『春の嵐』と呼ばれるようになったあの事件の後、コハルは霊的な力を宿すようになり、村の災害を予兆するまでに至っていた。 そして村を守るため修道女の道を志すようになり、ハクの勧めで都の中央修道会へと送られた。 最初の頃は周りから村の訛りをからかわれ、村に帰りたいと何度も望郷の念にかられた手紙を送りつけ親しい者達を心配させていたが、ハクが真に頼るべき者、真に頼るべき場所を手紙にしたため都に返送すると、やがて都からの手紙はぴたりと止むようになった。
しばしの年が経ち、加齢により寝たきりになったサム翁。老衰の末期を迎えると教会に特設された寝台にその身を運ばれた。
若き頃は羊飼いを営んでいた。昼間に羊の群れを追ううちに草原に居眠りをし、その場からはぐれた一匹の子羊が行方知れずになってしまう。
その日から自責の念に駆られ羊飼いの道を弟に譲り、自分は畑作人の道を選んだ。閉じた目の奥である光景が浮かぶ。それは子羊を胸に抱きながこちらに静かに歩み寄る光輝いた者の姿。
(おぉ、おぉ、帰って来てくれたのか………。)
教会の中にはミクが先頭に立ち、鎮魂の詩を唄い続ける村人達の姿。
"...The Lord's my shepherd, I'll not want, He makes me down to lie...."
老人は笑顔の中に涙を流し続け深い眠りへと旅発っていった。
10年の時が過ぎ、村の中央。
村長宅の前では村長一家と、美しい娘に成長したミク達が立っていた。
現在、教会にはデル神父とシスター・ハクの姿は無い。
村人達はその時の事を語りたがらないが、唯一ハルのみが空を見上げなら思う。
(…酷いわ、お姉様 私どれだけ泣いたか分からないくらいよ)
過去に主を失った教会では一人切りで世話を果たすハルの姿が、そしてその背を見つめ共に手伝うサム翁の弟の羊飼いの孫の姿が。
やがて二人は恋に落ち、教会の前で誓いを交わした。
そして今日、新たな神父とシスター・コハルが教会の主へとして帰ってくる。
「ハルお姉ちゃん、とうとうお母さんになるのね~」
ハルの少し大きくなったお腹をミクが見つめながら言う。
「ふふ、ミクちゃんもいつかそうなるのよ?」
「え~、あたしにそんな人できるのかなぁ~?」
懐中時計を見つめながら村長は語る。
「…そろそろ、二人が到着する頃合いだな」
「新しい神父様はデル神父に似ている方みたいよ?、お父様」
「…やれやれ、最近の中央はあのような者を好むのか?」
村長が時計の蓋をばちんっと閉じながら言う。
「あら、外見が似ているだけで中身も同じとは限らないわ それは誤解というものよ?、お父様」
「…意地悪を言わんでおくれ、ハルよ 私は孫の顔を見ることさえできれば充分だよ…」
同じ頃、森の出口を駆けでる白い馬の姿。その鞍の上には手綱を握る神父と、修道服に身を包み美しく成長し、神父の腰に両腕を回したシスター・コハルの姿があった。
「私に、この村の神父としての仕事が務まるだろうか…、シスター?」
「ほほほ…、雨の降る気配は無く、今や魔は遠くに消え去りましたわ…」
二人を見かけた村人達はこちらに向けて手を振る。
「村の方々は皆あのように、お優しい方ばかりですわ 心配ご無用でしてよ、神父様?」
「そうか! ならば私にも働き甲斐があるとうものだ、シスター」
目的の地が近づいてくる。
「…あっ!。着いたわっ!」
村の中央の道を指差すミク。
「ここですわっ!、止めてくださいまし、神父様っ!」
コハルの合図と共に白馬が止まる、そして馬上から家の見える道へと飛び降りる。
ミクが友の元へと駆け出す。村長一家もその後ろをゆっくりと歩み寄る。
コハルも友の元へと駆け出す。神父が白馬をどぅどぅといさめる。
「コハルちゃあああああああああんっっ!!!」
「ミクちゃああああああああああんっっ!!!」
願わくばこの村に永遠の幸あらんことを…。