デュエル・マスターズ〜カジュアル勢の俺が引きだけでカードゲーム主義の世界を破壊しても良いんすか!?〜 作:社畜ヲタク
混乱する頭を落ち着かせるため、コウは大きく深呼吸をした。 脇腹の痛みはない。元の世界
で浴びたあの狂気の刃は、まるで質の悪い悪夢だったかのように消え去っていたがあれは夢ではなかった。しかし、目の前に広がる光景も紛れもない現実だった。
「まずは情報収集、か・・・・・・」
机の上に置かれていたスマートフォンに手を伸ばした。画面ロックを解除しようとすると、指紋認証であっさりと開く。どうやらこの身体の生体データは、コウのものと完全に一致しているらしい。
画面に映し出された通知やアプリの並びを確認しながら、彼はブラウザアプリを立ち上げ、ニュースサイトや動画配信プラットフォームを片端から閲覧していった。さらに、部屋の隅にある液晶テレビを確認する。
画面に映し出されたのは、元の世界では考えられないような狂気じみたニュースの数々だった。
『本日のニュースです。東都エリアの不動産開発を巡る大手二社の抗争は、本日午前、両社の代表取締役によるデュエルによって決着しました。勝利した帝国重工は切り札である《CRYMAXジャオウガ》をベストタイミングで召喚し...』
『昨日、都内で発生した立てこもり事件ですが、特殊部隊の精鋭が犯人とのシールド戦に勝利し、無事身柄を確保しました。 犯人の凶悪な攻撃を冷静に読み切った見事なプレイングに、街からは賞賛の声が・・・・・・』
呆然と画面を見つめる...。 誇張でも何でもなく、この世界ではカードゲームの強さがそのまま法律であり、ステータスであり、権力そのものなのだ。
国家の予算配分から、企業の採用試験、果ては日常の些細な口論に至るまで、すべてが40枚のデッキとシールドを介して決まる。
だからこそ、人々は人生のすべてを賭けて「勝利」を追い求め、社会全体が過激なまでのカードゲーム至上主義に染まりきっているのだ。
【東都デュエルマスターズ育成高等専門学校】
スマホの学生証アプリに表示されたその名前に、苦笑いを浮かべながら公式サイトのurlをタップする。学校の案内サイトやクラスROYNを読み進めるうちに、自分が置かれた凄惨な状況が浮かび上がってくる。
転生したこの身体の元の持ち主は、エリート校において 「勝率わずか3%」 という驚異的な足を引っ張り続ける、学年最底辺のプレイヤーだったのだ。
(むしろよくここまで耐えてたよな...こいつ...)
(いや、俺が転生して来たということはつまり.....)
ROYNを開くと、悪質な嫌がらせや罵倒の通知が何百件も溜まっていた。
『おいゴミ、明日のリーグ戦、お前が負けたら自動的に俺たちのクラスは降格なんだよ』『お前みたいなザコはこの学校にいらねえんだわ』『早く〇ねよ』等...
元の人格はデュエマが大好きだがプレイスキルがこの学校には追いつかず「クラスの足を引っ張るお荷物」として激しいいじめを受け、精神的に追い詰められていたようだった。
「なるほどな...。周りは人生かかってるから、勝てないカードを使う奴が許せないわけだ...」
スマホをベッドに放り投げ、ふっと笑った。恐怖や絶望は微塵もない。あるのは、胸の奥から湧き上がるような、抑えきれないワクワク感だった。 勝ち負けだけに一喜一憂する世界。
弱いカードやネタカードは陽の光も浴びないような世界。
それはガチ勢にとっては天国かもしれないが、俺のようなカジュアルプレイヤーにとっては、これ以上ないほど 「荒らし甲斐」 のある最高の舞台だ。
「勝てないカードなんて、一枚もないんだよ。使いようによってはどうにでもなる。デュエマの面白さを、あいつらに教えてやる。」
ニヤリと笑いクローゼットから、制服を取り出した。黒を基調とした、どこか軍服を思わせるカッチリとしたデザインの制服だ。
それに着替え、鏡の前で襟元を整える。 表情は、元のいじめられっ子の怯えきったものから、 GP覇者の自信に満ちたものへと完全に上書きされていた。
そして、机の上に置いてあったデッキケースを手に取った。革製の、少し年季の入ったケース。その一番手前、クリアポケットの特等席には、1枚のカードが差し込まれていた。
ボロボロになり、エッジが少しめくれかけたカード。そこには、巨大な青いロボットの姿が描かれていた。
コストが美しく統一された、ロマンの塊。
そのデッキの名前は
「よし、行こうか。ーーー」
それを腰のベルトに装着した。カチリッと硬質な音が部屋に響く。準備はすべて整った。アパートの鍵を掴み、玄関のドアノブへと手をかける。この扉を開けた先には、勝率が全てを支配する狂った世界が待っている。だが、彼の右手はすでに、最高のドローを求めて疼いていた。 コウは勢いよくドアを開け、眩い朝光が差す外の世界へと一歩を踏み出だす。
その腰のケースには《ガチャンコ ガチロボ》がキラリと光っていたのだった