デュエル・マスターズ〜カジュアル勢の俺が引きだけでカードゲーム主義の世界を破壊しても良いんすか!?〜 作:社畜ヲタク
予選の最底辺という泥を啜りながらも、己の信じるカードの可能性と、右手が紡ぐ奇跡のコンボによって、並み居る強豪たちを次々と薙ぎ払ってきた高咲コウ。 変幻自在のトリックスターとしてDブロックの王座を掴み取った彼は、ついにこの学園における最高峰の舞台――「決勝トーナメント」の領域へと足を踏み入れていた。
アリーナ全体を包み込むのは、これまでの予選やブロック戦とは一線を画す、肌がヒリつくほどの圧倒的な熱狂と緊迫感。
巨大なスタジアムの天井が割れんばかりの音響とともに、実況の叫びが響き渡る。
『――さあ、生徒の皆さん! 大変長らくお待たせいたしました!! これより、我が学園が誇る至高の祭典、リーグ戦決勝トーナメントを開催いたします!!』
そのアナウンスが響いた途端、アリーナを埋め尽くす観客たちのボルテージは瞬時に限界を突破した。
スタジアム全体を揺らす地鳴りのような歓声が巻き起こふ。
『それでは、この地獄の激戦区を完全に勝ち抜いた、栄光ある4人の戦士たちをお呼びしましょう!まずはAブロックの覇者―――! 誰もが認める絶対王者、『聖 龍矢』 選手!!!』
華やかなファンファーレとともに、AからDまでの各ブロックを制覇した4人の覇者たちが次々と呼び出され、まばゆいライトに照らされながらステージの中央へと集結していく。 聖龍矢は相変わらず、焦りも緊張も何一つない、勝つことがあまりにも当然であるかのような超然とした佇まいで微笑んでいた。
コウを含む4人の精鋭がバトルフィールドに揃うと、実況がさらに冷徹なルールを告げる。
『組み合わせは、 【AブロックvsCブロック】、そして【BブロックvsDブロック】に決定いたしました! ――なお、最初の試合はAブロックvsCブロックの対戦から行わせていただきます。 対戦中、残りのお二方はそれぞれの選手控え室にて待機となります。 公平性を期すため、控え室での試合映像の視聴、プレイングや結果の確認は一切できません。ご了承ください!』
コウと、もう一人の決勝進出者である――細い目をニヤつかせた狐顔の男――は静かに頷き、アリーナを後にしてそれぞれの控え室へと向かった。
重い扉が閉まり、完全な静寂が訪れた専用の選手控え室。 コウは一人、パイプ椅子に深く腰掛けて自身のデッキケースを見つめながら「思考の海」へと深く深く潜り込んでいった。
(次の相手は、Bブロックを勝ち上がってきた奴だ。 一体どんなデッキを使う? どんなカードを使用している? ...俺は、どんな戦術で挑めば確実に勝てる?)
決勝トーナメントという大舞台。 聖龍矢という絶対的な壁。 そして、まだ見ぬ強敵。 考えるたびに、プレッシャーという冷たい水がコウの身体を包み込み、彼は無意識のうちに勝利に囚われそうになり、深く沈み込んでいく。
――だが、その暗い海の底で、コウはハッと目を見開いた。
(・・・・・・違う。 違うだろ、俺。何を守りに入ろうとしてるんだ? 勝ちを気にして、ガチの戦術に怯えるなんて、俺らしくない。 ――ここでこそ、楽しまなければ意味がないだろ!)
かつてデュエマの本当の楽しさを忘れて消えていったカードの元の持ち主たちの顔。 そして、自分の破天荒なデュエルを見て目を輝かせてくれた一平や轟、観客たちの姿が脳裏をよぎる。
(こんな大舞台だからこそ、誰も見たことのない、みんなの心を最高に躍らせる最高のエンターテインメントを見せてやるんだ!)
迷いが完全に消え去った思考の海の奥底で、コウの指先が一枚のカードに触れた。 光を放ちながら浮かび上がってきたのは――どこかコミカルで、けれど最高に熱い、3人組のヒーローが描かれた奇妙なカードだった。
「――お前たち...」
コウの唇が、いつもの不敵な笑みの形へと吊り上がる。 彼は迷うことなくデッキケースを開き、その「ヒーロー3人組」を軸とした、前代未聞の超絶ロマンコンボデッキを爆速で組み立て始めた。
彼の手が完全に止まり、完璧なデッキが完成したその瞬間、部屋のスピーカーからアナウンスが流れた。
『――さあ、劇的な幕切れです!! AvsCの壮絶な激闘を制したのは、やはり我らが生徒会長! 『聖龍矢』選手だぁーーー!! 最強の称号を遺憾なく発揮し、圧倒的な力で決勝の椅子を最初にもぎ取った!! ――これより30分間の休憩を取った後、BブロックvsDブロックの戦いを行います! 出場選手はそれまでに、万全の準備をしておいてください!』
聖龍矢、決勝進出。 その事実を聞いても、コウの心が揺らぐことはなかった。 むしろ、早く自分のデュエマを披露したくて、胸の鼓動が心地よく高鳴っていく。 時はあっという間に過ぎ去り、再びアリーナへの扉が開かれた。
『それではお時間になりました! 決勝トーナメント第二試合、選手のお二方は所定の位置にお着きください!!』
コウが入場ゲートの前に立つと、アリーナの照明が一気に切り替わる。
『選手入場!! ――まずはBブロックの覇者、学園ランキングのトップを常に走り続ける絶対的な強者! その余裕の笑顔が崩れることなく、あらゆる戦場を涼しげな顔で進み続けた猛者! そこから繰り出される驚異的な攻撃を、今回も繰り出すことができるのか! ――― 『葛野 狂弥(くずの きょうや)』 選手!!!』
ゲートの向こうから、目を細めた狐顔の男――葛野狂弥が、優雅に、しかしどこか見下すような足取りでゆっくりと入場してきた。
『対するは、Dブロック覇者!! 我々の中に、この選手がここまでのし上がってくると予想できた者がいただろうか! この学園の最底辺から、数々の強豪を文字通り喰らい尽くし、あらゆる戦術でこの学園を荒らし尽くした至高のトリックスター! その名は――― 『高咲 コウ』!!!』
割れんばかりの歓声に包まれながら、コウもまた、アリーナのバトルフィールドへと足を踏み入れた。 二人がデュエル台を挟んで対峙したその瞬間、葛野がフッと細い目をさらに細め、エセ関西弁のような、妙にねっとりとした口調で声をかけてきた。
「なんやなんや? せっかくの決勝トーナメントやのに対戦相手がこんな底辺の雑魚やとは...。正直、ガッカリやなぁ。 まぁ、僕が会長と極上の勝負をするための、ちょうどええ休憩時間っちゅうわけやな? ありがとうな」
葛野はこちらを嘲笑うように、ニヤニヤと不快な笑みを浮かべながら執拗に罵倒の言葉を重ねる。
「言うて、こんな神聖な大舞台に、あんな不正まがいの泥臭い戦いばかりしとる底辺が上がってもええんかいな?ほんま我が校のリーグ戦も甘いなぁ・・・・・・」
わざとらしく肩をすくめ、周囲の観客にも聞こえるような大声で嫌味たらしく吐き捨てる葛野。
「君も君やで、高咲クン...やっけ? 君みたいな弱者はな、こーーーんな綺麗なフィールドに立っとるだけで、周りの空気を汚しとるようなもんなんやで? あ、ごめんごめん、弱者すぎてそんな高等なこともわからんかぁ! ハハハ!!」
止まることのない陰湿な煽り。 観客席の一部からは困惑の声が上がるが、対面するコウは、その言葉をただの雑音として完璧に聞き流していた。 怒るどころか、彼の胸の中は、先ほど控え室で組み上げた「最高のコンボ」を早くみんなに見せたくて、 葛野のことなど一微塵も目に入っていなかったのだ。
コウは静かに視線を審判へと向け、 落ち着いた声で告げた。
「審判。 時間を長引かせても意味がない。 ――開始の合図を、お願いします」
それを聞いた葛野は、自分の煽りが全く効いていないことに一瞬だけピキリと青筋を立て、さらに冷笑を深める。
「あれぇ? せっかく僕が君のために、この華やかな会場に少しでも長く立っていられるようにお話してあげてたのに......。 ほんま、そこまで頭が回らん哀れな子ぉやなぁ」
そんな言葉に何も反応しない高咲コウに葛野は舌打ちをしながらも、手元のデッキを荒々しくデュエル台のスロットへと叩き込んだ。
コウもまた、自身の新たな魂が宿るデッキを静かに、けれど確かな誇りとともにセットする。
ウィン、と電子音が鳴り響き、二人のデッキが完全に同期された。
『――両者、デッキセット完了! それでは決勝トーナメント準決勝、 BブロックvsDブロックの勝負を始めます! 掛け声を!』
実況の叫びがアリーナの空気を引き締め、二人の、そして会場全体の声が鋭く激突した。
「「「デュエマ、スタート!!!」」」
いよいよ、生徒会長の待つ頂点への最後の関門、運命の準決勝の火蓋が切って落とされた。