あくまでエンタメ、科学への導入としてお楽しみください。
また原作内での現象について独自解釈を含みます。
ホワイマンとの交渉を終え、千空たちが宇宙から帰還してしばらく。
文明復興とタイムマシン開発を進める科学王国の一角では、千空たちが持ち帰った大量の写真やデータ整理が続いていた。
その中の一枚を、クロムが食い入るように見つめている。
地球。
青く光る星。
その背後には、どこまでも黒い宇宙が広がっていた。
「なあ千空」
クロムが写真を掲げる。
「地球の空って青いだろ?でも宇宙って真っ黒だよな。これ、なんでなんだ?」
近くで資料を運んでいたスイカも、ぴたりと足を止めた。
「言われてみればそうなんだよ……!宇宙には夜しかないんだよ?」
机に向かって資料を書いていた千空が、口の端をわずかに上げた。
「ククク。来たな、“当たり前すぎて誰も考えねえ疑問”シリーズ」
「んだよそれ」
「科学の入口だ。誰も気にしねえモンを気にしたヤツが、世界をひっくり返す」
千空は地球の写真を指で弾いた。
「結論から言うと、空が青いのは“空気が光を散らしてる”からだ」
「散らす?」
クロムが首を傾げると、スイカも真似するように首を傾けた。
「まず、太陽の光は白く見えるが、実際はいろんな色の光が混ざってる」
千空は紙に虹を描く。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。
「光には色ごとに波長ってモンがある。赤は波長が長く、青や紫は短い」
クロムが腕を組む。
「波長ってのは……波の細かさ、みてえな感じか?」
「あ゛あ゛、ざっくりそれでいい。そして空気中の小さな分子は、短い波長の光ほど強く散らす」
千空はペン先で青色を叩いた。
「つまり青い光が四方八方にバラ撒かれる。だから俺らは空のどこを見ても青い光を受け取る。これが“空が青い理由”だ」
「へぇぇ……!」
クロムが感心の声を上げる。
スイカは空を見上げながら、小さく呟いた。
「空が青いのって、“空そのものの色”じゃなかったんだよ……」
「科学的には、空気自体はほぼ透明だ。見えてんのは散らされた光だな」
「じゃあ宇宙が黒いのは?」
「宇宙には空気がほとんどねえからだ。散らす相手がいない。だから自分で光ってる太陽みてえな恒星と、その光を反射してるモン以外はなんも見えねえ」
「あー!だから宇宙で撮った写真は昼でも背景真っ黒なのか!」
「そういうこった」
千空はさらに続ける。
「“レイリー散乱”っつってな、散乱の強さは、波長の四乗に反比例する。つまり波長が短い青系の光ほどメチャクチャ散りやすい」
$$\mathit{I}\propto\frac{1}{λ^4}$$
クロムが目を剥き、スイカも驚いて両手を広げた。
「四乗!?」
「ちょっと短いだけで、そんなに変わっちゃうんだよ!?」
「だから赤より青の方が圧倒的に散る。本当は紫の方がもっと散りやすいが、人間の目は青に敏感なのと、紫の光は太陽光に少ねえから、空は青く見える」
「へぇ〜〜……」
クロムはしばらく空を眺める。
そしてふと気づいた。
「でもよ、夕方って空赤くなるじゃねえか。あれは逆なのか?」
「逆っつうより、“青が途中で消える”」
千空は窓の外を指差した。
「夕方は太陽が低い位置にある。そうすっと光は分厚い空気の層を長距離進まなきゃならねえ」
「長旅なんだよ」
「その途中で青い光は散らされ尽くす。最後まで届きやすいのは、波長の長い赤やオレンジってわけだ」
「「あっ!」」
クロムとスイカが同時に声を上げた。
「だから夕焼けは赤い!」
(解説イラストですが一部生成AIを使用しています。苦手な方はご注意ください)
「朝焼けも同じ理屈だ。ちなみに火山が噴火した後は真っ赤な夕焼けが増えることがあんぞ。空気中の細かい粒が増えるかんな」
スイカは目を丸くする。
「空っていっつもおんなじように見えて、毎日ちょっとずつ違うんだよ……」
「分かってきたじゃねえか、Dr.スイカ」
千空は立ち上がると、棚からビーカーを取り出した。
「百聞は一見にしかずだ。実験すっぞ」
「待ってました!」
クロムが勢いよく机に駆け寄る。
スイカもその横にぴょこんと並んだ。
千空はビーカーを三つ並べて水を注ぎ、そこへ牛乳をほんの数滴ずつ垂らす。
透明だった水が、わずかに白く濁った。
「これが空気中の細かい粒の代わりになる」
部屋を少し暗くし、千空は三つのビーカーを貫通させるように懐中電灯の光を当てた。
すると、光源のすぐ側のビーカーは青白く光り、遠くのビーカーには仄かにオレンジ色が浮かんだ。
「おおっ!?」
クロムが勢いよく身を乗り出す。
「横から見ると空みてえ!でも向こう側、夕焼けみてえに赤い!」
スイカも目を輝かせた。
「ホントなんだよ!ビーカーの中に空が入ってるみたいなんだよ!」
「これが散乱だ。青い光は途中で散るから横で見える。残った赤い光は奥まで届く」
「スゲー!!空そのものじゃねえか!!」
「厳密には言やあ、“チンダル現象”ってのも混じってるがな。液体中の細かい粒が光を散らしてる」
「レイリー散乱?とは違うんだよ?」
「似てるが、こっちはもっとデカい粒で起こる。“ミー散乱”っつってな、雲が白い理由に近いんだが」
千空は紙に丸を描いた。
「水滴みてえなデカい粒だと、青だけじゃなく色んな光を同じくらい散らす。だから全部混ざって白く見える」
「なるほどなんだよ……!」
「要は小せえ粒が一部の光だけを散らすのがレイリー散乱。大きい粒が色んな光を散らすのがミー散乱だ。チンダル現象ってのはそれらによって光の線が見えることだな。雨上がりなんかに雲の隙間から見える光の筋って言やあ分かるか?」
スイカは真剣な顔で何度も頷く。
クロムは腕を組みながら、夕焼けに染まり始めた窓の外を見る。
「空って、“青い天井”があるわけじゃなくて、光と空気でできてたんだな」
千空はニヤリと笑った。
「世界ってのは大体そうだ。“当たり前”の正体を剥がしていくと、全部科学になる」
夕暮れが近づき、窓の外の空は少しずつ橙色へ変わっていく。
クロムはその色を眺めながら、小さく呟いた。
「なんかよ、前より空見るの、面白くなったぜ」
「スイカもなんだよ!」
そこでスイカは、ふと思い出したように顔を上げた。
「そういえば……昔みんなで見た不思議な石があったんだよ」
「不思議な石?」
クロムが振り向く。
「朝日が昇る前に、ほんのちょっとの間だけ青く光って宝石みたいだったんだよ。太陽が出ちゃうと普通の石に戻っちゃうけど」
千空の目が、わずかに鋭くなった。
「あ゛あ゛、灰重石な。スイカのおかげで見つけられた超絶レア鉱石だ」
「おう!真空管作るのに使ったやつだな!」
「タングステンの鉱石だ。英語名はシーライト。紫外線を当てると、青白く光る性質がある」
クロムが食いついた。
「紫外線って、目に見えねえ光だよな?」
「そうだ。人間の目には見えねえ、紫よりさらに波長の短い光だ」
千空はさっき描いた虹の端に、もう一つ見えない領域を書き足した。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。
そのさらに外側。
「こっちが紫外線だ」
「見えない光で、石が光っちゃうんだよ?」
「ああ。灰重石は紫外線のエネルギーを受け取ると、それを目に見える青い光として出す。これを蛍光っていう」
「へぇぇ……!」
クロムは腕を組みながら唸る。
「でもよ、なんで朝日が昇る直前だけなんだ?」
「そこが今日の話とつながる」
千空は窓の外、沈みかける太陽を指差した。
「太陽が地平線の下にある日の出前でも、上空にはもう太陽光が届いてる。そこで光は大気にぶつかって散乱する」
クロムは目を瞑り、昔初めて気球に乗った時のことを思い出していた。
「空気が光を散らす……さっきのレイリー散乱なんだよ!」
「その中には、目に見える青い光だけじゃなく、紫外線も混じってる。つまり地上がまだ暗い時間でも、上空で散らされた紫外線だけは、先にこっそり降りてきてる可能性がある」
スイカは、はっと目を見開いた。
「じゃあ、あの石は……」
「日の出前のわずかな紫外線に反応して、青く光ってた。そう考えりゃ筋は通る」
クロムが窓の外を見る。
「でも太陽が出たら?」
「太陽が昇ると可視光、つまり普通に見える光が一気に増える。石が青く光ってても、周りが明るすぎて見えにくくなる」
「光んなくなったんじゃなくて、見えなくなってたんだよ!」
「その可能性が高えな」
千空はニヤリと笑った。
「まあ、実際あん時みたく都合よくハッキリ観測できるかは条件次第だ。石の純度、大気の状態、周りの明るさ、全部絡む」
「でも、現象としては科学で説明できんだな?」
「十分できる。ファンタジーじゃねえ。科学の範囲内だ」
クロムは興奮したように拳を握った。
「スゲー……!空が青い理由から、夕焼けが赤い理由になって、最後はスイカの石まで繋がんのかよ!」
スイカは胸の前で手を合わせ、嬉しそうに笑った。
「あの時の石も、空と太陽の科学だったんだよ」
千空は宇宙から撮った地球の写真をもう一度手に取る。
青い地球。
黒い宇宙。
赤く染まる夕焼け。
そして、夜明け前にだけ光る石。
「光ってのは、見えてるモンだけが全てじゃねえ」
千空は静かに言った。
「見えねえ光も、世界を動かしてる」
クロムとスイカは、しばらく黙って空を見ていた。
やがてスイカが、ぽつりと呟く。
「明日の朝、もう一回あの石を見てみたいんだよ」
クロムが笑う。
「俺も行くぜ!日の出前の科学観察だな!」
「ククク。いいじゃねえか」
千空は口の端を上げた。
「第一回、早朝レイリー散乱観測会だ。寝坊したヤツは置いてくぞ」
窓の外では、夕焼けの赤が少しずつ深くなっていた。
その色も、夜明け前の青い光も。
もう彼らには、ただの空ではなかった。
科学解説の正確さと分かりやすさのバランスが難しい。
灰重石って本当に夜明け前に光るんだろうか。
いつか試してみたい。