中川菜々から優木せつ菜 〜ポケモンの世界であなたと紡ぐ奇跡〜   作:あいライス

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24章「掲げられた“正義”と、新たな日々の幕開け」

『ニジガサキシティ ポケモントレーナーズスクール』。

 

重厚な石造りの正門をくぐり、案内されるがままに足を踏み入れた大講堂には、この春から新しく学び舎の門を叩いた新入生たちの、期待と緊張が入り混じった熱気が充満していました。

 

幼稚園の頃よりもずっと大人びた紺色のスクール制服に身を包んだ子供たちが、クラスごとに整列する中、壇上に立った校長の言葉が、静寂を切り裂くように響き渡ります。

 

誠一さんから事前に聞いた話ですが、この校長先生は一昨年前に別の先進都市のアカデミーから、このニジガサキシティのスクールへと正式に赴任してきた、教育界ではかなりの凄腕で名高い方だそうです。

 

 

「新入生の諸君、入学おめでとう。本スクール校長の倉田である。 ……最初に言っておくが、キミたちは大変幸運です。 なぜなら、今のこのスクールには、ルールが一つしかないからです!」

 

 

白い口髭を蓄えた顔を綻ばせ、朗々と、そして信じられないほど情熱的に大きな両手を左右へとダイナミックに広げてみせました。

 

その鋭く輝く瞳の奥には、まるでどんな困難をも焼き尽くして進むリザードンの燃え上がる炎のような、確固たる強い意志の光が宿っています。

 

 

「それは――“正義”! 自分にとっての本当の正義とは一体何なのか、大切なポケモンと共に歩むべき正しい道とはどうあるべきなのか。キミたちはこれからのスクール生活の中で、その答えを己の魂に問い続け、互いに切磋琢磨して高め合わねばならない。我々教職員と共に正義を志し、この街で最も熱く、最も素晴らしいスクールを共に創り上げていこうではないか!」

 

 

私としずくさんは、顔を見合わせることすら忘れて、その言葉を黙って聞き届けていました。

 

 

正義ですか…。

 

 

その言葉は、前世で私が誰よりも大切にし、時に自分を縛り付けてきた言葉でもあります。この世界の学校が、それを第一の校訓に掲げるとは…。

 

この場所は、私にとって運命的な場所になるかもしれませんね。

 

 

~~~

 

 

入学式を終え、私たちが案内されたのは「1年B組」の教室でした。

 

幸運なことに、しずくさんとは離れ離れにならず、同じクラスになることができました。

 

彼女もまた、安堵したようで、小さな胸をなでおろしています。

 

勉強のために、このスクールは、本来10歳からポケモン所持が認められるはずですが、事前に家庭から一匹だけ正式な「パートナーポケモン」を連れてくることを申請し、スクールのシステムに個体情報を事前登録すれば、例外として毎日教室の机の横に連れて来て授業を受けても良いというルールになっているそうです。

 

そのため、教室のあちこちで、膝の上に乗った小さなポケモンたちが鳴き声を上げ、その度にクラスが和やかな笑いに包まれます。

 

言うまでもなく、私はイワンコ。しずくさんはヨーテリーを登録しました。

 

 

「それじゃあ、これから一人ずつ自己紹介をしてもらいましょうか。じゃ、まずは阿笠さんから、出席番号順にお願いします」

 

優しそうな若い女性の担任の先生が教壇から穏やかに促すと、教室の最前列から順に、子供たちが立ち上がって挨拶を始めました。

 

自分の好きな食べ物の話、大きくなったらどんな大人になりたいかという将来の夢、そして今日一緒に登校してきた我が家自慢の可愛いパートナーポケモンの自慢話。

 

やがて、しずくさんの順番が回ってきました。

 

 

「えっと……、お…桜坂しずくです。パートナーポケモンは、ヨーテリーです。 ヨーテリーと一緒に一生懸命、お勉強もバトルの練習も頑張ります。……よろしくお願いいたします!」

 

「キャン!」

 

 

小さな両腕で大切そうに抱きかかえられたヨーテリーが、主人の挨拶のタイミングに合わせるように実に元気よく前足を上げて応じると、教室内の一年生たちから「わあ、可愛い!」という声と共に、温かな拍手が送られました。

 

幼稚園の頃の彼女なら、人前でこれほどハッキリと話すことは難しかったでしょう。

 

一歩ずつ、彼女もまた成長して、歩み始めているのだと感じ、私は自分のことのように誇らしくなりました。

 

自己紹介は進み、ついに出席番号最後の方である私の番がやってきます。

 

「優木せつ菜です。パートナーはイワンコです。私は、正義を第一とする校訓を掲げるこの素晴らしいスクールにおいて、ポケモンと、私たち人間が本当の意味で手を取り合い、お互いの『大好き』を認め合って、誰もが心から笑顔になれるような、真の正義の在り方を深く学びたいと考えています。これからどうぞ、よろしくお願いいたします」

 

私は背筋をピンと伸ばし、かつて生徒会長として全校生徒の前に立った時と同じような、淀みのない礼法で一礼しました。

 

「…………」

 

 

一瞬の沈黙。

 

やはり小学1年生が口に似合わない言葉遣いに、クラスメイトたちは少しだけ気圧されたようでした。パラパラと、まばらな拍手が響きます。

 

 

……あぁ。また無意識のうちに、やってしまいましたね……。

 

 

私は静かに席に戻りながら、内心で苦笑しました。

 

どうやら私は、どれだけ時間が経っても、どれだけ世界が変わっても、こうして浮いてしまう性質から逃れられないようです。

 

周囲の子供たちが楽しそうに騒いでいる中、一人だけ理想論を掲げる私は、彼らの目には、堅苦しい存在に映ったかもしれません。

 

私、今度こそちゃんとやっていけるでしょうか…?

 

少しだけ不安がよぎり、私は俯きかけました。

 

すると、しずくさんがキラキラとした、眩しいほどの笑顔で私を見つめていました。

 

その瞳には、私の言葉を少しも馬鹿にする様子はなく、むしろ「やっぱりせつ菜ちゃんは凄いです!」という深い信頼が溢れていました。

 

 

……あぁ。そうでした。私には、あなたがいてくれるのでしたね。

 

 

しずくさんの笑顔を見るだけで、私の胸の中にあった小さな不安は、春の霞のように消えていきました。

 

たとえ周りに馴染めなくても、たとえ少し浮いてしまっても。私の正義を理解し、共に歩んでくれる親友が隣にいてくれる。

 

それだけで、この新しい生活は十分に輝かしいものになるはずです。

 

私はしずくさんに向け、優しく、そして力強く微笑み返しました。

 

ニジガクポケモントレーナーズスクール。

 

“正義”を掲げるこの学び舎で、私としずくさんの新しい日々が、今、静かに動き出しました。

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