千空先生の科学教室   作:那須屋 高雄

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科学解説については厳密ではありません。
あくまでエンタメ、科学への導入としてお楽しみください。
また原作内での現象について独自解釈を含みます。


シャボン玉ってなんで丸くなんだ?

夕暮れ前の復興都市は、活気に満ちていた。

 

石畳の通りを、荷車がごろごろと行き交う。

遠くでは蒸気機関の低い駆動音が響き、建設途中の建物には足場が組まれている。レンガ造りの工房からは金属を打つ音が聞こえ、通り沿いには新しく作られた露店が並んでいた。

 

かつて石だけだった世界には、少しずつ文明の色が戻り始めている。

 

そして何より――子供が増えた。

 

通りを駆け回る小さな足音。

笑い声。

夕飯前だというのに、広場には大勢の子供たちが集まっていた。

 

その中心にいるのは、白衣姿の男。

 

「おらよ」

 

千空が金属製の輪を軽く振る。

 

次の瞬間、夕陽を反射する無数のシャボン玉が空へ舞い上がった。

 

「わぁぁぁ!!」

「すげぇ!」

「虹色だー!」

 

歓声が一斉に上がる。

 

小さな子供たちが手を伸ばし、走り回り、弾けるたびにきゃっきゃと笑う。

復興都市には電灯も、テレビも、映画館も戻り始めていたが――結局、単純な遊びほど子供を夢中にさせる。

 

「ククク……いつの時代もシャボン玉は大人気だな」

 

千空は木桶の中の液をかき混ぜながら呟いた。

 

その横では、クロムが感心したように空を見上げている。

 

「しかし、こんなにガキ増えたんだなぁ……」

「そりゃ文明が安定してくりゃ人口も増える。食料生産、医療、衛生。全部まとめて科学の成果だ」

「前は村の子供全員なんて顔覚えられる人数だったのによ」

 

クロムの視線の先では、十人以上の子供たちがシャボン玉を追いかけていた。

 

舗装された通り。

煙突から立つ煙。

ガラス窓。

遠くを走る蒸気トロッコ。

 

それでも、その真ん中で子供たちが追いかけているのは、ふわふわ漂うただの透明な玉だった。

 

「でもよ、シャボン玉なんて懐かしいな」

 

クロムは笑った。

 

「昔、おめーが石神村に来たばっかの頃、金狼と銀狼をこれでビビらせてたよな」

「あ゛ー、あったな。石鹸水見ただけで妖術扱いされてた頃だ」

「オレも昔から作り方だけは知ってたぞ。木炭のアク使えばできるってな。ガキの頃よく遊んでた」

 

クロムは近くを漂ってきたシャボン玉を指でつつく。

ぱちん、と軽い音を立てて割れた。

 

「でもよ、ずっと気になってたんだが……なんでシャボン玉って丸くなるんだ?」

 

千空は口元を吊り上げた。

 

「いい質問だクロム。そいつはできるだけラクしたいっていう自然界のルールの話だ」

「ラク?」

「まず、水ってのは分子同士が引っ張り合ってる。これを“表面張力”っつう」

 

千空は木桶から少し液をすくい、指先で薄く広げた。

 

「水の表面は、まるで薄い膜みてぇに縮もうとする性質がある。できるだけ表面積を小さくしたがるんだ」

 

クロムは眉をひそめる。

 

「表面積?」

「物の表面の広さだ。たとえば同じ量の水でも、ぐちゃぐちゃな形より、まとまった形の方が表面は少なくて済む」

 

千空は地面に枝で丸を描いた。

 

「で、同じ体積で一番表面積が小さい形――それが球体だ」

「つまり……丸が一番省エネってことか!」

「そーいうことだ。シャボン玉は膜が縮もう縮もうとする結果、自然と球になる」

 

クロムは感心したように空を見上げる。

 

「へぇー……自然が勝手に一番効率いい形選んでんのか」

「科学ってのはそういう自然界の横着を見つける学問でもある」

 

するとクロムは、ふと思いついたように言った。

 

「でもよ、水だけだとシャボン玉ってうまくできねーよな?なんで石鹸入れるとできんだ?」

「そりゃ石鹸が膜を壊れにくくしてるからだ」

 

千空はシャボン液を指で弾く。

 

「水だけの膜はすぐ薄さが偏って破れる。だが石鹸の成分―― “界面活性剤”ってヤツが入ると、水の表面張力を弱めつつ、膜を均一に保ってくれる」

「かいめん……?」

「水と空気の境目を安定させる物質だ。石鹸の分子は片側が水にくっつき、もう片側が油や空気に向く。だから薄い膜を作りやすい」

 

【挿絵表示】

(解説イラストですが一部生成AIを使用しています。苦手な方はご注意ください)

 

クロムは「うおー……」と唸る。

 

「昔はただの遊びだと思ってたけど、めちゃくちゃ科学だったんだな」

「遊びほど科学の入口に向いてるモンはねぇよ」

 

千空は空へ向けて大きく輪を振った。

再び巨大なシャボン玉が、ゆっくりと夕空へ浮かび上がる。

 

子供たちが歓声を上げ、後を追って駆け出した。

 

その虹色の球を見上げながら、クロムはぽつりと言う。

 

「丸って、一番ラクな形か……」

「だから自然界じゃ星も水滴も、デカいモンほど丸くなりたがる」

「星まで!?」

「重力も均等になろうとする力だからな。ま、原理はちっと違うが、自然は偏りを減らしたがるって意味じゃ似たようなモンだ」

 

クロムはしばらく考え込み――やがてニッと笑った。

 

「なんか分かってくると、シャボン玉見る目変わるな!」

「クク、そうやって世界の見え方が変わる瞬間こそ科学の醍醐味だ」




一話は小難しくなりすぎたので今回は軽め。
科学解説、もっと入れたいことたくさんあるけど入れすぎると難しくなるし小説としての内容が薄くなるジレンマ。
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