ガンダムビルドファイターズ ダテ・ショウコの軌跡   作:わしのシアン

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※今回も集団戦です。
 前線・支援・強襲などの役割を意識したガンプラバトル描写があります。


第8話 それはゲンさんじゃない

 帰ってからも、砂の感触が残っていた。

 

 実際には、ただのプラフスキー粒子の再現だ。

 

 大型GBSの中に作られた砂漠。

 足を取る砂地。

 遠くまで通る射線。

 砂丘の向こうから撃ち抜いてくるジムスナイパーⅡ。

 

 そして、戻ってこなかった赤い機体。

 

 オルトスチールSⅡは、曲がれるようになった。

 

 だが、帰れなかった。

 

 支援を落としきれず、前線にも戻れず、自分だけが砂漠の奥で死んだ。

 

 あの夜、ショウコはキャリーケースを開けたまま、しばらく座っていた。

 

 ぽんぽこは、机の上で短い前足を揃えていた。

 

「前回小隊戦ログ。強襲固執。帰還失敗」

 

「それ、消して」

 

「教訓、保存」

 

「赤猪、帰還未達」

 

「もっと悪い」

 

 ショウコは、オルトスチールSⅡを見た。

 

 赤い機体。

 曲がる猪。

 でも、帰れない猪。

 

 違う。

 

 そうじゃない。

 

 そもそも、なんで強襲を選んだのか。

 

 支援が怖いから。

 支援を放置したら前線が崩れるから。

 自分がそこへ行けばいいと思ったから。

 

 なら。

 最初から、支援を黙らせられる火力を持っていけばいい。

 

 遠くから。

 面で。

 逃げ道ごと焼く。

 

 ショウコはキャリーケースの奥から、まだ実戦に出していない外装を取り出した。

 

 青いライトニングブリッツS。

 その背中へ接続する、大型の砲撃ユニット。

 

 大型複合砲。

 マルチミサイルプラットフォーム。

 両腕固定具。

 粒子供給ライン。

 冷却ライン。

 

 ライトニングブリッツS用砲撃外装。

 ランツェカノーネ。

 

 ぽんぽこが、じっと見ていた。

 

「選択、砲撃支援」

 

「前に出過ぎない」

 

「前線維持、味方依存」

 

「撃つ」

 

「敵強襲、接近時、危険」

 

「ビームトーチがある」

 

「間合い管理されると、危険」

 

「……言うね」

 

「前回ログ、反映」

 

 ショウコは、大型複合砲ユニットの接続部を確認した。

 

 パージ機構。

 両腕ロック。

 背部ロック。

 緊急切り離し。

 

 火力はある。

 

 だが、重い。

 旋回は遅い。

 近距離は苦しい。

 

 それでも、前回よりはましだ。

 少なくとも、砂漠の奥で戻れなくなるよりは。

 そう思っていた。

 

 

 

 数日後。

 

 ショウコは再び、ガンプラ・バー〈古強者たちの巣窟〉へ来ていた。

 

 ラルはいなかった。

 

 カウンターにはハモンがいる。

 

 常連たちは、相変わらず古いキットと新しい文句を並べていた。

 

「あら、いらっしゃい」

 

 ハモンが顔を上げる。

 

「赤い猪の子」

 

「今日は青いです」

 

「そうなの?」

 

「今日はライトニングブリッツSです」

 

「じゃあ、青い猪?」

 

「なぜ猪から離れないんですか」

 

 ぽんぽこがキャリーケースの上で前足を上げた。

 

「赤猪、青大砲へ換装」

 

「ぽんぽこ」

 

「情報共有」

 

 カウンター席の常連が笑った。

 

「また来たな、お嬢ちゃん」

 

「今日もタヌキは一緒か」

 

「一緒ですよ」

 

「かわいいなあ」

 

 ぽんぽこが胸を張る。

 

「ぽんぽこ、高性能AI」

 

「はいはい、賢いタヌキちゃん」

 

「訂正要求」

 

 ハモンが小さな皿を出す。

 

「クッキー、食べられないのよね?」

 

「摂食機能、なし」

 

「残念ね」

 

「同情、不要」

 

「強がるところもかわいいわ」

 

「認識、修正不能」

 

 ショウコは少しだけ笑った。

 

 前回来た時より、店の空気が重くない。

 

 ただし、地下の大型GBSが空いていると聞いた瞬間、常連たちの動きは早かった。

 

 あっという間に、五対五のシャッフルマッチが決まる。

 

 ハモンが端末を操作した。

 

「今日も砂漠でいいかしら」

 

「ええ」

 

 ショウコは頷く。

 

「今日は、砂漠のための装備です」

 

「頼もしいわね」

 

 ハモンの声は柔らかかった。

 だが、その目は笑っていない。

 

 この店の人たちは、優しい。

 でも戦場には甘くない。

 

 地下へ降りる。

 

 大型GBSの前には、すでにガンプラが並んでいた。

 

 ショウコは、自分のライトニングブリッツSへランツェカノーネ外装を装着する。

 

 背部に、マルチミサイルプラットフォーム。

 両腕に、大型複合砲の保持具。

 腰と背中に、追加の安定スラスター。

 

 青い機体が、大型複合砲に接続される。

 

 支援機というより、移動砲座だった。

 

 ぽんぽこが言う。

 

「ランツェカノーネ、接続完了」

 

「冷却ラインは?」

 

「正常」

 

「パージ機構」

 

「正常」

 

「大型複合砲」

 

「照射可能」

 

「よし」

 

 チーム分けが表示される。

 

 味方Aチーム。

 

 ダテ・ショウコ/ライトニングブリッツSランツェカノーネ。

 ジムスナイパーⅡ。

 陸戦型ジム。

 ザクⅡ改。

 ガンキャノン量産型。

 

 白いジムスナイパーⅡの常連が、ショウコの方を見た。

「また会ったな。今回はよろしく」

 

 前回、砂漠でオルトスチールSⅡを撃ち抜いた人だった。

 敵に回れば嫌な射線。

 味方にいるなら、頼もしい射線。

 

「……よろしくお願いします」

 

 ショウコは少しだけ頭を下げた。

 

「前回のことは?」

 

「覚えてます」

 

「なら、今日は撃たれない場所にいてくれ」

 

「努力します」

 

 ぽんぽこが前足を上げる。

 

「前回撃墜者、味方化」

 

「言い方」

 

 敵Bチーム。

 

 ドム。

 ザクデザートタイプ。

 グフカスタム。

 ジム。

 ザクキャノン。

 

 ショウコの目が、そこで止まった。

 

 グフカスタム。

 

 敵。

 また敵。

 

 ぽんぽこが言う。

 

「敵強襲、グフカスタム」

 

 胸の奥が、ひゅっと縮む。

 

 右腕。

 

 ヒート・ロッド。

 

 ガトリング。

 

 胸へ押しつけられた銃口。

 

 青い稲妻が、道具みたいに解体された記憶。

 

 ゲンゾウのグフカスタム。

 

 違う。

 

 あれは、ゲンさんじゃない。

 

 ショウコは自分に言い聞かせた。

 

 敵のグフカスタムは、見たままのグフカスタムだ。

 

 右腕に三連装三十五ミリガトリングはない。

 ガトリング・シールド。

 ヒート・サーベル。

 ヒート・ロッドはアンカータイプ。

 

 シティエリアでもない。

 

 砂漠だ。

 壁はない。

 

 アンカーで壁を掴み、横へ引いて射線から消えることはできない。

 

 あれは、ゲンさんじゃない。

 

「大丈夫か?」

 

 声をかけたのは、味方のジムスナイパーⅡの常連だった。

 

 前回、ショウコのオルトスチールSⅡを撃ち抜いた人だ。

 

 白い機体の使い手。

 

 ショウコは少しだけ背筋を伸ばす。

 

「大丈夫です」

 

「グフカスタムが苦手か」

 

「苦手というか」

 

「嫌な思い出がある?」

 

「あります」

 

「なら、見るといい」

 

「見る?」

 

「怖い時ほど、機体を見るんだ。思い出じゃなくて、目の前の機体を見る」

 

 ジムスナイパーⅡの常連は、静かに言った。

 

「今日のあれは、前に戦ったそれじゃないはずだ」

 

 ショウコは少しだけ息を吸う。

 

「はい」

 

 ぽんぽこが前足を上げる。

 

「ゲンゾウ機、非該当」

 

「その名前を出さないで」

 

「支援情報」

 

「余計怖い」

 

『Please set your GP Base.』

 

 大型GBSの音声が響く。

 

 ぽんぽこが短く復唱した。

 

「ぷりーせっちゃ、じーぴーべ」

 

 ショウコはGPベースをセットする。

 

『Beginning Plavsky particle dispersal.』

 

「びぎに、ぷらふふきぱーちこーですぽーさ」

 

『Field selected. Desert.』

 

「でざーと」

 

 砂漠が広がる。

 

 白い空。

 揺れる地平線。

 重なる砂丘。

 点在する岩場。

 

 前回と同じ砂漠。

 

 だが、今日は違う。

 

 赤い猪ではない。

 

 青い大砲だ。

 

 ライトニングブリッツSランツェカノーネは、砂の上に重く立った。

 

 両腕で大型複合砲を保持する。

 

 背中のマルチミサイルプラットフォームが展開する。

 

 砲口が、遠くの敵前衛を向いた。

 

『Battle start.』

 

 開幕。

 

 敵のジムが前に出た。

 

 汎用機。

 

 ドムとザクデザートタイプの間を埋めるように、少し前へ出る。

 

 ショウコは息を止めた。

 

 大型複合砲ビームランチャー、照射準備。

 

 両腕の固定具が噛み合う。

 

 背部ユニットが反動制御に入る。

 

 ライトニングブリッツSの膝が、砂に沈む。

 

「照射」

 

 青白い光が、戦場を裂いた。

 太いビームが砂丘の上を横切る。

 

 敵ジムは避けられなかった。

 光に呑まれ、胴体から粒子の火花を散らす。

 

『Enemy unit destroyed.』

 

 まず、一機。

 

 ぽんぽこが言う。

 

「敵汎用、一機蒸発」

 

「蒸発って言い方」

 

「事実に近似」

 

 ショウコは大型複合砲を振る。

 

 敵が散る。

 

 ドムが横へ滑る。

 ザクデザートタイプが砂丘の裏へ入る。

 ザクキャノンが砲身を下げて移動する。

 

 照射は効いた。

 火力は通る。

 

 見られた。

 なら、次。

 

「大型ミサイル、推奨」

 

「わかってる。視線誘導を狙う。大型ミサイル、発射準備」

 

 背部マルチミサイルランチャーから、太い弾体がせり出す。

 

 敵は照射を見ている。

 砲口を見ている。

 だからこそ、ミサイルを見るのが遅れる。

 

「飛べ」

 

 二発の大型ミサイルが空へ出た。

 

 まっすぐではない。

 弧を描き、敵の視線を引き、回避方向を縛るための弾道。

 

 狙いはザクデザートタイプ。

 砂丘裏へ逃げた汎用機を、爆風で引きずり出す。

 その瞬間だった。

 

「敵強襲、接近」

 

 ぽんぽこの声。

 

 画面の端に、青い影。

 グフカスタム。

 ガトリング・シールドを構え、砂丘の横から入ってくる。

 

 ヒート・ロッドが伸びた。

 アンカータイプ。

 

 砂を叩き、機体の横を通る。

 

 ヒート・ロッド。

 右腕。

 青い機体の右腕が止まる記憶。

 

 ショウコの指が固まった。

 

「違う」

 

 ロックが揺れる。

 大型ミサイルの誘導線がぶれた。

 

「あ」

 

 ミサイルは、ザクデザートタイプの足元を外れた。

 

 砂丘の手前に落ちる。

 爆発。

 

 砂が噴き上がり、ザクデザートタイプがよろめく。

 

 膝をつく。

 装甲に火花が散る。

 

 だが、撃破表示は出ない。

 

「直撃してない」

 

「敵汎用、よろけ。撃破未達」

 

「分かってる」

 

「大型ミサイル、誘導失敗」

 

「分かってる」

 

「原因、ショウコ硬直」

 

「分かってるってば!」

 

 グフカスタムは踏み込んでこない。

 近づきすぎれば、ビームトーチがある。

 

 だが、離れもしない。

 離れれば、大型複合砲が向く。

 

 嫌な距離。

 撃てない距離。

 当てられない距離。

 

 ランツェカノーネの砲身を、グフカスタムが横へ振らせる。

 

 重い。

 砲が重い。

 旋回が遅い。

 

「ビームトーチ」

 

 大型複合砲ユニットの下部から、短いビームの炎が伸びる。

 

 近距離拒否用の、焼き払うための火。

 ショウコはそれを突き出す。

 

 グフカスタムは下がった。

 届かない。

 

 ヒート・サーベルを抜くでもなく、踏み込むでもなく、ただ間合いの外へ逃げる。

 

「逃げるな」

 

「敵強襲、間合い管理、良好」

 

「褒めない」

 

 グフカスタムが横へ回る。

 ガトリング・シールドが火を吹く。

 重い弾が大型複合砲の装甲を叩く。

 

 削るためではない。

 向きをずらすため。

 撃たせないため。

 

 ショウコはヘビービームマシンガンへ切り替えた。

 

「だったら」

 

 連続したビームが砂を焼く。

 グフカスタムの足元へ叩き込む。

 

 だが、当たらない。

 横へ流れる。

 

 砂丘の斜面を使い、砲の向きが追いつかない場所へ逃げる。

 

 ゲンさんじゃない。

 あれはゲンさんじゃない。

 

 分かっている。

 

 右腕に三十五ミリはない。

 壁もない。

 アンカー移動も弱い。

 

 でも、グフカスタムがいる。

 

 視界の端にいる。

 逃げ道を塞がれている気がする。

 胸へ銃口を押しつけられる気がする。

 

「あれはゲンさんじゃない」

 

「ショウコ、不安検出」

 

「聞かないで」

 

「聞こえる」

 

 ぽんぽこの声は冷静だった。

 

 その冷静さが、逆に刺さる。

 

 味方のジムスナイパーⅡから通信が入った。

 

「見ろ」

 

「見てます」

 

「思い出じゃない。目の前の機体を見ろ」

 

 ショウコは息を吸う。

 

 グフカスタムを見る。

 

 右腕。

 ない。

 三十五ミリはない。

 

 ヒート・ロッド。

 アンカータイプ。

 

 壁はない。

 砂漠だ。

 

 横移動はしている。

 でも、シティエリアのように空間を引っ張ってはいない。

 

 ゲンゾウのグフカスタムなら、もう右腕を止めに来ていた。

 

 ゲンゾウなら、ビームトーチを出した瞬間、射線を切って胸へガトリングを押しつけていた。

 

 でも、あれは違う。

 

 上手い。

 嫌な動きだ。

 

 だが、処刑人ではない。

 

「ランツェカノーネ、パージ」

 

 ぽんぽこの返答は早かった。

 

「推奨」

 

 両腕の固定具を外す。

 

 背部のマルチミサイルプラットフォームを切り離す。

 

 大型複合砲ユニットが砂へ落ちる。

 

 火力を捨てる。

 砲を捨てる。

 初手で敵を蒸発させた武装を、自分の手で切り離す。

 

 逃げるためではない。

 仲間のところに戻るために。

 

 ライトニングブリッツSの素体が、砂の上で軽くなる。

 

 使える武装は少ない。

 

 ビームライフルはランツェカノーネ側の保持干渉で持ってきていない。

 

 残るのは、サイドスカートのビームサーベル二本。

 ブレストバルカン二門。

 頭部バルカン二門。

 左腕のシールドスタン。

 

 まるで強襲だった。

 

 ショウコは笑いそうになった。

 

「支援機から強襲になるの、どうなの」

 

「現状、選択肢、近接」

 

「だよね」

 

 グフカスタムが、一拍遅れた。

 砲を抱えた支援機として見ていた。

 重い砲を向け直すか、ビームトーチで拒否するか。

 そのどちらかだと思っていた。

 だから、砲そのものを捨てる動きに、反応が遅れた。

 

 違う。

 ライトニングブリッツSは、支援機ではない。

 

 ショウコはサイドスカートからビームサーベルを抜いた。

 

 二本。

 緑の刃が伸びる。

 

 グフカスタムのヒート・ロッドが走る。

 でも、遅い。

 

 ゲンさんのヒート・ロッドではない。

 

 ライトニングブリッツSは一歩沈み、横へ抜けた。

 頭部バルカンとブレストバルカンを同時に撃つ。

 小さな弾がグフカスタムの視界を叩く。

 

 ダメージは薄い。

 だが、センサーを散らす。

 

 その間に、青い機体が懐へ入る。

 

 グフカスタムがヒート・サーベルを抜く。

 間に合わない。

 

「あれは、ゲンさんじゃない」

 

 今度は、言い聞かせるための言葉ではなかった。

 確認だった。

 だから、踏み込める。

 

 一本目のビームサーベルが、ガトリング・シールドを斬った。

 重い武装が、砂へ落ちる。

 

 二本目が、右腕へ入る。

 ヒート・ロッドの基部が弾けた。

 

 グフカスタムが下がろうとする。

 ショウコは下がらせなかった。

 

 左腕のビームサーベルの発振を止めながら、シールドで拘束する。

 

「シールドスタン」

 

 電流を流し込む。

 グフカスタムの動きが止まる。

 右腕ビームサーベルの緑の刃が、胴体へ斜めに入った。

 

『Enemy unit destroyed.』

 

 地下の空気が、一瞬だけ静かになった。

 

 ぽんぽこが言う。

 

「敵強襲、撃破」

 

「うん」

 

「ゲンゾウ機、非該当。撃破成功」

 

「だからその名前を」

 

「教訓、保存」

 

 ショウコは息を吐いた。

 

 だが、試合は終わっていない。

 

 ランツェカノーネは砂の上に落ちている。

 砲はもう使えない。

 

 味方前線は、すでに乱れていた。

 

 初手で一機落とした。

 ミサイルで一機よろけさせた。

 グフカスタムを撃破した。

 

 だが、その間にドムとザクデザートタイプは前へ出ている。

 ザクキャノンもまだ残っている。

 

 味方のジムスナイパーⅡが通信を入れる。

 

「よくサーベルを抜いた」

 

 ショウコは一瞬、言葉に詰まる。

 

「……はい」

 

「そのまま前を荒らせ。こちらでザクキャノンを見る」

 

「了解」

 

 ライトニングブリッツSは走った。

 

 もう砲撃支援機ではない。

 大砲を捨てた。

 残ったのは、抜き身の緑の刃だった。

 

 バルカンを撒き、二刀で牽制し、時にはシールドスタンで敵の足を止める。

 

 陸戦型ジムが前へ出る。

 ザクⅡ改がグレネードを投げる。

 ガンキャノン量産型の砲撃が、ドムの進路を塞ぐ。

 

 ジムスナイパーⅡの一射が、遠くのザクキャノンを撃ち抜いた。

 白い機体は、前回ショウコを落としたのと同じように、必要な時だけ撃った。

 だが、今日は味方だった。

 

 戦闘は泥臭く続いた。

 ランツェカノーネのような派手さはない。

 赤い猪のような一点突破もない。

 青い素体が、乱戦の中で必死に前を見る。

 

 撃つ。

 斬る。

 止める。

 戻る。

 

 そして。

 

『Battle ended. Winner, Team A.』

 

 粒子の光が引いていく。

 砂漠が消えた。

 

 地下の床が戻る。

 

 ショウコは、操縦席の前でしばらく固まっていた。

 

 勝った。

 勝ったのに、手が少し震えている。

 

 ぽんぽこがキャリーケースの上で言う。

 

「勝利」

 

「うん」

 

「敵汎用、一機蒸発」

 

「うん」

 

「大型ミサイル、誘導失敗」

 

「うん」

 

「敵汎用、よろけ。撃破未達」

 

「うん」

 

「敵強襲、支援妨害成功」

 

「うん」

 

「ゲンゾウパニック、発症」

 

「正式名称にしないで」

 

「ランツェカノーネ、パージ」

 

「うん」

 

「素体戦闘、成功」

 

「うん」

 

「敵強襲、撃破」

 

「うん」

 

「勝利」

 

 ショウコは息を吐いた。

 

「勝ったのに、ログが痛い」

 

「勝利ログ、痛覚あり」

 

「ぽんぽこ、今日も嫌い」

 

「高性能」

 

 常連たちがガンプラを回収していく。

 

 グフカスタムの使い手が、苦笑しながら近づいてきた。

 

「いやあ、斬られたな」

 

「すみません」

 

「謝るところじゃない。こっちは張り付くつもりだったし」

 

「……怖かったです」

 

「そうなのか?」

 

「前に、グフカスタムの改修機に酷い目に遭わされて」

 

「ああ」

 

 常連は、自分のグフカスタムを見た。

 

「でも、これは見たままのグフカスタムだ。ガトリング・シールドとヒート・サーベル、アンカータイプのヒート・ロッド。ノリス閣下が暴れた市街地でもないしな……」

 

「……はい。途中で、分かりました」

 

「分かられたか、それで負けたなら仕方ない」

 

 その言葉に、ショウコは少しだけ目を伏せた。

 

 見えた。

 怖かった。

 でも、見えた。

 

 ジムスナイパーⅡの常連も近づいてくる。

 

「よくサーベルを抜いた」

 

 さっきと同じ言葉。

 

 だが、今度は戦後の声だった。

 

「砲に固執していたら、落ちていた」

 

「はい」

 

「初手の照射は見事だった」

 

「ありがとうございます」

 

「ミサイルは外してしまったな」

 

「……はい」

 

「だが、パージはよかった。火力を捨てて、生き伸びた」

 

 ショウコはランツェカノーネを見た。

 砂の上で切り離された、重い砲。

 強い武装。

 でも、抱えたままでは死んでいた武装。

 

 ジムスナイパーⅡの常連は、そこで少しだけ間を置いた。

 

「シラカワだ」

 

「シラカワ?」

 

「シラカワ・リョウヘイ。登録名もそれだ。常連には砂Ⅱ兄貴だの何だの言われるが、名前くらいは覚えておいてくれ」

 

「……ダテ・ショウコです」

 

「知ってる。赤い猪の子だろう」

 

「違います」

 

「今日は青い大砲だったな」

 

「それも違う気がします」

 

 シラカワは少しだけ笑った。

 

「今後も一緒にやらないか。君は、失敗した理由を持って帰れるタイプに見える」

 

 シラカワが、軽く顎をしゃくった。

 

「勝った時はエールだ。付き合え」

 

「まだ十九です」

 

 動きが止まった。

 

「……未成年だったか」

 

「はい」

 

「そうか」

 

 シラカワは、撃墜判定を受けた機体のように少し肩を落とした。

 

「ハモンさん」

 

 階段から降りてきたハモンが、目だけで返事をした。

 

「なにかしら」

 

「ジンジャーエールを……」

 

「ええ。彼女にはジンジャーエールね」

 

「俺も今日はそれでいい」

 

「まあ」

 

 ハモンが少しだけ笑った。

 

「反省できる大人は嫌いじゃないわ」

 

 ぽんぽこが前足を上げた。

 

「スナⅡ兄貴、飲酒誘導、未遂」

 

「やめてくれ、タヌキ」

 

「未成年保護、成功」

 

「やめてくれ……」

 

 ハモンはジンジャーエールの瓶を二本、カウンターから持ってきた。

 

「お疲れさま」

 

「勝ちました」

 

「見ていたわ」

 

「でも、ランツェカノーネは途中で捨てました」

 

「捨てられたから、勝ったのよ」

 

 ハモンの声が静かに刺さる。

 

「強い武装ほど、捨てる判断が難しいの」

 

「はい」

 

「今日は、それができたのよね?」

 

「……はい」

 

「さ、栓を抜くわね」

 

 ジンジャーエールの瓶が、小さく鳴った。

 シラカワが、それを軽く掲げる。

 

「未成年には、これで」

 

「はい」

 

「勝ったら、乾杯だ」

 

 ショウコも瓶を持ち上げた。

 炭酸の泡が、瓶の中で細かく弾けている。

 

 ぽんぽこが言う。

 

「祝勝、非アルコール」

 

「言わなくていい」

 

「安全」

 

「それはそう」

 

 ぽんぽこが前足を上げる。

 

「改善、微」

 

「微って言うな」

 

「改善、確認」

 

「そっちで」

 

「採用」

 

 常連たちが笑う。

 

 ショウコは、少しだけ笑い返した。

 

 ランツェカノーネは強い。

 初手で敵を蒸発させた。

 

 だが、強襲に張り付かれれば撃てない。

 

 ミサイルの誘導は乱れる。

 ビームトーチは、相手が入ってこなければ届かない。

 ヘビービームマシンガンは、横移動に追いつかない。

 

 強い砲は、万能ではない。

 

 それでも。

 捨てれば、まだ戦える。

 

 パージしたライトニングブリッツSは、ビームサーベル二刀とバルカンとシールドスタンしか持っていなかった。

 

 まるで強襲だった。

 でも、その軽さで戻れた。

 

 前回は、戻れなかった。

 今回は、戻れた。

 

 ショウコは、グフカスタムをもう一度見た。

 

 怖い機体だ。

 今でも怖い。

 

 でも、同じではない。

 ゲンゾウのグフカスタムではない。

 

 右腕の三十五ミリはない。

 シティエリアの壁もない。

 アンカー移動もない。

 

 怖いものは、怖いままでいい。

 見ればいい。

 見て、違いを探せばいい。

 

 ショウコは小さく呟いた。

 

「あれは、ゲンさんじゃない」

 

 今度は、震えるための言葉ではなかった。

 次に進むための、確認だった。

 

 ぽんぽこが言う。

 

「ゲンゾウ機、非該当」

 

「そこは黙ってて」

 

「了解」

 

 地下の大型GBSは、静かに光っている。

 

 古強者たちの巣窟。

 子供には甘い。

 タヌキロボにも甘い。

 

 だが、戦場で砲を抱えたまま死にかける支援機には、甘くない。

 

 ショウコはランツェカノーネを回収した。

 

 重い。

 強い。

 そして、捨てることも覚えなければならない。

 

 ガンプラは自由だ。

 だが、自由に積んだ武装を、自由に捨てる覚悟もいる。

 

 青い砲は、砂の上で一度死にかけた。

 けれど、青い機体は戻ってきた。

 

 前回よりは、一歩だけ。

 ちゃんと、戻ってきた。




第8話 登場ガンプラ簡易カタログ

今回はショウコが使用したライトニングブリッツSランツェカノーネについてまとめています。

ライトニングブリッツSランツェカノーネ/ダテ・ショウコ
ライトニングブリッツSの砲撃支援パッケージ。大型複合砲とマルチミサイルプラットフォームによって、遠距離から敵前線や支援機を制圧する。火力は高いが、重量があり旋回も遅いため、強襲機に張り付かれると苦しい。第8話では開幕照射で敵汎用を撃破したが、グフカスタムに間合い管理され、途中でパージする判断を迫られた。

大型複合砲
ランツェカノーネの主武装。照射型ビームランチャー、ヘビービームマシンガン、近距離拒否用ビームトーチを備える大型火器。第8話では開幕の照射で敵ジムを撃破した一方、グフカスタムに張り付かれて砲身の重さと旋回の遅さを突かれた。

マルチミサイルプラットフォーム
背部に装備されたミサイルユニット。大型ミサイルで敵の視線と回避方向を縛り、前線を崩すために使われる。第8話ではザクデザートタイプを狙ったが、グフカスタムへの恐怖で誘導が乱れ、撃破には至らなかった。

緊急パージ
ランツェカノーネ外装を切り離す機構。火力を失う代わりに、ライトニングブリッツS素体の機動力を取り戻す。第8話ではグフカスタムに詰められた際、砲を抱えたまま落ちることを避けるために使用された。

ライトニングブリッツS/ダテ・ショウコ
ランツェカノーネをパージした素体状態。火力は大きく落ちるが、ビームサーベル、バルカン、シールドスタンによる近接戦が可能。第8話ではグフカスタムを「ゲンゾウ機ではない」と見極めたことで踏み込み、武装を切り落として撃破した。

ビームサーベル×2
サイドスカートに装備された近接武装。第8話ではランツェカノーネを捨てた後、グフカスタムのガトリング・シールドとヒート・ロッド基部を斬り落とすために使用された。

シールドスタン
左腕のシールドに仕込まれた拘束武装。敵機を掴み、電流で動きを止める。第8話ではグフカスタムを拘束し、撃破につなげた。
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