ガンダムビルドファイターズ ダテ・ショウコの軌跡 作:わしのシアン
バイト明け、ショウコは更衣室の隅でスマホを見た。
通知が一件。
差出人は、シラカワ・リョウヘイ。
古強者たちの巣窟で、白いジムスナイパーⅡを使っていた常連。
砂漠でオルトスチールSⅡを撃ち抜き、次には味方として一緒に戦い、最後にはジンジャーエールで乾杯した人だった。
『今日は君のホームでやらないか? 2:2にも興味があるんだ』
ショウコは、少しだけ画面を見つめた。
変な誘いではない。
シラカワは、そういう距離の詰め方を間違える人には見えなかった。
戦場では嫌な射線を通すが、戦場の外では礼儀がある。
少なくとも、未成年にエールを勧めてから、一緒にジンジャーエールを飲むくらいには反省できる大人だった。
ショウコは返信する。
『もちろんですよ、スナⅡ兄貴。では19時に駅前で』
数分後。
『スナⅡ兄貴……シラカワと呼んでくれると助かるんだが……』
ショウコは、ふふっと笑った。
『わかりました、シラカワ兄貴』
今度は返信が少し遅れた。
『……まあ、それでいい』
今夜の予定は決まった。
帰って、ぽんぽこに話をしよう。
帰宅。
シャワー。
髪を乾かし、キャリーケースを開け、今日使う機体を決める。
いつものルーティンワーク。
けれど、今夜は少し違う。
サイド7へ行く。
それはいつものことだ。
だが、今日は他人と一緒に行く。
チームを組む相手が、最初から決まっている。
その事実だけで、キャリーケースの中身がいつもより重く見えた。
「ショウコ、表情筋、硬直」
「うるさいな」
「緊張、検出」
「してない」
「返信文面、三回修正」
「見ないで」
「ぽんぽこ、高性能」
「そういう高性能いらない」
ショウコはキャリーケースの中を見た。
ゴーストファイターS。
ライトニングブリッツS。
オルトスチールSⅡ。
今日は、赤い機体だった。
曲がれるようになった。
戻れるようにも、少しなった。
でも、まだ足りない。
今度は、味方の射線を使う。
白い射線のために、赤い機体を走らせる。
十九時。
駅前のロータリーは、会社帰りの人と、塾帰りの学生と、どこへ行くのか分からない大人たちで混んでいた。
その中で、シラカワはすぐに分かった。
背が高い。
姿勢がいい。
そして、腰に小さな革製のボックスポーチを下げている。
ガンプラが一つ入る程度の大きさ。
色は濃い茶色。
側面には、白い狼の意匠が入っていた。
「お待たせしました」
「いや、時間通りだ」
シラカワは軽く手を上げた。
ショウコはポーチを見る。
「白い狼?」
「ホワイトディンゴのつもりだ」
「ジムスナイパーⅡだからですか」
「そういうことにしておいてくれ」
シラカワは少しだけ苦笑する。
「マシンガンだのバズーカだのは苦手だが……気分さ」
「ホワイトディンゴなのに?」
「……俺は狙撃手だ。気分くらいは大事だろう?」
ぽんぽこがキャリーケースの上で前足を上げる。
「白狼兄貴、確認」
「増やさないでくれ、それじゃシン・マツナガだ」
「登録名、シラカワ兄貴」
「それなら良いか」
ショウコは笑いをこらえながら、キャリーケースのハンドルを引いた。
「2:2に興味があるって、どうしてですか」
「君が普段どんな戦場で稼いでいるのか、見ておきたかった」
「稼ぎって言わないでください」
「君が言っていた気がするが」
「店舗ポイントです」
「そうだったな」
シラカワは、少し間を置いて言った。
「それと、君が味方の射線をどう使うかも見たい」
「射線を使う?」
「前に出るだけなら、君はもうできる。帰ることも、少し覚えた」
「少し」
「少しだ」
言い切られた。
「次は、味方が撃てる場所へ敵を運ぶ番だ」
ガンプラ・バー〈サイド7〉の自動ドアが開いた。
がら、ごろ、ごろり。
ショウコのキャリーケースが床を鳴らす。
その横で、シラカワの革製ポーチが静かに揺れた。
「いらっしゃいませ、ショウコさん。今日は……」
店員の視線がシラカワへ向く。
「お連れ様ですか」
「はい」
シラカワが軽く頭を下げた。
「シラカワ・リョウヘイです。2:2をやりに来ました」
店員は一瞬だけショウコを見る。
「ショウコさんが、事前に組んで来た……?」
「その言い方」
「珍しいので」
「珍しくないです」
ぽんぽこが前足を上げる。
「珍事」
「ぽんぽこ」
カウンター席の常連たちも、ざわついた。
「黒い稼ぎ頭が仲間連れ?」
「青い稲妻じゃなかったか」
「今日はどれだ」
「兄貴付きか」
「増やさないでください」
ショウコはキャリーケースを開けた。
出すのは、オルトスチールSⅡ。
赤い装甲。
重い肩。
右腕の三連マシンキャノン。
左腕の回転弾倉式パイルバンカー。
背中のGNドライヴ付きウイングユニット。
曲がれるようになった、赤い機体。
シラカワはボックスポーチを開ける。
中から出てきたのは、白いジムスナイパーⅡだった。
白い装甲。
狙撃用のバイザー。
背部ラックには、二本の長物。
ショウコは目を留めた。
「ライフル、二本あるんですね」
「用途が違う」
シラカワは左側の長いライフルを指した。
「これはL-3ビームライフル。即応狙撃用だ。収束を待たずに撃てる」
「もう一本は?」
「ロングレンジビームライフル。定点照射用。重いが、通す時はこちらを使う」
「狙撃銃って一本じゃないんですか」
「一本で全部やると、外した時に困る」
ぽんぽこが前足を上げた。
「シラカワ仕様、武装過多」
「過多ではない。必要量だ」
「狙撃銃二本を必要量って言い切るの、だいぶ職人ですね」
ショウコが言うと、シラカワは少しだけ肩をすくめた。
「撃つしかできないからな、俺は」
店員が端末を操作する。
「2:2、参加費千円です。勝利でお一人につき千五百円分の店舗ポイントになります」
「勝つと増えるのか」
シラカワが少し感心したように言った。
「はい。当店は勝つと増えます」
「素晴らしい店だな」
「古強者たちの巣窟は?」
ショウコが聞く。
「勝つと反省が増える」
「それはそれで正しいですね」
対戦相手が表示される。
味方チーム。
ダテ・ショウコ/オルトスチールSⅡ。
シラカワ・リョウヘイ/ジムスナイパーⅡシラカワ仕様。
敵チーム。
筋肉足りてない長/グシオンリベイク。
プロテイン飲もうか/グレイズ改弐。
ショウコは表示を見た。
「読み上げるんですか、それ」
「登録名なので」
店員は咳払いをした。
「対戦相手は、筋肉足りてない長さんのグシオンリベイクと、プロテイン飲もうかさんのグレイズ改弐です」
「ひどい」
「登録名なので」
対戦台の向こうで、グシオンリベイクのファイターが腕を組んだ。
「俺はアキヒロ。見ての通り、筋肉が足りてない」
隣のマゼンタ色のグレイズ改弐使いが即座に振り向く。
「名前で嘘つくなよ、足りてない長!」
「ロールプレイが分からんのか、シノ!」
「シノじゃねぇし! 合わせしてるだけだから!」
ショウコは少しだけ黙った。
「……サイド7って、こういう人多いんですか」
店員が穏やかに答える。
「否定はしません」
シラカワは眉間を押さえた。
「鉄血勢か」
「名前で分かるんですか」
「分かりたくはなかった」
ぽんぽこが前足を上げる。
「敵チーム、筋肉不足」
「ログに残すと怒られるやつ」
「プロテイン推奨」
「だから残すな」
ショウコは敵機を確認する。
グシオンリベイク。
頭部を閉じた照準モード。
右腕に120mmロングレンジライフル。
左腕に300mm滑腔砲。
背中には大型シールド。
腰背部に、グシオン譲りの重い装甲。
原作そのままの装備ではない。
このファイターは、射撃支援に寄せている。
右のライフルで狙い、左の滑腔砲で圧をかける。
足りていないのは筋肉なのか、射線なのか、よく分からない。
隣には、マゼンタ色のグレイズ改弐。
頭部には角。
目立つノーズアート。
手には120mmライフル。
腰にはバトルアックス。
派手だった。
妙に派手だった。
シラカワが静かに言う。
「敵も前衛と後衛だ」
「グレイズが前、グシオンリベイクが後ろ」
「そう見るのが自然だな」
「なら、私は前を見ます」
「俺は後ろを見る」
シラカワは白いジムスナイパーⅡを台座に置いた。
「ただし、最初は撃たない」
「え」
「撃つ場所を作る。君が」
ショウコは少しだけ息を吸った。
「押し出す方向を指示して、兄貴」
「了解した」
ぽんぽこが前足を上げる。
「兄貴呼称、固定化」
「そこはいいでしょ」
『Please set your GP Base.』
システム音声が響く。
「ぷりーせっちゃ、じーぴーべ」
ぽんぽこが短く復唱する。
ショウコとシラカワはGPベースを置いた。
『Beginning Plavsky particle dispersal.』
「びぎに、ぷらふふきぱーちこーですぽーさ」
『Field selected. Side 7.』
「さいどせぶん」
粒子が満ちる。
人工の空。
コロニーの外壁。
市街地。
広い道路。
建物の影。
開けた射線。
サイド7。
オルトスチールSⅡが道路へ降り立った。
白いジムスナイパーⅡは、すぐ後ろの建物影へ入る。
敵側では、マゼンタのグレイズ改弐が、120mmライフルを構えて前に出る。
「プロテイン飲んで前出るぞ、足りてない長!」
「だから俺はアキヒロだ!」
「ハンドルネームを大事にしろ!」
シラカワの通信が冷静に入る。
「仲がいいな」
「撃ちにくいですか」
「いや、撃ち抜く」
グシオンリベイクは後方の高架下に身を置き、頭部を閉じる。
照準モード。
右腕の120mmロングレンジライフルが動く。
左腕の300mm滑腔砲が、別方向の道路を押さえる。
「先に隠れる」
シラカワが言った。
「狙撃手同士は、先に見られた方が負ける」
「こっちは私が見られてるんですけど」
「頼んだ」
「軽い」
グレイズ改弐が走る。
120mmライフルが火を噴いた。
連射。
弾が道路を叩き、オルトスチールSⅡの進路を削る。
軽い弾ではない。
だが、押しつけてくる弾だった。
こちらを止めるためではない。
こちらを曲げるための弾。
「撃ち合いなら」
オルトスチールSⅡの右腕が上がる。
三連マシンキャノン。
短い砲身が、赤い腕の中で唸る。
「こっちは口径で行く」
がん、がん、がん。
マシンガンとは違う音が、サイド7の街路に響いた。
大口径の砲弾が、グレイズ改弐の足元を抉る。
直撃はしない。
だが、マゼンタの機体が横へ跳ねた。
「敵前衛、回避」
「見れば分かる」
「進路、右へ移動」
「そこは言って」
ぽんぽこがログを投げる。
その間にも、グシオンリベイクのライフルが光る。
狙いはシラカワ。
白いジムスナイパーⅡがいた建物の角が、弾けた。
シラカワは撃たない。
機体を低くし、建物の影から影へ移る。
白い装甲が、一瞬だけ見えて、すぐに消える。
ショウコはグレイズ改弐を追いかけたくなる。
追えば、届く。
突っ込めば、パイルバンカーの間合いに入る。
でも、それはいつもの勝ち方だ。
今日の勝ち方ではない。
シラカワの通信が入る。
「位置についた。作戦開始だ」
ショウコは操縦桿を握り直す。
「押し出す方向を指示して、兄貴」
「白い射線の方へ流せ」
「了解」
グレイズ改弐がショートライフルへ切り替える。
銃身を外した短いライフル。
片腕で扱い、もう片方の手はバトルアックスへ伸びている。
近づく気だ。
ショウコは左腕を上げない。
まだパイルバンカーは撃たない。
右腕の三連マシンキャノンだけで、敵の足元を削る。
右へ逃げる道を潰す。
前へ出る道を潰す。
残ったのは、左。
白い射線の方。
「誘導、良」
「まだ褒めないで」
グレイズ改弐が嫌がって踏み込む。
バトルアックスが振り上がる。
ショウコは一歩下がった。
下がる。
ただの後退ではない。
敵を連れて下がる。
グレイズ改弐が追う。
追った先に、白いジムスナイパーⅡの射線が通っていた。
「今だ」
白い光が走った。
L-3ビームライフル。
狙ったのは胴体ではない。
グレイズ改弐の右腕。
ショートライフルを持つ手首の付け根。
ナノラミネート装甲の広い面ではない。
武器を構えるために、必ず開く隙間。
ビームが通った。
ショートライフルが道路へ落ちる。
「敵武装、喪失」
「私の撃破じゃない」
「チーム貢献」
ぽんぽこが言う。
グレイズ改弐は止まらない。
バトルアックスを両手で握り直し、踏み込んでくる。
マゼンタの機体が、舗装路を蹴った。
今度は殴り合い。
鉄血の機体は、そういう戦いに強い。
ナノラミネート装甲。
実体弾にもビームにも強い塗膜。
薄いが、何層にも重なるクッションのように衝撃を受け、散らす。
ビームを反射し、弾を受け流す。
だが、塗料だ。
剥がれる。
削れる。
痛む。
「一回で抜こうとするな」
シラカワの声が入る。
「分かってます」
「いや、君は一回で抜こうとする」
「……分かりました」
オルトスチールSⅡは、バトルアックスを正面から受けなかった。
横へ曲がる。
背中のウイングユニットが粒子を噴く。
赤い機体が、以前なら曲がれなかった角度で滑った。
バトルアックスが空を切る。
左腕のパイルバンカーが、グレイズ改弐の肩を叩く。
杭は撃ち込まない。
ただ、当てる。
重い衝撃で、マゼンタの機体の姿勢がずれた。
「今です」
「そこだ!」
白い光が、また走る。
今度は膝。
広い装甲面ではなく、曲がる場所。
グレイズ改弐の脚が一瞬止まる。
ショウコは前へ出た。
今度は刺す。
回転弾倉が鳴る。
がいん。
パイルバンカーが、グレイズ改弐の胸部ではなく、膝を撃った。
貫通ではない。
だが、姿勢が崩れる。
マゼンタの機体が道路へ膝をついた。
そこへ三射目。
白いジムスナイパーⅡのL-3ビームライフルが、同じ膝へ入った。
『Enemy unit destroyed.』
サイド7の店内がざわついた。
「ナノラミネート落としたぞ」
「落としたんじゃない。削ったんだ」
シラカワが静かに言った。
「同じ場所に、当てた」
ショウコは息を吐く。
グレイズ改弐は落ちた。
しかし、後ろがいる。
グシオンリベイク。
右腕の120mmロングレンジライフルが、白いジムスナイパーⅡを捉えた。
左腕の300mm滑腔砲が、道路を押さえる。
逃げ道を切るつもりだ。
「後ろ、来ます」
「分かっている」
シラカワは白いジムスナイパーⅡを後退させる。
だが、グシオンリベイクは照準モードだ。
閉じた頭部。
高感度センサー。
両腕の射撃武装。
敵も射線を見る。
白いジムスナイパーⅡのいた建物の角が、滑腔砲で吹き飛んだ。
「大砲持ってる後衛、嫌ですね」
「君も持っていたな」
「う」
ぽんぽこが前足を上げる。
「発言、刺傷」
「今のはシラカワ兄貴が悪い」
「否定はしない」
シラカワは背部ラックへ手を伸ばした。
L-3ビームライフルを下げる。
右側の長いライフルを抜く。
ロングレンジビームライフル。
定点照射用の大出力ライフル。
「ショウコ、止めろ」
「グシオンリベイクを?」
「三秒でいい」
「三秒」
「撃つには十分だ」
ショウコは笑いそうになった。
三秒。
それだけでいいと言う。
なら、やるしかない。
オルトスチールSⅡが走る。
グシオンリベイクの右腕が動く。
ロングレンジライフルが赤い機体を狙う。
ショウコは直進しない。
曲がる。
曲がれる赤い猪。
道路を蹴り、建物の影を使い、滑腔砲の射線を外す。
グシオンリベイクは左腕の300mm滑腔砲を振る。
重い。
遅い。
だが、当たれば終わる。
オルトスチールSⅡは踏み込んだ。
左腕のパイルバンカーを、グシオンリベイクのシールドへ叩きつける。
貫けない。
グシオン譲りの重い装甲。
さらにナノラミネート装甲。
正面から抜ける相手ではない。
だが、目的は貫通ではない。
止めること。
「一秒」
シラカワの声。
白いジムスナイパーⅡが膝をついた。
ロングレンジビームライフルの銃口が、白く光る。
狙うのは胴体ではない。
シールドでもない。
厚い装甲でもない。
閉じた頭部。
照準モードの目。
一射目。
白い光が、グシオンリベイクの頭部を弾いた。
反射。
ナノラミネートの塗膜が、ビームを散らす。
「二秒」
ショウコは機体を押しつける。
グシオンリベイクがハルバードを抜こうとする。
右腕が動く。
オルトスチールSⅡは肩で押した。
重い。
だが、こちらも重い。
二射目。
同じ場所。
頭部センサーの縁に、黒い焦げ跡が生まれた。
「三秒」
グシオンリベイクが、ついにオルトスチールSⅡを押し返す。
その瞬間、三射目が走った。
黒く焼けた点を、白い光が貫く。
グシオンリベイクの頭部が火花を散らした。
「照準モードが!」
「筋肉で見ろ、アキヒロ!」
「無茶を言うな、シノ!」
「シノじゃねぇ!」
照準モードが壊れる。
閉じた頭部のセンサーが沈黙する。
「頭、潰しました」
「目を潰しただけだ。まだ来る」
グシオンリベイクがフェイスオープンする。
近接戦闘用の顔。
ハルバードが伸びる。
長柄の戦斧が、オルトスチールSⅡへ振り下ろされた。
ショウコは避けきれない。
赤い肩が削れる。
装甲が飛ぶ。
「痛っ」
「被弾、右肩」
「見れば分かる!」
だが、グシオンリベイクはもう遠距離支援機ではない。
照準モードは潰れた。
両手の砲を捨てて格闘武装に切り替えた。
シラカワが位置を変える。
白いジムスナイパーⅡが、次の射線へ滑り込む。
「ショウコ、左へ流せ」
「私から見て?」
「君から見て左だ」
「了解!」
オルトスチールSⅡは、刺しに行かない。
グシオンリベイクの右側を潰す。
逃げ道を削る。
ハルバードの振り下ろしを誘う。
敵が動く。
白い射線の方へ。
「今だ」
シラカワが撃つ。
今度はL-3ビームライフル。
即応の一射。
狙いは膝裏。
曲がる場所。
白い光が走り、グシオンリベイクの脚が止まる。
ショウコはそこへ踏み込んだ。
左腕の回転弾倉が鳴る。
がいん。
パイルバンカーが、膝裏へ叩き込まれる。
貫通しない。
だが、関節の動きが止まる。
グシオンリベイクの巨体が沈む。
「次」
「行け」
ショウコは今度こそ、胸部へ突っ込む。
右腕の三連マシンキャノンを至近距離で撃つ。
がん。
がん。
がん。
塗膜が剥がれた場所へ、衝撃を重ねる。
白いジムスナイパーⅡの射線が、そこへ重なる。
最後の一射が、胸部の焦げた一点へ通った。
『Enemy unit destroyed.』
グシオンリベイクが膝をついた。
サイド7の店内が、一瞬だけ静かになる。
それから、ざわめきが広がった。
「今度は本当に抜いたぞ」
「削って、止めて、通したんだ」
「面倒くさいな狙撃手」
ぽんぽこが前足を上げる。
「敵撃破、シラカワ」
「誘導貢献、ショウコ」
「味方射線、利用成功」
ショウコは息を吐いた。
「私が落としたわけじゃない」
シラカワの通信が返る。
「俺だけで落としたわけでもない」
モニターに、勝利表示が出た。
『Battle ended. Winner, Team A.』
粒子が引く。
サイド7の街が消え、GBSの台座が戻る。
ショウコは、オルトスチールSⅡを回収した。
右肩に傷。
左腕のパイルバンカー基部に負荷。
足裏にも少し削れ。
それでも、戻ってきた。
刺すだけではなかった。
押した。
止めた。
流した。
白い射線へ、敵を運んだ。
シラカワも白いジムスナイパーⅡを回収する。
「よく流した」
「よく撃ちましたね」
「俺は撃つしかできない」
「私は突っ込むしかできないと思ってました」
「今日は、そうではなかった」
ぽんぽこが言う。
「赤猪、誘導成功」
「猪じゃない」
「白射線、連携成立」
「それは、まあ」
店員が端末を操作した。
「お二人とも、勝利おめでとうございます。ショウコさん、カードを。シラカワさんは初回なので、こちらで用意します」
ショウコはポイントカードを差し出した。
シラカワは少しだけ珍しそうに、店員が新しいカードを用意するのを見ていた。
「お二人、それぞれに千五百円分です」
ショウコとシラカワは、それぞれポイントカードを受け取った。
「ありがとう。面白いシステムだ」
シラカワはカードを少し眺めてから、カウンターを見た。
「それと、勝ったらジンジャーエールだ。二本くれ」
「ジンジャーエール、二本ですね」
店員が瓶を二本取り出す。
シラカワは、今受け取ったばかりのポイントカードを差し出した。
「ここからで」
端末が短く鳴る。
千円分。
勝利ポイント千五百円のうち、千円が消えた。
「え……なんで」
ショウコが思わず声を出した。
「ショット・バーなら、そういうものだろう」
「じゃなくて、そういうことなら自分で買います……!」
「見栄を張りたいのが男なのさ」
シラカワは、少しだけ格好つけて言った。
店員が栓を抜いたジンジャーエールを二本、カウンターに置く。
ぽんぽこが前足を上げた。
「シラカワ兄貴、勝利ポイント消費」
「ログに残すな」
「奢り行動、確認」
「それも残すな」
「収支、五百円黒字」
シラカワはポイントカードを見た。
「勝って、飲み物を買って、まだ残るのか」
「はい」
「いい店だな」
「古強者たちの巣窟もいい店ですよ」
「もちろんだ」
シラカワは少しだけ遠い目をした。
「ただ、あそこは勝っても財布は軽くなる」
ぽんぽこが前足を上げる。
「古強者たちの巣窟、収支マイナス固定」
「言い方」
ショウコはジンジャーエールの瓶を受け取った。
炭酸の泡が、細かく跳ねている。
「……ありがとうございます」
「勝ったからな」
「私も勝ちましたけど」
「だから二本だ」
「そういう理屈ですか」
「そういう理屈だ」
シラカワは瓶を軽く掲げた。
「白い射線と赤い猪に」
「猪じゃないです」
「では、オルトスチールSⅡに」
「それなら」
ショウコも瓶を持ち上げる。
瓶が、軽く触れた。
からん、と小さな音がした。
今日は黒字だった。
それも、ひとりではなく、ふたりで。
ショウコはキャリーケースの中の赤い機体を見る。
曲がれるようになった。
戻れるようになった。
そして今日は、味方の射線へ敵を運べた。
まだ、うまくなれる。
ぽんぽこが短い前足を上げる。
「次回、連携継続」
「次回って言わない」
「シラカワ兄貴、継続候補」
「それは……まあ」
シラカワが少しだけ笑う。
「またやろう」
ショウコは、少しだけ瓶を下げた。
「はい。次も、白い射線の方へ流します」
「頼んだ」
サイド7の店内で、ジンジャーエールの泡が弾けていた。
白い射線と赤い猪。
その組み合わせは、思っていたより悪くなかった。
第9話 登場ガンプラ簡易カタログ
ショウコのオリジナルガンプラ紹介と、対戦相手チームの元ネタ・武装補足です。
本文中で使用された武装と、その役割をまとめています。
オルトスチールSⅡ/ダテ・ショウコ
オルトスチールSにGNドライヴ付きウイングユニットを追加した赤い強襲機。直線突撃だけでなく、曲線機動と敵機の誘導が可能になっている。第9話ではシラカワのジムスナイパーⅡと組み、敵を白い射線へ流す前衛役を担当した。
三連マシンキャノン
右腕に装備された大口径射撃武装。第9話ではグレイズ改弐の足元を削り、移動方向を制限するために使用された。直接撃破ではなく、敵をシラカワの射線へ押し出す役割を担った。
回転弾倉式パイルバンカー
左腕に装備された一点破壊武装。第9話ではグレイズ改弐やグシオンリベイクに対し、装甲を貫くためだけでなく、姿勢を崩し、関節部へ負荷をかける目的でも使用された。
GNドライヴ付きウイングユニット
背部に追加された姿勢制御用ユニット。粒子推進によって突撃中の軌道をずらすための装備。第9話ではグレイズ改弐やグシオンリベイクの攻撃を外しながら、敵を味方狙撃手の射線へ誘導するために使われた。
ジムスナイパーⅡシラカワ仕様/シラカワ・リョウヘイ
シラカワ・リョウヘイが使用する白いジムスナイパーⅡ。即応用のL-3ビームライフルと、定点照射用のロングレンジビームライフルを使い分ける狙撃機。第9話ではショウコが誘導した敵機の武装、関節、センサーへ正確に射線を通し、2対2の連携を成立させた。
L-3ビームライフル
即応性を重視した長射程ビームライフル。収束を待たずに撃てるため、動く敵や近距離戦の隙を狙いやすい。第9話ではグレイズ改弐の手首や膝、グシオンリベイクの膝裏など、装甲の厚い面ではなく可動部を撃ち抜くために使用された。
ロングレンジビームライフル
定点照射用の高出力狙撃ライフル。取り回しは重いが、射線を通せば厚い相手にも圧をかけられる。第9話ではグシオンリベイクの照準モード中の頭部を狙い、同じ箇所へ連続で撃ち込むことでセンサーを破壊した。
グレイズ改弐/プロテイン飲もうか
マゼンタ色に塗られた前衛機。120mmライフルとバトルアックスを使い、射撃から接近戦へ移る構成。第9話ではオルトスチールSⅡに誘導され、シラカワの狙撃を受けながら関節部を削られ、最終的に膝を崩されて撃破された。
120mmライフル
グレイズ系の携行射撃武装。第9話では開幕からオルトスチールSⅡの進路を削るために使用された。途中で銃身を外し、近距離用のショートライフルとしても扱われた。
バトルアックス
グレイズ改弐の近接武装。第9話ではライフルを失った後、接近戦へ移るために使用された。オルトスチールSⅡに対して振り下ろされたが、曲線機動で外され、逆に射線へ誘導される形になった。
ナノラミネート装甲
実体弾やビームに強い特殊塗膜装甲。第9話ではグレイズ改弐とグシオンリベイクの防御力を支えた。ただし同じ箇所へ攻撃を重ねられると塗膜が削れ、関節部や焦げた一点に射撃を通される弱点も見せた。
グシオンリベイク/筋肉足りてない長
射撃支援寄りに調整されたグシオンリベイク。照準モードによる高精度射撃と、重装甲による耐久力を持つ。第9話では後衛としてシラカワを狙ったが、ショウコに三秒止められた隙を突かれ、頭部センサーを破壊された後、関節と胸部へ集中攻撃を受けて撃破された。
120mmロングレンジライフル
右腕に装備された射撃武装。第9話ではシラカワのジムスナイパーⅡを狙い、建物の角ごと射線を潰すために使用された。
300mm滑腔砲
左腕に装備された大口径射撃武装。第9話では道路や建物を押さえ、白いジムスナイパーⅡの逃げ道を制限するために使用された。
照準モード
頭部を閉じ、射撃精度を高めるグシオンリベイクの形態。第9話では遠距離戦の要となったが、シラカワのロングレンジビームライフルに同じ箇所を撃ち抜かれ、頭部センサーを破壊された。
ハルバード
グシオンリベイクの近接武装。照準モードを破壊された後、近接戦闘へ移るために使用された。第9話ではオルトスチールSⅡの右肩に損傷を与えたが、最終的には白い射線へ流され、膝裏と胸部を狙われる形になった。