中川菜々から優木せつ菜 〜ポケモンの世界であなたと紡ぐ奇跡〜 作:あいライス
家に帰り、私は誠一さんと七海さんに、今日の始業式で起きた出来事、そして夏に行われる特別公開戦で、シンクロバンドを配られた沢泉さんと私が、ポケモンバトルを行なうことのすべてを打ち明けました。
さらに先ほどの放課後、沢泉さんから再びパティスリーチュチュへと呼び出されたこと。
そこで語られた「シンクロバンド」の驚くべき真実――。
ニジガサキ大学でポケモン工学を専攻する大学4年生の宮下愛さんが、本来は「ポケモンと人間が対話できるデバイス」として作り出した物であり、それを倉田によって強引に戦闘用兵器へと書き換えられてしまったこと。
彼女を救い出すため、中学2年生の天才少女・天王寺璃奈さんという方が、沢泉さんと手を組み、倉田校長のシステムの過負荷を無効化して、本来の機能を取り戻すための裏コマンド――『プロトコル・アリス』を手に入れるため、今夜、大学の研究施設へ潜入して宮下さんを救い出す計画のすべてを、私は包み隠さず、誠一さんと七海さんに伝えました。
まあもっとも…、特別公開戦で八百長してと沢泉さんから指示されたことについては、彼女の焦りから来た作戦ですし、そのことについては、彼女の名誉のために言いませんでしたが、それ以外のことは全部話しました。
沢泉さんが今抱えてるあまりにも残酷な真実の数々――。
すべての元凶である倉田校長が、彼女たちの動きを最初からすべて見抜いていて、またくれあさんが再び狙われているのではないか?という、彼女の推察についても。
私の語る言葉を一言一句聞き逃すまいと、二人はソファに深く腰掛け、険しい表情のまま、静かに耳を傾けてくれました。
部屋には、リビングの隅で心配そうに私たちを見つめるイワンコ、ピチュー、フシギソウの小さな息遣いだけが静かに響いていました。
すべてを語り終えると、誠一さんは重々しく息をつき、テーブルの上に組んだ両手に視線を落としました。
「……そうか。あの男は、そこまで先回りしてやがったか……」
誠一さんの低い声には、怒りというよりも、教育界の頂点に君臨する男の底知れぬ狡猾さに対する強い警戒の色が滲み出ていました。
「はい…。私たちが思っていた以上に、倉田校長という人は周到で、残酷です。沢泉さんは自分の力ではどうすることもできないほど、恐怖と焦りに追い詰められていました。………だからこそ、私としずくさんも今夜、彼女たちと一緒に、ニジガサキ大学の研究施設へ向かい、一緒に宮下さんを助けたいと思っているんです!」
私のその揺るぎない言葉に、誠一さんはピタリと動きを止め、まっすぐに私を見据えました。その瞳の奥には、父として、そして重大な決断を下そうとする少女を見守る大人の責任感が入り混じっていました。
「……せつ菜。その潜入?が、どれほど危険なものか分かっているのか? 相手はお前たちが想像している以上に手段を選ばない男だ。一歩間違えば、お前たちもその取り返しのつかない罠に嵌められる可能性だってある」
「わかっています。ですが、ここで見過ごすわけにはいかないんです。沢泉さんをあのまま一人で行かせるわけにはいきませんし、くれあさんや、宮下さんの夢を踏みにじったあの男のやり方を、これ以上許すわけにはいかないんです」
私の眼差しを受け止めた誠一さんは、しばらく沈黙した後、小さく息を吐き、そしてどこか誇らしげな、優しい笑みを浮かべました。
「……ホント、お前は誰に似たんだか……。どんなに険しい道であっても、自分が正しいと思ったことから目を背けようとしない。……わかった。止めはしない」
誠一さんは立ち上がり、私の肩にそっと温かい手を置きました。
その重みは、私の背中をそっと押し、全肯定してくれる確かな温もりでした。
「ただし、無茶はするな。そして、何かあればすぐ俺に連絡しろ。お前たちの後ろには、俺たち大人がついてることを忘れるな」
「絶対に無茶な単独行動はしないことも、約束できる?」
七海さんもソファから立ち上がり、私の手をしっかりと握り締めながら、優しい声でそう付け加えてくれました。
「はい! ありがとうございます、誠一さん! 七海さん!」
心強い言葉をもらい、私の胸の奥にあった不安が一気に晴れていくのが分かりました。
私は決して一人で戦っているわけではない。
その実感が、冷え切った夜の空気に立ち向かう確かな勇気をくれます。
「イワンコ、ピチュー、来てくれますね?」
私が足元に視線を落とすと、イワンコは凛とした表情で「ワンッ!」と頼もしく吠え、ピチューは両手をギュッと握り締めて「ピチュー!」と気合十分な声を返してくれました。
私はすぐに準備を整え、夜の静まり返った街へと再び繰り出すため、玄関へと向かいました。
スニーカーの紐をしっかりと結び直し、防寒のための上着を羽織ります。
ピンポーン……
まさに家を出ようとしたその瞬間、玄関のチャイムが静かな夜の家に響き渡りました。
「はい?」
ドアを開けると、そこにはしずくさんが立ってました。
彼女はヨーテリーをしっかりと抱きかかえ、その表情は緊張の色が浮かびながらも、芯の通った強い決意が宿ってます。
「しずくさん、早かったですね」
「待ってられなくて……。行こう、せつ菜ちゃん!」
「はい!」
しずくさんは小さく息を整えながら、私の隣に並びました。
ヨーテリーもまた、しずくさんの腕の中で低く「クゥン」と鳴き、イワンコとピチューと、覚悟を共有しているようでした。
「まずは、沢泉旅館に行くのか?」
後ろから誠一さんと七海さんが、玄関へ見送りに出てきてくれました。
「はい。作戦の共有と、それから、天王寺さんと顔合わせもしなきゃですから」
「わかった。くれぐれも気をつけてな」
「さっきの約束、守るのよ。絶対に無茶したらダメよ!」
私は頷きながら、リュックサックを背負いました。
「はい! では、行ってきます!」
「行ってきます!」
誠一さんと七海さんに見送られ、私としずくさんとイワンコたちは、夜の闇に包まれた街へと踏み出しました。
一歩足を踏み出すごとに冷たい夜風が頬を強く撫でていきます。
街灯の下を急ぎ足で通り抜けながら、私たちの足取りは迷うことなく、先ほど沢泉さんから教えてもらった、沢泉旅館へと足を進めました。
夜空には星が見えず、これから立ち向かう巨大な闇の深さを物語っているようでしたが、私たちの胸の炎が消えることはありませんでした。
ここ最近思う。
せつ菜、なんだかんだ言って、誠一と七海のことを、そろそろ親として受け入れ始めて来たのか?
遅ww