中川菜々から優木せつ菜 〜ポケモンの世界であなたと紡ぐ奇跡〜   作:あいライス

53 / 60
書いてる途中ずっと、まどマギの「Sis puella magica!」。

いわゆる「キュゥべえの営業のテーマ」が流れてたのは、ここだけの話ww


53章「冷酷な信念」

翌日、全校生徒が集められた体育館で開催された全校集会。

 

壇上には倉田校長と、新しく選出された生徒会長の姿がありました。

 

当然の結果、来年度の生徒会長は、沢泉さんが当選されました。

 

 

 

 

「――よって、新生徒会長として5年B組、沢泉ちゆを任命する」

 

 

 

倉田校長から任命状を受け取り、胸に新しく輝く、生徒会の証となる金色のバッジをつけられた彼女は、隙のない完璧なお辞儀をして、拍手と歓声の渦へと静かに降りていきました。

 

教師や一部の取り巻きたちが送る盛大な拍手の中で、沢泉さんは一切の表情を崩さず、まるで最初から決まっていた筋書きを淡々とこなす演者のように凛として佇んでいました。

 

冷たく光るバッジが、これからスクールに訪れる波乱を予感させているようで、私としずくさんは、ただ息を潜めてその光景を見つめることしかできませんでした。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

夕方、スクールからの帰り道。

 

夕暮れの空の下、私としずくさん、そして足元を歩くイワンコと、抱っこされたヨーテリーは、重苦しい静寂を抱えたまま家路を歩いていました。

 

冷たい冬風が吹き抜けるたび、私の胸の奥にある良心が、じくじくと疼くような痛みを主張してきます。

 

 

 

 

 

 

あんな公約を掲げた彼女に、私は投票してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

沈黙を破ったのは、隣を歩くしずくさんでした。

 

 

 

 

「これで、よかったのかもしれないよ……?」

 

「……はい?」

 

 

私は足を緩め、思わずしずくさんの横顔を見つめ返しました。

 

 

「だって…沢泉先輩、校長先生を騙そうとしてるんだよね…?  校長先生を倒すために、生徒会で証拠を探そうとしてる…。 だからあの公約もきっと、生徒会長になるための嘘で……!」

 

「……そう、だと思いますが……」

 

 

私は言葉を濁すしかありませんでした。

 

 

確かにあの時、彼女が口にした目的は、倉田校長を失脚させ、悪魔のシステムを撤廃させることでした。

 

そのために、生徒会長の権限が不可欠であり、全校生徒の圧倒的な支持を得るために、「限界突破システムの全校配布」という毒を撒いて見せた……。

 

 

そう思いたいです。

 

 

 

 

ですが、胸を押し潰すような不吉な予感が、私の頭から離れてくれません。

 

 

あの計算し尽くされた冷徹な瞳。

 

単なる狂言で終わるはずがないという直感が湧いてきて仕方ありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

その時でした。

 

 

 

スクールから自宅へ向かう途中にある公園の入口から、すっと沢泉さんが姿を現しました。

 

抱っこされてる、彼女のパートナーポケモンであるポッチャマのペギタンくんが、主と同じような眼差しで、こちらを見てきます。

 

 

 

 

「待っていたわ。2人とも」

 

 

 

 

静かで澄み渡った声が、夕暮れの公園に低く響きます。

 

 

 

私としずくさんは足を止めました。

 

イワンコが警戒して身を低くし、ヨーテリーも息を呑んでるのが分かります。

 

 

 

私はイワンコを制するように一歩前に踏み出し、冷ややかな視線を彼女へ向けました。

 

 

 

 

「勝利の報告でもしに来たんですか?」

 

 

 

私の問いかけに、沢泉さんは眉一つ動かさず、笑みを浮かべました。

 

 

 

「そんな無駄なことをすると思うかしら?  私はただ、あなたたちに、最後の確認をしに来ただけよ。 本当に、私と一緒に戦わないの?」

 

 

 

 

 

彼女の瞳には、一切の迷いも揺らぎも存在していませんでした。

 

自分が掴み取った圧倒的な勝利を当然のものとして受け止め、その先にある冷酷な目的に向かって突き進もうとしています。

 

 

そのあまりにも冷ややかな態度に、私の胸の中で押し殺していた疑惑と不信感が、一気に爆発しました。

 

 

 

 

「どういうつもりですか?  本当に全校生徒に、あの首輪を配るんですか?」

 

 

私の問いに対し、沢泉さんは迷う素振りすら見せず、当然のことのように頷いてみせました。

 

 

「えぇ、もちろん。すぐにでも倉田から管理を引き継いで、配給できるようにするわ」

 

 

「――っ!?」

 

隣でしずくさんが息を飲んで絶句しました。あまりにも平然と言ってのけたその言葉に、背筋が凍りつきます。

 

 

 

「初日のあの演説は、ただ生徒たちの票を集めるためだけの、口先だけのパフォーマンスだと思っていました!」

 

 

私の声が、暗がりを増す夕暮れの公園に虚しく響き渡りました。激しい怒りに胸が上下し、抑えきれない感情の高ぶりが全身を小さく震わせます。

 

 

ですが、目の前に立つ沢泉さんは、私の追及を前にしても眉一つ動かさず、どこまでも澄み切った冷徹な瞳で私を見つめ返してくるだけでした。

 

 

「……」

 

無言を貫く彼女の態度が、私の胸の中の炎にさらに油を注ぎます。

 

 

「あれがどれほど危険な物か! あれを使われたポケモンたちが、どんな恐ろしい目に遭うのか! あなたが一番分かってるはずでしょ!?」

 

 

「えぇ。わかってるわよ」

 

 

 

あまりにも呆気なく、そして平然と答える沢泉さん。

 

 

分かっていて、理解していて、それでもなお実行に移そうとしている。

 

 

その狂気に、冷や汗が背中を伝っていきます。

 

 

 

 

「シュシュタンくんがどうして命を落としたのか! くれあさんがどれほど苦しんでいるのか! 私たちに説明してきたじゃありませんか! 去年は、ご自分の大切な親友さんにも使われたと!  なのに、それを理解していながら、全校生徒にあの首輪を配るなんて…!  やっておられることは、倉田校長と、何一つ変わらないじゃないですか!!」

 

 

 

パティスリーチュチュで聞いた、くれあさんの凄惨な過去の告白。

 

大切な者を失い、傷つけられた痛みを誰よりも知っているはずの人物が、なぜ同じ悲劇を全校規模で引き起こそうとしているのか。

 

私の中に渦巻く悔しさと怒りを全てぶつけるように叫んだ私に対し、沢泉さんは小さく息を吐くと、呆れたように首を横に振りました。

 

 

「何一つ変わらない、ですって? ……いいえ、全く違うわ、優木せつ菜。 倉田は自分の欲望とスクールの支配のためにシステムを使っている。 けれど私は、この腐り切ったスクールを根底から解体し、真の『正義』を取り戻すために使っているのよ」

 

 

「それがどれだけの犠牲を生むのか、分かっているのかと言ってるんです!! 何も知らない生徒たちも、ポケモンたちも、あなたの『正義』のための使い捨ての道具ではないはずです!」

 

 

私の必死の訴えに対しても、彼女の表情は微塵も揺らぎません。それどころか、彼女はまるで聞き分けのない子供に諭すかのような、哀れみすら含んだ静かな声で言葉を続けました。

 

 

 

「いいこと教えてあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

癌が見つかった体を救うには、一度、正常な細胞まで殺す、抗ガン剤を使わなければならないの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいぃ…?」

 

 

 

 

突拍子もない例え話に、私の頭が一瞬真っ白になりました。

 

抗がん剤……?

 

一体彼女は何を言っているのでしょうか?

 

 

 

 

 

「あの場所はもはや、癌を患ったトレーナーズスクール。 倉田校長という病原菌を取り除くだけでは意味がないのよ。

 

 

ポケモンバトルの実力はあって、自分の力で成績上位を取っていたとしても、倉田の教えに染まり、弱い者いじめが、だ~い好きな生徒!

 

その逆に、いじめられていた生徒は、私が公約を出した瞬間、努力もせず、手軽な強さだけ欲しがって群がってきた!

 

 

 

彼らもまた、スクールの病原菌の一部!」

 

 

 

 

 

沢泉さんは冷たい瞳で空を見上げ、淡々と自身の論理を展開していきます。

 

 

 

 

「そして優木せつ菜、桜坂しずく。あなたたちや、二階堂ちゃんのように何も抗えず、ただ怯えて波に流されるだけの生徒は、巻き込まれる正常な細胞って言ったところかしら?」

 

 

 

 

「ポケモンたちの命を、スクールを潰すための燃料にするつもりですか……!?」

 

 

 

 

震える声で問う私に、沢泉さんはふっと眉をひそめました。

 

 

 

「勘違いしないで。私がそんな極悪非道に見える? それこそ倉田と一緒にじゃないの」

 

 

「はっきり言ってください! 矛盾してます! ややこしいです!!」

 

 

 

我慢の限界を迎えた私が怒りを露わに叫ぶと、沢泉さんはため息を混じえながら、近づいてきて、私たちの周りを歩き始めました。

 

 

「矛盾なんてしていないわ。 全校生徒に私が配るのは、スクールが合法的に使ってるただの首輪のデバイス。 そして、それを使うには、生徒会に許可の申請書を、提出させることにするから」

 

 

「申請書…?」

 

 

 

隣でしずくさんが呆然と声を漏らしました。

 

 

 

「そうよ。いつ、どこで、誰が何の目的で使用するか。それこそが私がしようとしている『管理』。 誰がデバイスを悪用しようとしているか、裏の証拠が集めやすいでしょう?」

 

 

 

沢泉さんは、全てを掌の上で転がしているかのように不敵に微笑みました。

 

その絶対的な自信は、こちらの思考を麻痺させるほどの威圧感を放っています。

 

 

 

 

「使うかどうかを選ぶのは、生徒一人一人。 自分の意思で、自由に決めることができるし、その前に申請書を出すかどうかの葛藤もできる。 時間もあるわ。

 

 

 

でも…、申請書出してしまったら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

一歩、彼女がカツンと靴音を響かせ、落ち葉を踏みしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それこそが、その生徒の人間性よっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

 

 

 

 

私の息が詰まりました。

彼女の言おうとしている罠の全貌が、鮮明に脳裏に浮かび上がってきたからです。

 

 

 

「楽をして強さを手に入れようと、ポケモンの命を削ってまで、デバイスを起動させるような愚か者は、それまでのトレーナーだったということ。  そうでしょ!?  そんな奴こそが、浜野のように、ポケモントレーナーを名乗る資格なんてないじゃない!! 自らの欲望に負けて、パートナーを傷つけた罰を、その手で受けることになるだけの話!」

 

 

 

 

 

沢泉さんは試しているのです。

 

 

彼女はあまいみつを撒き散らし、それに飛びつく愚か者を自滅させ、ふるい落とそうとしている。

 

 

 

 

 

「安心して。 逆に、どれほど追い詰められても踏みとどまり、デバイスを使わない尊厳を持った生徒は、私の創る新しいスクールに残る資格がある。 あなたたちは使わないって信じてるし、大丈夫よ♪」

 

 

最後に見せたその可愛らしくすらある微笑みに、私の背筋に猛烈な寒気が走りました。

 

 

そのシステムが起動すれば、一番の犠牲になるのは欲望に狂った人間ではなく、その人間に付き従うしかない何も罪のないパートナーポケモンたちなのです!

 

それを「自業自得」「人間性の問題」と吐き捨てる彼女の「正義」に、私の全身の血が激しく逆流しました。

 

 

 

 

「私は、絶対に認めませんよ! もしあなたが、その計画で、ポケモンたちを傷つけようとするのなら…、生徒会長となったあなたとも、真っ向から戦います!」

 

 

イワンコが私の決意に呼応し、低く唸り声を上げながら前へと足を踏み出しました。

 

しずくさんも涙の浮かぶ瞳で唇を強く噛み締め、抱え込んだヨーテリーを一層強く抱きしめています。

 

 

「……そう。残念だわ」

 

 

沢泉さんは短く呟くと、優雅な動作で背を向けて歩き出しました。

 

その足取りには一切の迷いがなく、新生徒会長としての冷徹な覇気が漂っています。

 

数歩歩いたあと、彼女は振り向き、私たちに言い放ちました

 

 

「なら、せいぜい、その正義感で、私を止められると思っているなら、いつでもいらっしゃい。 その時はあなたたちも、あのスクールの病原菌と一緒に、綺麗に消し去ってあげるだけだから」

 

 

 

 

彼女の後ろ姿を、私としずくさんは息を呑んで見送り続けることしかできませんでした。

 

スクールを覆う狂気は、倉田校長だけでなく、新生徒会長・沢泉ちゆという新たな脅威によって、さらに深く、容赦のない領域へと加速し始めています。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。