中川菜々から優木せつ菜へ 〜ポケモンの世界であなたと紡ぐ奇跡〜   作:あいライス

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20章「追いかけっこ」

◆誠一side

 

 

翌日、せつ菜が幼稚園から帰って来るのを待って、俺とせつ菜、そしてイワンコは、ピチューに出会ったという公園へと足を運んだ。

 

昨夜、この小さな5歳児から叩きつけられた「契約」を果たすためだ。

 

公園の入り口では、ヨーテリーを抱っこしたもう一人の女の子が待っていた。しずくちゃんだ。

 

そういえば、せつ菜から去年からの友達と聞いて、あの一件の時も名前は聞いたが、俺としずくちゃんが実際に会うのは、なんだかんだ今日が初めてだった。

 

彼女は俺の姿を見るなり、緊張で少し肩を揺らしながらも、精一杯の礼儀正しさで頭を下げた。

 

 

「は……初めまして……、桜坂しずくです。よろしくお願いいたします」

 

「あっ、あぁ、せつ菜の父の誠一です。よろしくな、しずくちゃん」

 

 

俺は思わず面食らった。

 

最近の子供っていうのは、こんなにしっかりとした挨拶ができるものなのか?

 

いや、きっと彼女の親御さんの教育が素晴らしいのだろう。

 

……だが、待てよ。

 

そう考えると、ウチのせつ菜はどうなんだ?

 

別に俺も七海も、作法や言葉遣いに厳しくした覚えはない。

 

それなのに、せつ菜はいつだって丁寧で、どこか達観していて、親の俺たちに対してすら、妙に他人行儀で、さん付けだ。

 

あの落ち着きようは、一体どこから来ているのか?

 

そんな俺の思考を切り裂くように、せつ菜が拳を握りしめて宣言した。

 

 

「それではピチュー、ゲット作戦開始です!」

 

「おぉ〜!」

 

 

しずくちゃんがそれに呼応し、イワンコとヨーテリーもやる気満々に鳴き声を上げる。

 

なんだか、小さな冒険隊の出発を見守っているような気分だ。

 

公園の奥へ進むと、植え込みのそばに、昨日現れたというピチューがちょこんと座っていた。

まるで、せつ菜たちが来るのをずっと待っていたかのような佇まいだ。

 

 

「せつ菜ちゃん、いたよ!」

 

「よかったです。誠一さん、いましたよ!」

 

 

せつ菜が俺を振り返り、期待に満ちた瞳を向けてくる。

 

 

「あぁ、いたな。あとはピチューの気持ち次第だぞ」

 

 

せつ菜としずくちゃんはゆっくりと歩み寄り、ピチューと同じ目線になるようにそっと腰を落とした。

 

 

「ピチュー、迎えに来たよ」

 

 

しずくちゃんの優しい声。そして、せつ菜が真っ直ぐにピチューを見つめて、静かに、けれど力強く問いかけた。

 

 

「改めてお聞きします。ピチュー、私のポケモンになってくれますか?」

 

 

一瞬の静寂。ピチューは大きな耳を揺らし、せつ菜をじっと見つめ返すと、弾けるような笑顔で大きく頷いた。

 

 

「ピチュー♪」

 

「ありがとうございます。……では誠一さん、お願いします」

 

「あぁ。ピチューもちゃんと、自分自身で選んだみたいだな。よし、いいだろう。それじゃ、ゲットするぞ」

 

俺が腰のベルトから空のモンスターボールを取り出し、構えたその時だった。

 

ピチューの瞳が、いたずらっぽくキラリと輝いた。

 

 

「ピチュッ!」

 

 

次の瞬間、ピチューは俺の投げたモンスターボールから逃れるように、すばしっこい動きで俺たちの間をすり抜けた。

 

まるで「捕まえられるかな?」と誘っているかのように、楽しげに走り出した。

 

 

「はい? えっ? ちょっと、ピチュー!」

 

「ピチュー! 待って~~!」

 

 

せつ菜としずくちゃんが、必死になって小さな黄色い影を追いかけ始める。

 

ピチューは逃げながらも、テンションが最高潮に達したのだろう。

 

頬の電気袋がバチバチと音を立てた。

 

 

「って、おいおい!!」

 

 

俺が叫ぶ間もなかった。

 

 

「ピッチューーーーーー!!」

 

 

電撃が放射状に広がり、追いかけていた2人の少女を真っ向から飲み込んだ。

 

「「きゃああああああああ!!」」

 

「うぅ〜! やっぱり昨日と同じくらい、しびれるぅ~~!!」

 

「体がしびれます~~!!」

 

激しい電光の中で、二人は小刻みに震えている。

 

……おい、本当に大丈夫なのか?これ…。

 

ジムリーダーの俺からして見れば、今の放電はなかなか気合が入っていたぞ…。

 

ようやく電撃が止まり、せつ菜としずくちゃんは倒れていた。

 

「しびれた……」

 

「しびれました……」

 

ピチューはといえば、2人が倒れたのを見て「やりすぎちゃった」とでも言うように、しゅんと耳を垂らしてその場に立ち尽くしていた。

 

何してんだか…。

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

俺が駆け寄ると、しずくちゃんが力なく笑った。

 

「は、はい…。しびれるけど……なんとか……」

 

「誠一さん……。ピチューが大人しくしている今がチャンスです……! モンスターボールを早く……」

 

「えっ? あ、あぁ、分かったよ」

 

俺は、大人しくなったピチューに向かってモンスターボールを軽く投げた。

 

ボールはピチューの体に触れると同時に開き、彼を赤い光の中へと吸い込む。

 

地面に落ちたボールが数回左右に揺れ、最後に『カチッ』という小さな音を立てて、静止した。

 

ゲットできたということだ。

 

 

「やりました…!」

 

「や、やったね! せつ菜ちゃん!」

 

「ワンワン!」

 

「キャンキャン!」

 

 

イワンコとヨーテリーも、新しい仲間の誕生を祝うように周囲を跳ね回っている。

 

 

「よかったな、せつ菜」

 

俺がボールを拾い上げ、せつ菜に差し出す。

 

「はい! ですが…、まだ痺れますね。今のは相当に強い電撃だったみたいです……」

 

「ビリビリした〜……」

 

 

だが、2人の顔には達成感に満ちた笑顔があった。

 

ヨーテリーもしずくちゃんの顔を心配そうに覗き込み、イワンコに至っては尻尾をプロペラのように振って、せつ菜の頬をペロペロと舐めて労わっている。

 

せつ菜は、ピチューの入ったモンスターボールを大切に受け取った。

 

 

「ふふっ。ピチュー、今日からあなたは私たちの家族です!」

 

「私とも、ずっと友達だよ!」

 

 

しずくちゃんが横からボールを覗き込むと、中からピチューの、なんとも弾んだ元気な声が響いてきた。

 

「ピチュー♪」

 

 

新しい家族を迎えた娘の姿を見ながら、俺は少しだけ胸が熱くなった。

 

 

……ったく、この笑顔を見せられたんじゃ、ジムリーダーの立場も形無しだな。

 

これから先、このピチューと、それ以上に強烈な俺の娘がどんな物語を紡ぐのか、楽しみになってきた。

 

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