「初めまして、私の名は沙汰ルシルと申します、気軽にルーシーとお呼び下さい」
よし、自己紹介、噛みませんでした。
寮で2、3、4…何回練習したのでしたか、第一印象は良い方が良いだろうと、両手で数えられない程に練習した自己紹介が決まり、私は心の中で安堵します。
下手にギャグでも晒して滑り倒してしまっては、この高校3年間が居た堪れなくなるでしょうからね。
それにここは貴族も多いトリニティ総合学園、かの淑女達に恥を見せるわけにも行きますまい。
ですが…何なら…空気感が…
「…ねぇ…ちょっと…あれ…」
「…珍しいですわね…」
「大きな帽子ですこと…」
ざわ…ざわ…
う、うーん、やっぱり仕方が無いですかね。
何せ私は———
「フフ、このキヴォトスでは男性は珍しいかも知れませんが、どうぞよしなに」
そう、
雑音冷めやらぬ中、私は席に座り、次の方の自己紹介へと移る。
すると、隣に座る小さな淑女が私に話しかけてきました。
「ね、ねぇ…何でそんな帽子してるのよ?」
「おや、質問は有り難いですが、今は彼女が話しています…交流はホームルームの後にしましょう」
「う、うん、真面目なのね…」
うむむ、やはりそこを突かれてしまうとは…
何を隠そう、私の種族は悪魔、立派な角が生えておりまして。
一般の学帽よりも少し大きい、ソフトフェルトハットを着用しています。
角と言えばゲヘナですが…その辺りの話はまたの機会に。
それに、この事実はあまり話したくもない、今ははぐらかしましたが、いつかはバレてしまうでしょうかね。
まぁ、バレても大丈夫でしょう、自分から明かす勇気が無いだけです。
◆◆
「では、自己紹介が終わったところで、HRは終わりです、休み時間では次の授業の準備を進めましょう」
指導員の女性がそう言って部屋を出て扉を閉めた瞬間、クラスの空気は一気に浮き足だちます。
それぞれが隣の子、後ろの子と仲良くなる為に談笑を始めたのです。
なるほど、天真爛漫さもありながら、気品に溢れている。
大声で騒ぐものなど1人もいない。
流石トリニティ、高校一年生なのに所作に磨きが掛かっています。
その空気に後押しされ、私は先程の少女に話を持ち掛けました。
「では、改めまして初めまして、沙汰ルシルです」
「わ、私はコハル、下江コハルよ」
「よろしくお願いします」
ニコリと笑って手を差し出すと、おずおずと握手に応じてくれる彼女、コハルさん。
頭部から生えた羽根で目元を隠して、少し震えています。
私は180センチの偉丈夫ですから、少々威圧感を与えてしまっているかも知れません。
「それで、帽子…」
「あぁ、これはファッションですよ、届け出は認可されていますし、校則違反にはなりません、少し奇抜ですかね?」
「いっ、いや…!そんな事はない…です」
おや、敬語、やはり怖がらせてしまっていますね。
うむむ、背が高いのも便利ですが、考えものですね。
「フフ、敬語は結構、フランクに行きましょう?」
「う、うん、分かった…もしかしてだけど、外部入学生?」
「おや、バレてしまいましたか」
コハルさんがこちらを見上げて聞いてきます。
失礼ですが、小動物みたいですね。
「うん…そうじゃなかったら、もっと有名だったと思うし…」
「フフフ、ここでもやはり私の様なキヴォトス人は目立ってしまうのですね」
「それに、ちょっと意外かも…」
「おや?何がです?」
「本だと、男の人ってもっと…なんていうか…その…強引というか…」
「本?」
「うわぁあ!!やっぱいまのナシっ!」
尻すぼみになっていく声に反応して、顔を近付けると、顔を赤くしたコハルさんに押し除けられてしまいました。
むぅ、コミュニケーションは難しい。
大きな私は怖がられてしまう宿命なのでしょうか。
「喋り方でしたら、ここに入学する以前に矯正致しました…ここは貴族が集まりますからね」
「ふ、ふ〜ん…ね、ねぇ私さ———」
コハルさんの言葉が紡がれる寸前、私に向かって声がかけられました。
「沙汰さん、貴方のお話を伺いたいです、よろしくて?」
「私もですわ」
「え、えぇ、勿論」
周囲のコミュニケーションは既にひと段落が付いていたのでしょう、ならそんな彼女達が次に話しかけるとするならば、最も奇抜なこの私。
コハルさんとのお話が中断されてしまったのは些か心残りになってしまいますが…
まぁ、話の続きは休み時間にでも聞くとしましょうか!
◆◆
「コハルさん」
「ひゃっ!?な、なにっ!?」
「フフ、先の話の続きを伺っても?」
授業後、早速私はコハルさんに話しかけました。
「お、覚えてたの…わ、私、実はね…」
口をもにょもにょさせながら必死に言葉を探すコハルさん。
やがて彼女は、意を決した様にこちらを見据えて口を開きました。
「せ、正義実現委員会に入りたいのっ!だから…その、放課後、部活見学に行かない…?」
「…」
…正義実現委員会?
…部活見学?
それは…それはあまりにも…
「素晴らしいですコハルさん!私も丁度見学しようと思っていたのですよ!勿論、私も入部希望ですとも!!」
「っほんと!?」
「えぇ!えぇ勿論!」
何という幸運でしょうか!コハルさんの目も輝いております!
えぇそう何を隠そうこの私、正義実現委員会には強い憧れを抱いているのです!
まさにこのトリニティに入学した理由の一因です!
ここだけの話、憧れの先輩も居ます!
「フフフフ!こんなにも直ぐに同じ志の者と出会えますとは…!」
「ぜ、絶対よっ、一緒にいこ!」
「是非行きましょう!正実のエリートになるのです!コハルさん!」
「っうん!ル、ルシル…さん!」
む、他人行儀な態度を検知、これはいけません。
何故なら私達は既に同志!
なれば呼び名に距離感は不要!
顔を赤くする彼女に、私はずいと顔を近付けます。
「是非、ルシルではなく、ルーシーとお呼びを」
「う、うん…分かったわ…る、ルル、ルーシー…私も、コハルって呼んでいいから…!」
「フフフフフ、これからよろしくお願いします、コハル」
声が震えていますが、それを指摘するのは野暮というもの。
表に出さないだけで、私も緊張しているのですからね、いつか慣れるものです。
あぁ、それにしても僥倖。
一日目からこんな素敵な出会いが有るとは…
トリニティに入学して、本当に良かったです!
カワイイねコハルチャソ…
主人公の容姿に触れると、切れ長かつ青く透き通る瞳、灰に近い銀の長髪をポニーテールに纏めた偉丈夫です、カッコいいですね、誰に似たんでしょうか。