中川菜々から優木せつ菜 〜ポケモンの世界であなたと紡ぐ奇跡〜   作:あいライス

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思いのほか、YouTube編集・投稿、早く終わったため、再開します。


春休み編
66章「嵐の前の春休み」


ニジガサキシティポケモントレーナーズは、春休みに入りました。

 

 

本来であれば、あの大変だった1年が終わり、重苦しい日常から解放されて、羽を休めるはずの貴重な休日です。

 

ですが、私の心は少しも晴れることはありませんでした。

 

頭の中は、あの日、生徒会室で突きつけられた沢泉さんの言葉と、その背後に透けて見える深い闇のことで埋め尽くされていたからです。

 

 

 

「……はぁ……」

 

 

 

静かなリビングのテーブルで、私は広げたノートを前に、また一つ小さな溜息を漏らしてしまいました。

 

ノートには、これまでに分かっている倉田校長の動向、Zリングを応用した「シンクロバンド」の予測できる危険性、そして沢泉さん率いる生徒会の目的についてのメモがびっしりと書き連ねられています。

 

 

「せつ菜、ミルクでも飲むか?」

 

 

キッチンから誠一さんが、温かいミルクが注がれたマグカップを差し出してくれました。

 

 

「せつ菜、甘い物でも食べて、少し頭を休めたら?」

 

 

横から七海さんも、焼き立ての香ばしいクッキーをお皿に添えて、テーブルに置いてくれました。

 

 

「ありがとうございます、誠一さん、七海さん……」

 

 

私はお二人の優しさに胸を締め付けられながら、マグカップから立ち上る白い湯気をじっと見つめ、ぽつりと呟きました。

 

 

「……あの会見は許しがたいことですが、嵐の前の静けさでしかありませんよね? こうしてる間にも倉田校長は、アローラ地方のZリングの構造を悪用し、『シンクロバンド』の量産を着々と進めているはずですし、沢泉さんは『第2章の復讐劇』の準備を密かに進めています……」

 

「……沢泉ちゃんが言っていた『共犯者』の件も気になるしな」

 

 

誠一さんが椅子の背もたれにゆっくりと体を預け、腕を組みながら眉間に深い皺を刻みました。

 

 

「はい。彼女は『利害が完全に一致している共犯者』だと言いました。倉田校長を心の底から憎み、この狂ったスクールと教育システムを叩き潰したいと願っている人物……。 いくら考えても、これほどの作戦を沢泉さんに吹き込める人物は、一人しか思い当たらないんです」

 

 

そうです。

 

もう、あの人しか考えられません。

 

ですがもし、本当にあの人だとするとしても、それはそれで、まだ別の矛盾もいくつか残ってます。最悪の事態にも備えないといけませんね。

 

 

「……だが、今はまだ確固たる証拠がないからな」

 

 

誠一さんは重々しく頷き、考え込むように言葉を続けました。

 

 

「仮にその人物が、裏で沢泉ちゃんに糸を引いているとしても、沢泉ちゃん自身が『絶対の絆で結ばれた共犯者だ』と言い切っている以上、外部からの生半可な説得だけで引き離すのは極めて難しい。 下手に探りを入れれば、かえって警戒されて尻尾を掴めなくなる危険もある」

 

「えぇ、分かっています。 でも、このまま放っておけば、沢泉さんは本当に帰ってこられない地獄の底まで行ってしまいます! 倉田校長を道連れに地獄へ落ちるために、自分自身の将来も、そして新学期からシンクロバンドを強制装着させられる生徒やポケモンたちも、全部犠牲にしてしまうんです!」

 

 

テーブルの端にちょこんと座っていたイワンコが「クゥン……」と心配そうに鼻を鳴らしました。

 

そしてトコトコと寄ってくると、私の膝の上に愛らしく頭を乗せてきました。ピチューも私の肩に飛び乗り、心配そうに頬を寄せてくれました。

 

 

「せつ菜、焦る気持ちは分かる」

 

 

誠一さんは私の目をまっすぐに見つめ、温かく、力強い声で言い聞かせるように語りかけました。

 

 

「だが、沢泉ちゃんたちの狙いが新学期にあるなら、この春休みこそが、最大の準備期間だ。 相手の作った土俵で焦って踊らされるな。 倉田が裏で何を隠しているのか、そしてその共犯者がどう動くのか。 俺もジムリーダーとして、医療機関や行政の伝言網を使って、できる限り奴らの動きの裏付けを取ってみる。 お前もしずくちゃんと協力して、何が起きても対応できる強さと絆を、ポケモンたちと育んでおけ」

 

「誠一さん……」

 

「誠一さんの言う通りよ、せつ菜」

 

七海さんが私の手に優しく自分の手を重ねてくれました。

 

「一人で全部抱え込んじゃダメ。あなたには誠一さんも私も、しずくちゃんも、そしてパートナーのイワンコとピチューがついているんだからね。私たちはどんな時だって、あなたたちの味方なんだから」

 

 

「ワン!」

 

「ピッチュ!」

 

 

二人の力強い鳴き声が、リビングに明るく響き渡りました。

 

 

「……はい! ありがとうございます……!」

 

 

お二人とイワンコ、ピチューの温もりに触れ、私の胸の中に渦巻いていた黒い焦燥感が少しずつ解けていくのが分かりました。

 

 

湯気の立つマグカップを両手で包み込み、私は温かいミルクをゆっくりと口に含みました。優しい甘さが、身体の隅々にまで染み渡っていきます。

 

 

そうです。

 

どんなに緻密に張り巡らされたシナリオであっても、ポケモンの命と絆を軽視する歪んだシステムであっても、本物のポケモンとトレーナーの絆に勝るはずがありません。

 

 

倉田校長の野望も、沢泉さんの危険な暴走も、必ず私たちが止めてみせます!

 

 

 

――絶対に、誰も見捨てない。

 

 

 

そう私は心の中で静かに、そして固く誓い直しました。

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