中川菜々から優木せつ菜へ 〜ポケモンの世界であなたと紡ぐ奇跡〜   作:あいライス

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11章「約束」

ポケモンセンターの自動ドアが背後で閉まり、私としずくさん、そしてイワンコは、並んで歩いていました。

しずくさんの腕の中には、ジョーイさんの治療ですっかり体力を取り戻したヨーテリーが収まっています。

時折、安心させるようにしずくさんの胸元に顔を埋めるその姿は、先ほどの殺伐とした光景が嘘のようでした。

 

しかし、しずくさんの足取りはどこか重く、その横顔には、ただ安心しただけではない、複雑な葛藤の影が落ちていました。

しばらく無言のまま歩いていましたが、先ほどの公園の入り口に差し掛かったところで、しずくさんは不意に足を止めました。

 

「ねぇ、せつ菜ちゃん!」

 

少し震える、けれど芯の通った声が私を呼びました。

 

「何ですか? しずくさん」

 

私が立ち止まって振り返ると、しずくさんはヨーテリーを抱きしめる手に力を込め、真っ直ぐに私の目を見つめ返してきました。その大きな瞳には、決意とも祈りとも取れる強い光が宿っていました。

 

「せつ菜ちゃん。 私に…、もっといろんなポケモンのことを教えて! 私、ちゃんと学びたいの!」

 

「え……?」

 

唐突な申し出に、私は少しだけ驚きました。

しずくさんはお構いなしに。溢れ出しそうな感情を一つずつ確かめるように、噛み締めるように話を続けた。

 

「ポケモンのバトルのこと。ポケモンの正しい育て方。それに…、相手も自分も、誰も傷つけないための戦い方も勉強したい。 今日…、私が何も知らなくて、ちゃんと指示してあげられなかったから、ヨーテリーがあんなに痛くて怖い目に遭っちゃった……。 私がもっとしっかりしていれば、あんなことには……」

 

「しずくさん……」

 

彼女の肩が微かに震えています。

それは悔しさというよりも、大好きなヨーテリーへの深い愛情ゆえの自己嫌悪でした。

 

私には、その責任感の重さが痛いほど分かりました。かつて生徒会で、自分の不手際が誰かに迷惑をかけてしまった時に感じた、あの胸を刺すような痛み。

 

「だから私、ヨーテリーともっと強くなりたい! さっきのせつ菜ちゃんのバトルを見て、イワンコと一緒に立ち向かう姿を見て、私…本当にそう思ったの。せつ菜ちゃんみたいに、大切な人を守れるようになりたいの!」

 

私はその言葉に、胸の奥が熱くなるのを感じました。

 

でも私は、今の自分の未熟さも理解していますよ。

 

「いえ、そんな! 私だって、さっきは勢いに任せて飛び出してしまっただけです。図鑑の知識を繋ぎ合わせただけで、あれが本当に正しいポケモンの導き方だったのか、正直なところ、私にも分かりません」

 

しずくさんは、私の否定的な言葉に少しだけしゅんとした表情を見せました。

ですが、私は言葉を止めるつもりはありませんでした。むしろ、ここからが本題です。

 

「だから! ……一緒に学びませんか? ポケモンのことをもっと。一人では気づけないことも、しずくさんと一緒なら、きっと深く理解できるはずです!」

 

私の言葉に、今度はしずくさんの顔がぱっと明るく、希望に満ちたものへと変わりました。

 

足元のイワンコが「ワンワン!」と賛成するように鳴き、ヨーテリーも「キャンキャン!」としずくさんの腕の中で力強く声を上げます。

 

「うん…! ありがとう、せつ菜ちゃん!」

 

 

私はこの前、誠一さんから聞いた話を思い出しました。

この世界は、ポケモントレーナーになるためのスクールがあり、ほとんど街の子たちは、小学生になると、そこに入学するのが普通なのだとか。

 

 

「そうだ! しずくさん。私たちがもう少し大きくなったら、一緒の『トレーナーズスクール』に通いませんか?」

 

「トレーナーズスクール……?」

 

「はい。そこにはプロの先生がいて、ポケモンの生態や、バトルの戦術を専門的に教えてくれるそうです。 私も、しずくさん同じくらい、もっとポケモンのことを知りたいんです!」

 

 

ポケモン…。

私にとってはまだ未知で、理解の及ばない生き物です……。

 

けれど、今日のように誰かを守るための力になるのなら、私はその全てを覚えてみたい。

全力で、向き合ってみたいです!

 

しずくさんを守り、イワンコと心を通わせたこの4年間で、この不思議な動物たちへの純粋な興味が、情熱となって、私の胸の中で渦巻いていました。

 

しずくさんは、私のその熱意に当てるように、満開の笑顔を咲かせました。

 

 

「うん! じゃあ、大きくなったら一緒に行こうね! 私たちの、約束だよ!」

 

「はい! もちろんです!」

 

 

私たちは自然と、どちらからともなく小指を差し出していました。

 

 

「「指切りげんまん、嘘ついたら、ピカチュウ10まんボルト! 指切った!」」

 

幼稚園で先生が、大切なお約束をする時にいつも歌ってくれるおまじない。

前世の記憶にある「針千本飲ます」ではありません。

この世界では、嘘の代償はピカチュウの放電なのです。

 

10まんボルトですか……。

 

図鑑によれば雷に匹敵する衝撃。それは絶対に嫌ですね……。

 

絶対に、この約束は守らなければなりません!

 

ピカチュウの凄まじい威力を想像して、私は少しだけ身震いしましたが、隣で笑うしずくさんの顔を見て、すぐに柔らかな微笑みへと戻りました。

 

 

中川菜々としてではなく、優木せつ菜として。

 

守るべき友ができ、目指すべき道が見えた。

 

異世界転生という運命がもたらしたこの一歩は、これからの私の人生を大きく変えていくに違いない。

 

――そう確信しながら、私たちはそれぞれの温かな家へと歩き続けました。

 

 

分かれ道、しずくさんは笑顔で、私に大きく手を振ってきました。

 

 

「せつ菜ちゃ~ん! また明後日、幼稚園でね~!」

 

「はい、お疲れ様した!」

 

「キャン!」

 

「ワンッ!」

 

 

 

………優木せつ菜…。 せつ菜ちゃん……。

 

 

この名前で呼ばれる日常も、案外悪くないかもしれませんね…。

 

 

イワンコの頭を撫でながら、私は心の中で、静かにそう呟くのでした。

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