 蹴り。

 また右拳。

 

 衝撃とショックパルスが重なる。

 VPS装甲は砕けない。

 だが、ブルデュエルの内部判定が削れていく。

 

 青い機体の関節が悲鳴を上げるように震えた。

 

 ショウコは両腕を引いた。

 左右の拳が、同じ高さに並ぶ。

 

 二つの杭。

 二つのゴーストマグナム。

 

 狙うのは装甲の破壊ではない。

 機体の中心。

 戦闘継続判定。

 

「ファントム!」

 

 双腕胴突。

 

 ゴーストファイターSの両拳が、ブルデュエルの胴体へ同時に叩き込まれた。

 

 青い装甲は、割れなかった。

 

 だが、光が走る。

 衝撃が機体を抜ける。

 

 ショックパルスが、装甲の奥へ届く。

 ブルデュエルの全身が硬直した。

 

 次の瞬間、GBSのモニターに警告表示が走る。

 

 戦闘継続不能。

 

 青い機体が、ゆっくりと膝をついた。

 

『Battle ended. Winner, ダテ・ショウコ』

 

 店内が一瞬、静かになった。

 

 それから、常連たちがざわついた。

 

「装甲抜けてないぞ」

 

「判定落ちだ」

 

「電気で中身焼いた」

 

「言い方やめろ」

 

「ゴースト、やっぱ嫌だな」

 

「でも上手い」

 

「嫌だけど上手い」

 

 アサナは、操縦席の前で固まっていた。

 

 ブルデュエルを引き上げる手が震えている。

 

 怒りで。

 

 あるいは、納得できなさで。

 

 ショウコはゴーストファイターSを回収した。

 

 黒い機体も無傷ではなかった。

 

 右拳の装甲が欠けている。

 

 左拳のステーク基部が少し歪んでいる。

 

 左肩にはビームサーベルの焦げ跡。

 胸部にはトーデスシュレッケンの弾痕。

 背中のミサイルラックも、スティレットにかすられている。

 

 勝った。

 でも、綺麗な勝ち方ではない。

 ゴーストファイターSは、勝つために削れていた。

 

 ぽんぽこがキャリーケースの上から言う。

 

「勝利」

 

「うん」

 

「両腕、要修理」

 

「うん」

 

「脚部、点検推奨」

 

「うん」

 

「収支、黒字」

 

 ショウコは少し考えた。

 

「黒字?」

 

「胴体再購入なし」

 

「黒字だね」

 

 アサナが、こちらを睨んでいた。

 

「装甲は抜けてない」

 

「うん」

 

「なのに、なんで落ちたのよ」

 

「衝撃と電流が入ったから」

 

「それ、装甲勝負じゃないでしょ!」

 

「装甲勝負をしに来たわけじゃないから」

 

 アサナの顔がさらに赤くなる。

 

「なによ、それ!」

 

「勝つための手順」

 

 ショウコはゴーストを緩衝材に戻す前に、ブルデュエルを見た。

 

 青い装甲は、大きく壊れていない。

 だが、動きは確かに止まっていた。

 

「装甲はほとんど抜けてないと思う」

 

「見ればわかるわよ!」

 

「でも、衝撃で機体は揺れてた。肩、腰、膝。あと胴体の内側。関節の可動域は見た方がいい」

 

 アサナが言葉に詰まる。

 

「……は?」

 

「ステークのショックが入ってるから、内側の軸が緩んでるかもしれない。外装が無事でも、中が歪むことはある」

 

 ショウコは、ブルデュエルの右肩を指した。

 

「特にシールドのマウント。最後、向きがずれた。あそこは見てあげて」

 

 アサナは、怒った顔のまま黙った。

 言い返そうとして、言葉が出てこない顔だった。

 

「勝った相手に、修理の心配?」

 

「壊したいわけじゃないから」

 

 ショウコは、黒い機体をケースに戻した。

 

「勝ちたいだけ。できれば、次も戦える状態で」

 

 ぽんぽこが前足を上げる。

 

「勝利目的」

 

「うん」

 

「破壊目的、非推奨」

 

「うん」

 

「修理助言、実施」

 

「うん」

 

「収支、黒字」

 

「最後のは言わなくていい」

 

 店員が端末を操作し、カードを差し出した。

 

「勝利ポイント、千五百円分です」

 

「ありがとうございます」

 

「あと、ブルデュエル側の修理スペース、空けておきますね」

 

 アサナがむっとする。

 

「別に、壊れてないし」

 

 ぽんぽこが前足を上げた。

 

「関節可動域、点検推奨」

 

「タヌキまで!」

 

「ぽんぽこ、高性能AI」

 

 ショウコは苦笑した。

 

「見ておいた方がいいよ。硬い装甲の機体ほど、内側のズレは後で効くから」

 

 アサナはしばらく睨んでいた。

 

 それから、ブルデュエルを抱え直す。

 

「……見るだけ見る」

 

「それがいい」

 

「次は、あんな変な電気パンチ、通さないから」

 

「次も来る?」

 

「来るわよ。納得してないもの」

 

 ショウコは少し笑った。

 

「じゃあ、また」

 

 アサナは返事の代わりに、ふん、と鼻を鳴らした。

 

 けれど、修理スペースへ向かう足取りは、さっきより少しだけ落ち着いていた。

 

 ショウコはゴーストファイターSのケースを閉じる。

 

 がちん、とロックがかかる。

 

 キャリーケースの上で、ぽんぽこが揺れた。

 

「黒い出稼ぎ、成功」

 

「出稼ぎって言うな」

 

「店舗ポイント、獲得」

 

「それは事実」

 

「ゴースト、稼ぎ頭」

 

「それも事実」

 

 ショウコはカードに表示されたポイントを見て、小さく息を吐いた。

 

 ライトニングブリッツSの胴体代には、まだ足りない。

 

 右腕の再製作にも、コネクタの作り直しにも、時間はかかる。

 

 それでも、今日は赤字ではない。

 黒い機体は、ちゃんと仕事をした。

 

 派手ではない。

 綺麗でもない。

 相手には嫌がられる。

 けれど、勝つ。

 

 勝って、壊しすぎず、修理の余地を残す。

 ゴーストファイターSは、そういう機体だった。

 

 ぽんぽこが短い前足を上げる。

 

「次回、修理」

 

「次回って言わない」

 

「帰宅、推奨」

 

「それは賛成」

 

 ショウコはキャリーケースのハンドルを引いた。

 

 がら、ごろ、ごろり。

 

 黒い出稼ぎゴーストを乗せたキャリーケースが、サイド7の床を鳴らす。

 

 店の奥では、青いブルデュエルが修理台に置かれていた。

 硬い装甲は、まだ青く輝いている。

 その内側で、どれだけ軸が緩んでいるかは、これからアサナが確かめることになる。

 

 ショウコは振り返らずに手を上げた。

 

「またね」

 

 背後から、小さく声が返ってくる。

 

「……次は勝つから」

 

 ぽんぽこが揺れた。

 

「再戦予約、検出」

 

「いいことじゃない」

 

「対面、まだ怒り」

 

「それもいいこと」

 

 自動ドアが開く。

 外の光が差し込む。

 

 ショウコはキャリーケースを引き、店を出た。

 

 黒い機体はケースの中で眠っている。

 両腕と脚には修理が必要だ。

 

 それでも、ゴーストファイターSは稼いだ。

 壊し屋ではなく、黒い稼ぎ頭として。

 今日の収支は、黒字だった。




第5話 登場武装簡易カタログ

ショウコの使ったガンプラ及び、対戦相手の使用ガンプラの元ネタを知らない方向けの補足です。
本文中で使用された武装と、その役割をまとめています。

ゴーストファイターS/ダテ・ショウコ
地上戦と近距離制圧に特化した黒い稼ぎ頭。派手な高火力や空戦能力はないが、マシンガンで動かし、ビームライフルで姿勢を崩し、スプレッドミサイルで足場を汚し、最後はプラズマステークで戦闘継続判定を削る。第5話ではブルデュエルのVPS装甲を正面から破壊せず、衝撃と電流で姿勢制御と戦闘継続判定を削って勝利した。綺麗ではないが、勝って壊しすぎないための手順を持つ機体。

90mmマシンガン
発射レートの高い実弾マシンガン。VPS装甲を抜く火力はないが、相手の視線を取り、反応を強制するために使われる。第5話ではブルデュエルの装甲に弾かれながらも、足止めと牽制の役割を果たした。

ビームライフル
赤黒い光を放つ、低威力高拘束寄りのビームライフル。装甲を破壊するよりも、強烈な衝撃力で姿勢を崩すための武装。第5話ではブルデュエルの脚部や膝を撃ち、ゴーストの接近と最終段への入り口を作った。

スプレッドミサイル
背部に四本装備された大型ミサイル。直撃狙いではなく、近接信管による爆発で足場と進路を汚すために使われる。第5話ではブルデュエルの進路と退路を制限し、最後は足元へ撃ち込むことで姿勢崩しにつなげた。

プラズマステーク
両手両足に仕込まれた電撃杭。元ネタよりも多く仕込まれている。打撃の瞬間にショックパルスを流し、VPS装甲を破壊するのではなく、機体の姿勢制御や戦闘継続判定へ負荷をかける。第5話ではVPS装甲を破壊せず、衝撃と電流でブルデュエルの戦闘継続判定を削った。

ゴーストオブ・ファントム
ゴーストファイターSの近接連続攻撃。両拳、膝、蹴りによる乱舞から、最後に両腕を同時に叩き込む双腕胴突へつなげる。第5話ではブルデュエルの装甲を割るのではなく、衝撃とショックパルスで戦闘継続判定を限界まで削り、戦闘不能に追い込んだ。

ブルデュエル/アサナ・ホルクロフト
VPS装甲と近距離武装で相手を押し込む青い格闘制圧機。実弾に強く、ビームガン、レールガン、スティレット、ビームサーベルを組み合わせて接近戦を支配する。第5話ではゴーストファイターSの実弾を受け止めながら前進したが、装甲を抜かれないまま衝撃とショックパルスを蓄積され、戦闘継続不能に追い込まれた。

M7G2 リトラクタブルビームガン
両腕部キャニスターに収納された短砲身ビームガン。展開後は高い連射性能で近距離を制圧する。第5話では開幕からゴーストファイターSを寄せつけないための主火器として使われた。

M443 スコルピオン機動レールガン
右肩の対ビームシールド裏に装備された小型レールガン。機体姿勢とは別に射角を取れるため、横移動や回避先を咎めやすい。第5話ではゴーストの逃げ道を狙い、近距離でも決定打を狙った。

対ビームシールド
右肩に装備された独立可動式の防御装備。射撃を受けながら前進するための盾であり、シールド裏のスコルピオンと組み合わせて攻防を同時に行う。第5話ではゴーストの射撃を受けつつ前進したが、終盤にマウント部へショックを受けて向きがずれた。

Mk315 スティレット投擲噴進対装甲貫入弾
左肩の小さな発射機構に収められた三基の小型ナイフ。RATシステムによって推進し、通常装甲を貫くことができる。第5話では一基を撃ち落とされ、二基目がゴーストの肩をかすめ、三基目が背部ミサイルラックを削った。

ES05A ビームサーベル
脚部側面に装備された近接武装。ピンクの刃を形成する。第5話ではゴーストの接近戦に対して使用され、左肩へ損傷を与えた。

M2M5 トーデスシュレッケン12.5mm自動近接防御火器
頭部左右に装備された近接防御火器。接近する敵機への牽制に使われる。第5話では至近距離でゴーストファイターSに弾を叩き込み、装甲を削った。

VPS装甲
機体エネルギーを消費し、主に外装部で実弾を強力に防ぐ特殊装甲。第5話では90mmマシンガンや爆発破片を受け止め、ブルデュエルの硬さを示した。一方で、関節可動域やフレーム部まで完全に守れるわけではなく、ゴーストの連続打撃とショックパルスによって内側の軸や姿勢制御に負荷を受けた。
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