中川菜々から優木せつ菜 〜ポケモンの世界であなたと紡ぐ奇跡〜   作:あいライス

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34章「科学の化物の独白」

その名を聞いた瞬間、私の脳裏に誠一さんの書斎で読んだ古い資料が蘇りました。そこには確かに「最強のドラゴン使い」と書かれていました。

 

 

「……渉さん。カイリューを従え、無敵を誇った伝説のトレーナー……ですよね?」

 

 

「そう、大衆の前に立つ彼は、まさに正義の体現者であり、無敵の英雄だ。 だがね、優木さん、彼のバトルスタイルには、こんな興味深い記述が残されている。  彼はかつて、悪の組織の団員とはいえ、人に向けて、カイリューのはかいこうせんを直接放ち、物理的に文字通り飛ばした。それも一度や二度ではない。 彼は常に、人への直接攻撃という暴力を、自らの正義の名のもとに執行していたのだよ」

 

 

心臓が、ドクンと嫌な音を立てて跳ね上がりました。

 

前世のぬるま湯のような平和とは違う、この世界の、強者だけが許される超法規的な暴力の現実が、目の前の男の口から淡々と語られます。

 

 

「それは……悪党を倒すため、仕方のない状況だったのでは……?」

 

 

「果たしてそう言えるのだろうか? チャンピオン・渉がなぜ人間の悪党に向けて、ポケモンの最大火力を直接放つことができたのか?  そしてなぜ、リーグはそれを知りながら、彼の王座を剥奪しなかったのか?  理由は一つしかない。 彼が『圧倒的に強かったから』だ。 悪の組織が街を恐怖に陥れる時、リーグの定めたクリーンなルールなど、何の意味も持たない。 相手はルール無用の暴力で襲いかかってくるのだからね?  それに対抗できるのは、『真の強者』だけだ。 渉という男は、その領域に達していた。だからこそ、リーグは彼の暴力を『正義』として認めざるを得なかったのだ。  勝てば正義、負ければ悪。 世界は最初から、その二種類の人間しかいない!」

 

 

倉田校長は、冷たい指先で私の逃げ道を塞ぐように、言葉を突き刺してきました。

 

 

「それは……! って!話をそらさないでください! それとこのスクールであの装置を使うのは全くの別の話では!?」

 

 

「いやいや、大いに関係があるよ。むしろここからが大事なところだ。 ……ところで、渉という男は、通常のカイリューでは覚えることができない『バリアー』を、カイリューに習得させることができた唯一の人物でもあった。 なぜそれが可能だったか考えてみたんだ。考えた結果、私はある一つの可能性を見出して、前任のアカデミーで採用したところ、実験は成功した!」

 

 

彼の言葉が、さらに深い闇の深淵へと私を引きずり込んでいくような感覚に囚われました。ゴクリ、と唾を飲み込み、私は掠れた声で問いかけました。

 

 

「何をしたんですか……?」

 

 

倉田校長は、まるでチェスのチェックメイトを確信したかのように、今日一番の、深く冷酷な笑みを浮かべました。

 

 

「ポケモンに、ある機械を付けただけだ…!」

 

 

その静かな言葉は、校長室の冷たい空気の中に、重く、悍ましく響き渡りました。

 

倉田校長は、革張りのソファから静かに立ち上がると、自らの巨大なマホガニー製のデスクへと歩みを進めました。

 

その背中に向けて、私は座ったまま固まることしかできませんでした。

 

背筋を這い上がってくる不気味な悪寒が、私の呼吸を浅く、冷たくしていきます。

 

冷徹な足音がデスクの裏で止まり、鍵を開ける小さな金属音が室内に響きました。

 

 

デスクの引き出しから、彼が取り出したのは、鈍い銀色に光る、手のひらサイズの奇妙な金属製のデバイスでした。それはまるで、ポケモンの首輪のようでした。

 

 

それを強引に装着できるような形状をしており、中央には不気味に明滅する赤黒い電子頭脳のコアが埋め込まれていました。鈍い銀色のフレームには、皮膚に食い込むような無骨な突起が内側に向けて並んでおり、中央のコアは、まるで生き物の心臓が脈打つように、邪悪な光を放っています。

 

 

「簡単に言えば、あの装置と同じ機能のものだがね…」

 

 

その静かな一言に、私の心臓がドクンと激しく脈打ちました。

 

まさか……!

 

あの『感覚同期型・通電フィールド』のシステムを、フィールドという空間ではなく、ポケモンそのものの肉体に直接取り付けるということですか……!?

 

 

「この装置を装着したポケモンは、敵から攻撃のダメージを受けたその瞬間、その苦痛が二倍のダメージとなってフィードバックされる。 すると何が起こるか?  ポケモンは生き残るため、野生の本能を思い出し、限界を超えて爆発させ、通常の数倍の出力を乗せた技を相手へ撃ち返すことができる!  これこそが、私が開発した『強制限界突破システム』。渉が、命がけの戦場の中でカイリューと死線を潜り抜け、奇跡的にリミッターを外して、バリアーを習得させたプロセスを、科学の力で効率的に、かつ確実に再現した最高傑作だ!」

 

 

あまりにも滑らかな口調で語られるその理論は、狂気そのものでした。

 

 

渉さんが戦場で築き上げたであろうポケモンとの絆や、死線を越えた信頼の歴史を、この男は単なる「過剰なストレスによる脳のバグと肉体のリミッター解除」としてしか捉えていないのです。

 

生物の生存本能、すなわち死への恐怖を電気的に増幅させて無理やり引き出す、それは命に対する冒涜に他なりません。

 

 

「……狂っています…!」

 

 

私の口から、絞り出すような拒絶の言葉が漏れ出ました。

 

握りしめた拳が、怒りと嫌悪感で激しく震えます。

 

 

「そんなものを付けられたら、ポケモンたちの心はどうなるのですか!? 技の威力と引き換えに、彼らはただの壊れた戦闘兵器にされてしまいます! それを、あなたが誇る実績だというのですかっ!?   立派なポケモン虐待ですよっ!!」

 

 

私の叫びに校長は顔色一つ変えず、むしろその私の激昂すらも愛おしいおもちゃを眺めるかのような、薄気味悪い笑みを深めるだけでした。彼の眼鏡の奥の瞳には、私の怒りが「未熟な子供の感情論」としてしか映っていないようでした。

 

 

「虐待、か。実につまらない言葉を使う。 これは『進化への投資』だよ、優木さん。 現に私が、前任のアカデミーでこの首輪を試作し、選ばれたエリートたちのポケモンに装着させた結果、彼らの勝率は跳ね上がり、リーグの歴史を塗り替えるだけの実績を残した。 傷つき、怯え、限界を迎えた魂だけが、真の力を解放する。 私はその扉を、科学という鍵で開けてやったに過ぎない」

 

 

彼はデバイスを愛おしそうに指先でなぞりながら、ゆっくりとデスクに腰掛けました。

 

その仕草は、まるで数々の栄光をもたらした宝物を愛でるかのようで、余計に私の吐き気を催させました。

 

 

「もちろん、科学に犠牲はつきものだ。 前任のスクールでも、このスクールでも何匹かに試してみたが、脱落するものも少なくない。 だが、大抵は甘やかしてるトレーナーが途中でリタイアさせてるだけなんだがね。 根性なしのポケモンばかりで近頃は困る。 心が壊れた? 技が出せなくなった? それは元々の素質がその程度だったという証明にすぎない」

 

 

屁理屈です……!!

 

 

どこまでも自分を正当化し、壊れていったポケモンやトレーナーの心を「素材の不良」として切り捨てる冷酷さ。

 

前任校での実績という揺るぎない事実があるからこそ、この男の歪んだ自信は強固な城壁のように完成されてしまっている。

 

 

「そして、キミがさっきから気にしてるあの通電フィールドについて。 『そもそもなぜあんな違法な装置がこのスクールにあって、まかり通ってるのか?』でしたっけ? 優秀なキミなら、答えはもうわかったのでは?」

 

 

血の気が一気に引いていくのが分かりました。脳内で、バラバラだったパズルのピースが、最悪の形となって噛み合わさっていきます。

 

屋外にあるあの『感覚同期型・通電フィールド』は、単に生徒を精神論でしごくための拷問器具などではなかった。この首輪型の『強制限界突破システム』を、今度は「トレーナー側」へと適応させるための、大規模な実験場だったのです。

 

ポケモンに首輪をはめるだけでは、片輪でしかない。トレーナー自身にも同じ苦痛、あるいはそれを超えるフィードバックを与えることで、命令を出す側の脳にも強烈なリミッター解除を促す。その二つが揃って初めて、この男の目指す「絶対的勝利のシステム」が完成する。

 

 

「ポケモンだけではなく、人間にも……?」

 

「ご名答。 逆に、何でポケモンだけそんな過酷なことさせるんですか? 何でのうのうと後ろに立って指示してるだけなんですか?  それこそ不平等だと思いませんか?  ポケモンの痛みがわかってこそ、トレーナーも本当の意味でパートナーになれますよ!?」

 

 

倉田校長は両手を広げ、狂った宣教師のような歪んだ陶酔の表情を浮かべました。

 

 

「ポケモンの受けた傷を、トレーナーの肉体にも100%同期させる。 そうすれば、トレーナーは一回の指示のミスが己の命に関わることを骨の髄まで理解する。戦場における渉のような野生の勘、命がけの采配を、誰もが再現できるようになるのだよ? あの通電フィールドは、そのためのデータ収集用プロトタイプだ。  そして桜坂しずくさんは、その痛みにどこまで耐えられるか、実戦の負荷に人間の脳がどう反応するかを測るための、実に素晴らしいサンプルだったわけだ。 それをキミは、器物損壊という野蛮な手段で台無しにしてくれた」

 

 

その瞬間、私の頭の中で何かが完全に弾け飛ぶ音がしました。

 

しずくさんを…!

 

あの優しくて、誰よりも必死に努力していた私のしずくさんを…、この男は「データ収集のサンプル」と呼んだのです…!

 

この人は、教育者などではない!

 

勝つためなら子供の肉体も心も実験材料としてすり潰す、科学の皮を被った化物です!!

 

 

 

……絶対に、許さない…。

 

 

 

「キミは彼女の盾のつもりだろうが、その盾がある限り、彼女は一生、自分の足でバトルフィールドに立つことはできない。 キミのその正義感は、守るべき弱者を一生無力なまま飼い殺しにする、最低の毒ではないかね?」

 

 

頭が、割れるように痛かった。

 

彼の言っている論理が、このトレーナー至上主義の世界における「勝つための究極の正論」であるという歪んだ事実に、私の知性が気づいてしまう。それが何よりも悔しく、悍ましかった。

 

激しい嫌悪感と憤怒で、奥歯がギチギチと鳴る。

 

ですが、私は、彼に向かって叫び返したい言葉を、必死に喉の奥で堪えました。

 

ここで感情を爆発させて、取り乱すことこそ、この男の思うツボです。

 

冷静さを欠いた子供の癇癪として処理され、私の言葉の価値を自ら貶めるだけになってしまう。

 

私は、ベルトにあるイワンコとピチューの入った2つのボールを、服の上からそっと握りしめました。

 

……間違っています。この男も、このスクールも、絶対に間違ってます……!

 

 

「私は、しずくさんの笑顔を守りたいだけです…! 彼女のポケモンに対する愛は本物です。バトルの勝敗だけがポケモンとの絆とは到底思えません」

 

 

どれだけ実績があろうとも、どれだけ冷酷な正論で武装していようとも、ポケモンをボロ雑巾のように扱い、トレーナーの心を踏みにじるこのシステムを、私は絶対に「正義」とは認めない。

 

 

「では逆に伺いますが、優木せつ菜さん。キミは一体、何を守ろうとしているんですか? 弱者に肩入れし、学校の秩序を乱すことは、我々の掲げる『正義』ではない。 キミもこの話を聞いて、理解してくれたはずだ。強さこそが正義であり、勝者が秩序を作るのだということを」

 

「違います」

 

 

私は一歩も引かず、校長の瞳を正面から見据えました。

 

 

「しずくさんは弱いんじゃありません。彼女は、相手を傷つけることを拒む、誰よりも優しい心を持っているだけです」

 

「ですから、そうやって甘やかして育てられたポケモンは、いつまで経っても強くなれないんですよ」

 

 

倉田校長はため息交じりに首を振り、哀れみの視線を私に向けてきました。

 

 

「優しさという己の怠惰を誤魔化し、戦う責任を放棄する。そんな生温い関係のどこに絆があるというのかね? 本当のトレーナーとポケモンの絆とは、互いの命を限界まで擦り減らし、その果てに掴み取る勝利の瞬間にしか宿らない。 キミのしていることはね、優木さん。彼女に『私は今のままでいいんだ』という致命的な錯覚を与え、成長の機会を永遠に奪う、残酷な去勢行為なんだよ」

 

「……っ」

 

 

言葉のナイフが、容赦なく私の胸の隙間に突き刺さる。

 

違う。

 

そんなことはない。

 

私はただ、しずくさんを守りたかっただけ。彼女が理不尽に傷つき、涙を流す姿を見たくなかっただけ。

 

だけど――。

 

 

「現に、彼女の順位は最下位のままだ。 キミという盾の後ろで、彼女はただ震えているだけだ。 キミがもし別の街へポケモントレーナーの旅に出た後、その盾を失った彼女はどうなる? キミがいない戦場で、誰が彼女を庇ってくれるのかね? その時、彼女を待っているのは、今以上の無慈悲な現実だよ。 キミの正義は、その先の未来まで責任を持てるのか?」

 

「それは……」

 

 

喉が詰まり、言葉が立ち消えました。

 

大嫌いなはずの男の言葉が、私の心の最も脆い部分を的確に射抜いていく。

 

前世のような平和な世界ではない。

 

ここは、10歳になれば子供でも一人前のトレーナーとして荒野に放り出される、弱肉強食の世界なのです。

 

私がいつまでも彼女の隣にいて、すべての敵を排除し続けられるわけではない。

 

その歪んだ正論の重みに、私の知性が、中川菜々としての経験が、一瞬だけ恐怖で立ちすくんでしまいました。

 

 

「理解できたようだね、優木さん。キミは賢い。 賢いからこそ、自分のしている善行の欺瞞に気づいてしまう。……だが、絶望する必要はない。キミは選ばれた存在なのだから」

 

 

倉田校長はソファから身を乗り出し、悪魔が契約を迫るような、甘く、魅惑的なトーンで語りかけてきました。

 

 

「キミのその並外れた才能と、手持ちのイワンコとピチューのポテンシャルがあれば、私の開発した『強制限界突破システム』の完全適合者になれる。 キミがその首輪を手に取り、自ら率先して強さの頂点へと駆け上がる背中を見せるのだ。 それこそが、最下位の桜坂しずくさんを最も正しい形で導く『光』となる。 憧れの対象となり、彼女の指標となること。それこそが、真の教育であり、キミが果たすべき正義だと思わないかね?」

 

 

彼の細い指先が、デスクの上の銀色のデバイスを静かに押し出し、私の方へと滑らせてきました。

 

カツリ、と軽い音が部屋に響きます。

 

 

これを手に取れば、私はこのスクールにおける、絶対的な支配者の代弁者となり、これ以上の処罰も、糾弾も受けることはないでしょう。

 

誠一さんと七海さんに迷惑をかけることもなく、すべての理不尽から免除される特権階級の切符。

 

デバイスの中央で、赤黒いコアが、まるで私の心の迷いを嘲笑うように、不気味に、妖しく明滅しています。

 

私は、その鈍く光る首輪をじっと見つめました。

 

 

 

私がしずくさんを守ってきたことは、本当に彼女を追い詰める「毒」だったのでしょうか?

 

私のしてきたことは、ただの自己満足だったのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――いいえ。

 

 

 

 

 

 

 

脳裏に、電撃に焼かれながらも、煤にまみれながらも、最後までヨーテリーを必死に守ろうとしていたしずくさんの姿が鮮烈に蘇りました。

 

彼女は、自分がどれだけ傷つこうとも、大切なパートナーを盾にすることだけはしなかった。

 

あの地獄のような通電フィールドの中でも、彼女の心は、決して狂気のシステムに屈していなかった。

 

 

 

 

強くなるために、イワンコとピチューの心を壊す?

 

 

強くなるために、相手トレーナーの肉体を焼き切る?

 

 

 

ましてや、その相手がしずくさんだったら……!

 

そんな痛みの鎖で繋がれた関係を、絆などと呼んでたまるものですかっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お断り、します」

 

 

私は静かに、しかし鋼のような確信を込めて、目の前のデバイスを突き返しました。

 

 

「何と言われようと、私の答えは変わりません。  あなたの言う『強さ』の先に、しずくさんの笑顔はありません。  そして、ポケモンたちを道具のように扱い、傷つけることでしか得られない勝利など、私には、1ミリの価値もありません!」

 

 

立ち上がり、校長を真っ直ぐに見下ろします。

 

私のベルトのボールが、今度は私を鼓舞するように、カチリと力強い音を立てました。

 

 

「私は…!   私の正義のやり方で、しずくさんと一緒に強くなります!  あなたのシステムがなくても、ポケモンたちと心から信頼し合い、手を取り合って、あなたの掲げるその歪んだ正義を、正面から打ち破ってみせます!  それが、私の選ぶ道です!」

 

 

私の宣言を聞いた倉田校長は、首輪を静かに手元に戻すと、三日月のような笑みを完全に消し去り、底の知れない冷徹な瞳で私を凝視しました。

 

 

「……そうかい…。 実に残念だよ、優木せつ菜さん。 キミなら、私の最高の理解者になれると思ったのだがね~。 実に面白い異端児だ。   ならば、そのキミの眩しい純粋な正義がどこまで続くか、見させてもらおうかな…?」

 

 

倉田校長は椅子の背もたれに体を預け、再び無関心な学者の顔に戻って冷淡に告げました。

 

 

「今回の器物破損については、キミの日頃の成績に免じて不問とする。 謹慎も反省文も必要ない」

 

 

あまりにも拍子抜けな、そして不自然な寛大な処置。

 

先ほどまで教師たちが狂ったように私を犯罪者扱いし、全額弁償と謹慎を迫っていたというのに、この男の一言ですべてが霧のように消し飛んでしまうのですか?

 

私は安堵するどころか、胃の腑にじっとりと重い鉛を流し込まれたような、底知れない不気味さを感じました。

 

 

「何が目的ですか?」

 

 

私は警戒の眼差しを崩さず、その意図を問いただしました。

 

倉田校長は、ふたたび口元だけに薄い笑みを浮かべ、眼鏡の位置を指先で直しながら言いました。

 

 

「目的? 特にはないさ。  ただ…、私は観察者であり、効率的な教育者だ。 キミという最高純度の『正義の盾』が、これからどれほど磨かれ、精度を上げ、そしていつ、その独善的な欺瞞の重さに耐えかねて自壊するのか……その過程に、非常に興味があるだけだよ。キミが桜坂しずくさんを甘やかし、守り続けるというのなら、それもよし。 このスクールは、彼女にこれからも相応の試練を与え続けるだろう。そしてキミが、そのすべての暴力から、彼女を庇いきれるか、それとも途中で見捨てるか、じっくりと試させてもらうとしよう」

 

 

それは、明確な脅迫でした。

 

私に対する処罰を無くす代わりに、これからも、より陰湿で、より過酷なシステムの牙を、私ではなくしずくさんに向けて振り下ろし続けるという、最悪の宣告。

 

私が盾を諦めるか、それともしずくさんの心が先に壊れるか、その残酷な耐久実験を始めると、この悪魔は微笑んでいるのです。

 

 

 

「望むところです。私の正義が、あなたたちの間違いを必ず証明してみせます。 私は、しずくさんの本当の強さを知ってますから!」

 

 

 

私はそう言い残すと、校長室の重い扉を乱暴に開け放ち、振り返ることなく外へと飛び出しました。

 

私の戦いは、始まったばかりでした。この腐りきったスクールの頂点に君臨する化物に、私は真っ向から宣戦布告をしてしまった。ですが、後悔などしている暇はありません。

 

一刻も早く、しずくさんの元へ。今、この瞬間も、傷つき震えているであろう私の唯一無二の親友の元へと、私は廊下を全力で走り出しました。




ワタル、言われたい放題w






今日はここまで。
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