中川菜々から優木せつ菜 〜ポケモンの世界であなたと紡ぐ奇跡〜   作:あいライス

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60章「火を見るよりも明らか」

火を見るよりも明らかですね。

 

 

 

私たち4年D組も、さすがに全員ではありませんが、クラスのバトル成績中位層を中心に、申請書を出した生徒たちが、こぞってデバイスを受け取ったようです。

 

 

校外への持ち込みは固く禁止されているようですが、彼らはまるで、新しいおもちゃを手に入れたかのように目を輝かせ、意気揚々と放課後、スクールのバトルフィールドを借りて、自主練習をしてから帰るようになりました。

 

 

 

すべては来週行われる、今年度最後の成績がつく実技授業で、その圧倒的な成果を発揮するため。

 

欲望に目をくらませた者たちの顔つきは、見るに耐えないほど、浅ましく歪んでいました。

 

 

どれほど恐ろしいことが、待っているかも知らずに…。

 

 

 

私は一応、さっき、しずくさんへ宣言した通り、ダメ元で、帰りの会が始まる前の時間を利用し、教壇に立って、クラスメイトたちへ、デバイスを使うのをやめるように諭しました。

 

 

 

「皆さん、お願いです!聞いてください! そのデバイスは、ポケモンに恐ろしい負荷をかける代物です。 使う前に、もう一度よく考えてください! あの時の私と浜野先生のバンギラスのバトルを見た皆さんなら、あの異様な暴走の危険性が分かりますよね!? デバイスを使うのは、やめてください!」

 

 

 

しかし、クラス最下位のしずくさんを庇い続ける成績1位の異端児である私が、教壇で何を叫ぼうと、誰一人として聞く耳を持ちません。

 

 

鼻で笑う者、面倒そうに視線を逸らす者、露骨にチッと舌打ちをする者。

 

 

全員が私の必死の言葉を無視し、自分たちの夢見る手軽な強さへと突進しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり、火を見るよりも明らかです。

 

 

 

 

 

 

 

私の話など、クラスメイトは、誰も聞いてはくれませんでしたね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

えっ?

 

 

 

「火を見るよりも明らかって、そっちかい!」ですって?

 

 

 

 

 

 

 

逆に聞きますが、それ以外に何があるんですか?

 

 

 

 

 

 

私の言葉が、彼らに届くはずもないことなんて、最初から分かりきっていたことです。

 

 

 

悲しいですが、これが今のスクールに蔓延する冷酷な現実なのですから。

 

 

 

 

はい?

 

「それで、どうなったのか?」ですか?

 

 

 

わざわざ言うまでもありませんよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

言いますけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、教室に入った私としずくさんが目にしたのは、ぽっかりと穴が空いたような異様な光景でした。

 

 

申請書を出して、デバイスを受け取った生徒たちは全員、欠席です。

 

 

もちろん、私たちのクラスだけではありません。

 

他の学年、全クラスの何人かが。

 

 

昨日、生徒会室の前で、沢泉さんのところへデバイスを受け取りに来ていたあの長蛇の列の生徒たちが、申し合わせたように、ゴソッと学校を休んでいるのです。

 

 

 

急な体調不良、ポケモンの急病……。

 

 

学校側に提出された理由は様々でしょう。

 

 

けれど、その本当の原因が何であるか、私としずくには痛いほど分かっていました。

 

 

昨日の放課後、自主練習と称して無茶な強制限界突破システムを稼働させ、ポケモンの肉体に過酷な負荷をかけた反動が、即座に押し寄せてきたのです。

 

 

 

悲劇はもうすぐそこまで。

 

 

 

 

 

 

 

いいえ、すでに始まっているんです。

 

 

 

 

 

 

 

朝のホームルームが終わった後も、静まり返った教室には、異様なまでの重苦しさが漂っていました。

 

ぽっかりと空いた無数の空席が、クラスの崩壊を告げているかのようです。

 

 

 

 

 

「せつ菜ちゃん、こんなにたくさんの人が休むなんて……」

 

 

しずくさんが、消え入りそうな声で呟きました。

 

その顔は蒼白で、目には強い恐怖と悲しみが浮かんでいました。

 

 

「えぇ…。ですが、登校してきている生徒たちも、まだ目を覚ましてはいません」

 

 

私は静かに立ち上がると、足元で心配そうに私の顔を見上げているイワンコとピチューにそっと視線を送り、しずくさんに向かって小さく頷きました。

 

 

「行きましょう、しずくさん」

 

 

 

 

もちろん、私も諦めたわけではありません。

 

 

 

今朝も登校してきた生徒たちに向けて、廊下や下駄箱の前で、何度か危険性を呼びかけました。

 

 

 

 

ですが所詮、私は4年生の異端児。

 

 

 

 

 

そして、しずくさんが呼びかけても、4年生最下位の生徒の言葉など、なおさら誰も聞きません。

 

 

それどころか、しずくさんを嘲笑い、「強さを手に入れた僕たちが羨ましいんだろ?」、「負け惜しみ乙」とか言って、バカにして通り過ぎていきます。

 

 

 

「みんな、お願い…! ポケモンたちの声を聞いて…! これ以上、あの子たちを傷つけないで…!」

 

 

しずくさんの叫びも、廊下に虚しくこだまするだけで、通り過ぎる生徒たちの冷ややかな視線に淡々と打ち消されていくだけでした。

 

 

 

彼らの瞳には、パートナーへの労わりや慈しみなど微塵もなく、ただ力という名の蜜に魅せられた狂者特有の濁った光だけが宿っていました。

 

 

モンスターボールの入ったホルダーを、自慢げに叩きながら歩くその姿は、痛々しさを通り越して、恐ろしさすら感じさせますね。

 

 

 

 

 

 

 

そして始まった、数日にかけて行なわれる、今年度最後のバトル実技授業も、日に日にその過酷さと異常さを増していきました。

 

 

広大なスクールの屋外バトルフィールド。

 

 

そこに集う生徒たちが放つ熱気は、もはや教育現場とは思えないほど歪みきっていました。

 

教師たちもお構いなし。

 

 

 

 

デバイスを使用した生徒たちのポケモンは、本来の限界を超えた禍々しいオーラをその身に纏い、瞳の焦点を失ったまま、狂気じみた攻撃力で襲いかかってきます。

 

 

 

「行けっ! スピードスターだ! 倒れるまで攻撃をやめるな!」

 

「相手を叩きのめせ! 限界突破の力を見せてやれ!」

 

 

 

フィールドのあちこちから投げかけられる怒号のような指示。

 

それに応えるポケモンたちの鳴き声は、勝利への叫びではなく、明らかに肉体の限界を超えた激痛に対する苦悶の悲鳴でした。

 

紫や黒の禍々しい電流やオーラが弾け飛び、地面を削り、激しい衝撃波が周囲を包み込みます。

 

 

 

私と一緒にこれまで、成績1位として、ともに上がってくれたイワンコとピチューも、少しずつ勝つのが、難しくなってきています。

 

 

技の精度やトレーニングで培った戦術、そしてトレーナーとの深い絆という本来のポケモンバトルの美徳は、デバイスがもたらす暴力的なパワーアップの前にもみ消され、ポケモンの肉体を削り合う荒々しいぶつかり合いへと変貌していました。

 

 

相手の脈絡のない凶暴な攻撃を受けるたび、イワンコは苦しそうに唸り声を上げ、ピチューは小さな体を震わせます。

 

 

「イワンコ! ピチュー! もう無理はしないでください! 受け止めなくていいです!」

 

 

苦しそうにしている相手のポケモンを傷つけたくないのは勿論ですが、自分の大切なパートナーを危険に晒したくもありません。

 

こんなものは、私が目指す素晴らしいポケモンバトルでは断じてないからです。これがまかり通るこのスクールは、本当にどうかしてるんです。

 

 

今に始まったことではありませんが、今回のは飛びぬけてます。

 

 

 

 

相手のポケモンの攻撃は、あまりにも単調で雑です。

 

 

 

ですが、それを上回る圧倒的な絶対量と出力の力技。受け流すことすら困難なほどの暴力の塊です。

 

 

 

「イワンコ、足元に注意して回避を最優先に! ピチュー、相手の動きを冷静に見極めて距離を取ってください!」

 

 

 

私は懸命に防御と回避の指示を出し続けました。

 

けれど、相手のポケモンもまた、デバイスから流れ込む過剰なエネルギーによって正気を失っており、こちらの隙を突くのではなく、ただひたすらに破壊行動を繰り返します。

 

 

 

その痛々しい姿を見る度、胸が締め付けられるような痛みが走りますが、同時に自分たちの身も守らなければならない。

 

 

そんな葛藤の中で、私の指示はどうしても一歩遅れ、技を打つことすら躊躇して守勢に回らざるを得なくなりました。

 

 

 

結果として、私の実技成績は、恥ずかしながら、2位。

 

 

そして、3位まで下がってしまいました。

 

 

 

 

なんて恥ずかしく思うわけないじゃないですか。

 

 

 

 

 

 

バトル成績が、1位だろうが、2位だろうが、3位だろうが、どうでもいいです。

 

 

 

このスクールの歪んだシステムの頂点に立ったところで、だから何ですか?という話です。

 

そんな名誉など、私には何の価値もありません。

 

ただ今まで普通に真面目にやってたら、たまたま1位になっていただけなのですから。

 

 

 

けれど、問題なのは、しずくさんのほうです。

 

 

しずくさんは、勝つことなんて、もっとありませんでした。

 

 

 

これまでの授業でもそうであったように、ヨーテリーを傷つけたくない一心で、無理な攻撃命令を一切出さない彼女の優しいバトルスタイルは、デバイスで暴走する相手の前ではあまりにも無力でした。

 

 

 

「ヨーテリー、逃げて! 立ち向かわなくていいから!」

 

 

 

涙目で叫ぶしずくさんの声に応え、傷だらけになりながらも健気に立ち向かおうとするヨーテリー。しかし、

 

デバイスによって狂暴化した相手ポケモンの体当たりや光線のような威力の技の前に、あっけなく吹き飛ばされ、地面を転がります。

 

 

 

連戦連敗を重ね、周囲の生徒たちからは、「やっぱり最下位だ!」「システムも使えない臆病者!」「絆ごっこで勝てるわけないだろ!」と心ない嘲笑を浴びせられる毎日。

 

 

それでもしずくさんは、泥に汚れ、傷ついたヨーテリーをギュッと抱きしめ、自分の敗北や評価よりも、荒い息を吐く相手のポケモンの無事を心から祈り続けていました。

 

 

 

「ごめんね、ヨーテリー…。私のせいで痛い思いをさせて……。でも、あの子も…。あの子の体も、すごく苦しそうだよ……」

 

 

抱きしめられたヨーテリーは、弱々しく「キャン……」と声を返し、しずくさんの頬を優しく舐めていました。

 

その二人の絆の美しさと、周囲を取り巻く醜悪な欲望のコントラストが、あまりにも残酷で、私は強く拳を握りしめ、歯を食いしばるしかありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初日にデバイスの過負荷に奇跡的に耐えたポケモンたちも、中にはいました。

 

 

 

「なんだ、大したことないじゃないか!」

 

「少しぐったりしたけど、きずぐすりを使って一晩休ませたら、また元気に動けるようになったぞ!」

 

「やっぱり噂は大袈裟だったのよ! 倉田校長の作ったシステムは本物よ!」

 

 

 

そうやって一時的な表面上の回復を、平気と勝手に勘違いした生徒たちは、恐怖感を麻痺させ、デバイスの使用をさらにエスカレートさせていきました。

 

ですが、そんな猛毒のような暴挙にさらされ続けて、命ある生き物がいつまでも元気でいられるわけがありません。

 

 

 

そして数日休んで、体力が少し戻ったらまた使う。またぐったりして危なくなったら一時的にやめて、少し持ち直したらまた使う。

 

 

 

ポケモンの体内で何が起きているかも知らず、体が悲鳴を上げ、二度と元には戻らなくなる可能性が上がっていることに、誰も気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無知がいかに恐ろしいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰一人として、この狂気を止めようとしない。

 

 

 

 

 

 

 

誰一人として、パートナーポケモンの気持ちに気づかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

目先の勝利という浅ましい欲望と見栄に目を奪われ、かけがえのないパートナーの命を根本から削り取っていることにすら気づかないトレーナーたちの、滑稽さと残酷さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、校庭を歩いていると、ベンチの陰でぐったりと横たわるポケモンの姿を何度も見かけました。

 

その傍らで、トレーナーである生徒たちは「ほら、起きろよ! 明日もバトルなんだから!」と、まるで故障した機械でも扱うかのようにモンスターボールへ戻して、出すのを繰り返していきます。

 

 

 

 

 

その光景を見るたびに、背筋が凍りつくような冷たさが体を駆け抜けました。

 

 

 

 

「やめなさい!! ポケモンにも休息は必要ですよ! その子は、あなたの大事な友達じゃないんですか!?」

 

 

 

私の怒声が中庭に響き渡りました。

 

しかし、ぐったりしたパートナーのコラッタを強引にボールへ戻したばかりの男子生徒は、罪悪感の一欠片すら見せないどころか、心底鬱陶しそうに私を睨みつけ、鼻で笑って言い放ったのです。

 

 

 

「はっ? 友達? 何言ってんだ? ポケモンなんて、勝つためのツールなんだよ! 勝たせてくれるから可愛がる価値があんの! 負けてぐったりしてるような使えない奴に優しくして、何の意味があんだよ? 授業で勝つためには、休ませてる暇なんてねぇんだよ!」

 

 

吐き捨てられた言葉のあまりの浅ましさと非情さに、私の全身が激しい憤りで打ち震えました。

 

 

 

目の前にいるのは、かつて純粋に、ポケモンが好きで、このスクールに入学してきたはずの同年代の子供です。

 

 

 

その心が、狂気のデバイスとスクールの腐敗した評価システムによって、ここまで歪み切ってしまっている。

 

 

「ツール…!? あなたは、自分に懐いて、命を預けてくれている命を、ただの道具だと言いたいんですか…!?」

 

 

「うるせぇな! 3位に落っこちた奴が説教してくんじゃねぇよ! 文句があるなら成績1位に返り咲いてから言え!」

 

 

生徒は嘲笑を残し、去っていきました。

 

 

あとに残されたのは、私としずくさんの影だけでした。

 

 

 

しずくさんは悲しそうに私の袖をぎゅっと掴み、「せつ菜ちゃん……」と声を詰まらせています。

 

 

 

 

 

「どうして…? どうしてみんな、あんなに酷いことが言えるの? ポケモンは、私たちの友達なのに……っ!」

 

 

 

会話すら成り立たないほどに狂気に侵されたスクール。

 

 

 

倉田校長が長年仕掛けたのは、スクールの教育そのものを死に至らしめ、生徒たちの心までをも腐敗させています。

 

 

 

 

 

そして、それを利用して、動かぬ証拠を集めようとしている沢泉さんの冷徹な作戦もまた、この地獄を助長する車輪の一輪となっていました。

 

 

 

教師たちは成績の向上とシステムの成果を、「素晴らしい成果だ」と賞賛し、外部からの監査を遮断し、生徒たちは手軽な暴力に酔いしれる。

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

とうとう、無知の代償が、どれほど取り返しのつかない最悪な形で、自分たちに跳ね返ってくるのか。

 

 

 

その恐ろしい真実に、デバイスを使った全員が叩き落とされることになったのは……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6年生の卒業式の、4日前のことでした。






ちょいちょい、言葉の端々で、せつ菜はいじけてるのか?ww
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