中川菜々から優木せつ菜へ 〜ポケモンの世界であなたと紡ぐ奇跡〜   作:あいライス

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21章「新しい家族」

優木家のリビングには、今夜も七海さんが腕によりをかけた夕食の、食欲をそそる香りが満ちていました。

ですが、今夜はいつもとは少し違います。テーブルの周囲だけでなく、足元もまた、新しい家族を迎え入れた喜びと喧騒で溢れかえっていたからです。

 

 

「せつ菜、ピチューはちゃんとご飯食べたかしら?」

 

 

キッチンから鍋の様子を見ながら、七海さんが明るい声をかけました。私は、自分の足元で満足そうに口の周りを拭っている小さな黄色い影を見つめ、少しだけ苦笑いを浮かべて答えます。

 

 

「はい、七海さん。この子はモモンの実がとても好きみたいで、自分の分をあっという間に平らげたかと思えば、フシギソウさんの分まで奪おうとしていました」

 

「ソウ……」

 

被害に遭いかけたフシギソウが、不満げに鳴き声を上げました。

 

背中のつぼみを少し震わせ、私に「どうにかしてくれ」と言わんばかりの抗議の目で見つめてきます。

 

すると、その様子を見ていたイワンコが、フシギソウの背中に前足をちょんと乗せました。

 

まるで「まぁまぁ、新入りなんだから許してやれよ」となだめているような、その兄貴分らしい「ワン」という鳴き声に、リビングには柔らかな笑いがこぼれます。

 

 

~~~

 

 

賑やかな夕食を終え、お風呂に入り、ようやく訪れた就寝の時間。

 

私の部屋のベッドの脇では、イワンコとピチューが並んで眠る準備をしていました。

 

ピチューはよほど遊び疲れたのか、イワンコの柔らかい毛並みに体を預け、すでに幸せそうな寝息を立て始めています。

 

ピチューという新しい絆を得た喜び。それは確かに、今の私の心を満たしています。

 

枕元に置いた図鑑を開きますが、ふとした瞬間に、胸の奥に冷たい静寂が降りてくるのです。

 

 

 

私はなぜ、この世界に転生してしまったのでしょうか?

 

 

 

5年の間、幾度となく繰り返してきた答えのない問いでした。

 

東京、お台場。虹ヶ咲学園。生徒会長として駆け抜けた日々。

 

 

そして、歩夢さんのこと…。

 

 

かつての私にとっての日常は、今や遠い霧の向こうにある物語のようです。

 

なぜあの日、私は全てを失い、そして全く異なる理で動くこの世界に、一人の子供として産み落とされたのか。

 

 

これからどう生きるのが、正しいのでしょうか。

 

……いえ、正解など、どこにもないのかもしれません。

 

 

前世の私なら、ルールや義務、そして周囲の期待に応えることの中に自分を見出していたでしょう。

 

ですが、今の私は、「優木せつ菜」という新しい世界の上にいます。

 

誠一さんや七海さんの深い愛情、しずくさんと交わした眩しい約束、そして命を預け合うパートナーであるイワンコとピチュー。

 

この世界で得たものは、どれも温かく、重みがあります。

 

だからこそ、私はいつか探しに行かなければならないのだと、確信に似た予感を感じていました。

 

 

私がここに呼ばれた意味。

 

この異世界で、私が本当になすべきこと。

 

 

この街を、ニジガサキシティを、いつか出て、もっとたくさんの、まだ見ぬポケモンたちと会ってみたいです!

 

図鑑の中に書き記された、膨大な数の不思議な生き物たち。

 

森、海、空、そして険しい山々。

 

そのひとつひとつに触れ、彼らの声を聞き、彼らと共に歩む道の中でなら、いつか自分の在り方が見つかる気がするのです。

 

足元の2匹の寝息が、心地よいリズムを刻んでいます。

 

窓の外には、前世と同じようで、けれど決定的に異なる星座が夜空を飾っていました。

 

私は図鑑を閉じ、そっと目を閉じます。

 

明日になれば、また「ポケモンの先生」としての幼稚園生活が始まり、しずくさんとの勉強が待っています。

 

一歩ずつ、この世界に足跡を刻んでいくこと。

 

今はそれだけが、私の誇れる「正義」への道しるべでした。

 

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