中川菜々から優木せつ菜へ 〜ポケモンの世界であなたと紡ぐ奇跡〜   作:あいライス

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10章「ポケモンセンター」

公園での騒動から数十分。

私としずくさん、そしてイワンコは、住宅街の一角に建つ清潔感溢れる建物――『ポケモンセンター』へと駆け込みました。

 

自動ドアが開くと同時に、消毒液の匂いとは異なる、何か優しくて穏やかな香りが鼻をくすぐります。

受付の奥には、図鑑で見た通りのピンク色の髪を美しく結い上げたジョーイさんが立っていました。

 

ジョーイさんは、しずくさんの腕の中でぐったりとしているヨーテリーを見るなり、表情を険しくしてカウンターから駆け寄ってきました。

 

「二人とも、そのヨーテリーどうしたの? 随分苦しそうだけど……」

 

「あ、あの……っ、私のヨーテリー、たけしくんのビードルにいじめられて……っ、ビードルのどくばりを……!」

 

しずくさんは、先ほどの恐怖とヨーテリーへの申し訳なさで、再び涙を溢れさせながら、一生懸命に状況を説明しました。

 

本来なら私が冷静に代弁すべきところですが、彼女が自分の言葉で、必死にパートナーの窮状を伝えようとする姿を邪魔してはいけないと思い、私は隣でそっと見守ることにしました。

 

「まあ、大変! どくが回っているのね。……ラッキー、ストレッチャーをお願い!」

 

ジョーイさんが声を上げると、奥から卵を抱えたピンク色の丸いポケモンのラッキーが「ラッキー!」と小気味よい返事をして、小さなストレッチャーを運んできました。

 

「大丈夫よ、すぐ元気になるから。あなたたちはあそこの椅子に座って、待っていてちょうだい」

 

ジョーイさんの手慣れた、それでいて温かみのある手つきで、ヨーテリーは処置室へと運ばれていきました。

 

「よろしくお願いします」

 

私は、深々と頭を下げて彼女たちの背中を見送りました。

 

 

待合室の柔らかい椅子に腰を下ろすと、しずくさんは膝の上で両手を握りしめ、じっと処置室のドアを見つめていました。

イワンコは、彼女の不安を察したのか、私の足元にちょこんと座り、時折しずくさんの足に鼻先を寄せて励ますような仕草を見せています。

 

「ヨーテリー……大丈夫かな……? 私のせいで、あんなに痛い思いをさせて……」

 

震える声で呟くしずくさん。

 

私は、彼女の小さな肩にそっと手を置きました。中身が高校生である私にできるのは、根拠のない気休めではなく、安心を提示することですね。

 

「心配いりません。図鑑によれば、ポケモンセンターの治療技術は世界最高峰です。それにジョーイさんは、あらゆるポケモンの怪我や病気を治すスペシャリスト。信じて待ちましょう」

 

「……うん」

 

しずくさんは少しだけ顔を上げ、私の目を見て頷きました。

 

 

待合室の時計の針が数十分を刻んだ頃、処置室のランプが消え、ドアが静かに開きました。

 

 

「キャンキャン! キャンッ!」

 

元気いっぱいの鳴き声と共に、ストレッチャーから飛び降りてきたのは、先ほどまでの衰弱が嘘のように活き活きとした姿のヨーテリーでした。

 

 

「ヨーテリー!」

 

しずくさんが椅子から飛び上がります。

 

「お預かりしたヨーテリー、元気になりましたよ。体力もすっかり回復しています」

 

ジョーイさんが朗らかに笑いながら、診断結果を伝えてくれました。

 

 

「ありがとうございます。本当にお世話になりました」

 

私も立ち上がり、再び丁寧にお礼を述べました。

 

 

「ありがとうございます! ありがとうございます! ヨーテリー、よかった……本当に、よかったぁ……!」

 

しずくさんは、駆け寄ってきたヨーテリーを思い切り抱きしめました。

ヨーテリーもしずくさんの胸に顔を埋め、「キャン!」と嬉しそうに吠えると、彼女の涙で濡れた頬をこれでもかというほどペロペロと舐め回しました。

 

「きゃ! もう…くすぐったいよ〜、ヨーテリー!」

 

涙を拭いながら、くすぐったそうに笑うしずくさん。

その光景は、先ほどの公園の殺伐とした空気とは正反対の、愛に満ちた輝きを放っていました。

 

「ふふっ、また元気がなくなったり、困ったことがあったら、いつでもここに来てちょうだい。私たちはいつでも歓迎するわ」

 

「ラッキー!」

 

ジョーイさんの優しい言葉に、私たちは顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれました。

 

「はい!」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

「ワン!」

「キャン!」

 

イワンコとヨーテリーも、まるでジョーイさんにお礼を言うかのように元気に唱和しました。

 

トラブルだらけの幕開けでしたが、共に困難を乗り越えたことで、私としずくさんの間には、単なる、幼稚園のお友達以上の、深い絆の芽が確実に息吹き始めていました。

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