中川菜々から優木せつ菜へ 〜ポケモンの世界であなたと紡ぐ奇跡〜   作:あいライス

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4歳編スタート。


6章「初めての友達」

また1年が経ち、私は4歳になりました。

 

中身が高校2年生のまま4年間を過ごすというのは、想像以上に忍耐を要するものです。

身体の成長と精神が広がるばかりで、特にその歪みが表れるのが、このニジガサキポケモン幼稚園での生活でした。

 

相変わらず、私は周囲の子供たちとうまく溶け込めずにいました。

いえ…、正確に言うならば、周りの純粋な子供たちが、せつ菜という異質な存在をどう扱っていいのか測りかねている、という表現が正しいでしょう。

 

無理もありません。

 

こちらの精神年齢は、受験や生徒会活動に奔走していた高校2年生なのです。

 

せめて私は、年上のお姉さんとして優しく接しようと努力してみましたが、3~4歳の子供からすれば、その物腰や言葉選びは、優しさよりも先に、違和感として映ってしまいます。

 

結果として、変な子というレッテルを貼られ、私は教室の隅で一人、家から持ってきたポケモン図鑑を開く時間が増えました。

 

このポケモン図鑑…。家では覚えられますか!なんて思っていましたが、慣れてしまえば案外、知識として定着するものですね。

 

去年の自分に教えてあげたいものです。

あんなに膨大だと思っていた1,000種類以上のポケモンの名前も特徴も、1年と数ヶ月の猛勉強の末、今では完全に覚えられました。

前世から成績だけは良かったのが、こんな形で功を奏するとは皮肉なものです。

 

ですが、知識で頭を満たしても、心の隙間を埋めることはできません。

ふとした瞬間に、あの温かなお台場の潮風や、玄関の前で待っていてくれた歩夢さんの笑顔を思い出してしまいます。

 

歩夢さん……。

私がいなくなって、あなたは今、笑えていますか?

 

私は寂しさを誤魔化すように園庭へ向かいました。

 

幼稚園での私の当番は、園庭で飼育されている、シキジカのお世話でした。

季節の訪れを告げるポケモン。頭の黄色い花のようなものを乗せ、つぶらな瞳が愛らしい、くさ・ノーマルタイプのポケモンです。

 

「気持ちいいですか? シキジカさん」

 

専用のブラシを使い、毛並みに沿って優しく整えてあげます。

今の私にとって、このシキジカさんだけが、唯一本音をこぼせる相手になっていました。

 

「やはり友達がいないというのは、寂しいものですね…。 歩夢さん、元気にしてるでしょうか…」

 

シキジカは「キュイ?」と首を傾げて私を見つめています。

 

「歩夢さんは、優しくて、温かくて、でもどこか引っ込み思案なところもあって…、本当に素敵な親友だったんですよ」

 

あぁ、ダメですね。独り言が止まらなくなっています。

ブラッシングの心地よさに目を細めるシキジカの背中を見つめながら、私は遠い世界の記憶に浸っていました。

 

その時でした。

 

「ね……ねぇ……せ、せつ菜ちゃん……」

 

後ろから、震えるような小さな声が聞こえてきました。

 

「せつ菜ちゃん」と呼ばれることには、まだどこか自分ではない誰かを呼ばれているような、しっくりこない感覚があります。けれど、無視をするわけにはいきませんね。

 

振り向くと、そこには一人の女の子が立っていました。

最近、ご両親の仕事の都合で、この園に転入してきたばかりの、桜坂しずくさんです。

 

「しずくさん? どうしましたか?」

 

「あの……その……、私も一緒に…シキジカさんのブラッシング…、してもいい……?」

 

彼女は不安そうに、けれど真剣な眼差しで私の顔を窺っていました。

 

「ええ、もちろんですよ。はい、こちらのブラシを使ってください」

 

「ありがとう……!」

 

隣に並んで、二人でシキジカを撫でる。

言葉はありませんでしたが、シキジカが「キュウ~」と満足げに鳴くたびに、しずくさんの表情が少しずつ和らいでいくのが分かりました。

 

「シキジカさんって、不思議で、面白いですね」

 

「え?」

 

私の唐突な言葉に、しずくさんが目を瞬かせました。

 

つい、図鑑で得たばかりの知識を披露したくなりました。

 

「シキジカさんは、季節によって体の色が変化するんですよ」

 

「そうなの?」

 

「はい。春はピンク、夏は緑、秋はオレンジ、そして冬になるとグレー。そんなふうに、姿を変えて季節を教えてくれるんです。今の姿も素敵ですが、他の季節も楽しみですね」

 

淡々と、教師か何かのように説明する私。

 

……あぁ、またやってしまいました。これではまた変な子だと思われてしまいます…。

 

けれど、しずくさんの反応は、これまでの子供たちとは違っていました。

 

「そうなの…? 知らなかった…。せつ菜ちゃんは、物知りなんだね」

 

「知らなかったですか?」

 

「うん、私、まだポケモンのこと、よくわからないから。 教えてくれて、嬉しい…!」

 

少しだけ頬を赤らめて俯くその仕草。

控えめで、でも一生懸命に言葉を紡ごうとするその姿が、私の記憶の中にある幼い頃の歩夢さんに、重なって見えました。

 

この子、歩夢さんと少し似ていますね…。

 

私の心に温かな明かりが灯ったような気がしました。

 

「もしよかったら、ポケモンについて私がいろいろ教えますよ。図鑑には載っていないようなことも、一緒にこれから調べてみませんか?」

 

「えっ? ホントに…?」

 

「はい! 私も、もっとポケモンについて詳しくなりたいと思っていたところなんです。ぜひ一緒に」

 

私が少しだけ声を弾ませて答えると、しずくさんの瞳がパッと輝きました。

 

「っ! ありがとう! せつ菜ちゃん!」

 

太陽のような眩しい笑顔。

この世界に転生して四年。初めて誰かと心が通い合った瞬間でした。

 

 

歩夢さん。

私、この世界で初めて、お友達ができたみたいです。

 

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